きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅




2010.3.31(水)


 日本ペンクラブの電子文藝館委員会が開かれました。主な議題はHP更新状況の報告・確認です。日本ペンクラブでは本館と称する本来のHPと電子文藝館のHP、2つを持っていますが、いずれもスタイルが古くなって使いづらく、ユニバーサルデザイン(バリアフリー)上も問題があるので改善を試みています。9月に開催される国際ペン東京大会も視野に、数年に渡る予算も取れそうですから、かなり思い切った更新ができそうです。電子文藝館では海外向けに英語のHPも新たに作ることになりました。

 今日の委員会にはHP更新を手がけてくれる業者さん、新委員候補もオブザーバー参加し、総勢13名と賑やかでした。しかし残念なことに、電子文藝館委員会を担当してくれていた事務局員の一人が今日付けで退職。パソコンやネットにも詳しい若い男性でしたので、私もずいぶんと教わりました。でも、委員会のあとの懇親会に来てくれて、急遽、送別会を催すことができたのは良かったなと思います。

 そこまでは良かったのですが、問題はそのあと。件の事務局員ともうお一人、3人で2次会に流れてはしご酒。気がついたときは終電を過ぎていました。しょうがないので新宿のネットカフェに泊まってしまいました。やれやれ。
 でも、彼とじっくり話ができたのは収穫でした。次の就職はかなり厳しいようですが、まだ若いし人柄も良いのでなんとかなるかなあ。何の力にもなれないけど、陰ながら応援しています!




殿岡秀秋氏詩集『記憶の樹』
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2010.3.25 東京都調布市 ふらんす堂刊 2500円+税

<目次>
影の樹 6                 入学式 10
初めての狩り 14              ひとりと独り 20
忘れ物 24                 四つ手網 30
勝負 36                  木の葉のささやき 40
もうひとりのぼくが囁く 44         冷えたカレーライス 54
白い風船 62                あなたの彼 68
お化けになりたい 72            長い休み 76
実り 94                  白い記憶 98
臆する 100
.                リズムダンスの後で 104
わからないまま 108
.            生まれ変わる 114
逆上がり 118
.               演技 122
取引成立 128
.               おまじない 132
架空の域 138
.               タンポポ 142
あとがき




 
ひとりと独り

プロ野球の選手になるために
ユニフォームを着る
実際には青い縞模様のパジャマに
長い靴下をはいて
野球のユニフォームと
ソックスの雰囲気を作っただけだ

小さな庭に想像で
円形の大野球場を作りだす
監督はかつての名選手で
投げてきたボールが
止まって見えるとかたった人だ
チームには名選手をそろえる
ぼくには新人として
入ったばかりという役割を与える

満員の観客の歓声が高まって
試合が始まる
ぼくはベンチに控える
チャンスがきて
監督が代打を探す

試合に出たいので
にらむように監督を見つめる
ぼくを見て
監督は代打に指名する

どうしても
打とうとおもう気持ちが
湯気のようにからだから
立ちのぼるのがわかる

相手チームの投手もぼくの分身で
豪速球を投げてくる
初球のストレートを叩いて
センター前にヒットにして
一塁ベース上で
両手を空にさし上げる

狭い庭の巨大なグラウンドに
観衆の喚声が
地響きのように拡がる
ベンチにいる仲間たちの拍手も見える

小学校でみんなといるときに
ぼくは椅子におかれたまま
動かないピノキオで
庭でひとりでいるときに
信頼できる仲間がいる

 昨年に続く第9詩集です。2008年4月から2009年8月までの作品から選んだとあとがきにはありました。小学生時代を舞台に描いた作品が多い詩集で、紹介した詩もその設定になっています。事実かどうかは別にして、いわゆるいじめられっ子の生活で、〈ぼくは椅子におかれたまま/動かないピノキオ〉というフレーズがそれを物語っています。著者は私と同年齢の詩人ですが、〈庭でひとりでいるときに/信頼できる仲間がいる〉というのは、決して50年前の話ではないと思いました。それを現代にも問いかけている詩集なのかもしれません。




詩誌『回游』37集
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2010.4.1 相模原市南区
南川氏方・回游詩人会発行 非売品

<目次>
◆詩作品
山女           中村 節子 2  忘れたものは何      鈴木 珠子 4
破船           市川 つた 6  仙人掌の蕾        富田 庸子 8
細胞へのいたわり     牧  豊子 10  悠貴           松本秀三郎 12
信仰片々         江田 重信 14  ギター          大館 光子 16
年賀状          伊藤 冬留 18  春が訪れる        植木 信子 20
ふたりということ     折山 正武 22  四季(二十一)・(二十二)  多田 f三 24
雪の色          吉原 君枝 28  物語           柳原 省三 30
鳩の家          南川 隆雄 32  いちにちが過ぎていく夜半 横山 宏子 34
◆私に詩が芽生えたころ
遅かった出発      おしだとしこ 36
◆詩集を読む
中正敏詩集『いのちの籠・拾遺』市川つた
.37  柳原省三詩集『航路消えずして(2)』尾中正樹 38
◆受贈詩誌・詩集 39
◆あとがき 40      ◆表紙絵 露木恵子




 
山女/中村節子

思わず手を引っ込めたくなる冷たさ
素足で入っていた
逃げていく足の裏の砂
くすぐったい感触に離れられなかったのか
黒ずんだ水面を覆うように雲の影
山女は更に岩の窪みに潜んでいた

束ねられた中から一冊のノートを取り出す
亡母の一日が簡条書きにつづられている
種を撒いた
芋を掘った
娘が来た
土産を持たした
畑の草取りもした……
家計簿の空欄が農業日誌代わり
わたしの一日と似ているではないか

わたしは海辺の町に嫁いできたけれど
泳げない
わたしの町には川はないけれど
山女はいる
わずか一キロほどの生活圏
海から来た気配を隠しつづけ
一生を終わった遡河魚の遺伝子を持って
陸封となる

 〈山女〉と〈わたし〉のこれまでとを対比させた佳品です。〈亡母の一日〉を出したことで〈娘〉とのつながりが描け、〈わずか一キロほどの生活圏〉での〈一生を終わった遡河魚の遺伝子〉で両者を見事に結びつけたと思います。〈陸封〉という詩語も佳いですね。〈山女〉も女三様を表しているようで、構成も素晴らしい作品だと思いました。




個人詩誌『胚』30号
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2010.4.10 相模原市南区 南川隆雄氏発行
非売品

<目次>
●詩 雨 2−3            ボウリング場 4−6
●ずいひつ
 大佛次郎『終戦日記』を読む 7−9  遺伝子の支配どこまで(上) 10−15
●あとがき(線引き) 16




 


雨はさまざまに思いを巡らしながら
降ってくる

足裏の形に青草がたおれ もち上がり
ついで一歩先で同じ形に青草がたおれる
だれかが忍び足で通りすぎたのだ
うしろ手に縛られたわたしの目の前を

裏山に埋めてきた ってなにを
埋めた記憶を 埋めてきた

土がへこむ汗が落ちる
血痕と悔恨が尾を引く
雨はこれらをさらりと溶かし去る

わたしのからだはしおらしく
ありばい作りのために縛られているが
聞き分けのないわたしの妄想は
娑婆を縦横に駆けめぐり
欲望を充たしていく

濡れた青草をたおして
わたしの妄想は 縛られたからだの前を
知らぬふりして通りすぎる

さまざまに思いを巡らしながら
雨は降ってくる
わるだくみするわたしに
味方しようと

 〈うしろ手に縛られた〉とは穏かでないなと思いましたら、〈わたしの妄想〉を〈縛〉るためのようです。自分を縛るという意味では、非常に精神性の高い詩と云えましょう。その〈わるだくみするわたしに/味方しようと〉するのが〈雨〉だというのはおもしろい見方で、さらにその〈雨はさまざまに思いを巡らし〉ているという擬人法も秀逸です。〈埋めた記憶を 埋めてきた〉というフレーズとともに記憶に残る作品だと思いました。






   
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