きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館 |
2010.4.1(木)
新年度が始まりましたが、私の新年度は「ひかりTV」です。
拙宅のネットの光ファイバー化はすでに数年前に済んでいます。先日NTTから電話があって、光ファイバー化されているのならTVも「ひかりTV」にしませんか、2ヶ月間は無料です、という話でした。無料!というのにすぐ乗ってしまうところが貧乏人のさもしい根性ですけど、まあ、とりあえず器具は送ってもらいました。設置も簡単で今日から5月末までの視聴になったという次第。100ほどのTVチャンネルと5000ほどのビデオが楽しめます。TVは宣伝ばっかりで面白くないんですけど、ビデオは観たいものがたくさんありました。5000のうち半数は有料ですから観ませんが、残りは無料。2ヶ月の視聴で買うかどうか決めるつもりです。でも、TV+ビデオで月に3000円強、ビデオだけでも2000円強ですから、それだけの価値があるかどうか…。5月末に報告したいと思っています。
○南原充士氏詩集『タイムマシン幻想』 |
2010.4.1 川崎市麻生区 洪水企画刊 1800円+税 |
<目次>
ヒポクラテスの肖像 06 『イデヨの左手による覚書』12
タイムマシンの錠剤 24 解体新書 28
『人間蘇生プロジェクト』 34 『美術館異変』 40
『種痘伝来』 44 インシュリン余談 50
コギト・エルゴ・スム 56 テニスコート 60
分子生物学者の日常 64 マトリョーシカ 68
チョコレート異聞 72 お菓子のヴィーナス 76
怪人シロップ 80 メリーの夢=野菜白書 84
新人類と古人類 90 遠隔操作 94
ハニー幻想 .100 ワイングラスを傾けて…….104
紫式部幻想 .108 アマデー幻想 .116
あとがき .122
コギト・工ルゴ・スム
わたしは 起きています
しっかりとした意識があり
目も見え 耳も聞こえます
指先をナイフで切れば 血が出ます
痛みます
目の前の一個のりんご
唾液が口内にあふれ
我慢できずに がぶりとかじります
退屈すれば 立ち上がって
散歩に出かけることもできます
わたしは わたしを完全に操っています
わたしは 眠っています
――というのは正確ではありません――
夢の中で夢を見ているわたしを意識しています
わたしは 斧で木を伐ろうとしています
あるいは 木ではなく 人かもしれません
うまい具合に 夢は覚め
わたしは 元気いっぱいに 跳ね起きます
空には 今朝も 日が昇り
窓辺には ヒヨドリがやってきます
ヒヨドリは 真っ赤な草の実を食べ
わたしは空腹を覚えます
伸びをするわたしには 何の心配もありません
さあ、今日も一日がんばるぞ!
脈拍は一分間に七二 体温は三六度五分
体調は万全です
わたしのすべては わたしが
完璧にコントロールしています
わたしには 聞こえない音があり
見えない光があるんですって?
そんなことはわたしの暮らしと
なんの関係もありません
よ、ね?
昨年に続く第7詩集です。あとがきには“ふとしたことで医学に興味を抱いたことから生まれた”詩集とありました。南原充士ワールド満載の詩集と云えましょう。
紹介した詩のタイトルはラテン語で、デカルトの“我思う、故に我あり”という有名な観念論の言葉です。それを皮肉った作品と云ってよいでしょう。“我思う、故に我あり”なら、〈夢の中で夢を見ているわたし〉をどう説明するのか、〈わたしには 聞こえない音があり/見えない光がある〉ことをどうやって納得すればいいのか…。哲学を見事に詩化した作品だと思いました。
○詩誌『青衣』131号 |
2010.3.20
東京都練馬区 青衣社・比留間一成氏発行 非売品 |
目次
<表紙>…………比留間一成 頁
朝…………………布川 鴇 2 雪坂………………井上喜美子 4
いくつかの小径…上平紗恵子 7 一茎の露草………比留間一成 10
暮らし……………伊勢山 峻 12 平仄…………………………… 16
虚空紀行…………西垣 直子 19 病床の糸屋鎌吉…伊勢山 峻 16
<あとがき> 目次………… 22
暮らし/伊勢山 峻
高邁なスローガンの大会も
夜の宴会はこうなるものか
歌を強制する
−お次の番だよ
大会宣言を読み上げた男の声を
背中に聞いて
小さい噴火湾に
張り付いた温泉街を
海に向かって下る
人気のない土産屋や射的場は
店先ばかりがいやに明るい
暗い松林のはずれに
おでんやの屋台
提灯に「けやき」とある
−一杯飲ませてもらうかな
「けやき」 ってどういういわれ
日焼けした親父が背を指して
−この木が 欅でね
海岸では珍しいんですよ
−あれ 錫でおかんしてくれるの
−これにかぎりますよ
おでんを見つくろって 口にする
−こりゃ、うまい!
−元漁師だからね
−欅が好み?
−ああ 寒いときに咲く梅もいいが
欅は暦が春になっても
じいっと芽吹かず 立っている
それでいて枝先は繊細なんだ
さくら さくらと人様が騒いで
落ち着いたころ
一斉に芽吹く
これが良い
温泉街の夜の商売は
大部分が冷やかし相手
お世辞 お愛想をいって
はぐらかして生きてる
でも夜が明ければ
漁に出て命がけで働き
この欅に向かって
帰ってくる
女も子どもも船に取り付いて働く
親父に一本つけ
坂道を戻る
ストリップの幟
−のぞいていかない
囲いの幕を揚げて中を見せる
赤い襦袢の親娘らしいのが 踊っている
客はまばら
昼間の大会のメンバーもいる
−どう これからだよ
客引きが誘うが
幟をあとにする
あの二人も
明日は生きることに精を出すのか
砂浜のない海岸は
打ち寄せる波に
骨がぶつかりあうような音がしている
私の書斎からも神社の欅がよく見えます。たしかに〈暦が春になっても/じいっと芽吹かず 立ってい〉て、〈さくら さくらと人様が騒いで/落ち着いたころ/一斉に芽吹〉きますね。その欅と〈日焼けした親父〉がうまく重ねられていると思います。さらに〈船に取り付いて働く〉〈女も子どもも〉、そして〈赤い襦袢の親娘らしいの〉と、〈温泉街〉の人間模様が見えるようです。最終連の〈骨がぶつかりあうような音〉も作中人物の心境を見事に表した佳品だと思いました。
○詩誌『新現代詩』9号 |
2010.2.1
神奈川県相模原市 新現代詩の会編集・龍書房発行 900円+税 |
<目次> 表紙写真・唐木孝治 デザイン・佐藤俊男
特集・私の詩の原点/ふるさと
擬似乱世からの出発…中川 敏…6 ぼくの詩入門ノート(前篇)…川原よしひさ…11
安保後半世紀…砂村 洋…18
詩
丸本明子 六甲山…24 対話を求めて…25 じきはらひろみち 酔いどれ幻想…26
濱本久子 言葉には託さなかったが…27 結城 文 連絡船…28
相良蒼生夫 椋鳥の冬…30 工藤富貴子 取り残される…31
金野清人 かあさん…32
エッセイ
私が詩を書いていること 富永たか子…34 私史としての吾が詩の始まりと今 紀ノ国屋 千…36
わが依拠の都市 相良蒼生夫…39 北川多紀とそのふるさと 若松丈太郎…40
結の末裔たち 藤川元昭…46 突っ張る詩の先、待っていた死に神 松本恭輔…50
思国歌(くにしのひのうた)−古代史手帖8 篠塚達徳…57
報告 屋根裏漢の朗読会 働 淳…138
会員詩書紹介
結城文・アンナホーリー『命のさざなみ』 中川敏…140
下前幸一詩集『ダンボールの空に』 川原よしひさ…141
永井ますみ詩集『短詩抄』 松本恭輔…142
●『新現代詩』第8号合評会記…60
▼受贈詩誌一覧/会員の受賞ニュース…143
詩
働 淳 牛の夢…64 葉陶紅子 宇宙を歩む人 ほか十四行詩全8篇…66
はんな 失敗しない笑い方…70 藤 寿々夢 太宰治の生まれた金木…72
松井 潤 ゆで卵の明日…74 水崎野里子 おつきさま…76
みやざきことよ 弟よ…77 矢口以文 アレン・ネルソンさん…78
渡辺宗子 サボテンよ咲け…79 新井翠翹 立山…80
市川つた 闊歩…82 榎田弘二 今日のできごと…83
鏡たね 私の花野…86 桂あさみ 十重二十重・小春日に霾ふる時…88
大谷敏江 餌食…89 野生…90 加藤博栄 バラ…92
川端律子 さるすべり…94 川原よしひさ 赤はいやだ…95
川本信太郎 お金の運命…96 取り返しのきかない時間の中で…97
神田さよ 設計図…99 鬼頭和美 可海(かかい)の天…100
木村淳子 代価…101. 紀ノ国屋 千 風と光の大地にて…102
小林小夜子 海の舌…104. 斉藤宣廣 伝言板…106
富永たか子 うれしい夜…107. 下前幸一 幻の樹が…108
砂村 洋 遠い叫びがあった…110. 宗美津子 囲まった猫…112
高橋サブロー 石踊る おわら風の盆…114. 武西良和 絵描きの光…116 美術館の波…117 美術館の焔…118 夜の画用紙…119
津金 充 男たち(その七)…120 土屋一彦 TPO…122
内藤セツコ ほととぎす…124 父親…125 永井ますみ 不在の息子…126
中川 敏 エムペドクレス・エトナ山を降りる(七)…128
中原かな 高原…133 晩秋…133 大田 修 娘三人を育てて…134
樋口 風 やっちゃば…136
■現代の名詩 中原かな…137
●編集後記…144. 表紙の言葉・唐木孝治 カット・森口賢一
椋鳥の冬/相良蒼生夫
渡りをする鳥の群れはじめるころ
野分き吹く晩秋の野は
枯草の穂群れいそがしく揺れ
種子を不確実ながら春の方へ押しやる
時折 蟋蟀の嗄声まだらに聞こえ
蟷螂の卵魂 すがりつく頼りない茎に
虎落笛 冬越しの蝶が舞い寄る肌寒さ
削られゆく景色 容(かたち)もない葛の落ちぶれ
野火 枯草焼きの危ふさ
不意に死のあるさまのおどろきは
自然発火 運命(いのち)の輪転(めぐり)を黙して
虫けらでつぎは大発生の宴をみる
向こう竹林はうすむらさき 夕景の雀の宿は
幾群もの椋鳥が仮の宿に寄る鳴声の騒々しさ
北から南へ国内を移る鳥は いくらか温暖な
飢えのない土地へ 間もなく発つ
闇に落ちる竹林で 鈴成りの椋鳥は
海原を越える怖さ 墜ちて貝になる夢を見る
この頃 私は払暁に竹林を眺める
大勢が一斉に南に下る群舞を思った
いつから 竹を鳴らす冷たい風ばかり
(注)椋鳥=冬期は中部地方以南に渡る
第1連の〈種子を不確実ながら春の方へ押しやる〉というフレーズから魅了されました。〈種子〉という物質と〈春〉という気候の組み合わせは、あるようでいてなかなか無いと思います。少なくとも私は初めて見ました。作品はタイトルそのままに〈椋鳥の冬〉をうたいあげているだけですが、底に凛としたものを感じます。言葉の選びを厳選した結果ではないでしょうか。絵のように情景が浮かび、鳥の鳴き声も聞えてくる佳品と云えましょう。