きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館




2010.4.2(金)


 特に予定のない日。いただいた本を拝読して過ごしました。




神尾和寿氏詩集『地上のメニュー』
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2010.2.20 東京都千代田区 砂子屋書房刊 2500円+税

<目次>
T
たんぼのことば 10             その手 14
反対します 18               信号の日 22
ミンナで 26
U
地上のメニュー・きったはった 30      地上のメニュー・あっぱれ 38
地上のメニュー・とうとつ 42        地上のメニュー・はっけよいのこった 52
地上のメニュー・かんがえない 60      地上のメニュー・ビート 68
V
金管楽器 76                うつわ 80
校庭 84                  高原へ行きましょう 88
でこぼこ 92                放題 96
フィリップ君 100
.             カッコ・ヨイ 104
蚊の手帳  108
W
空席 112
.                 趣味はボーリング 116
地上の先生 122
.              子羊ツアー 128
カサ屋がこの世にひとりだけだったなら 136
. あの頃 140
あとがき 143
装本・倉本 修




 
地上のメニュー・ビート

  ロックン・ロールの定義

「ロックってなんだい」と
たいへん尊敬している先生にたずねられて ぼくは
ギターをかき鳴らサ
「ということは これもロックかな」と 先生は
腕まくりをして
ドラムを連打する
いいえ 先生
それは徽妙な違いですが ロックではありません
人を殺しては駄目なのです
半殺しにするくらいのやかましさでないと ロックではありません
という ぼくの声は
遠慮がちだ
ということもあって
届かない
クラリネットを吹き 特大の花火まで漆黒の大空に打ち上げて
ますます興奮していく先生の 耳には
届かない それでも
ぼくは小さな発言をし続ける
まず たいへん尊敬している先生にこそ
ロックン・ロールとは何かを
知ってもらいたいがために

 タイトルポエムの「地上のメニュー」には、目次のように6編のサブタイトルが付いています。それぞれにはさらに小編の詩が数編あるという構成で、たとえば「地上のメニュー・ビート」には「福助」、「ロックン・ロールの定義」、「かまぼこ」が収められていました。大変おもしろい構成ですけど、小編の個々には特に関連性がないと思ってよいでしょう。ゆるやかな繋がりを感じました。
 紹介した詩は〈半殺しにするくらいのやかましさでないと ロックではありません〉というフレーズに注目しています。ロックに詳しいわけではありませんが、たしかにロックの本質を突いているように思いました。

 本詩集中の
「蚊の手帳」はすでに拙HPで紹介しています。これもおもしろい作品です。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて神尾和寿詩の世界をお愉しみください。




詩誌『黒豹』123号
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2010.3.30 千葉県館山市
諫川正臣氏方・黒豹社発行 非売品

<目次>
諫川 正臣  日だまり 2       生物愛好会 3
よしだおさむ 青く深い天空から 4
前原  武  冬の日和 5       その集落 6
山口 静雄  凍て鶴 7        野水仙 8
富田 和夫  火祭り 9
杉浦 将江  春の七草 10       花屋にて 11
本間 義人  袈裟を纏う自画像 12   抗弁 −裁判の始まる前に− 13
庄司  進  老いるということ 14   顔 15
編集後記 16




 
日だまり/諫川正臣

いちばんの贅沢をしてみたい

寒に入り 風のない日
里山の日だまりに腰をおろし
ぼおっと空を見ている

雲のうごきも遅い
大きい雲も少しずつちぎれ
ちぎれた雲は
しだいに稀薄になっていって
消えてしまうこともある

かぎりもない空のなか
時間は雲のあたり
かたちになって漂っている

足もとでは くるまばったが跳ね
てんとうむしが膝の上に這ってくる

することは いっぱいあっても
ひととき草木や虫のように
大気のなかに浸りきる

冬の日だまり 雲などを見て

 〈いちばんの贅沢をしてみたい〉という書き出しですが、〈することは いっぱいあっても/ひととき草木や虫のように/大気のなかに浸りきる〉のが一番の贅沢なのかもしれません。〈雲のうごき〉を見、〈足もと〉の虫たちを見つめる時間。その〈時間は雲のあたり〉を〈かたちになって漂っている〉という視点も新鮮です。散文では描けない、詩らしい詩だと思いました。




季刊詩誌『竜骨』76号
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2010.3.25 さいたま市桜区
高橋次夫氏方・竜骨の会発行 600円

<目次>
<作品>
ある童話         河越潤子 4   指先            木暮克彦 6
荒地行          篠崎道子 8   黒い海           今川 洋 10
敵艦隊見ユ        狩野敏也 12   味の面持          松本建彦 14
宇宙の夜明け       松崎 粲 16   底             島崎文緒 18
花二懸          横田恵津 20   三十分間の孤独 MRI  内藤喜美子 22
背番号         上田由美子 24   蛾             森  清 26
雀            庭野富吉 28   板金 あんまと文豪     対馬正子 30
錦帯橋物語 T     長津功三良 32   ご激務のこと        高野保治 34
花の蕾の         高橋次夫 36   祭日            友枝 力 38
羅針儀
幻のひと         今川 洋 40   鳴呼 日本語よ       森  清 42
連帯感が生まれるとき  内藤喜美子 44   駄目コーチ        上田由美子 47
本所・深川、隅田川(九)  高野保治 48
書窓
清水榮一詩集『述懐』   松本建彦 54   坂井信夫詩集『影のサーカス』高橋次夫 55
海嘯 棟々なるバッシング 友枝 力 1   編集後記               56
題字           野島祥亭




 
蛾/森 

老人が座っている
少年は立っている
女が蹲る

赤い空
割れた月が桑畑を抱えて照らす
涸れた溜め池の割れた底

蛾が滑る


緊張して日頃の剽軽さを失った
戦闘帽の下の顔
――行ってきます
と 呟く
別れは簡単だ

「武運長久」の旗の波
バンザイ バンザイ
戦場に 屠殺場へ 墓場へ
蛾が見送る

一年後 春
村役場から戦死公報が届く
配達した中年吏員の肉の落ちた頬
――大したことない
  村に墓が一つ増えただけのことだ

村外れ
墓標に鱗粉を撒き散らし
蛾が止まる
老人と 少年と 寡婦の長い影を
蛾が包む

 〈――大したことない/村に墓が一つ増えただけのことだ〉というフレーズには愕然とさせられ、戦争とはなんであるかを考えてしまいますが、その効果を高めるために〈蛾〉が使われているように思います。人間には〈涸れた溜め池の割れた底〉が与えられ、〈蛾が滑る〉ものの、〈戦闘帽の下の顔〉は〈戦場に 屠殺場へ 墓場へ〉送られます。しかし、蛾は〈見送る〉だけ。この差異に気づかさせてくれる佳品だと思いました。






   
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