きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館 |
2010.4.8(木)
西さがみ文芸愛好会の会報編集委員会が開かれました。今度は46号。この号から編集長が変わります。今までの過去3号は私がやっていたのですが、一昨日の運営委員会で若手の女性が引き受けてくれることになりました。引き継いでの初回ですから、今回は私が簡単な掲載記事案を作って会議に臨みました。次回からはもっとマシな書面が出てくるでしょう。担当者が変わるということは、そういうことだと思っています。
16日までに記事を集めて、雛形を20日の事務局会議に提出します。そこで修正があれば加えてもらって、24日に印刷・発送。25日が発行日となります。会報作りはスケジュール管理が肝要。そんなこともOJT(on
jop trainig)で覚えていくものですが、これは現職時代の名残りかな。仕事で培ったものを社会に還元する年代なのかもしれません。
○水崎野里子氏詩集『ゴヤの絵の前で』 |
2010.5.2 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税 |
<目次>
T ゴヤの絵の前で
ゴヤの絵の前で ――「一八〇八年五月二日」「一八〇八年五月三日」 8
赤い雪 ――三・一独立運動の犠牲者たちに 11
遠い声・金子文子 14
屠殺 ――二〇〇七年七月五日南京大虐殺博物館跡にて 20
崔さんと・上海から南京への旅 ――二〇〇七年七月五日南京大虐殺博物館跡を探して・上海から南京へ 24
真珠湾(パール・ハーバー)への旅 29
知覧 32
ハイビスカスの赤い花 35
丘 40
ガジュマルの樹 44
影 47
灯籠流し 50
U マレーシアの友人
シンガポールの原爆資料館にて 56
マレーシアの友人 ――二〇〇六年世界詩人会議に参加して・於モンゴル 62
カンボジアの地雷博物館 66
アジアの赤いルビー ――二〇〇七年秋ミャンマーのために 71
広島平和記念資料館にて 74
故長崎市長・伊藤一長さんへ 78
従軍慰安婦 キムさんのために ――松井やよりさん追悼 82
老女の涙 ――川端律子さんに 87
ソウルは雨 90
V 古い族行鞄
古い旅行鞄 ――二〇〇五年八月リトル・トーキョーにて 94
浦上天主堂・黒いマリア ――二〇〇七年八月スイスのジュネーブ近郊にて 97
アイルランド・雨 100
ピエタ像 102
晩鐘 105
ペガサス 108
古い兵隊日誌 ――二〇〇九年九月世界詩人会議ハンガリー大会に参加して 112
遠い声 117
あとがき 120
略歴 122
初出一覧 126
ゴヤの絵の前で
――「一八〇八年五月二日」「一八〇八年五月三日」
日本でこの絵を知った
ゴヤによって書かれた
フランス軍によるスペイン市民銃殺の絵
シェイマス・ヒーニーの詩の中で言及されていた
彼は警察によって殺されたアイルランドの暴動を暗示していた
広いプラド美術館の中
ひょいとその絵に出会った心の興奮をしばし抑えきれず
私は呆然と突っ立っていた
ゴヤは描いた
宮廷絵描きと呼ばれた彼
でもゴヤは描いた
スペインのために
激しい憤りと激しい抵抗を
南京虐殺
ユダヤ人虐殺
ヒロシマ ナガサキ
ソンミ村の虐殺
独立を願うアイルランド人民の復活祭の虐殺
スターリンによる反逆者の虐殺
イラクで
アフガンで
ホロコーストはいつの歴史からも去りはしない
人類の汚点
われわれは肉を喰らう 動物に過ぎない
ゴヤは流血の惨事を描く
人民に銃を向ける兵士を描く
ゴヤの絵は生きている
今でも そして 生きるだろう
永遠に
この神の不在の世界の中に
ゴヤ「一八〇八年五月二日」「一八〇八年五月三日」の絵の前に立つ
二〇〇六年四月二十八日
暑い午後
巻頭のタイトルポエムを紹介してみました。〈宮廷絵描きと呼ばれた彼〉の〈激しい憤りと激しい抵抗〉に〈心の興奮をしばし抑えきれず〉にいたわけですけど、絵の持つ力がよく表現されていると思います。〈一八〇八年五月〉の〈スペイン市民銃殺〉にとどまらず、現在までの〈ホロコーストはいつの歴史からも去りはしない〉歴史を見つめる視点は詩人の矜恃と云えましょう。
○詩とエッセイ『沙漠』258号 |
2010.3.30
北九州市小倉南区 河野正彦氏発行 300円 |
<目次>
■詩
原田暎子 3 なにやら声が聴こえる 木村千恵子 4 流れていく
柴田康弘 5 夜の波 福田良子 6 ひかりの中へ
おだじろう 7 ずぼっ! 椎名美知子 8 風を起しながら
風間美樹 9 大根の花 河野正彦 10 差額千円の行方
中原歓子 11 枇杷 藤川裕子 12 朝に
秋田文子 12 道をつける 秋田文子 13 佃煮
山田照子 14 うちのおじいちゃん 坂本梧朗 15 座っていたい
平田真寿 16 ネクロフィリア萌え 菅詔一夫 16 脚光と渦中只中の人
千々和久幸 18 泡て者めっ! 犬童かつよ 19 お祈り
■エッセイ
麻生 久 20 夢去りぬ 山田照子 21 二〇〇九年の忘年会
河野正彦 22 おだじろう詩集「かわたれ星」について
差額千円の行方/河野正彦
友人三人で旅行した
一人分の宿泊料が一万円だったので
三人分を合わせ 三万円を女中さんに渡した
宿の主人は 「サービスとして五千円を返すように」
と 女中さんに命じた
女中さんは 五千円は三人で割り切れないので
うち二千円をネコババして 三千円を客に返した
すると客は一人九千円
合計二万七千円を支払ったことになる
だが 女中さんがネコババしたのは二千円なので
宿泊料は 二万八千円になる筈だ
この差額千円は どこに消えてしまったのだろうか
そう私に問いかけた友は
宇宙の中で 確実なのは数学だけなのだが…
と 首をかしげていたが
答えに辿りつけないまま
昨年 亡くなってしまった
私は思いだす
曲がり角を ひとつ間違えたため
家に帰りつけなかった 幼い日があったことを…
彼もまた 多くの問題を抱えながら
曲がるべき角が分からず
どこかの横道に迷い込んでしまい
帰るべき家に辿りつけなかったのではないか
もちろん 宿泊料のことなども含めて…
辿れば辿るほど
言葉は 事実から遠ざかり
心から離れて行くことがある
あり得ないことでも
ある…と思わねばならないこともある
二万七千円と 二万八千円
どちらが間違いで どちらが正しいのか
これは 旅先だけのことではなく
すべての家に共通する疑問ではないのか
第1連の〈差額千円〉は2つの式をごちゃごちゃにして起こすクイズですね。
1.2万7千円(友人3人が支払った金額)=2万5千円(宿の主人が受け取った金額)+2千円(女中さんがネコババした金額)
2.3千円(友人3人が持っている金額)+2万5千円(宿の主人が持っている金額)+2千円(女中さんが持っている金額)=3万円
これをゴチャゴチャにすると、
3.2万7千円(友人3人が支払った金額)+2千円(女中さんが持っている金額)=2万9千円
意味のない計算で〈横道に迷い込〉ませるのはクイズの常套手段のようです。
作品はそこから〈友〉や〈すべての家に共通する疑問〉へとむすびつけたことで詩になったと思います。
○詩と評論『操車場』35号 |
2010.5.1
川崎市川崎区 田川紀久雄氏発行 500円 |
<目次>
■詩作品
タダイの末裔 ――15 坂井信夫 1 風のダンス(10) 鈴木良位置 2
ミスター・パーフェクト 野間明子 4 落語の世界 冨上芳秀 6
微笑み返す 田川紀久雄 7 かなしみ 長谷川 忍 8
■俳句
父焼く 秋葉長榮 9 春愁う 井原 修 10
■エッセイ
補陀落渡海−垂直連鎖−つれづれベルクソン草 高橋 馨 12
ランボー追跡(二) 尾崎寿一郎 14 浜川崎博物誌(9) 坂井のぶこ 17
市村幸子詩集『はじける』を読む 田川紀久雄 18
末期癌日記・三月 田川紀久雄 19
■後書・住所録 30
ミスター・パーフェクト/野間明子
気づいた時には物置に
棲みついていた小さな子
君によく似てひょろんと白い
ミスター・パーフェクトの君に似て
誰が鍵掛けて閉じ込めたか
君は知らないふりをしている
誰にも紹介するわけにいかないからね
パーフェクトというには貧相すぎる
母さんも父さんもびっくりしてしまうよ
あんな子がうちにいたなんて
君はまさか忘れたわけじゃない
隙間を全部塞いでもあの子の目が
君の背中を追いかける
その目がどんなに大きくて零れそうかと思うと
君はあの子の顔をまともに見られない
稟太郎となら怖くないんだろう
初めて物置の鍵を開けてもいいと思ったんだろう
稟太郎がほかの友達と出掛けてしまったから
何年でも待つつもりだろう
稟太郎は帰ってこないよ
君が待っている間は
稟太郎は君を裏切るよ
私がそう躾けたから
置いてきぼりだよパーフェクト
眉を寄せて機嫌の悪い
よく似た子供がもう一人
実は私の天井裏にもひっそり居ついているんだけどね
どうしようもないじゃないか
君は私に用はないんだから
君は母さんに用はないんだから
君は父さんに用はないんだから
稟太郎は物置に用がないんだから
あの子は君にしか用がないんだから
ひとりで鍵を開けるんだ
あの子と正面から向き合うんだ
あの子の声をよく聴くんだ
君が稟太郎に聴いてほしかったように
あの子にキスしてハグするんだ
昼の光の下へ連れ出して
二人きりダンスを踊るんだ
稟太郎と踊ったように
ふたつの影が重なってくっきりと濃い一人になったら
もう誰も君を呼ばないミスター・パーフェクトと
君を苛立たせるあの名前
しまいには稟太郎さえもそう呼んで出て行った
いまいましい片輪のあの名前では
〈ミスター・パーフェクト〉はいろいろな場面で使われている言葉のようですが、ここではアメリカ映画を下敷きにしているのではないかと思います。〈気づいた時には物置に/棲みついていた小さな子〉はマウスでしょうか。固定して考える必要はないのかもしれません。想像力を自由に働かせて楽しめばよい作品のように思います。