きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館 |
2010.4.9(金)
山梨県の「中村キース・ヘリング美術館」に行ってきました。キース・ヘリング(Keith Haring)は1958年に生れて1990年に31歳という若さでエイズのために亡くなった芸術家です。1980年代を代表するアメリカのストリートアーティストと呼んでよいでしょう。ユニクロからキースの作品をプリントしたTシャツが売られたことなどから、日本でもかなり知られていると思います。子供のような単純な線と色は、多くの人に親しまれているようです。
写真は美術館の中庭から建物を見たところです。美術館自身は3年ほど前に建てられたようで、新しいばかりではなくユニークな設計で、疎林にもマッチしていました。まだあまり知られていないようですから、よろしかったら訪れてみてください。場所は昔の小淵沢町の一角になります。
○詩誌『鳥』55号 |
2010.3.30
京都市右京区 洛西書院・土田英雄氏発行 500円 |
<目次>
黒沢玲子 橋の上 2
中東ゆうき 家族 4 ハイウェー 6
竹山 香 零れる 8
榎本三知子 川 10 こうえんのひだまりで 12
あだちかつとし 村 14 笑う 16
岩田福次郎 悲光 18
緒家みわ子 萌 20 冬めく日の歌 22
植木容子 さるおの思い出 24
元原孝司 温泉に浸かりながら 28 求めたもの 29
高沢英子 ソネット風短詩−木更津のカフェ 31
なす・こういち ほとけの像 34 蜻蛉みたいに 36
土田英雄 老踏切番 38
片っぽう 緒家みわ子 39
雪花菜夢語り 岩田福次郎 40
海の音 黒沢玲子 43
暁闇記・四 夏目漱石 足立勝歳 44
作家の自殺を考える −有島武郎の姦通事件− 鬼頭陞明 46
「井上靖中国行軍日記」−勝手読み 土田英雄 50
詩と散文 なす・こういち 55
表紙・カット 田辺守人
こうえんのひだまりで/榎本三知子
そのせいねんは
いきているのがつらいので
しんだはうがましだといい
しょろうのおとこは
いきることやしぬことよりも
おいることがもっとつらいよといい
おいたひげじいは
いつしぬかとおもうとふあんでふあんで
これほどつらいことはねえといい
そばで こねこはじぶんのしっぽをくわえようと
くるくるくるくる
もうスピードでまわってる
こどもらは
いきていることもしらず やがてしぬこともしらず
かけまわることにぼっとうすることだけしっている
〈こうえんのひだまり〉での3人3様、猫1匹。そして〈こどもら〉。人生の縮図とも言えますが、〈こねこ〉と〈こどもら〉の共通項に気づかされます。〈いきていることもしらず やがてしぬこともしらず〉にいるのが一番の幸せなのかもしれませんね。平仮名書きも奏功している作品だと思いました。
○詩歌文藝誌『ガニメデ』48號 |
2010.4.1 東京都練馬区 銅林社発行 2100円 |
<目次>
巻頭翻訳 《声々は語る》アナスターシャ・アファナーシエヴァ たなかあきみつ 訳 4
翻訳連載詩 詩篇(一九五四年−一九六三年)イーディス・シットウェル 藤本真理子 訳 52
エッセイ
小笠原鳥類 動物、博物誌、詩−『新撰21』の光っている動物 31
望月遊馬 音による点と線(3) 49
連載詩 野村喜和夫 語ろう午前の巌(その2) 40
俳句作品
林 和清 ほそたほそ 70
鳴戸奈菜 約束は 72
恩田侑布子 夢洗ひ 78
田中亜美 陽炎 84
短歌作品
鳴海 宥 Aquarius 202
沼谷香澄 アルペジオ 206
森井マスミ 火だるま槐多 220
田中浩一 続百物語(三) 216
和泉てる子 「奥底に秘めて」 210
詩作品
小笠原鳥類 私は犬の写真を見ながら書いている 247 望月遊馬 Christmas Song 255
山路豊子 社寺と花 106 紫 圭子 ニョキ 290
植木信子 雪ぎえの空に 198 渡辺めぐみ 時報 252
斉藤征義 星をさがす木 302 荒木 元 秋の日に 136
山岸哲夫 ロシアの貴婦人 他二編 146 平野光子 真田紐 −UEDAからの発信− 168
平塚景堂 無と、泌みるリンゴ球 278 久保寺亨 「白状/断片」XT 174
藤本真理子 ゆり 228 丸山勝久 生きる 231
中山直子 橇 他三篇−旧ソビエト時代の日常を歌う 307 松本一哉 カンチャナブリ 他二篇(東南アジア記'12)(13)) 117
吉田博哉 蓆旗 294 森 和枝 風景白書 286
岡本勝人 ときには移動する風景の音になって… 90. 松下のりを 雪を掻く 282
吉永素乃 第二の馬生 236 吉野令子 <対話のリフレーン) 297
仲嶺眞武 四行詩「言葉」六篇 274 佐伯多美子 殉教した母のなみだの音の 181
金澤一志 かがみ、みつばち、またかがみ 160 中井ひさ子 小豆 他一篇 188
中原宏子 跳ぶ 266 浜江順子 ヘリオガバルスの汁 262
岡野絵里子 SHADOWS11 258 山田隆昭 卵・島 194
小林弘明 子供たちの領域 225 玉田尊英 アトリエ 他三篇 126
片野晃司 ひかりがふち 270 中神英子 初夏 153
海埜今日子 《寝待月、ひとりの箱が船乗りによって》239
篠崎勝己 夜/夜明け 244
歌壇時評 川田 茂 女性歌人の時代 58
詩壇時評 片野晃司 「ネット詩」の終焉はいつだったか 63
編輯後記 320
表紙・タイトル頁‥−『ガニメデとゼウス』(ハンブルク美術館、壁装飾)
鳥かご/中井ひさ子
縁側の片隅は ちょっと寒い
きのう
鳴き声をあげる間もなく
ジュウシマツが 消えた
一週間前は
ブンチョウが
その前は
メジロだったな
鳥かごは
あっけらかんと
貼りついた
かげを剥がしている
灰色の空から
薄い風がおりてくると
散らばっている
羽が 舞い上がり
冷えた体温が
編みこまれていく
めざめたように
微笑み
鳥かごが
大きな口をあけ
おいで おいで
と 歌いだす
きょうは
スズメが
めずらしそうに中にはいった
からの鳥かごは
持つと
ずっしり重い
この作品は主語が〈鳥かご〉であることに注意が必要かもしれません。“籠の鳥”は言い古された喩ですが、その現代版とも採れましょうし、〈貼りついた/かげを剥がしている〉というフレーズは斬新です。この感覚が現代的であり中井ひさ子詩の世界の真骨頂だと思います。最終連も佳いですね。何もないものが一番〈ずっしり重い〉のはあらゆる場面に言えることです。哲学を詩化したと言うと失礼になるかな。逆にここから新しい哲学が生まれてもおかしくない作品です。
○詩とエッセイ『視力』9号 |
2010.4.4
宮崎県宮崎市 亀澤克憲氏発行 500円 |
<目次>
■詩
外村 京子――河童淵 2 六月の舟 6 杁樋にて 8
本多 寿――青い鳥 12 はる 16 ふいの、汀 18
佐藤純一郎――アルテミスの午後 20 覡の書(アルテミスの夜…) 22
亀澤 克憲――月光 24 モミジ 26 木漏れ日 28
■魚眼
佐藤純一郎 30 外村京子 31 亀澤克憲 33 本多 寿 35
表紙絵*ほんだひさし
はる/本多 寿
夢いちめんに
麦畑がひろがっている
みどりの
炎がゆれている
ひばりが空にのがれ
声だけ残して墜ちてくる
するどい穂先が待ちうけている
死が槍をかかげている
しかし その蔭に巣があり
小さないのちが産声をあげている
かたわらを風が吹きぬける
あぜ道を長い葬列がゆく
すでに鬼籍に入った者たちだけの
不思議にあかるい一団だ
やがて空の墓地に昇っていく
蒼穹に柩を埋めて消えていく
白い幟が雲となってたなびき
いつまでも鉦の音だけが響いている
ぼくは麦の穂を千切りながら
夢のそとへ向かって走った
二重の意味でおもしろい作品だと思いました。ひとつは、こういう〈はる〉もあるのだなという思いです。春は希望に満ちているという固定観念がありますから、普通は〈葬列〉など出てきません。しかし、それでも明るいのは〈小さないのちが産声をあげている〉というフレーズが効いているからでしょうか。
もう1点は〈夢〉の扱いです。全体に夢の話としていますので破綻がありません。それは常套手段と言われればそれまでですけど、〈夢のそとへ向かって走った〉というフレーズはその非難を否定するでしょう。この夢の処理も見事だと思った作品です。