きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館




2010.4.10(土)


 日本詩人クラブの3賞贈呈式が午後から牛込神楽坂の「日本出版クラブ会館」で開かれました。受賞者は次の通り。おめでとうございます。
 第43回日本詩人クラブ賞 詩集『水の声』 硲 杏子
 第20回日本詩人クラブ新人賞 詩集『
来訪者』 伊与部恭子
     同         詩集
『真夜中のパルス』倉本侑未子氏
 第10回日本詩人クラブ詩界賞 
編訳『神への問い』 川中子義勝氏

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 参加者130名、記念パーティーにも100名近い方がご参加くださりました。ご出席いただいた皆さま、ありがとうございました。
 私はいつも通り写真班。300枚ほど撮りました。2次会は気の合った4人で飯田橋の居酒屋へ。今年は理事ではないので、一般会員としての参加です。気楽なものでした(^^;




高丸もと子氏+千木貢氏詩集『富士山』
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2010.4.30 山梨県南都留郡河口湖町 風聲庵刊 2000円

<目次>
高丸もと子
T 富士山日和
富士の山 12      春の雪 14       初夏のある日 16
郵便受け 18      風の絵筆 20      ぺしゃんこのヘビ 22
牛が鳴いた 24     牧場の虹 26      星のふる村 28
星を見ながら 30    富士雷雨 32      青天 34
空 36         木 38         富士山奥庭の木 40
山の松 44       過ごしてきた 46    朝つゆ 48
野いばら 50      へびいちご 52     高原に咲いている 54
富士山 56       富士山日和 58     ダイヤモンド富士 60
富士ヶ嶺の朝 62    吹雪の夜に 64     一度だけ聴いたことがある 66
冬の森 68       樹海の中で 70
山からの電話 72
U かぐや姫
天竺にあるという仏の石の鉢 76         蓬莱山にある玉の枝 80
ヒネズミの皮衣 84               竜の首にある五色に光る玉 88
ツバメの巣の子安貝 92             もどってくるかぐや姫 96

千木 
回想富士 102
.     俗界富士 105.     黒富士 108
涅槃富士 111
.     影富士 114.      風富士 116
異界富士 119
.     古刹富士 122.     信仰富士 125
原風景富士 128
.    虹富士 132.      孤高富士 135
石割富士 140
.     本栖富士 144.     闇富士 147
赤富士 150
.      供養富士 154.     残雪富士 157
初日富士 160

高丸もと子+千木貢による詩集「富士山」について 164
表紙カバー 「富士山」 室岡正明
扉     「富士山剣ヶ峰」風聲庵にて/撮影・千木貢




 
涅槃富士

ポールの先端が風景を切りながら
弧を描いて上昇し
垂直の状態から
再び別の角度で
弧を描いて
落ちかかる
その反動で
放り投げられるように
ポールの先端を離れた人体が
横一線の別のポールを飛び越えるとき
人体の真下に小さく黒い富士の影が捉えられた

富士を遮るように
それから人体は落下していったのだが
まるで消しゴムで一撫でしたかのように
人体が落下していった後に
富士の影は何処にも見つけられなかった

カメラが別のカメラに切り替わってしまったのだ
マットにあおむけに落ちた人体は
立ち上がろうとして二度三度よろめいた
よろめきながら両の腕を突きあげて喜ぶ肢体を
画面は大写しにしていたのだった
トラック競技が始まって
画面が再びフィールドのほうを映すことはなかった

一瞬 涅槃の姿勢で
人体は富士の真上に横たわったのだ
あれは幻にしか過ぎなかったのか
残像は静止したまま
いっそう輪郭を鮮明にした

 富士山麓の山荘で、1軒おいた隣同士というお二人の共著詩集です。タイトル通り富士山に関係する詩だけを集めていて、それを共著とするのは珍しいのではないかと思います。
 ここでは千木貢さんの作品を紹介してみました。〈涅槃の姿勢で/人体は富士の真上に横たわった〉〈一瞬〉を捉えた視線に脱帽です。素材といい、最終連に至るまでの描写の無駄のなさといい、教えられることの多い作品です。




個人詩紙『おい、おい』76号
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2010.4.8 東京都武蔵野市 岩本勇氏発行 非売品

<目次>
詩 なんぼ
岩ちゃんのおい、おい日記(二)




 
なんぼ

人の世に
生まれて おまえは
なんぼと
数に直され
私は数ではありませんよと
抗議しても
あほぬかせ
おまえは
なんぼのもんやと
決めつけられて
なんぼ
なんぼと
あほにされて
それでも私は
なんぼのふりして
生きております

 〈なんぼのもんや〉とはよく聞く言葉ですが、それを〈私は数ではありませんよ〉としたところがこの詩のポイントですね。〈なんぼ〉とは程度のことだと思っていましたが、確かに数でも使います。この作品は作中人物が〈あほにされて〉いることに共感します。そうやって私も〈生きております〉。




詩誌『よこはま野火』58号
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2010.4.1 横浜市金沢区
林氏方・よこはま野火の会発行 500円

<目次>
実り       唐澤 瑞穂 4       藪椿       菅野 眞砂 6
蛍        森下 久枝 8       庭の臘梅     宮内すま子 10
犬がパンを埋める 馬場 晴世 12       ある詩集     阪井 弘子 14
夕虹       加藤 弘子 16       雨の夜に     真島 泰子 18
この子      進藤いつ子 20       師走の街で    松岡 孝治 22
野菜籠(4)    疋田  澄 24
詩集評 砂時計のように −真島泰子詩集を読む 志崎 純 26
  *   *
よこはま野火の会近況 編集後記 27
表紙画 若山 憲




 
犬がパンを埋める/馬場晴世

牛乳に浸した
バタつきのパンを与えると
わが飼い犬は必ず一と切れを
土に埋めて隠し
嬉しそうに尾をふる
骨かせめて肉ならともかく
泥だらけのびしょびしょのパンを
後で食べるのか分からない
いつ頃からの習性だろうか

夜になると
犬は小屋の屋根に上がって
月に向って遠吠えをする
闇をぬって声は太古の狼に触れる

私は
本を読み 詩を作る
草の匂いのする言葉を探して
森への道を一人で歩いていく
私だけの孤独な習性だ

風が音をたてて吹きつけてくる

 おもしろい行動の犬だなと思います。たしかに、〈遠吠え〉も含めて〈太古の狼〉の〈習性〉なのかもしれません。しかし作品は、それは犬だけではないと言っているようです。〈草の匂いのする言葉を探して/森への道を一人で歩いていく〉ことも太古からの〈孤独な習性〉なのかもしれません。犬は犬と突き放さないで、人間も絡ませたことが作品に深さを与えたと思います。






   
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