きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館




2010.4.14(水)


 今日も外出予定のない日。いただいた本を拝読していました。




なべくらますみ氏詩集『川沿いの道』
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2010.5.1 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
最初の水 6     川沿いの道 8    奔流 10
スズメバチ 12    激流 14       新年 18
雪虫 20       霜柱 22       摘み草 24
蜘蛛の子 26     モニュメント 28   兵庫島 30
夜釣り 34      漁師 36       河川敷 38
子供たち 42     五本松 44      赤岩付近 46
迷路 50       水馬
(ミズスマシ) 54   灯籠流し 56
事件 58       捜索 60       川開き 62
悪夢 64       巨人軍グラウンド 68 カマキリ 70
白い鳥 74      倒木 76       温室村 80
羽田飛行場 84    古墳公園 88     ひと粒の実 92
あとがき 96




 
川沿いの道

川沿いの街道を車が流れる
水より早く水より大きな音を立てて
ヘアピンカーブの谷底
見えないその先
運転者はしばし自らの運転に酔う

轟音もその早さも
塞き止めるものはない
湖底には今も留まる数個の家
届いているだろうこの音が
息を潜める昔人に

材木を運び石を運んだ街道
埃っぽい飯場の
物干し場に並んだ 男物だけの下着
草叢にいる石地蔵
鳥が騒ぐ

昔道の国境
(クニザカイ)
大型ダンプカーが
道を揺さぶり
時間の流れとともに通り過ぎる
やはり
塞き止めることは出来なかった
水も
時間も
車も

 多摩川のそばで生まれ育ったという著者の第5詩集になるようです。多摩川の源流から河口の羽田まで、約138キロを3年かけて7回に分け、お仲間と歩いたそうです。そのときの作品や多摩川近郊での生活を集めた詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈川沿いの街道〉は全国的にも昔から発達してきた道でしょう。〈水も/時間も/車も〉〈塞き止めることは出来な〉い、大きな自然の営みを感じさせる作品だと思いました。




津坂治男氏少年詩集『押すな押すな』
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2010.4.10 大阪市北区 竹林館刊 2000円+税

<目次>
こんにちは!
こんにちは! 8     スイッチョ 10      涙の目だが 12
ヒヨドリ 14       一番乗り 16       勝負 18
港 20          宣言
(せんげん) 22     シュッシュッ 26
ほんとうは 30
目がさめたら
種 38          星 40          お迎え 44
「きぼう」 46       目がさめたら 48     からだ 52
フツカブタ 56      カモメ 58        ハート 60
赤いもの 62
あしたへ
これで、やっと・・・ 68 ここにも いたんだ 72  彼岸花 76
イヌツゲ 80       トンボ 84        あしたへ 88
押すな押すな 90
あとがき 95




 
押すな押すな

「押すな押すな」という声が足下でする
おどろいて見回しても誰もいない
いろはもみじの葉がやつれ
生きのびた花水木の赤い実が
朝の陽にきらきらしているばかりだ
「押すな押すな」という叫びが それでも
地面から突き上げてくる感じで
目をやったら
ガレージの角の棒樫
(ぼうがし)の下
すっくと首をもたげた少年がいる
頭に仏様のような緑の丸い環
()
声はその肩あたりからびしびし溢れている
夏に斑
()入りの葉を茶色に焦(こが)して
しばらくだらんとしていたツワブキの
根元からいつか若い葉が何本も伸び出して
下から花芽をはげますように

緑の環がいつか黄色く炎
()えはじめ
たとえば霜の朝 がっと眼を剥
()
それまで せっせと
生まれ 天に遡
(さかのぼ)ろうとするいのち
その押し合う粒子粒子が
かけあうひびき

半ば枯れたような 八十近くの
ぼくのいのちを神輿
(みこし)に乗せて……

 この10年ほどの発表作品のうち、こどもの気持ちになって書いたり、こどもにも大人にも読んでもらいたいと思う作品を集めた詩集だそうです。〈八十近く〉になっても、その感性を失わないでいようという心意気に敬服します。ここでは詩集の最後に置かれたタイトルポエムを紹介してみました。〈押すな押すな〉という掛け声が〈天に遡ろうとするいのち〉を見事に表現していると思います。




写真と詩の個人誌『休憩時間』7号
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2010.3.5 千葉県八千代市 星清彦氏発行 非売品

<目次>
大きな汽笛が 2    名物に 3       旅の土産 4
冬の校庭 5      大晦日
(おおつごもり) 6  地に足が 7
めんたいこの雲 8
後書き 9




 
旅の土産

旅に出るとどうしても財布の紐がゆるくなる
日ごろ手の出ない
1800円もするめんたいこを
あっさりと買ってしまった
家ではその後の一週間
家族が不思議な緊張感を持って
食事することとなった
お茶碗を差し出す所作まで
とても仰々しい

 あっ、これって分かる! という作品ですね。たしかに〈旅に出るとどうしても財布の紐がゆるくな〉って、〈日ごろ手の出ない〉ものを〈あっさりと買ってしま〉います。私などはあとで悔やむことも多いのですが、この作品では〈その後の〉家族の〈不思議な緊張感〉を描いて、秀逸です。〈1800円もするめんたいこ〉も、こうなれば本望でしょう。うまい作品だと思いました。






   
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