きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館 |
2010.4.24(土)
西さがみ文芸愛好会会報の印刷・発送を行いました。担当者3人が行き着けのコピー屋さんに集まって印刷するのですが、実際はコピー屋さんのご亭主がみんなやってくれますので、ただ見ているだけ。出来上がった会報を近くの会員宅に持って行って、4人で折って封筒詰め。早い、早い、アッという間に終わったという感じです。ポストに投函してオシマイです。
あとの心配は誤字・脱字ですね。今までの号で大きなミスはないし、3人が眼を通していますから大丈夫でしょう。印刷に校正はつきもの。中学・高校の頃は印刷所でアルバイトをしていて、校正の大事さは叩き込まれていますけど、これが生涯続くとは思いもしませんでした。まあ、何はともあれ業務終了。担当の皆さん、お疲れさまでした!
○季刊詩誌『詩と創造』71号 |
2010.4.20
埼玉県所沢市 書肆青樹社・丸地守氏発行 750円 |
<目次>
巻頭言 抒情詩考 石原 武 4
詩篇
言霊頌(スピリトウスしよう)−崩壊を孝える、心象から 内海康也 6
いのちの川――アフリカに 原子 修 8 終電車の愛の歌 嶋岡 晨 10
海と墓と話 崔 龍源 13 風景 山本沖子 16
海のとどろきを間近に 清水 茂 18 フランドルの椅子 長瀬一夫 20
洋梨 ラ・フランス 橋本征子 30 電話ボックスに降る雨 北川朱実 33
賢者T 中村不二夫 36 神話の切れ端 新延 拳 39
影 柏木勇一 42 消える/頭上 菊池柚二 44
花の色は 岡山晴彦 46 女猫 宮尾壽里子 48
乱反射考 野の風景 丸地 守 50
エッセイ
詩的精神の暴力性 嶋岡 晨 54 私のアルス・ポエチカ(5) 内海康也 58
往生際の時間(八)「あたんだい、たんだはち、たんだばてい……」 北川朱実 61
美術館の椅子 「THE ハプスブルグ」展を観て 牧田久未 66
プロムナード 熱血児 黒田憲の咆哮 こたきこなみ 72
現代詩時評 滅んだのではなく裾野が広がったのです 古賀博文 74
海外詩
幼年時代 イヴ・ボヌフォワの辿った道 T 清水 茂 80
『雪水(スノウ・ウォータ)』と「北」(5) マイケル・ロングリー 水崎野里子 86
午後の土左衛門/雲 他 チェ・スンホ(崔勝鎬) 韓成禮訳 93
地下給食所 他 ユ・ホンジュン(劉洪凵j 韓成禮訳
取り戻したアベセデの時間 他 金クスル 韓成禮訳
松の木片で葺いた家/老いた湖 パク・ミサン(朴I山) 韓成禮訳
新鋭推薦作品 「詩と創造」2010新鋭推薦作品 いのち 室井大和/鬼の住処 仁田昭子/フランス郊外 太田美智代 102
研究会作品 だんご虫 万亀佳子/日食の舟 宇宿一成/バルバラ と 私 伊藤静/野鴨 弘津亨/流転 鮮一孝/黄昏の刻 松木定雄/影坊師 小関守/いたずらっぽい野生顔の猫に変身した 清水弘子/砂漠 松本ミチ子/サニープ膏の男 司由衣/自分教習所 菅野千代/指 金屋敷文代/夏の風物詩 香咲萌 選・評 丸地 守・山田 102隆昭
書津青樹社の本書評 121
佐藤健治編訳詩集『私が愛した英詩たち』/今村秀子詩集『山姥考』/柏木勇一詩集『たとえば苦悶する牡蠣のように』/長瀬一夫詩集『フランドルの椅子』/対馬正子詩集『ほしの樹紋』 評 こたきこなみ
風景/山本沖子
作曲家が窓辺でオリーブの林を見ていた。
少女がひとり、林の中の石だんをすべるよ
うに降りてきた。
少女は石だんの途中で立ちどまった。
ふたつに分けて編んだ長い黒髪がまるで蛇
のようにオリーブの樹の枝にまきついている。
水色のちいさな蝶がちらちらと少女のまわ
りをとんでいる。
少女はふたたびあるき出した。
編んだ髪はしづかにたれている。
桃色や白の貝がらが少女のサンダルの下で
かすかな音をたててきしんだ。
見えている、あるいは想像の〈風景〉をただ描いているだけのようですが、おそらくそれだけではないでしょう。行頭の2字下げ、1字下げにも意味があると思います。しかし、具体的にうまく説明できません。〈作曲家〉の頭の中の曲を文字にした詩なのかもしれませんね。作曲家が女性ならば、〈少女〉は作曲家の子どもの頃の姿と捉えられる気がします。不思議な作品ですが、意味を拒否しているようには感じられません。このままのイメージを大事にすればよいのでしょう。
○詩誌『花筏』19号 |
2010.4.20
東京都練馬区 花筏の会・伊藤桂一氏発行 700円 |
<目次>
〈現代詩の可能性〉私の文藝的体験(二)
*戦記とメルヘン…伊藤桂一 42 *花筏通信…58
〈エッセイ)
伊藤桂一先生詩碑のこと・高田敏子先生のこと…宮田澄子 50
「玉の浦」…谷本州子 51 百日紅…田代光枝 52
「待つ」ということ…秋山千恵子 54 ふり返ってみれば…小原久子 55
夕映え…中野百合子 56
〈詩〉
(扉詩)時間…伊藤桂一 1 道のとおく…藤本敦子 2
サスペンスに降る雨…門田照子 4 夜の瀧桜…秋山千恵子 6
一緒に…唐澤瑞穂 8 過ぎてきたまち…帆足みゆき 10
黄色いテープ…中野百合子 12 八重桜…谷本州子 14
優しい庭で…宮田澄子 16 地蔵坂…小町よしこ 18
無形の贈りもの・添え書き…田代光枝 20 雪見沼のほとり…上田万紀子 22
三角靴下はほどかれて…在間洋子 24 笛の音…小西たか子 26
衝立パネルの裏で…山田由紀乃 28 字に関するコンプレックスについて…月村 香 30
恐山にて…伊藤桂一 32 雨女…彦坂まり 34
クッション…山名 才 36 いちにち いちにち…住吉千代美 38
海(うん)な平気で…竹内美智代 40
*〔連詩〕蟻が一匹 捌き(伊藤桂一)…58
同人既刊詩集…64 あとがき…表紙の三
住所録…表紙の四
<表紙・扉絵>…帆足まおり <カット>…伊藤桂一・谷本州子
一緒に/唐澤瑞穂
座っていた私に
幼い子が飛び付いてきた
不意を喰って 仰むきに倒れた
ほんの一時 目を瞑ってじっとしていた
幼いものは 私を揺すった
おめめをあけて
おすわりして
たっちして
揺すりながら 大きな声で何度も叫んだ
揺すられながら 私
新聞に載っていた写真を 思い出していた
イラクだったか アフガンだったか
戦火の国の写真
死んでしまった母親に取り縋っている女の子
こちらに向けた恨めし気な大きな目
どれほど 泣き叫び
どれほど ゆすぶり続けたことだろう
安心させなければ
私は目をあけて 起き上がり
とびきりの笑顔をつくって
思いっきり 抱き締めたのだった
遠い国の女の子も一緒に
〈遠い国の女の子〉のことも単に想像しながら〈抱き締めた〉のではなく、〈一緒に〉抱きしめたところに作者の深さを感じます。〈戦火の国の写真〉は私たちもよく目にします。それを見て同情します。しかし、一歩あるいたら忘れてしまいます。それは、自分とは境遇が違う者への単なる同情だからなのでしょう。この作品のように〈一緒に〉抱きしめることができるか…。それを問われているように感じました。
○インスタレーションポエトリーマガジン 『鶴亀』4号 |
2010.4
神戸市東灘区 鶴亀ギャラリー・武内健二郎氏発行 非売品 |
<目次>
02 日の移ろい 貞久 秀紀
06 恐竜、アニメ、映画 小笠原鳥類
12 ふぁあざあ・だっく−折り音流説群− 坂東 里美
14 森 出
16 堕ちてゆく男 中堂けいこ
18 茄子を煮る人 武内健二郎
22 ベルリンの壁崩壊20年とヨーゼフ・ボイス 水田 恭平
26 現代若者の孤立感と中世民衆への共感 志賀 節子
31 編集後記
茄子を煮る人/武内健二郎
浴衣からはみ出すまるく大きい背中であった
緩んだ腰紐が尻の上で
両手の動きをわずかに伝えた
幼い言葉で祖父に尋ねた
「何をしているの」
背中のむこうで行われていることについて
台所で祖父が一人きりで行っていることについて
それは尋ねるべきことがらのように思えたのだ
「茄子を煮ている」
船場言葉の抑揚と
出汁の匂いが
私をうっとりさせた
目の前の鍋で茄子が煮えている
背後から幼子が尋ねる
「何をしているの」
茄子を箸で刺す
皮の裂け目から
答えのような身が
はみ出る
最終連がよく効いている作品だと思います。〈皮の裂け目から/答えのような身〉という詩語が佳いですね。どこかで使ってみたくなります。〈船場言葉の抑揚〉というのがよく分かりませんけど、朗読してもらえたらまた別の味になるのでしょう。〈茄子を煮る〉という行為が見事に詩化された作品だと思いました。