きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館




2010.4.28(水)


 午後から湯河原町の「グリーン・ステージ」に行って、櫻井千恵さんの朗読を拝聴してきました。今日は杉本苑子作「櫟
(くぬぎ)の根かた」。リーフレットには〈戦国時代、乱世を生きた庶民の運命を描く〉作品、ということになりましょうか。杉本苑子さんは1925年生まれ、1962年に「孤愁の岸」で直木賞を受賞、熱海市の名誉市民なんですね。

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 写真は朗読中の櫻井さん。今日もまた小説の世界を堪能させていただきました。ありがとうございました。




山本萠氏詩集『天河まで』
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2010.6.3 埼玉県所沢市 書肆夢ゝ刊 1500円

<目次>
<ばらの花帽子>
ばらの花帽子 10              庭の記憶 14
天空の庭 18                驟雨 22
しなやかな翼の勝者 24           晩夏 26
晩秋 28                  入江の浜に 30
苦い実(H島より) 34
.           追想 37
午後の部屋で Pに 38           (深い手)として 40
持たないひと(光を渡る) 44
<鳥を呼びに>
おさない韻
(ひび)きのころ 50.        天河まで 52
抜けて行く 55               翼の青 56
咲いている菜の花 59            秋・結晶 60
凍り簪
(かんざし) 62.             大きすぎる耳を 64
一本の薔薇 68               鳥を呼びに 72
あとがき




 
天河まで

いきなり背後より鋭く来て
貫き渡って行った のは
あの 鳥だった と(わたしのものよ)
ここの視界では
羽の凝った翠
(あお)以外 見通せなかったが
懐かしいものを
掻き抱くように胸をおさえれば
滲みている

チリリ とふるえる薄紫のミントの花を
摘んで噛みながら
川沿いの小道を帰った
気体になったひびきのようなものが
シュワッと 跳ねる

わけも知らず
くさむらで失神している秋の虫
明日 は来ないのだ
としても
望郷のように草の記憶は澄むだろうか
(たれも
 何かを抱いて
 ちいさく 別のかたちになる)

部屋の
傾く窓に倚り懸かると
わたしの傾きがいたく見え
微かにたなびく気配 に
さらされる それらのうえを大きく
天河まで
渡って行ってしまうというのだ

 第6詩集だそうです。ここではタイトルポエムを紹介してみました。「天河」の正確な意味は分かりませんが、文字通りの天の河、天の川を想定すればよいのかなと思います。〈明日 は来ないのだ/としても〉というフレーズがこの作品の中では光っていますが、ちょっと怖い言葉でもあります。最終連の〈わたしの傾きがいたく見え〉という詩語にも惹かれました。




詩誌『東京四季』98号
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2010.4 東京都八王子市
東京四季の会発行 500円

<目次>
〈扉〉兆し……………………松丸 俊明(1)
水谷 清同人作品抄………………………(2)   水谷 清さんを偲んで………谷田 俊一(4)
こんな純粋な詩人があった…山田 雅彦(6)
晩夏の余白……………………小野 夏江(8)   季節から季節へ、人は………山田 雅彦(10)
孫のなまえ……………………瀧本 寛子(12)   守り清め正す!………………門田 照子(14)
枇杷の花………………………中原 歓子(16)   月面宙返り……………………海上 晴安(18)
弁当箱…………………………倉田 史子(20)   奇妙な…………………………岩垂 美江(22)
親爺……………………………谷田 俊一(24)   冬の日…………………………畠中 晶子(26)
ゴンドラの唄…………………山田 照子(28)   北国の初冬の朝に……………竹原 政子(30)
雪の日…………………………桐原 惠子(32)   巡礼の旅人……………………神戸 朋子(34)
猫………………………………横山多恵子(36)   笑顔……………………………犬童かつよ(38)
空の奥には……………………岡田 優子(40)   七尾の森………………………大塚理枝子(42)
ことばが生まれるとき………佐々木重子(44)   涼やかな風によせて…………石川 照子(46)
高尾山の想い出………………鳥羽 貞子(48)   ?………………………………松原 寿幸(50)
夜明けまで……………………木 瑞穂(52)   田舎のお店……………………萩原 康吉(54)
東名をゆく……………………言寺 はる(56)
同人住所録・受贈誌………………………(60)




 
兆し/松丸俊明

夜ふけの帰り道
ふいの香りに足を止めると
植込みの中に一輪の蝋梅が
灯るようにひらいていた
暗闇にまぎれて
両手で抱えるようにして
顔を近づけると
香りは体の奥深く
しみてゆき

遠い北の海のどこかで
氷山から離れた一片の氷が
海の中へと滑り込んでいった

 今号の扉詩です。第1連と第2連のつながりがとても佳い作品だと思いました。いずれもタイトルの「兆し」に懸けているいるのですが、身近なものと遠くの想像の世界を見事に結び付けています。この、距離の遠さをつなげるのが詩の力だろうと思います。さらに私は〈香り〉と〈一片の氷〉が同質のように感じました。〈灯るようにひらいていた〉〈一輪の蝋梅〉の〈香り〉と〈氷山から離れた一片の氷〉は、春の〈兆し〉としては同質なのだと思います。
 なお、〈蝋梅〉は正字が遣われていましたが、きれいに表示できないので略字としました。ご了承ください。




詩誌Void25号
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2010.4.30 東京都八王子市 松本氏方発行所
500円

<目次>
『詩』
オクラホマ…………………中田昭太郎 2   ブルー・ムーン……………中田昭太郎 4
せぬ、隙の鬼………………原田 道子 6   真冬の富士…………………森田タカ子 8
那智の滝考…………………松方  俊 10   友よ 微かに笑え…………飯島 研一 12
花の下 みんなで歌った…浦田フミ子 14   白馬五竜……………………小島 昭男 16
後記 森田タカ子・小島昭男・松方俊 20




 
真冬の富士/森田タカ子

虚空を押し開いて立つ富士に
ほどほどの距離で向きあっていた
陶器のなめらかさの氷の塊の
靴も 鳥の足も 動物の爪も
歯がたたないまま滑り落ちる
陽に輝やく一面を
()は丁寧に撫でる
全く解けることのない
人間のような孤独
波は孤独をとりこみ
また拡散してくれる
青空にじっと動かない白い雲も消え
桜霞の
ほのかに匂う
ぼんやりとした中で
すれちがわないこともあろうかと
随分歩いて来てしまった!
ふんばって 踏みしめて 深呼吸して
磁場を捜す歩行の中
ふと
憶いをとりこんでしまった
ほのぼのの位置で見る
真冬の富士の素顔の心象が
躍如として在った

 富士山を詩に描く女性は珍しいと、どこかで聞いたことがありますが、この作品も珍しい部類に入るのかもしれません。しかも、作品からは真冬の富士山を実際に歩いている印象を受けます。作者は登山家なのでしょうか。詩としては〈陶器のなめらかさの氷の塊〉、〈人間のような孤独〉などの詩語に魅了されています。






   
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