きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館 |
2010.5.4(火)
特に外出予定のない日。足が痛んでツライのですが、読書には影響ありません。終日いただいた本を拝読していました。
○岡隆夫氏詩集『川曲の漁り』 |
2010.5.15
東京都千代田区 砂子屋書房刊 2500円+税 |
<目次>
一
川曲の漁り
川曲の漁り 12 どんぐりの道 14
道に逆らい 18 無錫の白柏 22
どんぐりの分 24 ゲルニカの白柏 28
九千キロを越え 32 柏原邸ソウル 36
水島 40 はしゃぐ 42
エネルギア ニュークリア 46
二
老柏
均しの神 50 老柏 52
白柏の芯 54 アッケシソウ 56
ドングリダコ 60 瀬戸内の大楠 64
出没する島 68 山あがり 70
アリンゴの行列 72 マスカット 76
沼のそこ 80
三
万年のどんぐり
シャングリラのもろこし 84 珍味 88
いちじく 90 雷に打たれ 94
小楢の木陰で 96 楢山が消える 98
アマランサス 102. 巨チョウ 104
風栗 106. 散花 108
万年のどんぐり 110
装本 倉本 修
川曲の漁り
咲きほこり 孕み育み ふり撒きながら
雲南は香格裏拉(シャングリラ)の習々たる春風に身をゆだね
シアンブルーの秋風にそよぎたい――
白柏(しらかし)は想う 百代まえも この際(きわ)も――
長江の川鵜に呑まれず 再度左岸に辿りつき
隈なくしげる椚(くぬぎ) 橿(かし)*の木 楢のもと
先代の腐葉の臥所(ふしど)に根をおろし
叶うものなら玉竜雪山山麓の槲(かしわ)になろう
いや 旭を浴びる白柏となり 四花はなくとも
凛とした白百合を見つめていたい
しめやかな芝蘭に接していたい
しおらしい桔梗の紫衣を尋ねてみたい
四方の海は知らないが
四時白南風(しらはえ)のたよりから
上海の金紗の斜文が肌身でわかる
蒼天にそよぐひと葉ひと葉の網の目すべてを
プルシアンブルーの天風にひたし
枝条をしならせ葉と葉をからませ
天上の川曲(かわわ)にかおるマグノリアの香りを
その残り香を心ゆくまで掬いあげたい
この漁りがわが命の営みならば
この川曲の漁りを子々孫々つたえよう
たとえ酷寒が立技(たちえ)横枝を切りさいなみ
余寒が花の台(うてな)を台無しにしようとも
*かし[樫・橿・]、ブナ科コナラ属の喬木一群の総称。これらの果実が団栗。三百種余ある。
なら[楢・・枹]、コナラ・ミズナラの総杯。ブナ科の落葉喬木。
昨年の新・現代詩文庫71『岡隆夫詩集』に続く第19詩集です。ここでは巻頭でもあるタイトルポエムを紹介してみました。“かわわのすなどり”と読みます。川曲の正確な意味は分かりませんが、山口県周南市の地名ではないかと思います。川曲という場所での漁と採りましたが、それでは表面的すぎるでしょう。〈この漁り〉は、〈天上の川曲にかおるマグノリアの香り/その残り香を心ゆくまで掬いあげ〉る漁りです。川に大地に生きる詩人の象徴と捉えました。
○詩誌『火皿』121号 |
2010.4.20
広島市安佐南区 福谷昭二氏方・火皿詩話会発行 500円 |
<目次>
■ 火皿視点…長津功三良
■ 詩作品
・シラカシ…川本洋子 1 ・蛇…川本洋子 2
・アホな話…津田てるお 3 ・冬されの野から…上田由美子 5
・伊勢物語異聞−第一段「いちはやきみやび」−…橘 しのぶ 7
・いのち…松井博文 9 ・崩れる…北村 均 13
・秋海棠…木塚康成 15 ・晩秋…荒木忠男 17
・詩学の岩壁−四元康祐に−…豊田和司 19 ・あすなろ…梅本哲司 21
・椿…大石良江 23 ・畳…大石良江 24
・足萎える−1−…御庄博実 25 ・足萎える−2−…御庄博実 26
・母の乳房…大原勝人 27 ・燃える街…長津功三良 29
■ 民俗の視点 ・安村異聞…石田明彦 31
■ 川本洋子作品論
・心地よい空間を紡ぐ人 川本洋子詩集『ミツの森』…仁田昭子 33
・川本洋子詩集『ミツの森』の散策…福谷昭二 35
■ 島匠介さん追悼
・広島県詩界の先達島匠介さんをしのんで…福谷昭二 38
・絶筆 白寿の腑…島 匠介 39
■ 編集後記
■表紙画一神尾達夫
シラカシ/川本洋子
シラカシの茂みのなかにひそんでいるのは
ちいさな椅子 忘れられた記憶の馬のひずめ
かき集めてちりとりにとり川に流した
それから丸いテーブルに食器をならベ
サラダを作った ルッコラやサニーレタス
たくさんの野菜をいれると まるで森になった
ポテトもいれなくてはいけないし プチトマトもそえて
朝日がレタスの背にあたり 鐘がなりはじめる
森の入口にたたずんで私は
甘酢ぱい匂をかいでいる
樹木に咲く花の匂なのか たちのぼってくる土の匂なのか
森ぜんたいが匂っている
森のなかにはいっていかなくてはいけないのだけれど
おいてゆくもの 持ってゆくものを選んだり
家のものに電話をしなくてはいけない
それとも手紙にしようか
私はまず手から入って足 胴体
それから頭と入って すっかり森の一部になって
私は樹のあいだを歩いていた
茂みのなかで鳥がはばたいて
湖がひらけてくる
そのなかで泳いでいる人がいる
〈手から入って足 胴体/それから頭と入って すっかり森の一部にな〉るという不思議な作品ですが、自身が〈シラカシ〉なのかもしれません。あるいは死という形で森と同化するのか…。しかし暗さはありませんね。〈湖〉で〈泳いでいる人がいる〉という設定が明るさを出しているのだと思います。
○詩誌『みえ現代詩』81号 |
2010.5.1
三重県鈴鹿市 津坂氏方・みえ現代詩の会発行 非売品 |
<目次>
シアワセ…村上基子 1 Hamletable…佐藤貴宜 2
氷砂糖を噛んだら…村山砂由美 4 責めるべきは…矢野陽子 6
願い…内田 縁 8 途上にて…森田茂治 9
山を降りる…岡本妙子 10 ぼくの時計…堀川孝子 12
彼方から…杉原 翔 14 病後に思う…海野美光栄 16
茶柱…梅山憲三 17 臨終…岩谷隆司 18
むつむ − ある旋律からのエスキス…清水弘子 20
花の声…遠山幸子 22 ルビー…津坂治男 23
エッセイ ヅングンの青年…奈良光男 24
エッセイ ミス三重…杉原 翔 28
<詩書味読(4)> 直叙法+何か…津坂治男 26 表紙絵 村上基子
茶柱/梅山憲三
茶柱が立った
はじめは、コップの上の方に
竜の落とし子みたいに立っていた
暫くすると、茶柱は
コップの中を下降し
真ん中あたりまで下りてきて
一旦、静止した
のだが、そのままずうっと
下降していった
底まで下りていくのかなと思ったら
その直前になって
もう一度考え直すように
上昇を始めた
けれど
やっぱり上へは行けないやとばかり
再び、下降して
底面まで落下
必死になって立っていたが
もう我慢出来ない
と、ごろんと横になった
そして、二度と
立つことはなかった
自分のことのように
見つめていた
最終連がよく効いていると思います。失礼ながら思わず笑ってしまいました。まるでオレみたい…。それが共感を呼ぶのでしょうね。第1連は1行、第2連はそりなりに分量があって読ませ、そして最終連はたったの2行。この構成も見事だと思いました。どこかで朗読したくなる作品です。