きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.16(日)


 第17回透谷祭が小田原の長寺で開かれました。私も何度か誘われていたのですが、今回ようやく出席叶いました。北村透谷については全国的な研究会もあるようで、法政大学の名誉教授・小澤勝美氏の講演や透谷の詩「蝶三部作」の朗読などがありました。

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 写真は講演の様子です。50人ほどが集まって盛会でした。
 小田原城址公園の一角には透谷碑があります。島崎藤村の書、牧雅雄造形の幅13mという立派なものです。それが今、小田原城址公園の改築に伴い、駅から遠く離れた小田原文学館の敷地内に移転しようという案が小田原市より提案されています。そのため、小田原市文化財課の課員が来て、説明しました。

 これがどうも問題があるようです。私も一肌脱ごうと思って今日の出席になったわけですけど、この問題について関係部署との人脈がありますから、それを反対運動の先頭に立っている人に伝えました。喜んでくれました。
 まだ具体的に書けない状況ですが、書けるようになったら拙HPでもおいおい報告していこうと思っています。




内藤進氏詩集『季の聲』
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2010.3.7 山梨県甲斐市 私家版 非売品

<目次>

春の鼓動…2        発芽…4          赤い宝石…6
残したバラ…8       黄砂…10          孫…12
ガラスの産毛…14      花と芋と…16        休耕田…18
大根の花…20        表皮…22          熊避けの鈴…24
花びら…26         くちなしの花…28      御領千枚田…30
姉ちゃんの玉子焼き弁当…32 盆栽…34          ホヤ(別名サクララン)…36
ドクダミ…38        助けた蜘蛛…40

孫のミドリガメ…44     季の聲…46         百日草…48
おかか…50         夏ばての花…52       へぼキュウリ…54
出会い…56         雨…58           旬のじゃが芋…60
ハエ取りリボン…62     草取り…64         朝露…66
好きな場所…68       石屋の話…70        洒落たカラス…72
旬のナス…74        銀の糸…76         追憶…78

尾瀬…82          一期一会の風景…84     壊れる自然…86
生きる…88         残した柿の実…90      雲…92
道…94           秋から冬へ…96       今日を生きる…98
五十回目の夏を待つ…100
.  秋色…102.         未練…104
台風…106
.         自然の恵み…108.      アキアカネ…110
四つの駅…112

白いポスト…118
.      有り難う姉さん…120.    あずさへ…122
冬の御馳走…124
.      年の瀬に思う…126.     儚くも美しく…128
味噌造り…130
.       初仕事…132.        下駄履きの面接…134
チョコレート…136
.     遠い路…138.        冬括れの実…140
自然
温暖化…144
.        異常気象…146.       狂った季節…148
雑草…150
.         自然の技…152.       ざくろ…154
地球からの警鐘…156
.    ビルの窓…158.       自然界に生きる…160
あとがき…164
題字・写真 内藤 進




 
とき こえ
 
季の聲

代掻きが終わり田植えを待つたんぼ
あふれるように水をたたえる季節を迎えた
家々に明かりがともるころ
たんぼは カエルの大合唱が始まる
昔も 今も 変わらぬ
たんぼの音の風景だ

数千とも数万とも思えるカエルの聲
一体何処から集まって来るのだろうか
厳しい環境の中で 冬眠をし
間違うことなく 目覚めるこの季節
たんぼに集まる 自然の姿
子孫を残すために
精一杯生きるカエル
命を繋ぐ 田んぼの営み

夜のとばりが下りる
蒼白い月が水面に光を落とし
夕闇に浮かぶたんぼは
今夜も カエルの楽園となる
受話器を通して 音の風景を送る
電話の向こうは 千葉に住む妹
(ひと)
「わあ懐かしいカエルの鳴き声ねぇ
 昔を思い出すわぁ」
遠く離れた地から
故郷の田んぼが見えたようだ

そよ風に揺れる稲田
畦道を歩けば
波を立てて逃げるオタマジャクシ
烏が多いこの地域
無事に育つことを祈りながら
今朝も
田んぼを見回る

 詩を作りはじめて7年、喜寿になったという著者の第1詩集のようです。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈数千とも数万とも思えるカエルの聲〉を「季の聲」と造形した感性に敬服します。自然豊かな地に生まれ、〈今朝も/田んぼを見回る〉詩人の姿が見えるような佳品です。詩集のところどころに添えられている写真も、あたたかい雰囲気のものばかりでした。今後のご活躍を祈念しています。




詩誌『掌』140号
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2010.5.1 横浜市青葉区  非売品
志崎純氏編集・掌詩人グループ発行

<目次>
エッセイ 目に見えないもの、神(前編) ツェランの断片の力について…今井美穂…8

雪降る夜のための……………………国広 剛…2  眼窩の視線……………………………中村雅勇…4
水の変幻………………………………志崎 純…6  東都川柳長屋連寄り合い……………堀井 勉…10
桜………………………………………石川 敦…12  溶けない影に…………………………福原恒雄…14
わが有縁の化身となす植物考(1)…半澤 昇…16
編集後記                    表紙題字 長谷川幸子




 
溶けない影に/福原恒雄

夜目にもにじむ影が ぽとりと一つ
落ちた
もっと嵩高にひかってからでも
よいのに

きみも足をとめた

躑躅かぁ と
見かけの
明るい街の
明るい窓しか
見ないいそがしさが
身を反らす
きみの気合いのこもる目は
色彩の抜けた文字だけを担いで
最期のひとのように指が空を
掻く

文字を知らなかったよちよち歩きのころから
身繕いする枝ぶりに咲くいろは
誰のためでも
何のためでも
ないだろうよ
あまい唇をかすめて
蒙昧の戦いのさなかに
峻烈に焦げた影をなくした影を
ふっくらと
抱え
地に

溶けない
影に
きみもおれも夜のひかりの中で
いま いっとき なにも言うな

 〈最期のひとのように指が空を/掻く〉というのは〈躑躅〉という字を書いたということでよいと思います。その躑躅、あるいは躑躅という字は、〈誰のためでも/何のためでも/ないだろうよ〉と捉えました。〈もっと嵩高にひかってからでも/よいのに〉、〈明るい街の/明るい窓しか/見ないいそがしさ〉などのフレーズに魅了されていますが、やっぱり最終連が佳いですね。〈いま いっとき なにも言うな〉。どこかで遣ってみたい言葉です。




詩誌『山形詩人』69号
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2010.5.20 山形県西村山郡河北町
高橋氏方編集事務所・木村迪夫氏発行 500円

<目次>
詩●思い出すなあ/木村迪夫 2
詩●蟻地獄/阿部宗一郎 5
詩●小詩集 いろはにほへと/菊地隆三 9
詩●初夏の雷鳴/近江正人 16
詩●わたしの好きな浮舟Y/佐野カオリ 20
評論●迷妄論あるいは美という肯定 −菊地隆三随筆集『実の森に迷う』論/万里小路譲 21
詩●朧な夜に「諏訪優」を読みながらノラをおもう/佐藤伝 28
詩●スペアインク/島村圭一 30
詩●ぼうこう・術後/山田よう 32
詩●蒸気機関車がわれらを救いたまう日/高啓 34
詩●電柱男/高橋英司 40
後記 42




 
思い出すなあ/木村迪夫

ミチオ
おまえはプロ野球の選手になって
銭取ってこい。
アキオ
おまえは農家
(うづ)にのこって
大工になれ。
テルオ
おまえは左官屋
(かべや)だ。
ほしたら
雨漏りしたこの家建て替えられる。
兄弟の力あわせて
立て替えられる。

おれは
お袋の期待にこたえて
毎日素振りをくり返した。
大好きな阪神タイガースからも
何処からもスカウトは来なかった。
上の弟は大工になる気配もなく
おれと殴りあいの大喧嘩をして
独り東京へ出て行ってしまった。
下の弟も
左官屋になどなろうはずもなく
アルバイトをしながら
地元の大学にすすんだ。

あれから五十と何年か経った。
“甲斐性のない野郎
(やろ)べらばっかりだ
親不孝ぞろいよ”と
いまも悔やんでいるべな。
いやいや
“男親が無くとも、なんとか一丁前になったな”と
少しは褒めてくれんべな

 どこの家でも〈お袋の期待〉にはなかなか応えられないものですけど、この3人兄弟も同じだったようです。しかし、〈“男親が無くとも、なんとか一丁前になったな”と/少しは褒めて〉あげたいですね。〈あれから五十と何年か経っ〉て、3人の姿が目に浮かぶような作品で、山形弁も奏功していると思いました。






   
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