きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.22(土)


 特に予定のない日です。いただいた本を拝読していました。




アンソロジー『広島県詩集』27集
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2010.6.1 広島県三原市
吉田隶平氏方・広島県詩人協会発行 2500円

<目次>
赤堀 幸子  ふるさと(高橋まゆみ人形展) 10 荒木 忠男  深呼吸懸命 12
石倉登喜子  一年生の夏 14         川野 圭子  セルジャント・ナムーラ 17
一瀉 千里  尊厳 20            伊藤 容三  夏の日(一) 夏の日(二) 22
井野口慧子  永遠はいつも 24        上田由美子  どないしたん 26
大木 勝弥  色鉛筆 28           大原 勝人  二百十日 30
大山真善美  一歩間違えば 32        かじもと忠司 花オクラの命 34
片山 操子  ヒロシマの川 36        金森 武彦  夕闇の中で 38
川本 洋子  扉 40             北川加奈子  初恋(A竜安寺B平安神宮) 晩菊 此の頃の事 42
北川 典子  しるし 44           田中 虎市  うずく指 47
北村  均  それでも やはり 50      木塚 康成  秋 52
木村 恭子  草 54             木村大刀子  やさしい朝 56
熊谷 本郷  傷の痛み 58          児桜  栄  秋の一日 60
榊原 泰則  箱の中の音 62         坂村 廣嗣  戦争責任 64
咲 まりあ  りんご 66           重森 由枝  幸せの量、不幸せの量 出番です 68
末田 重幸  かけめぐるもの  70      高垣 憲正  蛙 72
橘 しのぶ  道行 74            津田てるお  わが古時計 76
仲尾  修  無言の会話(義弟を想ううた)78
. 長津功三良  廃屋 80
野上 悦生  箸を遠う持つ子 83       長畑 智子  偽物の世界 86
ながはらけい 不眠クラブ 88         長光 祐三  グラウンド・ゼロ 90
西本 雅子  足摺岬 92           橋本 果枝  借景 94
花本 圭司  人生の虚構 96         東  豊子  白い訪問者 98
平本 智弘  相生橋を渡る車窓に 100
.    福谷 昭二  立ったまま焼かれて−古寺炎上− 一九七七年九月三日夜の記憶から 102
ふくばまつこ 戦後物語 104
.         前原 英隆  街よグッドバイ 107
藤川 元昭  お前に 縄文の籾 110
.     藤川 和子  植物公園 114
星野 歌子  サーカス 116
.         前原江美子  迷演 118
万亀 佳子  遠い 120
.           牧野 尚子  ああ、うん。 122
正本 忠臣  公衆電話 124
.         水嶋 佑子  あの子が帰らない 127
松井 博文  秋の空 130
.          松尾 静明  靴 132
御庄 博実  杏の花 134
.          三宅千代子  長い歳月 136
目次ゆきこ  手帳 138
.           山内 久子  忘れ得ぬ高校生 140
山口美沙子  レモンの香が 142
.       山本沙稚子  美津 144
吉岡 靖子  屋上から 146
.         吉田  敬  ムーラン・ド・ラ・ギャレット 148
吉田 隶平  秋の日の紅柄の里で 150
.    桜 まさこ  報告 152
執筆者名簿 154
広島県現代詩年表 158
あとがき 163
.                装丁 河野勝重




 
一歩間違えば/大山真善美

ガスが止まったら結婚しよう
愛と協力と理解のためにではなくていい
固定給が入ってくる誰かととりあえず

ポットの電源を抜いた場合再沸騰するのにかかる電気代
と 一回ごとに沸かすガス代と どちらがコストがかか
るのか 悩んでいる間に 出がらしのティーパックがカ
チカチになった 部屋が寒すぎて

バス代を倹約するために バス停三つ分を歩いた 路上
にたたずむ長い影 白い息は上フックにかすめ取られ
黒い影はタイヤに踏みしだかれた
潰そうと思って 会社を創った人はいない 人の道だけ
は踏み外しちゃいけない 代表取締役 一歩間違えば
取り締まられる

カーナビの囁き「お疲れ様でした」が聞きたくて 目的
地を何度か設定する 人工的でもいい 人の声が聞きた
い 海上に設定してしまっている いつのまにか
潰そうと思って会社を創った人はいない この国の自殺
者は年間三万数千人 人のあたたかさだけじゃ救えない
こともある
一歩間違えば 仲間入りだ

まだ家がある 屋根がある フトンがある 水は豊富
世界中の人類の半数よりは恵まれている ドライブス
ルーでは買える物がなくてスルーしたけれど 熱帯の奥
地にはドライブスルーすらないのだ 死のうと思って生
まれてきた人はいない 人として生まれて来ただけであ
りがたい奇跡 諦めてしまわなければ明日は来る
一歩でも百歩でも間違っても 生きる

 〈一歩間違えば〉〈代表取締役〉ではなく〈取り締まられ〉役。〈一歩間違えば〉〈年間三万数千人〉の〈この国の自殺者〉の〈仲間入り〉。たしかにそういう危うい所を私たちは歩いているように思います。しかし、〈人の道だけは踏み外しちゃいけない〉し、〈一歩でも百歩でも間違っても 生きる〉姿勢が必要なんでしょう。現代に生きる私たちへの応援歌として読みました。




月刊詩誌『柵』282号
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2010.5.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 詩的感動と詩の評価 −周郷博『母と子の詩集』−…中村不二夫 74
戦後史の言語空間 続・(5)「暗い絵」…森 徳治 78
流動する今日の世界の中で日本の詩とは 63 「はんなりと」−京女の心意気 京都の現代女流詩人たち…水崎野里子 82
風見鶏 佐藤孝 諫川正臣 浜口 拓 佐山 啓 今村有成 86
現代情況論ノート 51 犬を食う人々…石原 武 88

小城江壮智 食べ過ぎました 4         肌勢とみ子 穴 6
南  邦和 ジャンバルジャン 8        水木 萌子 残雪 10
中原 道夫 習慣 12              小沢 千恵 タクシー 14
山崎  森 飢えの漂泊 16           松田 悦子 ぬけない風 18
進  一男 ある男 20             名古きよえ ある日バスの中で 22
佐藤 勝太 独居老人訪問 24          黒田 えみ 路上芸術家とわたし 26
柳原 省三 自分で死ぬ人 28          北村 愛子 りんごの果汁 30
織田美沙子 言葉は耀きを放って 32       安森ソノ子 ブラームスのオペラへの持論 35
郡山  直 未だ会っていないギリシャの友人 38 江良亜来子 行進 40
小野  肇 のすたるじあ 42          月谷小夜子 掃除 44
中林 経城 鉱脈 46              西森美智子 月夜は蒼く 48
北野 明治 天国と地獄考 50          米元久美子 桜並木 52
八幡 堅造 亡き母の喪中の葉書 54       川端 律子 分かれ道 56
鈴木 一成 なきひとしのび 58         長谷川昭子 海の向こうの 60
門林 岩雄 魔法 馬の国 62          秋本カズ子 綿の花 64
若狭 雅裕 六月の海辺 66           今泉 協子 ポプラの並木 68
前田 孝一 日本よどこへゆく 激突 70     野老比左子 言葉のあいさつ 72

世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想48 『スオミの詩』より フィンランド女流詩人の感性を味わう…小川聖子 90
現代アメリカ韓国系詩人の詩(13) ハン河 キュン・チューン・ウン…水崎野里子 94
戦後詩誌の系譜・補充 昭和31年〜34年 帯広「風信」・西宮「熱帯魚」・高知「漕役囚」・東京「大井詩人」等…志賀英夫 98
映画逍遥(5) ルイス・ブニュエルの『哀しみのトリスターナ』…三木英治 96
「柵」の本棚 三冊の詩集評…中原道夫 106
 塩田禎子詩集『柳架舞う川のほとり』106 閤田真太郎詩集『十三番目の男』107 徳沢愛子詩集『加賀友禅流し』109
受贈図書 113  受贈詩誌 105  柵通信 111  身辺雑記 114
表紙絵 野口晋/扉絵 申錫弼/カット 中島由夫・野口晋・申錫弼




 
りんごの果汁/北村愛子

つややかなりんごを皮ごと
パキッとかじると
みずみずしい汁が口中にひろがる
のどもとをながれくだる果汁は
いのちの樹液

パーキンソン病の母には
もうまるごとかじる力はない
入歯でもぐもぐとかむには
うすくうすく切ってやらねばならぬ

口の中の粘膜は乾き
こわばるので
すりおろしてとろみをつけて
のみこむことができるように
してやらねばならぬ

年をとるということは
そういうことなのだ

今日わたしは
りんごをまるごと
かぶりつくことのできる
しあわせについて考えた

 〈年をとるということは/そういうことなのだ〉というフレーズの重みを感じる作品です。〈りんごをまるごと/かぶりつくことのできる/しあわせ〉というのが、あんがい一番の幸せなのかもしれません。短い詩ですが、本質をズバリと突いた佳品だと思いました。




詩誌Messier35号
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2010.5.22 兵庫県西宮市 香山雅代氏発行
非売品

<目次>
    米沢・紅の雫 香山雅代 2           一対の石 佐伯圭子 4
        古都 内藤恵子 6          詩人M.に 佐伯圭子 10
       ひかり 内藤恵子 12             遡上 香山雅代 16
星間磁場
   私論・蜘昧の糸 大賀二郎 18      詩を詩らしく見せる
  タナトスを抱いて 佐伯圭子 21      一般的外形について 河井 洋 19
「面」(おもて)と詩心 香山雅代 22




 
遡上/香山雅代

河口から どれほどの流れを
 遡ったであろう
上流へ 急流へと
鮭の 産卵に 倣って
青褪めた背と 銀白にひかる腹
希望と 絶望を
 綯い交ぜにした いのちを みつめる

にんげんの 一生を賭けている
青褪めた皮に 包まれ 錠をおとされて
葩の脆さを 証しするほどの 紙反古と
霓裳羽衣を 閉じ込めた 鍵ひとつ
明るく 捨て置かれた トランク
 −かたく閉ざされ天狼
(シリウス)の歯もたたぬまま

上流の砂のなか
朽ち果てるばかりに
だが 悠久の
土に
水に
同化してゆくほどに 理由
(わけ)もなく透きとおる
区切られた器物の内側には 温
(ぬく)もりと
 夢の穂が

清水に揺れる 静かな旋律
歳月の重みに 反比例して
波のまにまに キープサイレンス
かるく
儚く

 難しい詩ですが、能の舞台を考えればよさそうです。第2連の漢字も難しいですね。ネットで調べると〈葩〉はハナと読むようで、花と同意味のようです。〈霓裳羽衣〉はゲイショウウイと読み、
薄絹などで作った、女性の美しくて軽やかな衣装のことだそうです。要は天の羽衣の羽衣と同じでしょう。この名を冠した霓裳羽衣の曲というものがあるそうで、唐の玄宗が楊貴妃のために作ったとされる曲だそうです。幽玄の世界を垣間見せる作品だと思いました。






   
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