きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.24(月)


 久しぶりに日本映画の「トリック」を観てきました。霊能力者バトルロイヤルと副題があり、まあ、バカバカしいと言えばバカバカしい映画です。仲間由紀恵と阿部寛の好演が良かったかな。TVでもやっていたようですね。TVはニュース以外ほとんど見ないので、遅れ馳せながら世間で話題のものを劇場版で観たという次第です。おもしろいにはおもしろかったですけどね。




紫圭子氏詩集『閾、奥三河の花祭』
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2010.4.30 東京都新宿区 思潮社刊 2400円+税

<目次>
T 花(神楽
花祭 8       お玉 10       舞踏・うた 16
鬼ひめ 20      みるめ 24      夢境 32
榊鬼 38       鎮め 42       舞い習い 48
椿 54
U 風(鎮魂
鎮魂歌 60      翠雲 62       発つ 66
閾 70        はちかずき、と、かげ、のすきまに緑萌え 74
塩 78        塩の声 82      種子 90
あとがき 94
写真=新田義人、装幀=思潮社装幀室




 
花祭

ここでは   
みずのうさま
水を王と呼び (水王様
ここでは   
ひのうさま
火を王と呼び (火王様
からだをめぐる血を花と呼んだ
五穀の花だ
水と火のめぐりは花のめぐり
つなぎあえば流れる姿
テーホヘ!
天龍川の腹      
ふりくさ    おおにゆう
に すっぽりつつまれた振草川 大入川

天に昇れば
湧き立つ雲の龍
地に降れば
雨 霰 雪
ひとしずく
かさなりあえば川から海へ
かさなりあえば空がひろがる
雲間から射すひとすじの陽光にのって
鬼に化身した神が降りてくる
テーホヘ! テホヘ!

 珍しい、タイトル通りの〈奥三河の花祭〉を主体とした詩集です。ここでは巻頭の作品を紹介してみましたが、あとがきにこの祭と出版の意図が書かれていましたので、それも紹介しておきます。

〈私は花祭の里、愛知県奥三河への入り口に当たる豊川市に住んでいる。北設楽郡
(きたしたらぐん)東栄町(とうえいちよう)、豊根村(とよねむら)、設楽町(したらちよう)では、毎年十一月の終わり頃から各地域で三月初めまで夜を徹して舞う花祭が行われる。花神楽とも呼ぶ花祭は舞いと神事が中心である。修験者が伝えた湯立神楽。五穀豊穣を神に祈願して歌舞を舞い、一力花の立願奉納、悪魔祓いの神事も行う。深夜、神が化身した山見鬼、榊鬼がへんべ(反閇)を踏むとテーホヘ!の大合唱となる。榊鬼はへんべを踏んで祭りを寿ぐ。朝、茂吉鬼が祝福に現れ、鎮めの花太夫が神々を御座にかえすと、一切は清められて祭りは終わる。
 新城市出身の民俗学者早川孝太郎が昭和五年四月、渋沢敬三の援助で岡書院より大著『花祭』三百部を刊行してから今春で八十年目を迎える。早川孝太郎と同郷の奥三河書房主の勧めもあって書きつづけた花祭の作品である。この詩集は私のなかの女人花祭でもある。〉

 〈水と火のめぐりは花のめぐり〉という勇壮な中にも華麗さを感じさせる祭を、見事に言葉で表現した作品だと思います。




季刊詩誌『タルタ』13号
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2010.5.30 埼玉県坂戸市
タルタの会・千木貢氏発行 非売品

<目次>
峰岸了子  森が動いた 2         寺田美由紀  新人達 6
伊藤眞理子 ほおずき市 9         米川 征   青天 12
田中裕子  きらり 14           柳生じゅん子 しゃぼん玉 16
千木 貢  高麗川のカメラマンたち 18
 *
現代詩のいま 米川 征 言葉/表象 20
 *
田中裕子   泉水 28           峰岸了子   すきすき きすすき 30
伊藤眞理子  帰還−昭和の聞き書− 32   寺田美由紀  後悔 35
柳生じゅん子 眠りの庭で 38
 *
詩論 千木 貢 詩の方法(1) 41




 
ほおずき市/伊藤眞理子

どこにも抜け道はあるらしい
この日 浅草寺に詣で ほおずきを買うと
百二十年ぶんのお詣りをしたことになると
江戸から続くほおずき市
ねじり鉢巻の いなせな若者たちが
みごとに育てた鉢に
江戸風鈴のおまけをつけて売っている

田舎の春
庭の片隅に芽を出し
秋の気配に 朱色の実をつけた
女の子たちは
気長に種を抜いて 口に含み 鳴らした
毎年 少しずつ上手になった
おとなたちは
彼岸の墓参りの花に添えた

おとなに付いて市場に行くと
行きつけの魚屋のおばさんが
大きくなったねとか
おりこうさんねとかいって
海ほおずきをちぎっておまけしてくれた

山の子も憶えていて
行商の魚屋さんに貰ったという
夏まつりには
赤く染めた海ほおずきが売られていた

子どもたちも その母親たちも
海ほおずきは知らないという
ゴムでできていると思っていた海ほおずき
浅草のほおずきも
鳴らすことはないという
ほろ苦い果汁をすすることもないらしい
廃れていく子どもの玩具のひとつ

巻き貝たちは卵を産みつけているか
棲み家が埋めたてられてしまって
アカニシもテングニシも
めっきり数が少なくなつたのか
魚屋で見ることもない
海ほおずきの市はないのだろうか

 私は男ですので経験はないんですが、たしかに〈女の子たちは/気長に種を抜いて 口に含み 鳴らし〉ていましたね。〈毎年 少しずつ上手になった〉というフレーズには、徐々に成長していく女の子たちの様子がよく出ていると思います。しかし、そんな〈海ほおずき〉も、いまでは〈子どもたちも その母親たちも〉〈知らない〉のですね。〈廃れていく子どもの玩具のひとつ〉にすぎませんが、文化とは何かを考えさせられた作品です。




詩誌『息のダンス』9号
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2010.5.31 滋賀県大津市 山本純子氏発行
非売品

<目次>
■詩
花 2        月 6        星 10
一年 12       大徳寺あたり 14
■歌詞
桜川 16
海を遠く 京都市立京都堀川音楽高等学校校歌 20
■エッセイ
桜川について 24
あとがき 28




 
大徳寺あたり

青年僧たちは
縦一列になって歩く

中の一人が
ふいにしゃがんで
わらじの紐を結び直すと
そのまま
縦一列になって待つ

教会の門のわき
掲示板には
日ごとの神の教えが
ひとこと筆で書かれていて

青年僧たちは
掲示板へさしかかると
そのまま横一列になって
神の教えを読む

しばらく
さらにしばらく読むと
一礼したのち
縦一列になって歩く

 〈青年僧たち〉が〈縦一列になっ〉たり、〈横一列になっ〉たりするのがおもしろい作品ですけど、最終連が佳いですね。仏教の青年僧が〈教会〉の〈神の教えを読む〉ことに特に違和感はありませんが、〈一礼した〉ところに彼らの高い精神性を感じます。他宗教に対しても敬意を持つ彼ら、それを見ている作中人物。人間への信頼が底流に流れていることを感じさせる作品です。






   
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