きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.26(水)


  その2




アンソロジー『山梨の詩』2009
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2010.3.30 山梨県南アルプス市      500円+税
こまつかん氏方・山梨県詩人会事務局 古屋久昭氏発行1

<目次>
『山梨の詩2009』発刊に当たって 古屋久昭…1
会員の詩
春の宵 秋山捨雄…6            わたしたちはカジン あさいまさえ…8
時空・幸せの途に 穴水公一…10       秋T・秋U 荒井初枝…12
ものさし 安藤一宏…14           語る 18 私の昭和の日 抄 いいだかずひこ…16
がラスの割れた腕時計 井上 隆…18     生活の中で 井関真由美…20
さくら 遠藤静江…22            朝 長田好輝…24
孤に帰る 小沢邦子…26           輝き 小沢啓子…28
高嶺颪 小野 卓…30            ヴィッキー(T)・ヴィッキー(U) 小俣みよ子…32
儀式・紛失 柿沼美智子…34         バッハのフーガを聴く 笠井忠文…36
小春日和 数野徳子…38           葡萄・田んぼ 椚原好子…40
夏の思い出 久保田輝子…42         ほほえみの かくれんぼ 〜九から十一まで〜 こまつか ん…44
風姿投影 桜井 節…46           金もくせい 澤フジ子…48
命日 志村 宗…50             由来・つづく せきぐちさちえ…52
再会 竹居正穂…54             処暑の朝 竹原国子…56
今年も元気 内藤 進…58          かおり 中川和江…60
朝食 濃野初美…62             たった今、の 昨日のこと −MOMOに捧げる− 花里鬼童…64
ポリバケツのある風景 ひろせ俊子…66    落下傘・ケータイ予測変換 古屋淳一…68
たおれる風景 古屋久昭…70         殺戮 前島正吾…72
色即是空 −喜寿に まき の のぶ…74   柿鈴 三井美代子…76
多羅葉 宮川逸雄…78            帰還 目黒容子…80
夏さくら 横打みえ子…82          いまは遠き瞼の古里 わたなべ政之助…84
賛助会員作品
<エッセイ> 葱 林 立人…88        <エッセイ> 太宰治がいた御崎町 安永圭子…90
夏のあとがき 岡島弘子…92         独り道・水の風鈴 佐野千穂子…94
背教者ミゲルの墓 中川 敏…96       人々の光陰 中村吾郎…98
別所沼 向田若子…100
.           彼岸花 安永圭子…102
平成21年 山梨県詩人会名簿…105
編集後記…106               (表紙 いいだかずひこ)




 
たおれる風景/古屋久昭

画面の中では
チャンバラをしていて
バッタバッタとサムライが
切りたおされる
血がふきだし
目がつりあがり
腕がふっとび

ヒーローはひとりで
その他のサムライは多数で
会議ではないから
多数が有利ということもない
多数はひとりのために
ひとりは多数のために
たたかっているのだ
家族もわすれ
人生もわすれ
命もわすれ

切りたおされた
あの多数の中のひとりが
もしもおれだったら
たとえば
ふらふらしながら
よろめき
うつろな目をし
ついに絶命した男が
おれだったら

オレノジンセイハ イッタイナニ
イカサレテイルコトヘノカンシャハ イッタイナンダッタ
ケンコウノカラダハ ドウイウイミ
ツマヤコニアイサレテイルジジツハ ドウナル
マエムキ ユウキ ジシン ホコリ キボウ ユメ
キリタオサレタトキ コレラハイッタイドコヘ

時代は変わる
サムライは兵士となり
大挙して海をこえていき
そこで
撃たれ
砲弾を浴び
あるいは病に冒され
あるいは餓えて

ひとは木の一本のようにたおれる
それから
腐爛し 果てる
「名誉の死」が
あわてて
果てたものを追う

 この詩は非常に大事なことを謂っているように思います。私たちは〈チャンバラをしていて/バッタバッタとサムライが/切りたおされる〉ことに、特に違和感は覚えないでしょう。それは大昔のことであり、いま生きている私たちに関係がないことで、冷静に見ることができるからだと思います。しかし、作者は〈切りたおされた/あの多数の中のひとりが/もしもおれだったら〉と想像します。〈マエムキ ユウキ ジシン ホコリ キボウ ユメ/キリタオサレタトキ コレラハイッタイドコヘ〉行くのかと考えます。この、想像して考えるという行為の重要性を謂っているように思うのです。
 私たちはいつも〈ヒーロー〉に感情移入して、〈ついに絶命した男が/おれだったら〉とは考えません。しかし、〈サムライは兵士となり/大挙して海をこえてい〉ったのです。そして〈撃たれ/砲弾を浴び〉たのです。決して〈ヒーロー〉ではなかったから、〈「名誉の死」が/あわてて/果てたものを追〉ったのでした。考えされられた作品です。




詩誌『花』48号
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2010.5.31 東京都中野区
菊田氏方・花社発行 700円

<目次>

転生水馬 田村雅之 6           癒しの舟に さき登紀子 7
ぼこぼこへ行きたい 他一編 中島 登 8  離さないで −亡き母のためのピアノ独奏
(ソロ) 下川敏明 10
沈む町 峯尾博子 11            本日閉店 沢村俊輔 12
方寸空間の幻想 −蟻と女− 平野光子 13  おとのないこえ 清水弘子 14
青空 他一篇 吉田隶平 15         深山りんどう 呉 美代 16
ら 宮崎 亨 17              森 秋元 炯 18
鯉と花火と 林 壌 20
評論
私の好きな詩人(12)宮沢賢治の作品と私の周辺 篠崎道子 22
私の好きな詩人(13)−永瀬清子 和田文雄 26

名残の風鈴 鈴切幸子 30          声 岡田喜代子 31
骨蓬の花 高田太郎 32           アボカドの種 他一編 川上美智 33
スクラップ 篠崎道子 34          開花 佐々木登美子 36
ながいながあい影が 原田暎子 37      春、砂ぼこり 和田文雄 38
ひかげを歩く 坂東寿子 39         素白の梅 北野一子 40
顔顔諤諤
(ガンガンガクガク) 菅沼一夫 41.    花時計 塚田秀美 42
短章二題 石井藤雄 43           積年 中村吾郎 44
霜の朝 都築紀子 45            さまよふ夕日 天路悠一郎 46
つながって 青木美保子 48         水仙 湯村倭文子 49
エッセイ
この一篇(8)「みち」−自作・自註 神山暁美 50
この一篇(9)「わたしのめぐり」−自作・自註 清水弘子 52
宿遺のことなど 柏木義雄 54
詩の川の辺り(7) 山村暮鳥 −ことばの響きと自然観照 菊田 守 56
落穂拾い(13) 高田太郎 57

ばあさんの家出 神山暁美 58        骨 酒井佳子 59
もう一枚のチケット 山嵜庸子 60      春のあいさつ −骨考X 鷹取美保子 62
山茶花 水木 澪 64            黄色い空 甲斐知寿子 65
饅頭イヨイヨ怖イ 狩野敏也 66       八月の食卓・わが願い 他一編 柏木義雄 68
蛇口の海 宮沢 肇 70           飽食 山田隆昭 72
あるとき 丸山勝久 73           身から出た回虫 −昭和二十二年夏 他一編 菊田 守 74
書評
ほのあかるい宇宙の一隅で 清水弘子詩集『しらゆきひめと古代魚ゴンドウ』の世界 山田隆昭 76
「花」平成二十二年一月同人会報告 沢村俊輔 78
花窓 79
掲示板 81                 同人会名簿 82
「花」後記 表4               題字 遠藤香葉




 
小さな手にも/吉田隶平

波の寄せる砂浜で
砂のお城を作って遊んでいたとき
お前は急に出来上がったお城を壊し
一握りの砂を空に向って投げた
砂は風に乗って私の頭にも降った
お前は不思議そうに自分の手をみつめる
わたしは不意に涙が流れた
傍で見ていたお前のママは
お前のことを叱った
わたしの目に砂が入ったと思ったのだ
だが眼に砂が入ったのではない
お前の希望のようなその手にも
理由のない怒りが
隠されていると思ったとき
可哀想でならなかったのだ

 〈小さな〉子どもたちが〈砂のお城を作って遊んで〉、〈急に出来上がったお城を壊〉すことはよくある光景ですが、作者はそれを〈理由のない怒りが/隠されている〉からだと見ています。我が身を振り返っても、これはよく判りますね。作者はさらに〈可哀想でならなかった〉と結びますが、これから人生を始める〈希望のようなその手にも〉、すでに怒りがあるわけで、人間の根源的な業を感じさせます。短い作品ですけれど、人間を根本から見ている佳品だと思いました。




詩誌『詩創』23号
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2010.5.31 鹿児島県指宿市      350円
鹿児島詩人会議・宇宿一成氏編集 茂山忠茂氏発行

<目次>
巻頭詩
1 徳重 敏寛  無心の者の声
詩作品
3 桐木平十詩子 昭和の時代/病院の一室で
8 岩元 昭雄  リムジンガンを訪ねる
10 米田 雄二  冬日/雨宵/初雪
13 田中 秀人  窓枠の女/どうぞ倚りかかって
17 植田 文隆  エース/携帯を持つこと
21 松元 三千男 失われない文明
23 岩元 しげる 母の日に/地球温暖化に一言/剣難 女難の相
28 おぎ ぜんた 黒人の唄2/亡命する存在の呟き
32 雪見 渓   赤ちゃん
33 妹背 たかし 生きる
38 野村 昭也  鵜の網代/東から西へ
42 松枝 徹   音の詩/故郷/初夏の季節
48 茂山 忠茂  母/竹槍
52 園田 賓則  よもぎ餅に泣く/夢を見た
54 江本 洋   小詩集 絶望の中から 詩11篇 …
62 徳重 敏寛  紫陽花/今日は/謙遜/木々の間を
66 宇宿 一成  落下/今になって
エッセイ
68 金蔵 拓郎  思うこと・感じること
74 宇宿 悠   世界で一番大切な人
詩集評・詩誌評
74 培養室    桐木平十詩子/宇宿一成
詩創21号読後感
84 岩元しげる  桐木平十詩子さんの湯上りの身体を、見る
84 野村昭也   蛮勇を鼓して
88 おたよりから
94 後記
95 受贈詩集・詩誌
96 第38回 壺井繁治賞 受賞記念 宇宿一成詩集「固い薔薇」(土曜美術社出版販売)から




 
昭和の時代/桐木平十詩子

息子の中学の入学式で
着物を着ていた私に女子中学生が言った
「わあ着物だ、昭和の時代みたぁい」
着物は古来以来続く日本の民族衣装だ
なんなんだ、その昭和の時代というのは

そういえば息子も言うのだ
少し古いものがテレビにでたり
私がこどもの頃の話をすると
「それ、昭和の時代でしょ? 今とは違うし」って
なんなんだ、その切って捨てるような言い方は

昭和の時代展とか、当時のノスタルジィを売りにした映画が
変にうけるのは何故だろう
その頃も今と変わらず
日は昇り日は沈み
あなたたちのような若者は夢を見て
赤ん坊は笑い
人は集い
いがみ合ったり
愛し合ったり別れたりして
時を繋いで今がある
便乗する言い方はしたくないが
昭和の時代の思いを 私は今も胸に抱えて生きている
昭和も平成も変わらず生きているというのに

年号が変わると一括りにされる
息づいていた時代の生気を抜くようにガラスケースに入れられ
置物のように掲げられるのか
今とは別の なかったもののように

そこまで思って気がついた
私が息子のようだった頃
明治、大正、昭和と記号のように考えていなかったかってね
お年寄りの言うことに耳を傾けることなく
経済成長の波にのって
確かにあった戦争の話も
「ださあい」
「それ昔の話でしょ」って
切り捨ててきたんじゃないかって
息子たちに文句を言えた義理じゃないね

切り捨てたからって無くなる訳じゃない
今の沖縄の基地問題はまさしくそれだ

ケースに入らなかった(入れられなかった)時代が
時を越えて 海を越えて
私達に決断を迫るのだ
息子よ
昭和の時代の人と共に
貴方と同じ高校生がマイクの前で思いを語る

貴方はどう思いますか、と
鋭い視線を私に送る

私たちは戦争は知りませんが ここで暮らしてきました
また切り捨てるのですか? と
若い瞳が問うている

 〈年号が変わると一括りに〉してきた私たちが、いまは逆にされるようになりました。たしかに〈明治、大正、昭和と記号のように考えてい〉て、〈お年寄りの言うことに耳を傾けることなく〉、〈切り捨ててきたん〉だと思います。しかし、〈昭和の時代の人と共に/貴方と同じ高校生がマイクの前で思いを語る〉沖縄の人もいるんですね。そこに視線を向ける作者に、詩人の良心を感じます。〈また切り捨てるのですか?〉という問に答えられるか、それこそが〈昭和の時代〉を生きてきた私たちの考えなければならないことだと思いました。






   
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