きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.28(金)


  その1

 数日前に静岡県内の友人からメールがあって、少し話しができないかと言われていました。本当は夕食でもご一緒して、したたかに呑みたかったのですが、そんな時間がなくて、今日は昼食を供にしました。東名往復ですから、当然お酒は呑めません。でも、小奇麗な料亭を予約していてくれ、昼食を奢ってもらいました。話をしたのは2時間ほどですが、しばらく会っていませんでしたから、かなり濃密な時間だったろうと思います。私の忙しさなどタカが知れてますけど、本当に忙しい人は、こうやって昼食会なども持っているんだろうなと想像しましたね。




黒田えみ氏詩画集『小さな庭で』
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2010.6.18 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税

<目次>
T章 小さな庭で
小さな庭で 10     季節はずれの楽曲 14  晴れた日に 16
みそぎ 18       足音 20        ともだち 22
カラスのおしゃべり 26 暦 30         かくれおに 32
U章 池のほとりで
池のほとりで 36    縄文の人 40      桃の木 44
樹間 48        栗の木 50       微笑の木 52
杉から届く便り 54   巡る歴史 58      大地の語り 60
V章 雲の声
雲の声 64
想 66         目をとじて 68     いまはねむっているけれど 70
ドアをあける 72    たましずめ 74     山上の祭礼 76
光の波間に 78     惑星の囚人 80     四十六億年の星へ 84
のぼる 88
W章 朗読詩三篇
星のかけらのラブソング 92           宇宙の舞 98
ここは地球 110
あとがき 124
.     略歴 126




 
杉から届く便り

花粉を飛ばして
あの子たちをさがしています

お山の杉の子は――と歌いながら
種を蒔いた子
苗を植えた子
歌は国中にひびきました

鉄は戦争に使います
金属の代わりに銃後では杉の木を使います
戦争に勝つために がんばれ少国民
がんばれ杉の子

戦争は負けました
木の家は焼けました
大事なものを失いました 大切な人や 物を
空襲の焼け跡には杉を植えましょう

杉は家になる
机になる
箸になる
鉛筆になる
子どもたちは歌いながら植林を手伝いました
早く大きくなれ杉の子

杉は育ちました
樹木は歴史を書きかえたり忘れたりしません
真っ直ぐ伸びた幹の年輪に記録をきざんでいます

植えてくれてありがとう
育ててくれてありがとう
ほら 花粉をこんなに沢山作るようになりました
できるかぎり遠くまでとばしています
役に立ちたいのです

 著者にとっては初めてとなる詩画集です。各詩に著者自身による絵が添えられていました。紹介した詩は花粉症の人には辛い作品かもしれませんが、戦後、〈空襲の焼け跡には杉を植えましょう〉と〈子どもたちは歌いながら植林を手伝〉った事実を伝えるものです。杉だらけになって花粉症が問題になっているのですが、それは人間の都合、杉に罪はないのです。杉は〈歴史を書きかえたり忘れたりしません/真っ直ぐ伸びた幹の年輪に記録をきざんでい〉るのです。そのことを改めて思い出させてくれた作品です。




詩誌『へにあすま』38号
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2010.3.20 茨城県つくば市
高山利三郎氏方・へにあすまの会発行 300円

<目次>
かげろう/青木ミドリ 2          恋物語/大羽 節 4
時の形相/小林 稔 6           星空へ/柏木勇一 8
牛と轍/高山利三郎 10
あとがき 12




 
かげろう/青木ミドリ

雨の中 歩いていると お隣が後ろから追いついて
「長引きますね」
と声をかけ そのまま追い抜いていった

梅雨明けと聞いていたが その翌日から降り続いた
たまに止んでも曇り空で 蒸し暑い
ひとり暮らしの気楽さ 足は蕎麦屋へ向いている

この町では 男の姿 もうしばらくは ここにいようと
小さな平屋に仮住まい
時折 わずかな庭の手入れもするから
ほどほどに 顔は知られているようだ

台所の床下で 人知れず 芽吹かせているものがある
湿り気を好むので 今がいちばん良い
夜中に 床板をはずして そっとのぞくと
一面 青い産毛が 出揃っている
困るのは この匂い たまらぬ香りなのだけれど
人を 引き寄せるらしい
香をたいたり 芳香剤を置いたり
ごまかしてはいるけれど 先日も 背中合わせの家から
人の気配を感じたし お向かいの奥さん
右のお隣 左のお隣 視線を感じない日はない

これだけ雨が続くなら 匂いもまぎれる
傘を上げると 家々は 淡い水けむりに もやっていた
長い間 ひっそりと息をひそめてきたが 役目も
終わりに近づいた

蕎麦を食べて 家に帰る 引き戸の脇に
うすみどりの羽を寄せて かげろうが止まっていた
そっと 手に取り 草の陰に置く

しばらくして 訪ねてきた さきはどのお隣
うすら笑いを浮かべて
「わかっているんですよ、おたく 誰だか」
差し出した手のひらに かげろうが死んでいた

 〈男の姿〉で〈小さな平屋に仮住まい〉している作中人物は何者か。興味が湧くところですが、最終連を見ると〈かげろう〉のようです。かげろうの化身譚とでも呼びましょうか、なにやら中世の物語の現代版のようです。ここから先は読者が自由に想像してよいのでしょう。かげろうを世捨て人と採ってもよいし、か弱い女性と採ってもよいでしょう。現代詩が忘れてきた世界を垣間見せている作品だと思いました。




季刊詩誌GAIA32号
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2010.6.1 大阪府豊中市
上杉輝子氏方・ガイア発行所 500円

<目次>
神戸 海野清司郎 4            四万十川への小さな旅3 沈下橋 水谷なりこ 6
薬 上杉輝子 8
再誕(リ・ボーン) 猫西一也 10       地下鉄の客 熊畑 学 12
雨 竹添敦子 14              フラミンゴ 横田英子 16
そりが合わない 国広博子 18        弱い自分 前田かつみ 20
最後の住
()み処() 前田かつみ 21     繋がろうとして 平野裕子 22
部屋のすみから 立川喜実子 24       千年ツバキ 春になると 五穀豊穣を祈る椿の神様 小沼さよ子 26
花冷え 中西 衛 28            中枢神経とおんなのはなし 中西 衛 29
同人住所録 30
後記 中西 衛 31




 
地下鉄の客/熊畑 学

うっかり
私は優先座席の前に立った
三月のある日の午後の地下鉄
座席の二人連れの一方
17才ぐらいの娘さんが
すっと席を立って
「どうぞ」

しまった
これまでついぞなかったことだから
どぎまぎ
とうとう私も年寄り扱い
白馬八方
吹雪のゲレンデを滑降した脚力が
心の中で悲しくうつむいている

ありがとう
思いやりの笑顔に応えさせてもらった
日頃往復四キロの道を速歩で
体力の維持に努めている
夏の日の午後二時は汗だくで

足腰に自信がある74才
その六日後再びの地下鉄
今度は意識して一般席の前に立つ
とたんに「どうぞ」
青年が席を立った
やっぱり年は年ですか

「ありがとう」でもひと駅ですからと
断って
はた目にどう映っても
心の中は跳ねてます

 この詩は大阪でのことと思いますが、〈17才ぐらいの娘さん〉や〈青年〉のような人が東京でも少しずつ増えているように感じます。以前は若者の無謀を嘆いた詩が多かったように記憶していますけど、こういう詩はホッとしますね。最終連の〈はた目にどう映っても/心の中は跳ねてます〉というフレーズがよく効いていると思いました。






   
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