きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
100409.JPG
2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.28(金)


  その2




秋山泰則氏詩集『泣き坂』
nakizaka.JPG
2010.6.24 東京都板橋区 コールサック社刊
2000円+税

<目次>
T 水のように
水のように 12     白い炎 16       バミルと言った人 18
口ごもる人 22     沈黙する人 24     ふるい柵 28
金色の人 32      雨の日 36       旗竿 38
カマイタチ 40     歌曲 42        いま死に給う母 44
泣かすなかれ 46
U 泣き坂
泣き坂 50       伝言 52        米をつくる人 54
雨がふる 56      狂乱 58        木の柵 60
消滅 62        脱国 64        火の前で 66
もしも先に死んだなら 70
V 花器
失われるもの 74    百キロ爆弾のそばで 76 暁に祈る 82
ひめゆりの塔 84    高雄の空 88      花器 92
W 石仏
石仏 96        家を抱く 98      ペレット 100
祭り 102
.       暦 104.        どこにもない幸福な所 106
誕生 108
.       竹林 110.       歌集 112

解説 「働哭」の通奏低音 小澤幹雄 116
あとがき 122
略歴  126




 
泣き坂

熊倉の渡し場跡あたりから対岸の泣き坂を通る鉄道線路
をみると かつてそこを蒸気機関車が 身をよじるよう
にして登っていったという傾斜がよくわかる
その坂を汽車が下るとき 坂の中ほどで大きく切迫した
汽笛と 甲高い制動音がひびき汽車が止まる時がある
すると 周辺の村々は粛然としたものにつつまれ 泣き
坂一帯は祭壇となり乗客も村人も祭司となった

ながい戦乱は終息したが 人々は 混乱の中で激しく競
い ここでも新たに敗れる者をつくりだしていた
不規則に汽笛が鳴る 汽車が止まる あたりに静寂がし
みていく けっして慣れることのできない静けさがひろ
がる

 3年ぶりの第3詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみましたが、この詩に関連したことを「あとがき」でお書きになっていますので、それも紹介しておきます。

 〈表紙絵を快く承知して下さった宮浦真之助先生は私の師で、版画で日展の特選となられた方です。「泣き坂」に立つと、足元に梓川と奈良井川の合流点があり、安曇野を中景として北アルプスの常念岳が正面に見えます。この絵と同じ風景です。ありがとうございました。〉

 作品としては〈泣き/坂一帯は祭壇となり乗客も村人も祭司となった〉という霊的なフレーズ、〈ここでも新たに敗れる者をつくりだしていた〉という現実凝視の姿勢に惹かれました。
 なお、本詩集中の
「石仏」はすでに拙HPで紹介しています。初出から改行位置などの改訂がありますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて秋山泰則詩の世界をお愉しみください。




詩誌『撃竹』73号
gekichiku 73.JPG
2010.4.30 岐阜県養老郡養老町
冨長覚梁氏方発行所 非売品

<目次>
昔、むかしの…石井真也子 2          春を知る…中谷順子 4
私のピアノには鳴らない鍵盤がある…中谷順子 7 晩秋の風景画 若い日のゴッホの絵に触れ…前原正治 8
黄泉の蛍…前原正治 10             夕刊コラム…堀 昌義 12
長門古市という駅…斎藤 央 14         未来予知…斎藤 央 16
鳴子から −遥かなるM女に−…若原 清 18   隠岐 −知夫里島−…若原 清 20
はなびら筏…齋藤岳城 22            戦場の夕陽…北畑光男 26
白い夏の散歩…頼 圭二郎 28          闇の犬…冨長覚梁 30
水車の音…冨長覚梁 32
詩集装丁探訪 そのV…頼 圭二郎 34      撃竹春秋…38




 
私のピアノには鳴らない鍵盤がある/中谷順子

下りたままの鍵盤は
そおっと 指でもちあげて
元に戻しておきましょう

元に戻した鍵盤は
月の光のさざなみで
何事もなかったように見えるでしょう

でも私のピアノは なおりはしない
下りたまま鍵盤が
海の底に沈んだまま

私のピアノは飾りもの
もうあまやかに奏でることも
弾んだ心を歌うこともありはしない

元に戻した鍵盤は
そおっと 撫でておきましょう
素足についた銀の砂を拭くように

 〈何事もなかったように見える〉〈下りたままの鍵盤〉は、私たちの精神の弱くなった部分を指すのかもしれません。外見からの異常は発見できませんが、〈海の底に沈んだまま〉の〈飾りもの〉のようです。それは〈そおっと 撫でてお〉くしかないのでしょうか。綺麗なイメージの作品ですが、内容は深い詩だと思いました。




詩誌『アル』41号
aru 41.JPG
2010.4.30 横浜市港南区
西村富枝氏発行 450円

<目次>
●特集 競う
競う………………阿部はるみ…1       摂理………………荒木三千代…3
ビリ………………西村 富枝…7       競争考……………江知 柿美…9
季・春の思い……平田せつ子…13
●エッセイ
待合室風景………江知 柿美…17
●詩篇
セールス…………江知 柿美…21       あの声……………江知 柿美…23
メモ………………江知 柿美…26       葬い………………荒木三千代…27
姉妹………………阿部はるみ…29       庭の子守りうた…西村 富技…31
編集後記…………荒木・西村         表紙絵……………江知 柿美




 
競う/阿部はるみ

アスリートが
観衆の熱狂をよそに
とても静かな表情をしていることがある
つまるところ
競っている相手は自分自身で
そのためにどれだけ
孤独になる練習をしてきたことか

獲物にねらいを定めてからは速い
いっきに走る
豹の無駄のない動き
そこにほどほどはない
ぶれないってすごいことだ

孤独になる練習ということでは
詩を書くことも同じかもしれない
でも
ぶれない詩っておもしろくないかも

 【特集=競う】の巻頭を飾る作品です。〈競っている相手は自分自身〉というのはよく言われることですが、その具体化として〈とても静かな表情をしている〉ことを挙げています。第2連の〈そこにほどほどはない/ぶれない〉もよく対象を見ている言葉だと思います。そして最終連、〈でも/ぶれない詩っておもしろくないかも〉は言いえて妙だと思いました。与えられたテーマの視点を〈ぶれない〉で書いた佳品と云えましょう。






   
前の頁  次の頁

   back(5月の部屋へ)

   
home