きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.31(月)


  その2




小林Y節子氏詩集『B・Bに乗って』
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2010.5.25 東京都新宿区 思潮社刊 2200円+税

<目次>
足ばやに陽が落ちて 8           ケースから出す 11
眩しさの識別 14              不確実な距離 18
瞼の下に 22                エピローグヘうねり 25
うなだれていた時の針が 28         マインド・コンタクト 31
(ゼロ)の部屋 34              隠れた月 変幻する地形 37
グリーン・メール 41            惑星の庭 45
鼓動 ON 48               AP 51
B・Bに乗って 55             夢を沈めて 59
人間麻痺のリハビリ 62           羽の力 66
α
(アルファー) 69.              レベル] 72
エニシの色 75               Z 78
金色の 81                 G・メール 84
(プリマベーラ) 87              F 90
あとがきにかえて 94
装画=著者




 
B・Bに乗って

俄に 遠いが微かに聴こえる
高周波を放ちながら接近している
雲の割れ目から光の橋が頭上にかかる

  飾っておいた無数の玉を
  ひとつひとつ取り出してほこりを掃い
  並べて 光の変化を楽しむ
  長い道のりの途中 何度も
  朝になり 昼になり 夜になる
  過ぎた月日は永遠のようで
  つい昨日のようにも思える
  何が変わったのか、不変だったのか
  もう不意に薄れてしまって

見かけより壁は厚く高かったが
囲いは ところどころくずれ
租悪な品種は後をたたず
あふれていた香りも失せていた

  多くの障害と試練を越えた高みから
  何度シャッフルしても
  一番先に沈んでゆくもの
  もはや誇らし気に語られていた
  戦記物語は閉じ
  ふかんして全体を見る時
  見放すべきか 見守るべきか
  役目があるのか問う 重さ
  正常な回転を望むなら恐れを捨てよ

連続飛行は確実にオーバーフローになり
気力も限界なれば着地もままならず
まして歪んでいる鏡ばかりだから
むしろ目隠しをした方がましなのだ

  しだいに羽音は耳元に近づくと
  瞳孔は喜びに拡大し
  カオスの洞窟から軽やかに飛び立ち
  いつも景色を逆さまに見ながら
  誰も見ない真実を見る
  ブラック・バードに乗って
  闇の中を 暁に向かって
  苦悩の崖から羽ばたく

壊れかけている全てを癒し 浄化して
不安定な空隙を一瞬に埋めてしまう
汚れた低い地平線から解放して

 第2詩集のようです。タイトルポエムを紹介してみましたが、「B・B」は〈ブラック・バード〉でよさそうです。〈何度シャッフルしても/一番先に沈んでゆくもの〉とは、その個人の根源に関わるものでしょうか。〈ブラック・バード〉は〈壊れかけている全てを癒し 浄化して/不安定な空隙を一瞬に埋めてしまう〉ものと読みました。生きる上での拠り所なのかもしれません。




詩誌『驅動』60号
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2010.5.31 東京都大田区
驅動社・飯島幸子氏発行 450円

<目次>
現代詩と「笑い」(十五) 周田幹雄 16
すいか/ささおかみねお 1          人生の中の若い蛇/長島三芳 2
須走通信T/忍城春宣 4           須走通信U/忍城春宣 6
夜行列車 能登号の思い出/池端一江 8
バンコク通信 二十人の聴衆のために/石川文絵 10
バンコク通信 ナダルコットの星/石川文絵 12
「砧」の舞/飯島幸子 14            言葉たち/内藤喜美子 24
自転車通勤/小山田弘子 26          熊野の地−補陀落渡海/飯坂慶一 28
遺言
(ゆいごん)の書き方/周田幹雄 32.      小さな旅/金井光子 34
山にむかひて目を挙ぐ/中込英次 36
同人氏名・住所 38              寄贈詩集・詩誌 38
編集後記                   表紙絵 伊藤邦英




 
人生の中の若い蛇/長島三芳

私がまだ学生であった頃
大学の山岳部に入っていて
北アルプスの穂高の涸沢にテントを張った
テントの廻わりは石ころばかりで
この白いテントの隙き聞から一匹の若い蛇が
するすると入ってきて私を驚かせた。

私の誕生日は蛇年であるが
私は爬虫類が大嫌いで
あの蛇のくねくねした姿を見るだけでも
ぞっと寒気がして私を震え上がらせた
大戦争の頃、敵の弾雨の中を這っていた時だ
ふと目の先に一匹の若い蛇が
するすると走り去って行くのを見た
その時だ、敵の一発の弾丸が
私の大腿部を貫いて私は負傷した
戦友に背負われて、ふと気が付いた時
私はいつか野戦病院の土の上に寝かされていた。

その夜、野戦病院の深い眠りの中で
私は蛇の夢を見た
昔、上高地の涸沢のテントの中に
するすると入ってきた蛇とまったく同じ蛇だ
私の負傷は若い蛇に助けられたと思った
いつか私は卒寿の誕生日も過ぎて
私は蛇年生れの幸運を信じながら
横須賀の場末の居酒屋で
遠くなった大戦争を振り返りながら
ひとり寂しく夜の酒を飲んでいる。

 〈卒寿の誕生日も過ぎ〉たという〈私〉が〈助けられたと思った〉〈一匹の若い蛇〉は、〈蛇年生れの幸運〉の蛇だったのかもしれませんね。〈ひとり寂しく夜の酒を飲んでいる〉ものの、その幸運があったからこそ〈横須賀の場末の居酒屋で/遠くなった大戦争を振り返〉ることができるのでしょう。大先輩詩人の若い頃を垣間見させていただいた作品です。




個人誌『一軒家』28号
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2010.6.1 香川県木田郡三木町
丸山全友氏発行 非売品

<目次>

真夜中 星野歌子 14            私の肩を信じるあなたへ 佐竹重生 17
家と釘 佐竹重生 18            命の水 高崎一郎 20
働く 高崎一郎 27             心の自然 高崎一郎 27
伝えたいこと 戸田たえ子 42        雀たち 吉村悟一 44
紙風船 吉村悟一 46            大地と男 吉村悟一 46
大きな陽が昇っていく 山根 進 49     たった 一言 吉原たまき 56
春の薪れ 吉原たまき 56          ブルー 中原未知 59
高知おんちゃん ウカイヒロシ 64      生きる−たとえば一豊の妻 ウカイヒロシ 65
囲炉裏 千葉喜三 71            君のあったかい愛情 高松恵子 73
あなたの笑顔 高松恵子 73         猫 沢野 啓 77
寒い春 小山智子 81            返事 小山智子 81
たっくんと娘 吉田博子 90         木立と歩く 高橋文子 92
故郷は遠く 高橋文子 93          春の足音 高橋文子 93
さわやかな朝 田島伸夫 95         帰るところ 田島伸夫 96
祖母・母・娘女三人繁盛記 友里ゆり 97   三毛猫の話 佐藤暁美 106
展墓 佐藤暁美 107
.            越後平野に 内藤ヒロ 111
白鳥は北に 内藤ヒロ 112
.         三色スミレ 田山民江 115
夢 田山民江 115
.             田園寸景 角田 博 118
霜柱 角田 博 119
.            風 大山久子 123
夏の日差しに 小島寿美子 129
.       追憶 深野久江 131
桜坂 宇賀谷妙 132
.            かくれんぼ 中原未知 134
今が一番 山上草花 137
随筆
夢じゃない? 星野歌子 13         「福田律朗」について 星 清彦 19
新緑の風 宮脇欣子 29           ひまわり畑 坂戸敏明 43
雪の降る日に思う 林美知子 47       抱夢園−西行法師を慕うの巻き− 荒木伸春 50
私の戦争 必死の38度線突破 三島 昭 53  「アハッハッ」 池田みち 57
“瓢箪から駒ではないが” 小倉はじめ 62  夢 千葉喜三 70
母の誕生 寒川靖子 74           サンシン三昧 平山洋一 86
捨てる 篠永哲一 88            飛脚の赤いフンドシ 西向 聡 91
手書き文に溢れる人間味 西向 聡 91    糸を吐く虫に魅せられて 松原光糊 94
見えなくとも 二葉由美子 104
.       老いて世の中を渡る 平井賢一 109
青春日記 角田 博 116
.          亡き妻と五十八年の苦楽を共に 藤田三四郎 120
『沈下橋』 森崎昭生 130
.         二行詩について  伊藤雄一郎 136
童話
鴨よ、元気になれ 星野歌子 15       千代ちゃん 森ミズエ 78
小説
蝋梅 宮脇欣子 31             敗戦を知らなかっ歩兵五連隊 千葉喜三 67
いぼ 小山智子 82
俳句
徳増育男 28     船山清治 52     小倉はじめ 60
加藤悦子 85     戸田厚子 133
川柳
小倉はじめ 61    川西一男 113
.    長尾俊彦 122
短歌
千葉喜三 72                田山民江 114
はなのたんかてん 二葉由美子 103
.     また春が来て 藤原光顕 108
詩画
或る夏の日の寓話 平山洋一 3       花火 丹治計二 4
しゅくだい 戸田たえ子 5
一軒家に寄せられた本より
佇む苑 寒川靖子 6            水の樹 入谷寿一 8
絵 表紙 小山みゆき みやまたけし

全友の作品
時代小説 灯(3) 139

夏休みの午後 164
.  不要物 164.     過失 165
寒波 165
.      異常 166.      認知症 166
鳴(泣く)く 167   体裁 167
.      転嫁 168
走り雨 179
小説 終演(1) 169
随筆 葬儀変遷 177




 
走り雨/丸山全友

野を超え
山を超え
谷を超え
何をそんなに急いでいるのですか

今 家内が風呂を焚いています
煙突を煙草がわりに
私と一服しませんか
干からびた畑の野菜や
ひび割れした田に枯れかけた稲
黄ばんだ雑草に
萎れた山の木々までもが喜びます
でも
一番喜ぶのは私です

 〈煙突を煙草がわりに/私と一服しませんか〉というフレーズが良いですね。スケールの大きさを感じます。〈走り雨〉で〈干からびた畑の野菜や/ひび割れした田に枯れかけた稲/黄ばんだ雑草に/萎れた山の木々までもが喜〉ぶのも分かります。〈でも/一番喜ぶのは私です〉というのは、農民として雨の恵みを喜ぶだけでなく、精神的な潤いを感じるからなのかもしれません。






   
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