きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.5.23 静岡 中勘助文学記念館 |
2010.6.7(月)
朝一番で実家のある町の役場に行って、父親の介護保険の種類を提出してきました。
帰宅してすぐに畑仕事。里芋の出来が悪いので全部ひっこ抜いてしまいましたけど、植えて育てて、そして廃却するのかと思うと、ちょっとした徒労感でしたね。私の場合は家庭菜園にも満たないレベルですからまったく影響はありませんが、ホンモノの百姓だったら死活問題です。自然相手の怖さを少しだけ味わいました。
○詩誌『』40号 |
2010.6.15
石川県金沢市 中村なづな氏方・祷の会発行 500円 |
<目次>
寄稿 九歳の鎖骨(T)(U) 白井 知子 2
詩 断念/原風景 森山 漂 6
風蕭がとまるとき/印度更紗ほか 中村なづな 10
湿原のまぼろし/撫の木 江田恵美子 14
閂/小川と畳 宮内 洋子 18
旅/チェリオ 池田 瑛子 22
小文 いどころ 中村なづな 26
幸福の場所 霧山 深 26
思いだせない住所 江田恵美子 26
朱の玉 宮内 洋子 27
ラスヴェガス 池田 瑛子 27
あとがき 28
撫の木/江田恵美子
「乳首山というんだよ」
地もとの人のことば
安達太良山の頂上はお椀を伏せたように小さく
ハイマツやツツジの低木のなかを下るたびに
挨拶をする撫の木がある
はるかな梢に頭をそらし
粗い幹の膚に腕を廻すと
日向の匂いのする背中にしがみついたように
私のなかで死の怯えが緩んでゆく
尖る肩
角を出す肘
焼夷弾の臭いが
夢のなかでくり返された不安が消えかかる
※白亜紀から撫の木はあったようだ
恐竜が闊歩していた傍らには
ネズミぐらいの小さな恐竜がいた
彼らは熟した撫の実を山に埋め込んだ
頂にはこぼれんばかりの登山者が腰をおろしていた
※朝日百科植物の世界より
〈日向の匂いのする背中にしがみついたように/私のなかで死の怯えが緩んでゆく〉という感覚は、私に〈焼夷弾の臭い〉の記憶はありませんが、判るように思います。〈白亜紀から撫の木はあったよう〉ですが、その驚異的な生命力への安心感なのでしょうか。
作品としては最終連にがよく効いている詩だと思いました。
○詩と評論『操車場』37号 |
<目次>
■詩作品
タダイの末裔 ――19 坂井信夫 1 竹林の猛虎 冨上芳秀 2
生きる 長谷川 忍 5 智慧の輪 野間明子 6
春が来たというのに 田川紀久雄 8
俳句
草に寝そべる 秋葉長榮 9 蝉丸忌 井原 修 10
愛鳥日 新保哲夫 12
■エッセイ
創造的進化と法華経(その一)−つれづれベルクソン草− 高橋 馨 14
ランボー追跡(四) 尾崎寿一郎 16 浜川崎博物誌(11) 坂井のぶこ 19
末期癌日記・五月 田川紀久雄 20
■後記・住所録 36
竹林の猛虎/冨上芳秀
竹林の猛虎
竹林に男と女が隠者のように隠れ棲んでいた。さらさらと風が世俗
の時間を流れ去る中で、男は竹の中から女の子を拾ってきて、女と
いっしょに育てたりした。女も幸せそうに、その子をかわいがった。
しかし、男が眠っている間に、女は夢の中で一匹の猛虎を育ててい
た。ある夜、女の夢の中から虎は抜け出し、女の子を食べて、竹林
の奥の暗い闇に隠れてしまった。それから男と女は、また前のよう
に仲良く世間を離れて暮らしていた。だが、竹林の暗がりの中に潜
んでいる人食い虎は、いつも男と女を襲おうと、飢えた牙を咬み鳴
らしながら、庵の周りをうろついていた。
「竹林の猛虎」という総題のもとに「竹林の猛虎」「清姫」「伊勢物語」の3編が収められた作品です。ここでは冒頭の「竹林の猛虎」を紹介してみました。〈女の夢の中から虎は抜け出し〉たわけですから、〈人食い虎〉は〈女〉の妄想です。その虎が〈女の子を食べて〉、さらに〈いつも男と女を襲おうと〉しています。女性性の喩として捉えました。
○個人詩誌『伏流水通信』35号 |
2010.5.25 横浜市磯子区 うめだけんさく氏発行 非売品 |
<目次>
砂の……………………長 島 三 芳 2 幻影………………………長 島 三 芳 4
ある日の鎌倉…………うめだけんさく 6 亡霊たちのために………うめだけんさく 8
*
フリー・スペース(35) 蝋燭のほむらのように…栗 原 治 人 1
*
後 記…………………………………… 10 深謝受贈詩誌・詩集等…………………… 10
幻影 故川口敏男に/長島三芳
君が選んだ死への道は
少し早や過ぎて
私よりも先へ天国へ旅立っていった。
君の声が夢の果てから
私の机上に届く距離は
あまり時間がかからないが
もう君は私の中には帰ってこない。
君と二人で掃部(かもん)山公園の桜の花の下で
駅弁当を買って食べたことがあった
焚きたての白い飯の上に桜の花弁が散って
それを君は楽しそうに
飯と共に頬張って食べた
あの君の笑顔が今も忘れられない
あの日から二十年の歳月が過ぎて
再び桜の花の春が巡ってきたが
君はもう掃部山公園の桜花の下にはいない
あの日二人で食べた駅弁も売っていない
記憶は季節と共に浮かび消えて
次の世に川のように早く流れていく
詩人との別れとはそうしたものであろうか。
寒い冬の幻の夢の中で
君は今日もせっせと詩を書いているのか
桜の花の散る下で駅弁を食べているか
君への記憶はだんだんと遠くなる。
〈故川口敏男〉さんには2〜3度お会いしていると思いますが、いつも遠くからお姿を拝見しているだけでした。痩せてひょろりとした体型を思い出しています。もう〈二十年〉も前のことかもしれません。〈詩人との別れとはそうしたものであろうか〉というフレーズに先輩詩人の慟哭を感じた作品です。