きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.5.23 静岡 中勘助文学記念館 |
2010.6.8(火)
特に予定のない日。いただいた本を拝読して過ごしました。
○隔月刊詩誌『叢生』168号 |
2010.6.1
大阪府豊中市 叢生詩社・島田陽子氏発行 400円 |
<目次>
詩
風鈴 原 和子 1 忘れな草 藤谷恵一郎 2
乳歯 福岡公子 3 一緒にスッと 麦 朝夫 4
マゴヒナの朗謡とくだんの一つ 毛利真佐樹 5 うしろ向きの観音さん 八ッ口生子 6
樋の記憶 山本 衞 7 小さな家族の小さな会話(十) 由良恵介 8
手編みの図柄 吉川朔子 9 牛のよだれ 竜崎富次郎 10
ぬくもり 秋野光子 11 棚作り 今井直美男 12
チューリップ 江口 節 13 浦島太郎の心残り 木下幸三 14
死にたいわけではないのですが 佐山 啓 15 ひとり とひとり/雨 島田陽子 16
この水の一滴さえ 下村和子 17 山暦(1)風と霧 曽我部昭美 18
エッセイ 身辺雑記(7) 毛利真佐樹 19
本の時間 20 小径 21 編集後記 22 同人住所録・例会案内 23
表紙・題字 前原孝治 絵 森本良成
風鈴/原
和子
おいで
風よ
忘れていた風鈴のうたを
聞かせてよ
七里ヶ浜の風が
山にあたって
崖下の 小さい家の
風鈴を 鳴らしていた
ひとりの夜
だれかを呼ぶように
チリン、チリン
鳴っていた
山の上に住んでいたひとは
もう とっくに亡くなっただろう
白いヒゲの 神主さんも
だけどまた 別のひとが
おんなじように 住んでいるだろう
風鈴の鳴っている
古い 小さい家をのぞいたら
風よ
そこに坐っている
もうひとりの私に 伝えてよ
こっちにも
つりがね草の白い花が
咲いてるって
今号の巻頭詩ですが、抒情詩らしい佳品だと思います。〈風〉と〈風鈴〉だけでなく、〈山の上に住んでいたひと〉、〈白いヒゲの 神主さん〉、そして〈別のひと〉が登場して作品の幅が広がったと云えるでしょう。最終連の〈そこに坐っている/もうひとりの私〉も見事な出現で、2字下げも効果的だと思いました。
○詩誌『地平線』48号 |
2010.5.31
東京都江東区 山田隆昭氏発行 600円 |
<目次>
文旦……………野田 新五 1 悲しみよ………川田 裕子 3
痛みに耐えて…飯島 幸子 5 拝啓幸福様……福榮 太郎 7
幸せと不幸せ…大川久美子 9 風の永訣………中村 吾郎 11
変転する………金子以左生 13
詩人伝シリーズ(その7)
憂愁と慕情と−与謝蕪村「北寿老仙をいたむ」−……山川 久三 15
ヘルニア………山川 久三 17 八月のアゲハ…沢 聖子 19
確定申告書……小野 幸子 21 気うつの時は…杜戸 泉 23
望郷……………樽美 忠夫 25 故郷……………遠藤 芳子 27
影とふたり……秋元 炯 29 淵………………山田 隆昭 31
山川久三詩集「灯台」書評−いのちのほむら−……………………野田 新五 33
編集の窓…………………… 35 御挨拶…………丸山 勝久 36
同人名簿…………………… 37 編集後記…………………… 37
確定申告書/小野幸子
節分を過ぎると 雛の節句をメドに
確定申告書の作制にとりかかる
先ず 売り上げ金額を出す
次に 仕入れの合計を出す
更に 要ともいえる支出の項目の合計を出す
租税公課 荷造運賃
水道光熱費 通信費
接待交際費 損害保険料
外注工賃 下職工賃
ここまで書いた時 ふと手をとめる
この不況に見舞われた日本の
物づくりの町 大田区蒲田の
下請工場のニュースを思い出しながら
私は またまた懲りずに作業を続ける
修繕費 消耗品費
減価償却 車輌関係費
差引き残高から支出を引く
ここまでくれば大方の目安がつく
一息ついて
目に青空の目薬をさす
最終控除は
プロの手に任せはじめて税額が記される
この白書は
夫 七十五歳
妻 七十三歳
老いた二人が
ささやかに生きた二〇〇九年の証である
私も現職を離れて初めて〈確定申告書〉なるものに遭遇しましたけど、かなり大変な思いをしました。青色申告会に入って、もう3回も申告していますから慣れましたが、生涯続くのかと思うと、正直なところはウンザリです。
紹介した作品は最終連がいいですね。〈老いた二人が/ささやかに生きた二〇〇九年の証である〉というフレーズに庶民の自信を見る思いがしました。
○詩とエッセイ『ぶらんこのり』9号 |
2010.6.10 横浜市金沢区 坂多氏方発行所 300円 |
<目次>
Poem
坂多瑩子 立ち話−2 母その後−4
坂田Y子 となりの住人−6 くノ一と花見−10
中井ひさ子 またなの−14 窓−17
Essay〈おばけ〉
坂多瑩子 思うこと−19
坂田Y子 おばけ無駄話−21
中井ひさ子 おばけと語る−22
立ち話/坂多瑩子
献体を申し込んできたと
八十七歳になる一人暮らしの隣人が言った
死んだらすぐ行かなくちゃあならないから
とても忙しそうな顔をして
近所には内緒だそうだ
葬儀は身内だけで簡単にすませると言う
たしかに
献体は
新鮮さがいい
そうしなさい
ある朝 そうしゃべった
とても〈立ち話〉で済むような内容ではありませんが、あえてそんな気楽さを出しているのでしょう。〈死んだらすぐ行かなくちゃあならないから〉と、〈とても忙しそうな顔をして〉いるのも、死という重大事を軽く受け流そうという意図を感じます。〈献体は/新鮮さがいい〉というフレーズにもドキリとさせられました。