きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.5.23 静岡 中勘助文学記念館




2010.6.13(日)


 招待券をいただいたので「ひと・うた・こえ 〜大橋美智子 歌曲作品を聴く〜」というコンサートに行ってきました。場所は京王線仙川駅近くの「仙川アヴニュー・ホール」という処で、100人も入れないような広さでしたが、こじんまりとして感じのよいホールでした。先輩詩人の詩を作曲してソプラノで歌うというもの。途中で詩人と作曲家、司会の鼎談もあるという異例のコンサートでした。19時開演と遅かったので、帰りの懇親会は遠慮しましたが、珍しい人に再会しました。

 40年ほど前に小田原で詩の勉強会や朗読会をやっていました。そのときの仲間に会ったのです。彼は当時学生でしたが、いまでは立派なオヂサンになっていて、お互いに笑いあいましたね。市民会館ホールで彼が朗読した詩は覚えていましたから、その詩の流れでこの40年を過ごしてきたのではないかと勝手に想像してしまいました。時間がなくてあまりお話しできなかったのですが、いずれ機会をみて呑んでみたいと思っています。




詩とエッセイ『樹音』61号
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2010.6.1 奈良県奈良市
樹音詩社・森ちふく氏発行 400円

<目次>
特集 火
どんど焼き  結崎 めい 2         鎮める火の花 中谷あつ子 3
長田    かりたれいこ 4         火      安田 風人 5
福丸     汀 さらら 6

風と道と   森 ちふく 7         思いは叶う  寺西 宏之 8
ひとり芝居  結崎 めい 9         西に帰る   中谷あつ子 10
猫     かりたれいこ 11         小さい詩   安田 風人 12
しあわせ   汀 さらら 13         「火」雑考
.  大西 利文 14
「自然にレッスン…火祭り編」 板垣史郎 15
『無限旋律』出版と「樹音」発刊60号を祝う会 17
樹のこえ 大宇陀散策 祝賀会に参加して 19
会員名簿/編集後記 28            表紙題字・大西利文




 
鎮める火の花/中谷あつ子

蔵で探し物していると
六十年前の煤ぼけた箱から
松竹梅の飾りに隠れた釣り糸
金の水引 銀の水引
蓋に絡み憑けたまま目の前に現れでた
突然
甦る記憶 露出してくる感情の火花

寝ている姑に
「鉛筆代やってください」と頼む私
遅刻すると泣く娘
息子夫婦にはびた一文渡せないシキタリ
新しい盥の中に足いれの儀式で成り立つ
戦後でも生きている土地柄
刺繍の内職も勝手に止められ
母親らしくできなかった痛み
野焼きのごとく根っこに絡み燻っている
嫁という清算は遠い過去に果たしたというのに

屍になるまで母親であると言った
母の言葉が
闇の天空を焦がし燃え盛てる
夜叉の勢いで山肌舐めながら猛る炎
誰かが『凄い』と言う
善きに付け悪しきにしても
誰もが抱きかかえている
炎の連想 狂気の糸口

わたしは見ている

 「特集 火」の中の1編です。ここでの火は〈感情の火花〉と〈夜叉の勢いで山肌舐めながら猛る炎〉。〈息子夫婦にはびた一文渡せないシキタリ〉や〈新しい盥の中に足いれの儀式で成り立つ〉風習が〈戦後でも生きている土地柄〉だったのでしょう。日本の原風景の〈悪しき〉部分を見せられた思いです。




個人誌『ポリフォニー』17号
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2010.6.1 東京都豊島区 熊沢加代子氏発行 非売品

<目次>
詩/裸樹の公園 2 /遠い涯からの贈り物 4  /黒いものも良い 6
 /台所詩 8   /三月 10
コンサート・ホール /前奏曲 12
アド・リビテュウム /近すぎず 遠すぎず 14
       後記 /




 
遠い涯からの贈りもの

晴れた日に雪を見る
雪のふった翌日など
東京でも別にめずらしくはない光景だ
表面は氷状になり輝いている
そっと足を踏み入れるとがしっと音がする
あんな儚いものがこんなに硬くなって

不意に
 とうが立つ
という言い回しを思い浮かべ苦笑する

雪には盛りというものがあって
この雪はもう盛りを過ぎている
雪というものは雨と違い
どこか観賞用のようなところがあって
賞味期限がある

いつだったか広大な日本庭園で
音もなく降りしきる雪景色をながめていたことがある
静謐だった
遠い涯からの贈りもののように
ただただ音もなく注がれ
白い慈愛のように積もっていた

美しく溶けてほしい

 第3連の〈雪というものは雨と違い〉〈賞味期限がある〉という発想がおもしろいと思いました。タイトルにもなっている〈遠い涯からの贈りもののように〉というフレーズも佳いですね。最終連も〈美しく〉決まった作品です。




護憲詩誌『いのちの籠』15号
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2010.6.15 東京都大田区     350円
甲田氏方・戦争と平和を考える詩の会発行

<目次>
【詩】
遠い庭…柳生じゅん子 2          不遜の炎…御庄博実 3
戦争…崔 龍源 5             寄せる波…石川逸子 6
スパムメール…佐川亜紀 7         聞き屋…ゆきなかすみお 8
団栗の森…水川まき 10           払暁の蓮…渡辺みえこ 12
短詩三篇…絹川早苗 13           衝立パネルの裏で…山田由紀乃 21
叫び…掘場清子 22             今日は復活祭…森田 進 23
ダイヤモンドと少年…南條世子 24      ジッと死に顔…麦 朝夫 25
テロルの風景論…大河原 巌 26       まっすぐな路の途中で…李 美子 27
足の裏…中村 純 28            ローラー…原子 修 29
出征兵士…篠原中子 30           卒業証書…おだじろう 30
チンタオは…山野なつみ 32         知らなんだじ!…池田久子 33
葬送の辞…市毛包一 34           フイリッピン海域…伊藤眞司 38
人間
(あいぬ)の学校…井元霧彦 39       タルチョ…日高のぼる 40
チップ…奥津さちよ 42           朝…・山岡和範 43
チンチン電車…佐相憲一 44         ひとりじゃないもん…草倉哲夫 45
富士を見る…成瀬峰子 46          死の肖像 概念…関 中子 47
くり返す・他…甲田四郎 48         町の声ぼくの声・他…日高 滋 50
答えなければ…白根厚子 52         治安維持法犠牲者全員への名誉回復・補償を日本政府はせよ…池田錬二 52
戦場でないのに戦闘部隊が来た…竹内 功 54
【エッセイ】
ヒロシマというとき…寺沢京子 14      ぼやいてばかりではいられません…若松丈太郎 17
領海について…中 正敏 18         記録のない南の島々の戦い…吉光 悠 20
木下恵介作品に見る母親像(下)(「反戦反核映画」考七)……三井庄二 35
あとがき…55
会員名簿/『いのちの籠』第15号の会のお知らせ…56




 
聞き屋/ゆきなかすみお

友人たちに連れてもらって沖縄へは十回ほど行った。
行くたびにガマ巡り。今も残っている戦争の骨を拾っ
て線香をたく。誰の骨かわからない。もしかすると大
学を途中で卒業させられて出陣した従兄弟かも……
子供たちも連れて避難していた島の人達かも……
夜は泡盛。どこの居酒屋にもサンシンがあって歌自慢、
踊り自慢がいた。

そんな沖縄やから出現したんやと思うよ「聞き屋」と
いうボランティア。去年の夏くらいからだという、誰
が始めたともなく国際通りのネオンの下に座っている。
「聞き屋」と小さな手書きの看板。人の悩み、苦しみ、
ほやき、つぶやき、黙って聞いてくれるのだ。失業、
貧困、失恋、病気……どんなことでもうんうん真剣に
聞いてくれるのだ。

聞いて欲しい人が増えて「聞き屋」も増えて、それだ
けのことだ。なんとなくせいせいして、笑って、握手
して帰っていくという。

 戦争になったら真先に狙われる出撃基地。
 明日にも引っ張っていかれるイラクやアフガン、
 恐怖が酔っぱらってふらついている街。

重苦しい空気を跳ね返す静かな力。
サンシンを弾いて歌ってすぐに踊り出す人たちがつく
りだした新しいつながりのかたち。

もう一回行きたいなぁ沖縄。
素直な気持ちになって座ってみたい「聞き屋」の椅子。

 〈新しいつながりのかたち〉の「聞き屋」とは素晴らしいですね。その原因は〈どこの居酒屋にもサンシンがあって歌自慢、踊り自慢がいた〉から、〈そんな沖縄やから出現したんや〉と言っていまして、沖縄の人情をよく見ていると思います。その奥にある〈戦争になったら真先に狙われる出撃基地〉としての〈恐怖〉にも目配りした佳品だと思いました。






   
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