きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.5.23 静岡 中勘助文学記念館




2010.6.17(木)


 特に予定のない日。いただいた本を拝読していました。




尾崎まこと氏童話集『千年夢見る木』
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2010.6.14 大阪市北区 竹林館刊 1200円+税

<目次>
サクランボと大男 7            鬼婆様と河童の子 13
青麦畑 33                 千年夢見る木 39
林檎
(りんご)ランプ 65.            エジプトの海人 71
雪の音 83                 おれだけ村の火の玉坊や 89
誰なんだろう 109
挿画 左子真由美




 
サクランボと大男

むかし大男がいた
今でいうと背丈は三階建ての家ぐらいはあった
悪いことでなければ頼まれたことはなんでもしたので
優しいだけの男
だと村人はバカにした

踏んづけられると怖いので近寄らなかった
遠巻きにしながら池を掘ったり運河をひいたり
しんどいことを手伝わせた
戦争のときには彼を盾にした
そのせいでもあるまいが
サクランボぐらいのほんのり朱
(あか)
とても小さな悲しみを
大きな体は抱えてしまった


大男が死ぬとき
海のむこうまで聞こえるすごいいびきをかいたそうだ
神様がやってきて
そんな痛いものを持ったままでは
天国へは行けません よこしなさい
小さなものの面倒をわたしがみましょう
と夢のなかでおっしゃった
しかし大男は神様に口ごたえをした
  僕一人で 天国なんか行くものか!
とうとう握った手を開けなかったんだ

だから、大男は天国へ行ったさ
地上から持ってきたサクランボのひとつぶを
()いて大切に育て
今じゃ平和な桜の園
小鳥がいっぱい鳴いているよ

 〈サクランボぐらいのほんのり朱い/とても小さな悲しみ〉を〈抱えてしまった〉〈大男〉。「気は優しくて力持ち」は昔から男の理想像だったと思うのですが、この童話詩はその具体化かもしれません。〈僕一人で 天国なんか行くものか!〉という発想に本当の優しさを感じます。最終連の〈だから、大男は天国へ行ったさ〉というフレーズがストンと胸に落ちる作品だと思いました。




季刊・詩の雑誌『鮫』122号
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2010.6.10 東京都千代田区 鮫の会発行 500円

<目次>
鮫の座 松浦成友――表紙裏
〔作品〕
うやうやしく 今駒泰成――2         遠雷 仁科龍――4
ナジャ、放屁せよ 大河原巌――6       身辺整理 瓜生幸三郎――8
コンクリートの橋 高橋次夫――12       控訴却下で有罪の判決 芳賀稔幸――14
擬態 芳賀稔幸――15             入れ墨――岸本マチ子−18
〔詩書案内〕
雀龍源・詩集『人間の種族』 高橋次夫――20  羽生槙子・詩画集『花・野菜詩画集U』 原田麗子――20
石村柳三・詩集『夢幻空華』 瓜生幸三郎――20 栗原澪子・詩集『洗髪祀り』 前田美智子――22
右近稜・著作集『詩編』 飯島研一――22    若松丈太郎・詩集『北緯37度25分の風とカナリア』 芳賀稔幸――22
〔書評と紹介〕
日本現代詩文庫『新編濱口國雄詩集』 飯島研一――24
萱野笛子詩集『五丁目電停 雨花』 飯島研一――25
〔作品〕
午睡 いわたにあきら――26          さまよう恐竜 井崎外枝子――29
こぼれゆく…刻 前田美智子――32       鼓動 原田麗子――34
自画像 松浦成友――38            再び夜 飯島研一――40
せぬ、ぼうや 原田道子――42
〔謝肉祭〕
ある詩人の悲劇 仁科龍――44         遊びたい・む 前田美智子――45
名前の付いた詩集 芳賀稔幸――46
〔詩誌探訪〕原田道子――47          編集後記    表紙・馬面俊之




 
うやうやしく/今駒泰成

青春とは齢に非ず心根だろう
爪を切る指の力弱って苦労しているが
その先に爪が生えるのに感心している

愛人のTさんは歯抜け眼疾をかこつ老女だが
心根少しも変らず会うとうれしい
ひとは共に居るべき仕組みの内にある

共とは辞引によれば共襟共柄
(つか)鮎の共和()え等
用法ばかりで起源分からず
辞源でやっと“支えるうやうやしさ”と
分かってきた
それがいにしえからの教えなのだろう

共ならざれば敵
昔より人は敵を作りよくも戦さをしてきた
〈支えうやうやしく〉
かく人はあるべきと天啓の如く示されながら
戦さに明け暮れるのが人間だとしたら
生き物の中で最下級の有り様なのだろうが
かく忘れ果てても如何ともしがたく

そう目覚めて慎ましく生きる外はない
これからの吾等人間どもは

 〈ひとは共に居るべき仕組みの内にある〉というフレーズが重い作品です。〈共とは〉“支えるうやうやしさ”と私も初めて知りました。〈共ならざれば敵〉も重い言葉ですね。最終連の〈そう目覚めて慎ましく生きる外はない〉というフレーズにも共感を覚えました。






   
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