きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.5.23 静岡 中勘助文学記念館 |
2010.6.20(日)
生母の51回目の命日。特別なことは何もやりませんでしたが、生涯忘れなれない日であることには変わりありません。いまごろどうしているかなぁと思います。35歳という若さでしたから、きっとそのままなんでしょう。
今日はそんな妣に笑われるようなことをしてしまいました。自治会の美化作業があったのですが、担当地域を間違えてしまったのです。朝8時に小学校の校庭に集まって、いつも通りに注意事項やら担当地域を聞いて、先頭切ってスタスタと歩いて行きました。途中でなんか雰囲気が違うので、ふと後ろを振り返ると…。誰もいない!
そこでやっと気がつきました。美化作業は冬と初夏の年2回やるんですけど、場所が違います。私は冬の場所を目指していたんですね。あーぁ。あわてて戻って皆さんと合流しました。何を考えているんだか…。というより何も考えていなかったのでしょう。天国の妣も、お前も相変わらずねぇ、と笑っていたに違いありません。
○狩野敏也氏句集『くれなゐの襤褸』 |
2010.6.18 東京都新宿区 里文出版事業部刊 1200円+税 |
<目次>
春 3 夏 39 秋 77 冬 103
あとがき 132
借景の端につましく月見草
しもた屋に女(ひと)住むけはひ著我(しゃが)の花
なにもかも淡くて遠し鳳仙花
紅(くれなゐ)の襤褸(らんる)となりて牡丹散る
数多くの詩集・エッセイ集を出版してきた著者ですが、句集は初めての上梓だそうです。ご出版おめでとうございます。
俳句は門外漢ですので、表題の作品が含まれるページを紹介してみましたけれど、偶然花の句ばかりとなりました。それぞれの花の特徴が巧みに詠まれているのではないかと思います。特に表題作は鮮やかに眼に浮かんできました。
○詩誌『黄薔薇』189号 |
2010.6.15
岡山県倉敷市 田千尋氏発行 500円 |
<目次>
混沌・氷河あるき 一瀉千里 P1
『あしながおじさん』・不安なのか 川越文子 P5
乾いた薔薇・氷雨の日−友を見送る− 椚瀬利子 P8
白い道 山田輝久子 P11
氷上の四分三○秒 小舞真理 P12
きびしい寒さの中で 志智桂子 P15
秋の夜の夢 木村真一 P17
もらわれっ子・もう一人の私・聖火を翳して 吉田博子 P20
草を刈る 小林一郎 P23
飼育・今年の桜 井久保伊登子 P25
特集 川越文子詩集『対話のじかん』 川越文子 P29
特集 一瀉千里詩集『ペガサスになれないものは』 久保田三千代・瀬崎祐・高田千尋 P33
川原昼顔・雛祭り・啓蟄の前日に 釼持俊彦 P37
途方にくれて 水島睦枝 P41
薔薇のことづけ …海を越えて… 吉川悠子 P42
講習会 あおやますずこ P45
業の寅 吉田重子 P47
温度計では・ベッドで 白河左江子 P50
DAUGIITER(遠くに離れて−) 柴田洋明 P53
みかげ石 田千尋 P56
しばらくは・今は・まだ 境 節 P57
マサト・笹舟 井久保勤 P61
同人の詩集等P6 フィギュアスケートに夢中!(小舞)P14 原民喜展から(吉田重子)P28
永瀬清子生家保存会から(小林)P32 はだし(境)P58
詩集紹介 吉井淑詩集(境節)P65
堀内利美訳「預言者アルムスタファは語る」(田)P66
編集後記(田・井久保・白河)P67 同人名簿P68
表紙 近藤照恵
草を刈る/小林一郎
4月 伸び始めた草を刈る
まだカエルの姿はない
安心して刈れる
田植えの頃
また草を刈る
どうしてもカエルやヘビを切ってしまう
ちぎれた胴 切れた足あるいは尾
つやつやしたカエルの大きな眼と
切られた白い腹あるいは
痙攣して伸びきった長い後ろ足
わずか夏の腐臭の気配
65年前の叔父
父のすぐ下の弟
フィリピンのどこで死んだのか
どんな死に方だったのか
血を分けた者の誰も話すことなく
父も死に 叔父の下の弟も死に
残っている兄弟たちも話さない
無残なことは聞きたくない
知らないほうがいい 考えたくもない
欠かさず彼岸に墓参り冥福を祈っている
それでよいし それしかできない
生きている者のこの世の習慣なのだが
どうしても
遠い空か ガラス窓か
叔父の無念さが
いつまでたっても宙に浮いているような気がする
春から夏
ひっそりと隠れている動物たち
何回も草を刈り
チップソーの刃先が振りまわされ
隠れ場をかき回され
そのたび右往左往して
田園の小さな戦場となる
〈どうしてもカエルやヘビを切ってしまう〉ことと〈65年前の叔父〉が〈フィリピンのどこで死んだのか〉のを重ね合わせた秀作です。ここには生命は等価なものという思想があるように思います。しかし〈草を刈る〉ことをやめるわけにはいきません。〈それでよいし それしかできない〉というフレーズには、その思いも含まれているように感じました。
○文芸誌『扣之帳』28号 |
2010.6.1
神奈川県小田原市 500円 青木良一氏編集・扣之帳刊行会発行 |
<目次> ◇表紙 佐藤牝久山
◇カット 木下泰徳/中野亜紀子/秋山真佐子
足柄学務座・歴史編 女性史への道――宇佐美ミサ子 2
「箱根御関所日記書抜」考(1) −箱根宿の馬士――加藤利之 22
二宮尊徳とロバアト・オウエン――尾上 武 26
酒匂だより「ライラックの花」――町田紀美子 34
さらば! 歌舞伎座――田中 豊 35
ボクの映画館(8) 続・西部劇! 西部劇!――平倉 正 40
自由律俳人岡野宵火――井上敬雄 49
散華寂静−近藤弘明展を観る――佐宗欣二 67
「土木の神様」加藤清正公――富家和男 61
相模周辺に廃仏毀釈の痕跡を探る(2) 箱根権現、伊豆山権現――平賀康雄 66
材芝居よオー(4) 特別な一瞬――本多 博 79
始まりの人(二) 慧可大師――茂木光春 8$
亀右衛門咄(5) 御用の儀之れ有り侯――青木良一 94
近代神奈川の書籍文化(4) 横浜の書籍雑誌閲覧所――高野 肇 101
編集後記――108
映画案内――48
ギャラリー箱根口門――98
ギャラリー情報(新九郎)――107
二宮尊徳とロバアト・オウエン/尾上
武
この二人についての比較研究はあまりない。二人の研究者を紹介しながら問題点を探ってみたい。
協同の村つくりのパイオニア
ニコラス・ワレン氏は二〇〇四年の国際二宮尊徳思想学会で、「二宮尊徳とロバウト・オウエンの比較」を英文で発表した。二人の共通点と相違点を示し、オウエンの新しい見方を描こうとした。そこで私なりに尊徳との関連を補いながら論文を見てみよう。
言うまでもなくオウエンは英国を代表するユートピア社会主義者で、その生涯は一七七一年から一八五八年で、尊徳の一七八七年から一八五六年とあまりにも一致する同時代人である。また共に貧しい家庭に育ち独学で学問を修めたが、単なる思想家ではなくて真に誠実な行動の人であったという。
但し、同時代の人ではあるがオウエンの改革は産業革命の進行とそれによる労働者階級の搾取の過程で評価されるべきで、尊徳の改革は封建制の枠の中で考えなくてはいけないという。
オウエンは各人の性格は自分でつくったものではなく、社会という環境が作ったものであると強調した。だから当時の貧困や不道徳をその人の責任ではなくその社会の責任なので、よい教育をし、協同的な社会をつくることにより解決しようとした。
尊徳もしばしば北関東の土地の悪さ、村の荒廃、道徳の乱れを指摘し、荒田と共に心田の開発を強調した。
宗教についても、オウエシはアダムとイブの原罪により人は不道徳になったのではなく、その人の育った環境によるとして、キリスト教ならびに宗教一般を否定して、大きな反発を受けた。
尊徳も既成の神道、仏教、儒教をそのまま受け入れたのではない。それぞれの長所を自分なりに融合させて、先祖や自然環境の徳に報いる思想を生み出したが、宗教そのものを否定はしていない。しかし呪術否定は尊徳の重要な主張のひとつで「禍福吉凶は方位日月などの関する所にあらず」(福住正兄著『二宮翁夜話』)といっている。
オウエンの協同社会建設は結局は失敗に終わっている。そうであってもオウエンは協同組合、労働組合運動のパイオニアであり、労働者の権利と経営への参加において大いなる前進を遂げたとニコラスはいう。
尊徳との比較で新しいオウエンを描く試みは、小論ということもあって十分とはいえない。
教育と道徳による改革
日本人のものでは、一九六六年に宮瀬睦夫氏が「ロバウト・オウエンと二宮尊徳」(拓殖大学論集)で二人の類似点に焦点を当てて書いている。
ニコラス氏の取り上げたこととの重複を避けよう。当時の普通の家庭のように、十歳になるとオウエンは呉服関係の商店に奉公に出た。同じ店にいたわけではなく、いろいろの階層を対象とした商店で働き現実の社会を知る上でよい経験になったという。
それは青年時代の尊徳が城下町小田原に出て武家に奉公したり、町人とのふれあいで農村以外の社会を体験したのと同じである。
オウエンは協同社会をつくろうとするとき、スコットランドのニューラナークでの紡績会社の経営により自分でも実践するが、社会の支配階層による自分の計画の実行を願っている。支配者と対立するのではなく、貧困者やその子供たちを教育による道徳改革により理想社会を目指した。
尊徳も主君忠真の信任のもとで農村復興に取り組んだ。藩主や幕府がなぜ尊徳を採用したかの本意は別にあったとしてもである。
宮瀬氏はこの論文では二人の比較は十分できていないという。その第一歩であろう。
日本は世界で唯一「オウエン協会」がある国であり、研究実績もある。ここで取り上げたことを中心に、尊徳との関連を意識して検討しよう。 (以下略)
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おもしろい視点の論文だと思います。〈オウエンは英国を代表するユートピア社会主義者〉であることは知っていましたが、尊徳と同時代とは考えもしませんでした。日本のみならず世界的な視野を持つ必要性を痛感します。
論はこのあと佳境に入っていくのですが、ここでは割愛します。よろしかったら続きを読んでみてください。小田原市の伊勢治書店で発売しています。