きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
   050803.JPG     
 
 
 
2005.8.3
馬籠「藤村記念館」にて
 

2005.8.31(水)

 ようやく8月31日の日記を書けるようになりました。本当の日付は10月2日(^^; まる1ヵ月間の遅れです。遅れの理由はいくらでもありますけど、生業がメチャ忙しいのが第一でしょうね。ま、日本のサラリーマンとしては当り前なんですが、その合間を縫って全国の詩誌・詩集を読めるということは、普通のサラリーマンでは味わえない悦びだと云えましょう。
 それにしても早く追いつきたいものです。




加藤三郎氏詩集『いいよ いいよ』
     iiyo iiyo.JPG     
 
 
 
 
2005.8.30
東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊
2000円+税
 

  <目次>
   T 祖母サワと古里
     いいよ いいよ 8
     玄海 12
     辛夷
(こぶし)の花 16
     日めくりカレンダー 20
     あの日の鎌の音 24
     富永先生から聞いた話 26
     バッキャア(蕗の薹) 30
     祖母サワと古里 34

   U ぼろ自転車
     玲羊
(カモシカ) 40
     マーガレットの花 44
     ぼろ自転車 48

   V あの日のこと
     蝉の声を聞いて 52
     マインドコントロール 56
     あの日のこと 60
     蝉が鳴いています 64
     一銭五厘 68

   W 長い廊下
     金魚が死んだ 74
     おはるさん 78
     十一月十九日 82
     父の日 86
     機能訓練棟にて 88
     長い廊下 92
     リハ科は花ざかり 96
     落葉と共に 98
     慰霊祭の日に 100
     二疋の野良猫 104
     おれの目は 108
     ぶち猫の仕事 110
     俺と同じ九十四 114
     年賀状 118

     解説 森田 進 122
     あとがき 128



    いいよ いいよ

   この世にいないことになっている
   俺が おれがと迷いながら
   郷里の甥っこに電話を
   甥でなく外の誰かに電話口で
   「どっら様ですか」と問われたら
   「○○さんの戦友です」と答えよう
   万一の場合まで考えて
   電話番号を確かめてダイヤルを回したら
   「もう一度電話番号を確かめておかけ下さい」
   チェッ 間違ったのかと舌打ちして
   広告の裏に電話の番号を大きく書き
   一字一字確かめて回した
   「ハイ ○○です、叔父さんか」
   「俺だよ 皆元気か……
    お盆が近くなったので先祖の墓を
    守っているお前宛に住所と名前を
    変えて ご先祖の供養も兼ねて
    送ったからなあ……」
   「何時も心配かけて申訳けねなさ
    何時までも隠しておいで
    申訳けねださ……」
   「いいよ いいよ 戦死したことでいいよ」

   ときどき家族の気配を
   確かめながら話す甥のひとこと
   ひとことが
   俺の脳裏に残り波うっている

 著者は今年95歳。13年振りの第2詩集です。タイトルポエムを紹介してみましたが、ちょっと解説が必要でしょう。著者はハンセン病により1948年から現在まで療養生活を送っています。この作品が書かれた時期は不明ですが、現在ではハンセン病は伝染病ではなく、国の隔離政策も誤りだったと認知されていますけど、親族にとっては「何時までも隠して」おかなければならないことなのかもしれません。それに対して「いいよ いいよ 戦死したことでいいよ」と応える著者の心境を思うと、つなぐ言葉が見つかりません。
 詩集には100歳を越えてもお元気だった療養者の作品も出てきます。部外者が簡単に言えることではありませんが、100歳になって第3詩集を出版したら素晴らしいでしょうね。ボンヤリと生きている私などには刺激的な第2詩集でした。第3詩集もぜひ読みたいものです。




増田幸太郎氏詩集『遠い声』
     toi koe.JPG     
 
 
 
 
2005.8.30
東京都小金井市
木偶詩社刊
1800円+税
 

  <目次>
    T
   果樹園にて 6
   秋 8
   向日葵 10
   蝉 12
   街角にて 16
   スケッチ・底沢を行く 20

    U
   スケッチ・音更にて 24
   遠い声 32
   夏を想う 44
     山塊を征く 44
     夏の跡 49
     復讐のこと 51
     曙光のとき 53
   黄砂が来た 56
   新しい世紀からの挨拶 74
   北の国からの挨拶 88

    V
   紀の国からの挨拶 108
   紀の国からの挨拶U 122
   紀の国からの挨拶V 144
   越中・魚津からの挨拶 156

    あとがき 170
    初出一覧 172
             題字 鎌田 憲



    果樹園にて

   果樹園に朝
   彼方こなたの風あつまり
   わたし達は
   降り注ぐひかりの国に立つ
   果樹園はおだやか
   神々の国のように

   わたし達は二つに区切る
   小川のほとりを歩いている
   せり 三つ葉
   草々の群れからより分けて
   遠い千年の営みを手にする

   土が与えた香気
   水と共生する光沢
   光を吸収する生命力
   風が微かに現れて呼吸する
   わたし達は
   朝の果樹園に興奮する

   五月の
   高い空を見る
   わたし達は二つの空を眺めている
   遠い遠いお話を聞くように
   少年の顔を見る

   わたし達は
   果樹園の優しさに
   甘えている

   わたし達は
   果樹園の風に
   夢想する

   果樹園に朝

   果樹園は豊かに色めき
   わたし達は果樹園の朝に好色する
   わたし達をつつむ風
   わたし達は静かに好色に着手する

   ホロホロ奏でる
   空気のゆさぶり
   わたし達は満身で
   深呼吸をする

 著者は長い間、詩誌『木偶』を発行していますから、とうぜん詩集は数冊お持ちだと思っていましたが、驚いたことにこれが第1詩集でした。途中休刊があるとは云え、40年に渡って『木偶』に発表したものの中から厳選された作品ですから、さすがに読み応えはありました。紹介した詩は巻頭作品で、1995年10月発行の『木偶』26号に収録されたもの。この詩集では最も古い時期の作品になります。「好色」という言葉に「果樹園」と「わたし達」の基本的な関係が表出しているように思います。

 詩集中の数編の作品はすでに拙HPで紹介していました。
「蝉」は初出では蝉が死んでいる≠ニいうタイトル。本詩集タイトルの「遠い声」「復讐のこと」にはハイパーリンクを張っておきましたので、合せてご覧いただければと思います。




詩と訳詩のざっし『火片』159号
     kahen 159.JPG     
 
 
2005.8.20
岡山県総社市
井奥行彦氏方・火片発行所 発行
500円
 

  <目次>
   ライナ・マリア・リルケとエリカ・ミテラーと
    の詩による往復書簡    鈴木  俊 1

  【詩篇】
   わらの上          斎藤 恵子 8
   あわを付けて        重光はるみ 9
   少年と口笛         松本 弘子 10
   立つ            玉上由美子 10
   細い足跡          佐藤 祝子 12
   雨の季節          神崎 良造 12
   あの日 他         中桐美和子 14
   ねがい 他         藤原由紀子 15

   アンサンブル さくら    清板美恵子 17
                 片沼 靖一

   記録
    母 永瀬清子の思い出   井上 奈緒 19

   エッセイ
    うるか          岩ア 政弘 21
    ふるさとの頃とヒヨドリ  松本 弘子 22
    詩心の源流6       井奥 行彦 24

  【詩篇】
   高梁川の川港        柏原 康弘 27
   蟻2・3          岩崎 政弘 28
   さようなら 亡き父に    岸本 史子 29
   挨拶? それとも?     余頃 政敏 30
   禁句C           白神直生子 31
   灯台の木 他        片山 福子 32
   吉報          はやし・さちこ 34
   老千行18・19        皆木 信昭 35

   詩集特集
   皆木信昭『ごんごの独り言』ノート(続編) 37
    文屋 順・瀬谷耕作・川原よしひさ・小林
    猛雄・小川アンナ・諸隈道範・冨長覚梁・
    横井新八・津坂治男・明石裸人・飽浦 敏

  【詩篇】
   鳶            しおたとしこ 39
   クジラの独り言 他     山下 静雄 40
   未明に 他         金光洋一郎 41

   詩集特集
   金光洋一郎詩集(日本現代詩文庫)     44
    河合洋・相馬大・戸井みちお

   シルエットと肌触り     川田 圭子 50
   茎ちしゃ          則武 一女 51
   町             木村 雅子 52
   こども         なんば・みちこ 53
   透かし百合 他       石川 早苗 54
   異常の夏          井奥 行彦 55

   読者のページ     担当 山下 静男 57
    馬=岡崎達実/不思議=小林令子/絆=中
    田文子/こころの糸 他=小林幸子/舟出
    =亀井寿子
                 後記 井奥



   
ENSemble
    さくら

           清板美恵子

   季節は
   何度も繰り返されるのに
   心は
   動かなくなってしまった

   どの季節が いいのか

   春なのか
   秋なのか
   暑いのか
   寒いのか

   何を どうすればいいのか
   もっともっと 話すことがあった
   のに

   今年も さくらの花は
   散ってしまいました


           片沼 靖一

   がくえんで街頭で
   きどうたい帰れと叫びつつ
   さくらふぶきを血に染めた

    どうどうめぐりの議論をし
    きったはったの世界にかさね
    いのちかける青春を
    ななめにかけめぐり鳴咽した
    せなかのさくらが泣いていた

   よのなかはとうの昔に革命され
   みんなおとなしく従順で
   じこあいに満ちて
   かぞくあいに溢れた
   しみんに成長した

   あしたはあしたの風にふかれて
   せかいじゅうにいっぱいの花が・・・

    あのときの若造
    あのときの異端児
    あのときの馬鹿息子
    あのときの君
    あのときの僕

   散りゆく さくら

 「さくら」という共通のタイトルでのアンサンブル。おもしろい試みだと思います。清板氏と片沼氏の視点はちょっとズレているようですが、でも「心は/動かなくなってしまった」というフレーズが橋渡しをしていると云えますし、もっと直接的には「さくらの花は/散ってしまいました」と「散りゆく さくら」でしょうか。おそらく意図せずに、結果的に「散る」に至ったと思うのですが、個性の違う二人の詩人が「散る」で決着をつけるということに面白味を感じています。詩人にとっての「さくら」とは、やはり散ってこそのものなのでしょう。それにしても「あのときの若造/あのときの異端児/あのときの馬鹿息子」は今、どうしているんでしょうかねぇ。




   back(8月の部屋へ戻る)

   
home