きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.5.29 さいたま・見沼たんぼ「見沼自然公園」にて



2006.6.22(木) 1頁

 昨日は20冊の本をいただきました。拙HPを開設して8年目に突入していますが初めてのことです。うち15冊は日本ペンクラブの会員でもいらっしゃる石田天祐氏からのものでした。通常の5冊は昨日と一昨日分に振り分けまして、今日からはその15冊に取り掛かります。携帯電話で見ることも考えると15冊同時は容量を越えてしまいますので、4部ぐらいに分けようと思っています。ちょっと不規則ですがご容赦ください。また、そんな関係で本日以降にいただく本は1週間後ぐらいの紹介になると予想されますので、これもご海容ください。

 
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総合文芸誌『まほろば』41号
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1986.12.25 奈良県奈良市
河野アサ氏発行 400円

<目次>

「愛しさ」へ ……………… 蒼 い 秋 2
朝日のなかの死のかたち … 早川 玲子 4
俳句
在るほどは ………………… 紀埜くに子 30
小説
海へ舞う枯れ葉 …………… 阪上 誠一 6
魔法の水槽 ………………… 大田  朗 23
特技 ………………………… 河野 アサ 31
野望の人 …………………… 石田 天祐 40

次回合評会のお知らせ …………………… 153
編集後記 …………………………………… 154
同人・会員名簿 ……………………… 表紙の3
表紙の絵/武田好昭(『鳥語』同人)



 朝陽のなかの死のかたち/早川玲子

日曜の朝陽のダイニングキッチンに
あちこち コンタクトレンズが落ちていて
−へんねえ 今朝は−
よくみると 乾きながらもなお円みを残す
鯛のうろこ

ああ
きのうおそく黒門市場の夜市で
彼が見事な鯛を一尾買ってきて
包丁三丁ふりまわして刺身にして
白身にほんのり桜色をにじませた高貴な味を
ぞんぶんにお腹におさめた

今朝も暑い その熱気のなか
踏みつけそうなかすかな視線
先日コンタクトレンズ片方落して大さわぎした娘に
「ほら たくさんあるよ」
といったら
「ママ 一つ眼に入れてみたら?」

 眼からうろこが落ちる、というけれど
 カマウコトハナイ

すこしは涼しい海がみえるか
お腹の鯛の身が寄りそってきて
太古に遡る魚びとに変身するか

ふいに網にからまったとき
鯛は
全身を眼にしてふるさとを跳ねたのだ
一波おくれて真実を知るいとなみを
その満ち満ちた限で跳ねたのだ

朝陽のなかの死のかたちは
ただ
小さくて 円い

 「コンタクトレンズ」かと思ったら「鯛のうろこ」だったという作品で、「眼からうろこが落ちる」と駄洒落で終わるのかと思いましたが、最終連ではきちんと「朝陽のなかの死のかたち」と収めています。第5連の肉体感覚や第6連で「鯛」に思いを馳せるところは見事だと思います。生物を食べなければ生きて行けない人類の業を感じた作品です。



総合文芸誌『まほろば』60号
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1998.12.25 奈良県奈良市
河野アサ氏発行 1500円

<目次>
【詩】
水曜日・身体という劇場−−−−−−−−−−−−森本 充保 2
釣瓶落とし 他二篇−−−−−−−−−−−−−−三谷 惠一 4
ヒエログリフ−−−−−−−−−−−−−−−−−早川 玲子 6
笑顔を作るため−−−−−−−−−−−−−−−−有村 優子 8
東大讃歌 他六篇−−−−−−−−−−−−−−−石田 天祐 10
【エッセイ】
うちの嫁さん−−−−−−−−−−−−−−−−−河野 善充 22
織田作之助(三)「わが青春」−−−−−−−−−中島 秀典 24
イタリア式快楽の探検−−−−−−−−−−−−−成羽  学 28
スピードと平常心−−−−−−−−−−−−−−−浅木 武彦 31
「産湯相乗事」考(四)−−−−−−−−−−−−羽那俵太郎 32
“噂と怪文書”の時代−−−−−−−−−−−−−渡辺 憲司 33
劉備の魅力−−−−−−−−−−−−−−−−−−諸江  明 36
亡き妻に贈る言葉 他一編−−−−−−−−−−−石田寿参百 40
母を想う −−−−−−−−−−−−−−−−−−加藤  節 42
進駐軍がやって来た叩−−−−−−−−−−−−−宮本 克巳 44
石田家猫騒動記−−−−−−−−−−−−−−−−石田 天祐 46
京阪相撲の板番附−−−−−−−−−−−−−−−石田 天祐 50
イナンナの言語学(22)天宇受売命−−−−−−−石田 天祐 52
“ペン・だこ”にキッス−−−−−−−−−−−−森岡 満男 124
【特別記念60号特集】まほろば全号編集後記収録−1号〜59号 169
【小説】
作家片影 埴谷雄高−−−−−−−−−−−−−−村井 英雄 60
小説マインドコレクター(連載第一回)−−−−−多武峰 神 63
ドール・ハウスーーーーー巾−−−−−−−−−−吉本与梨子 77
メリーさんの羊−−−−−−−−−−−−−−−−志賀内牧嗣 88
勝利−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−坂上 誠一 90
MISSING(失踪)第二回−−−−−−−−−羽田 岸光 101
黒髪山(三)−−−−−−−−−−−−−−−−−小杜  甫 105
危ない関係−−−−−−−−−−−−−−−−−−柿人 白図 116
バラの花束−−−−−−−−−−−−−−−−−−石井サト子 117
花もの狂い−−−−−−−−−−−−−−−−−−河野 アサ 136
編集委員及び執筆者名簿−−−−−−−−−−−−−−−−− 221
編集後記−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 223
表紙写真:既刊「まほろば」表紙



 アルコバサ秘話/石田天祐

「わが息子よ、ペドロよ、
お前はポルトガルの王子だ
この小さな国を
周りの強国から保つのがお前の務めだ
結婚については
自分で女を選んではならぬ」
アフォンス王はかく宣言し
ペドロ王子に
カスティリヤ王国のコンスタンサ姫との
結婚を強いた
ペドロ王子は
妻の侍女イネスを愛し
三人の子供を産ませた
王と家臣たちは
カスティリヤ王国の圧力を恐れ
王子の留守を見計らい
イネスと三人の子供を暗殺した
やがて 王位に就いたペドロは
復讐の鬼と化し
暗殺者たちの首を次々と刎
(は)
イネスを正式の王妃と認めさすため
大がかりな結婚式を挙げた
イネスの死体を墓場から掘り出すと
その腐乱した肉体にドレスを着せ
家臣たちに結婚の証
(あか)しのキスを強いた
平成十年四月一九日
リスボンの北、アルコバサの
サンタ・マリア修道院を尋ね
回廊の奥の一室に横たわる
ペドロ王とイネスの石棺を見た
ベドロ王の石棺は
六匹のライオンに支えられていたが
側面が破壊されていた
財宝を奪うために
ナポレオンの兵士が明けた穴の跡だった。
          (平成十年四月一九日)

 「平成十年四月一九日」に「アルコバサの/サンタ・マリア修道院を尋ね」た際の紀行詩のようです。西洋史に詳しくないので「ペドロ王とイネス」の話は知りませんでした。それにしても「イネスの死体を墓場から掘り出すと/その腐乱した肉体にドレスを着せ/家臣たちに結婚の証しのキスを強いた」とは凄いことだと思います。日本でも似たようなことがあったのかもしれませんね。この作品も人間の業の深さを感じた次第です。



総合文芸誌『まほろば』61号
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1999.12.1 奈良県奈良市
河野アサ氏発行 1500円

<目次>

石田天祐 南イタリア紀行 2/シチリヤ紀行 3/妣の三回忌 5/昔話 6/山東紀行 8/パガン紀行 9/ミャンマー紀行 10
三木 昇 黄河の水 11
久我久美子 出合い 12/誕生日の夜に 13
三谷惠一 聖菓 14
遠藤寿子 信州上田「無言館」にて 16
阪上誠一 『新往生要集-地獄篇-』17
志賀内牧嗣 定め・マスク・投影 28/山頂にて・回帰 29
エッセイ
共同幻想の発生から差別論まで 原内信光 31
えにしだの花 加藤 節 50
五年間 亀井はるみ 54
幼稚園の門――四月 小野山節 56
「よりどころ」を考える 河野善充 58
スペインファッションの魅力 溝木武彦 62
思い出のアルバム 胃歯唾酢味魚(いしだすみお) 64
タンメル川のほとり ピット・ロッホ・リーの村にて 野口繁雄 68
オナツばあさん(其の一) 宮本克己 73
広幡神社御旅行所の相撲番附 石田天祐 76
小説
作家片影 埴谷雄高(連載二) 村井英雄 80
彷徨 83/幻想的な手記 88 志賀内牧嗣
猫のみつえの話 久我久美子 98
誘惑 田川統天 103
妖(第一回) 石原滝子 106
夜明けの銃声 森岡満男 110
午後の光景 鳥越九郎 113
花盗人十話(第一話 章子) 荒 破天(あら やぶれてん) 116
(連載第二回)小説マインドコレクター 多武峰神 119
父の相撲記 石田天祐 112
「世紀末の課題」菌
(たけ)くらべ 河野アサ 150
第61号合評会のお知らせ 79/前号合評会ご報告 160/名簿 162/編集後記 164
表紙(写真)「課題」 制作 河野アサ
 既に歴史的には新世紀に在る(キリスト生誕はBC8〜4年)私達は自ら作り選んだ黒い力(核・環境破壊等)を緑に戻す道を歩み出しています。



 誕生日の夜に/久我久美子

何年も 何年もたって
もう 忘れるほど 月日がたって
顔も変わり 髪も変わり
悲しみや 喜こびのものさしも変わり
日々のくらしに 精いっぱいの頃になると
自分が忘れものをしている事も
忘れてしまうものです
ごつごつした 手の荒れは
そのまま 人生のあかし
涙も出なくなった瞳は
いったい いくつのものを見てきただろう

あざむかれる事の多かった日々は
そのまま 心の奥のしみとなり
ことあるごとに さりげなく
口びるのはしに ゆがんで表れます
気づきませんか たくましいはずのその肩は
本当は虚勢であることを
大声をあげて笑うその声は
本当は怒りの叫びであることを
大地を踏みしめたその足は
本当はくずおれるほどか細いことを

時間はオブラートになって
何もかも
嘘を本当にしてしまいます

 「誕生日の夜に」というロマンチックなタイトルに惹かれましたが、内容はそう甘いものではありませんでした。「自分が忘れものをしている事も/忘れてしま」ったり、「たくましいはずのその肩は/本当は虚勢であ」ったり、「大声をあげて笑うその声は/本当は怒りの叫びであること」は私にも覚えがあります。最終連で書かれている通り、誕生日とは「時間」が「オブラートになって/何もかも/嘘を本当にしてしま」うものなのかもしれません。



総合文芸誌『まほろば』63号
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2001.11.1 奈良県奈良市
河野アサ氏発行 1500円

<目次>
詩・短歌・俳句
三谷惠一 那覇航路の秋 2
三木 昇 夜行寝台列車 3
石田天柘 猫になりたい 4/父との出会い 5/父の魔術 6/父の想い出 7/感恩の涙 8
多武峰神 コスモスの意味 9/心の秘密を語る鳥 9
遠藤寿子 挽歌 10
エッセイ・小説
「一九八七−一九八八年、イギリスより」−七通の手紙− 野口繁雄 11
イッタラキマース 河野アサ 22
プラトンの論理 阪上誠一 44
黒髪山(四) 小間 甫 53
作家片影 埴谷雄高(四) 村井英雄 62
妖(三)−緋色の世界から− 石原滝子 66
イザナミ語造語辞典(一) 編集主幹 石田天祐 72
夜這いは文化 宮本克巳 82
「いのち」PART1(父親篇)88/「いのち」PART2(母親篇)89 河野善充
「いのち」番外篇? はぐれ雲新之助 90
川柳笑会 ピースキャリーの仲間達 編集 河野善充 92
轍のあとを 久栽久美子 94
翻訳とは 亀井はるみ 102
山村晩夏(私のスケッチブックガら…) 山田一好 104
チャッティ・キャッツの放言録(おしゃべり)第二話 寝猫(ねねこ)ドラゴ 107
糸井神社の相撲番附 石田天柘 110
花盗人十話 荒 破天(あら やぶれてん) 112
恋うたの人 和泉式部の時空 夏樹 葉 116
●表紙(赤い椅子) 山田一好 ●編集後記 132



 夜行寝台列車/三木 昇

孫文ゆかりの中山公園内にある
清朝風の飯屋で夕食をすませ
北京駅に着いた時はまだ明るかったが
ごった返しのホームに立っていると暗くなってきた
日本では時間が消耗品になってしまったが
この国では混沌として
時計のネジをいくら巻き戻しても分からない

今度の旅行の目玉の一つは
曠野を突っ走る夜行寝台列車に乗ること
じかに混沌とした空気に触れてみたかった
対にしつらえた三段ベットの寝室の
カーテンを開けていると
人の息がむんむん通路を通る
落ちつかぬまま窓際にしつらえられた小さなテーブルヘ
持ってきた新聞を出しぼんやり見ていると
隣の寝室から一人の青年がやってきて
早口で喋りだした
久しぶりに日本語で話すことができたとうれしそう
聞けば韓国に残した祖父の墓を訪ね
やはり船で中国へ渡り
列車を乗りついで北京へきたという
Y大学の学生だというその青年は
新聞一面のおおきな記事に目をとめて
黒沢明は亡くなったのですかと感慨深そう
そう言えば黒沢の映画は時間に強いリズムを作った
ジョン・ヒューストンの映画のなかの名セリフでは
「時間はスイスで作られ、フランスで使われる。イタリア
では欲がれ、アメリカでは金になる、インドには存在し
ない」
彼はこの国の時間をどう言い現わすだろうか
捉えどころのない時間が通路を行ったり来たりしていた

三段ベットの上段へ頭をぶっけながらももぐり「紅楼夢」
の「風月夢夢秘曲紅楼」の曹霑の夢でもみるべく眼を閉
じてみたが
曠野を走る車輪の響だけが
夜どうし眠りをたたきつづけた

洛陽駅で友人と待ち合わせをするといっていたあの青年

未明の混雑したホームに立つともう見当らなかった
うつろう時間と微小な個の存在を噛みしめていた

※ジョン・ヒューストン監督の映画「悪魔をやっつけろ」から


 中国はもとより一歩も日本列島から出たことがない私には想像もつかないことですが「日本では時間が消耗品になってしまったが/この国では混沌として/時計のネジをいくら巻き戻しても分からない」という詩句には説得力があると思います。その「時間」を軸に走る「夜行寝台列車」という設定は見事ですね。挿入された「ジョン・ヒューストンの映画のなかの名セリフ」、「時間はスイスで作られ、フランスで使われる。イタリア/では欲がれ、アメリカでは金になる、インドには存在し/ない」も奏功している作品だと思いました。


   
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