きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.9.16 群馬県榛東村「現代詩資料館・榛名まほろば」にて



2006.10.13(金)

 神奈川県西部地方で活動している「西さがみ文芸愛好会」の運営委員会に出席してきました。今回の主な議題は二つ。
 一つ目は恒例の<文芸のつどい>を11月10日(金)14時〜16時に小田原市民会館で開催することです。会費は3000円の予定で、ハープ独奏や、ハープをBGMにした朗読などを予定しています。これは~靜民報社と共催ですから、詳細は合議後でなければ公表できませんので悪しからず。
 二つ目は、これも恒例の<文芸展覧会>を来年1月25日(木)〜29日(月)の予定で小田原・アオキ画廊で開催します。特別作品展は、今年は蕗谷紅児でしたが、来年はまだ未定です。腹案は出ましたけど決定に到っていませんので、これも公表は避けます。
 いずれも近くなりましたら拙HPで宣伝しますので、お近くの方、遠くの方でも泊まりのついでに寄るか、などとお思いの方は今のうちから予定に入れておいていただけると嬉しいです。小田原市民の方には「広報おだわら」でも公示されると思います。地元の日刊紙「~靜民報」(宣伝だな、こりゃ(^^;)にも載ると思います。
 いずれも私は参加しますので、ついでに村山と会うか、とお思いの奇特な方がいらっしゃったらご一報ください。逃げます、、、いえいえ、一献お付き合いいたしましょう(^^;



新・日本現代詩文庫42
『遠藤恒吉詩集』
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2006.10.30 東京新宿区
土曜美術社出版販売刊 1400円+税

<目次>
詩集『糞』(一九五九年)全篇
序・10        下宿の二階で・10
茶柱・11       車中にて・12
しんけんな話・13   小気味良き感触・14
深夜・14       ねこすてた・15
糞・16        通夜・16
火葬場点描・17    いやな奴・18
あとがき・21
詩集『死体安置室附近』(一九六六年)全篇
序・22
 T
犬とかみさん・23   出て来た・24
夕焼け・25
 U
春・26        木・27
献身・27       骨なし・28
灯・28        闇・29
確認・29       生・30
異物・30       上天気31
死体安置室附近・31
 V
スイマセン・32    あんた・俺・33
坊やは笑ってる・35  明日の朝は眠がさめるのか・37
あとがき・38
詩集『昭南島日記抄』(一九七二年)全篇
序詩 敵襲・39
 T
上陸・40       道の端に・41
献立予定表・41    グランドピアノ・42
コスモス・43     宣撫・43
祭・44        写真一葉・45
石松・46
 U
雨・47        身辺整理・48
月・48        最初・48
モチャタラの犬・49  そう遠くない日に・49
光と影・50      首・51
発破・52       ひとり・52
スコール・53     あとがき・54
詩集『明るい五月』(一九九三年)全篇
男・55        おんな・56
言葉・57       わたしもインコも・58
馬・59        ここを通って・59
当人・60       演出・60
DARUMA・61   くろよんダムは・62
くるまいす・63    掌・64
退院告知・65     退院したとき・66
歩くというのは・66  救急車が・67
明るい五月・68    あとがき・69
詩集『ばんざい詩集』(一九九七年)全篇
序詩・70       ほうかごのきょうしつ・70
くびがり・71     バンザーイッ・73
どこで どう・73   泥・74
切符・76       海原にありて・77
上陸・77       転進・78
バンザイ・クリフ・79 ふかいしじま・80
眼・81        これで いいか・81
あとがき・82
詩集『十月の痰壺』(二〇〇二年)全篇
しろがみ・83     言葉・83
兵隊さん・84     もたもたするな・85
分配・85       めし・86
ビンタの話・87    十月の痰壺・89
慣れる−帰還兵の話−・89
通信講堂で・90    かわや行・91
電車の音・92     撃つ−帰還兵の話−・93
三分間・94      あれは−帰還兵の話−・95
異常・96       電車の中・96
出征・98       言葉の解説・98
あとがき・100
『未刊詩集』
安心・101       入院・101
繰り返し・102     伏里駅付近・103
カニもヒトも・104   微熱が続く・105
不法逮捕・105     生きて行くということは・106
廊下・107       つまりは・108
くすり・108      カリカリ・109
親も子も・110     もういいかい・111
ハンナ・112      捨てる・112
殴られ屋・113     馬酔木・114
身辺整理・114     孫・115
腎臓の加減・116    咳よ・116
吐き気に・117     微熱が・118
その病室・118     人の数・119
お見舞い・120     富士・121
朱の帽子・121     蕃柿・122
残されたもの・123   死ぬと・125
五十年は・125     病院で・126
その男・126      いなくなる・127
首狩り族・128     ある日突然・128
エッセイ
創作でない創作ノート・132
きっぷ・139      焼きいも・140
きもの・141      だりっピッ・142
おねがい・143     手ぶくろ・144
いちばん弟子・146   けむり・148
晩秋・149       おけいこ・150
みみずのごはん・152  香水・153
どろぼう・154
近藤東賞受賞の挨拶にかえて−紙上挨拶−・157
会計担当について−日本未来派三十周年大会で−・158
落語とわたし・160   安心・164
解説
西岡光秋 向日性の詩情・168
中村光行 遠藤恒吉さんのこと=笑わない眼・173
稲葉嘉和 ユーモアの人 詩人・遠藤恒吉氏の人と作品・174
年譜・182



 くろよんダムは

くろよんダムは
おもむろに
水を満たして
白い腹の真ん中から
谷へ向かって
しょうしょうと
ひとすじ
おとしている

くろよんダムは
かわいい餓鬼だ
しょんべん小僧だ

男たちがそれを見ている
女たちもだまって見てる
男たちは 崖の上から 橋の上から 柿の木の上から
あるいは富士山の素てっペんから
そうしておとしたことを思い出し
女たちも
キラリと思いをたちきって
さて
みんな
ここちよさそうに眺めている

ああ
総工費五百拾参億円
だれだ
こんないたずらをしたのは

 昨年3月に88歳で亡くなった遠藤恒吉さんの文庫です。生前の遠藤さんからは
随筆集『亀がいる廊下』、詩集『十月の痰壺』をいただいています。他に詩と評論誌『日本未来派』201号の作品「遅刻」を紹介しています。いずれもハイパーリンクを張っておきましたのでご参考にしていただければありがたいです。

 紹介した作品は1993年刊の第4詩集『明るい五月』に収録されたものです。解説の西岡光秋さんに依れば、1966年9月に長野県大町で開かれた『日本未来派』の全国大会の帰路立ち寄ったときの作品ではないかとのこと。さらに最終連の嘆きは「用水路確保のために自然破壊が現代の合理主義の矛盾を叫ばせる」ものだと解説しています。壮大な黒四ダムも遠藤さんの眼には「かわいい餓鬼」「しょんべん小僧」としか映らないのだとも解説されていました。
 その上で蛇足をつけ加えるなら、私は第3連もおもしろいなと思っています。「男たちが」「しょんべん小僧」を「見てい」て、「男たちは 崖の上から 橋の上から 柿の木の上から/あるいは富士山の素てっペんから/そうしておとしたことを思い出し」ているのに対して、「女たちもだまって見てる」のに「キラリと思いをたちきって」います。この男女の対比はすぐに思いつくことですが、女性をどう書くかが難しいところでしょう。それをさらりと、しかも視線をちょっと外して書いているのように思います。その象徴が「キラリと」という言葉ではないでしょうか。ここも巧いなと思いました。

 そうやって見ると、この作品には一切の無駄がないことが判ります。ハイパーリンクを張った作品からもそれは感じ取ってもらえると思います。改めて文庫という形でほぼ全作品を見ると、遠藤恒吉という人は稀有な詩人であったのだなという思いを強くしています。遠藤恒吉研究のみならず、固まった頭をほぐしてもらえる遠藤ユーモア詩集とでも謂えましょうか、お薦めの1冊です。
 遅れ馳せながら遠藤恒吉さんのご冥福をお祈りいたします。



季刊詩誌『木々』34号
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2006.10.25 東京都小平市
木々の会・鈴木亨氏発行 700円

目次
<扉>起点 伊藤桂一 1
●抒情詩への道…鈴木 亨 2
八月の暗がり…内山登美子 12        あげは蝶…菊田 守 14
母の日…山本みち子 16           姉 逝きぬ…天野さくら 17
夜の電話…所 立子 18           棘…石渡あおい 19
あの岸辺で…関野宏子 20          木香薔薇のひかり…中山直子 21
数える…原利代子 22            声…舟本邦子 24
哀しみの六十一年日の夏…服部光中 26    花びら に…石井真智子 27
本当の事は…岡田壽美榮 28         わが菜園の時…松沢 徹 29
●菊田守著『夕焼けと自転車』を読む <書評>…新井豊美 30
●川田靖子著『私はパリの老人病院実習生』<書評>…森 富子 32
火曜日のブルース…菊地貞三 34       梅雨寒の庭…川田靖子 36
確かなもの…伊勢山峻 38          祭り…細野幸子 40
廃屋…春木節子 42             秋…越路美代子 44
癖(三)…宮田澄子 46            桔梗…久宗睦子 47
夜空…柳内やすこ 48            時が逝く…弓削緋妙子 49
菜園の空…岩井礼子 50           山ざくら…宮城昭子 51
花嫁衣裳…小林憲子 52           晒井…来栖美津子 54
歌手カード…立川英明 56          幻想譜…比留間一成 58
●忠烈祠の迷い人…原利代子 60
●パステルナークの長靴…中山直子 62
<木の椅子> 枚正?おそるべし…菊地貞三 65



 確かなもの/伊勢山 峻

尾根道からはずれて
下ろうとしたら
胸をひらいて
立っている若い娘がいた
前に飛行服を着た若い兵士が
敬礼をしている

娘は胸のボタンをかけ
お辞儀をし
くるりと向きを変え
林道をころげるように下っていった
兵士は不動の姿勢で
敬礼をし続けている

兵士は娘とは違った道を
下りはじめた
そのさきにおびただしい
ドラム缶が並んでいる
敵機から見えないように
シートの上は木々の枝で覆われている

空襲警報が解除になって
学校工場には
一時間以内に戻ればよかった
尾根道に戻り
ゆっくり下る

爆音がして空を見上げる
日本の飛行機「連山」だ
「連山」が飛んでいるから空襲はないな
米本土空襲をめざして
試作した爆撃機
制空権を奪われた日本で
米軍の目を盗んで
無骨な四発爆撃機
あてどない試験飛行
学校工場へ帰っても
えたいのしれない木ぎれを
削るばかり

さきほどの光景が目に浮かぶ
若き兵士は誰にでもなく
あの胸の膨らみに敬礼していたのだ
二つの蕾ほど
確かなものはもう何もなかった

三月後日本は無条件降伏した

 「無条件降伏」する「三月」の時点での「確かなもの」は「二つの蕾」であったという作品ですが、これもひとつの戦争の記録だろうと思います。「胸をひらいて/立っている若い娘」と「飛行服を着た若い兵士」の関係は判りませんが、ことによったら恋人同士であったのかもしれません。そういう形でしか愛を表現できなかった当時の恋人たちのことを思うと、胸が痛みます。
 「米本土空襲をめざして/試作した爆撃機」に「連山」というのがあったとは知りませんでした。「米軍の目を盗んで」「あてどない試験飛行」をする「無骨な四発爆撃機」の姿は哀れささえ感じます。いずれも貴重な記録と思った作品です。



詩誌『木偶』66号
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2006.10.7 東京都小金井市
増田幸太郎氏編集・木偶の会発行 400円

<目次>
落下論 (4)/中上哲夫 1         蔦/野澤睦子 3
わかれじたく/藤森重紀 5         耳について/乾 夏生 7
遠足/乾 夏生 9             心象風景/川端 進 11
八月十五日・枇杷の里/土倉ヒロ子 14    飛鳥より/落合成吉 17
木簡の馬/荒船健次 19           サンバのビーム/天内友加里 21
透明な隣人/田中健太郎 23         飢語抄 −方言詩による朗読の試み−/仁料 理 25
残照/増田幸太郎 31
連載6 読む 川端 進詩集『日々是好日』/馬渡憲三郎 35



 残照/増田幸太郎

その1

あの夏の日から
長い長い歳月が過ぎていた
根室本線・新内駅へ至るS字カーブ
SL・D51の雄姿を置く

鉄路が続いている
今、あえぎながら
鋼鉄の点景が動く
噴煙
咆哮する轟音
大地が茜色に染まる頃
前頭部の姿が迫って来た

もうもうと
空をなめる煙の海
波は風に追われ かき回わされ
夕の抒情が困惑する
謀叛の反旗
風のかたちである

やがて
虹のように
淡い水彩をまぶした空
見事に染めた落日のやさしさ

静寂が訪れる
劫初の変わらぬ位で
夏の小さな永遠が置かれていた

その2

小川とせせらぎに
蛍雪を置く
蛍が闇に浮かぶ
草陰や小枝の光を奪う衝動にかられ
小さい袋に入れる
ぼくは
群れて光る蛍をつり下げる

ああ、薪ストーブの空気穴
漏れる薄明かりの窓
わずかに活字は浮き上がり眼は走る
山村の夜は長く
わたしは蛍を一面に貼り付ける
蛍は直ちに死に
ひかりを失い消えた
意図は虚しく失敗した

あのセピア色のにがい夢
老いの坂道に点々と明滅する
黄緑色の透明現象である

その3

しばし
小さな星雲を闇に置く
ふと 点と線が走る
光は蠢蠢と風のように屈折する
見える見える
黄緑色の旋律
伸びる光
なおも双曲を見ようと
光を追う
見える見える
眼が動く

蛍光・群蛍・孤蛍・飛蛍・流蛍
きみは
今 わたしと向かい合う
背面は偏平 触覚は糸状
緑の箱に
わたしはきみの発光器を確認する

きみは求愛する
きみは乱交する
清例な流れに照射する銀河のかたち
わたしはきみの姿を求めながら
地球の未来を透視する

ホタルが飛んだ
わたしの闇に浮かぶ孤高のシグナル
失われた時と
失われた大地と
生存を絶たれた山河とせせらぎ
わたしを
α星雲の彼方へ演出する
そのとき
そよ風が山肌から降りて来た
草木を揺らしながら
其処だけにあった黄緑に放つ光の園
今はもう姿を消している

 「置く」という言葉が印象的な作品です。「SL・D51の雄姿を置く」、「夏の小さな永遠が置かれていた」、「蛍雪を置く」、「小さな星雲を闇に置く」。自動詞の「置く」には、はっきりとした意思が読み取れ、他動詞の「置かれていた」にも認識の意識が感じ取れます。少し、増田幸太郎詩の構造が判ったように思いました。モノを真っ直ぐに視、それを安定した視座に「置」こうとしている詩作態度なのかもしれません。
 断りはありませんが、紹介した作品は新しい長編詩の序章のように思います。この先、その4、その5と続くのかもしれません。更におもしろい詩になっていく予感のする作品です。



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