きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.04 仙台市内




2006.12.25(月)


 さすがに今週は出掛ける予定がありません。年末までのこの1週間で何とかいただいた本の礼状の遅れを取り戻そうと思っていますが、おそらく絶望でしょう(^^; 来年まで持ち越しになりそうです。どうぞご容赦ください。



五喜田正巳氏詩集『都会の蛍』
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2006.12.10 東京都練馬区 日本未来派刊 1470円

<目次>
ある雪の日に 6   暁闇 10
墨を磨る 12     賞味期限 16
これからの夜を 18  立春 20
嚔のやうな 24    高尾まで 26
都会の蛍 30     書道展にて 34
川の音 36      鴉が嗤ふ 40
五月のポプラ 44   竹の秋 46
坂の途中で 50    明日の声 54
はととぎす 56    季節 58
白粉花 60      とほくの雨 64
秋の林で 66     子守柿 68
夢を見る骨 72    百日紅 76
庭 80        採血 84
妻の陽炎 86     れんげうの蝶 90
夏の日暮れは 94   支柱のかげ 98
  ☆
あとがき 102     表紙・左右木愛弼



 支柱のかげ

朝顔の支柱が朽ちて折れた
いまにも傾いていく影が
見てゐた私の眼の中を走った

毎年のやうに
不恰好に篠竹を立てて
朝顔を咲かせてゐた妻だった
支柱も確かなものに
花も新しい品種に
さう思ふのだが 妻は
昔からの朝顔の種を採って
変りばえのない花を咲かせてゐた

妻が死んで
今年の夏
わが家には朝顔の花がない
テレビで見る浅草の朝顔
一鉢買ひたいと思ふのだが
東京へ行っても浅草へ回るのは面倒だ
何となく過してゐる夏
やはり朝顔のないのは淋しい

妻の咲かせてゐた
小さい藍の花が恋しい
茶の間でひとり
食事しながら庭をみてゐる
朝顔の支柱が折れたのはその時だ
昨年の支柱が
そのままになってゐたことに気付かなかった

眼のなかを走った支柱のかげ
緑内障のかげと重なり
妻の新盆の月に手術することになった
見えない眼に倒れかかった支柱のかげが
妻の体のやうに重い

 今年の春に急逝した奥様への追悼詩を含んだ詩集です。紹介した作品は詩集の最後に置かれていました。最終連の「妻の体のやうに重い」というフレーズが、まさに重い作品だと感じます。第2連の「昔からの朝顔の種を採って」というフレーズからは、安易に流行に妥協しない奥様のお人柄まで偲ばれるようです。ご冥福をお祈りいたします。
 本詩集中の
「高尾まで」「明日の声」「採血」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて五喜田正巳詩の世界をご鑑賞ください。ただし本詩集では旧仮名遣いですが、リンク先では新仮名になっていることをお断りしておきます。



山川隆澄氏詩集『風のように』
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2006.12.25 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 1600円+税

<目次>
二つのチョコレート 6           みんなさようなら 13
優しい人よ、さようなら 17         野菊 23
心、童(わらべ)となって 27         無心なものよ 34
夕日に映える地蔵尊 38           別れるなんて、もったいない 43
感謝 53                  目に熱いもの 56
微笑 61                  太陽 65
清浄心 69                 霊前に捧げる 78
その奥にある或る何か 85          女と生まれ 89
精神という名の者 92            人の世に生まれ来て 96
欣求(ごんぐ)理想界 102
.          神をまことに信じれば 106
生きている、この不思議 111
.        秋 117



 感謝

秋晴れの野の国道を
磨かれ切った自動車が
きらり一瞬輝いて
大きくぐっとカーブした
巧みにさばくハンドルと
心一つのドライバー
その手にはめた真白い
両手袋が目にしみる

カーブする車体に合わせ身体を
やや傾けたドライバー
その顔と上半身にまざまざと
溢れ出たもの……
それは何
ぴかぴかのマイカーに乗る満足感
ハンドルを鮮やかに切るその快感
すべての事が美しく
また好ましくありました

だがその人はこのような
誰にでもある幸せを
過ぎたる事と感謝する
心を持った人かしら
もしその人がそのような
感謝の心の人ならば
祝福しましょう
みんなして
「幸せは幸せを生んで限りない
その人の心はいつも澄んでいて
(むさぼ)りがなく慎み深く柔らかい
そのため自他に災
(わざわい)
影を少しも落とさない」

 私も日常的に「マイカーに乗る」身ですから、この作品には考えさせられました。「磨かれ切っ」てもいないし「ぴかぴか」でもありませんけど、自分にとっては「過ぎたる事と感謝する」気持があるかと言えば、そうは言えないかもしれません。田舎で交通の便が悪いから、免許を持っているから、と当然のように思っています。そうではないだろう、と教えられました。「過ぎたる事と感謝する/心を持」つようにしようと思いました。



詩誌『詩区 かつしか』88号
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2006.12.17 東京都葛飾区
池澤秀和氏連絡先 非売品

<目次>
おそのこいど「峠」・菖蒲園の四季/内藤セツコ 再会・偽装/池澤秀和
あそび・雪のふるさと/堀越睦子       写真・沈む/青山晴江
小さな斧・ひなげし/石川逸子        人間六十二・人間七十五/まつだひでお
化野の露・川の女/小川哲史         タマゴ・問題は大人の生き方/小林徳明
北風吹いて・海は/池沢京子         渋柿・二合半/みゆき杏子
区切る・冥い星/しま・ようこ        逆照・マハトマ・ガンジー/森 徳治
風を手のなかに/酒井文麿          白い少年・東京1960年代/工藤憲治



 あそび/堀越睦子

若葉と泰葉が
五 七 五で 遊んでる
なんでもかんでも リズムふむ
俳句ではない めちゃくちゃ会話

いつのまにか
家族ぜんぶに広がって
おもしろがって わたしも参入

 「ウーロン茶 のんだらちゃんと しまってね」
 「わかってる いまそうしようと おもってた」
 「バーバさん きょうはとまって いきますか」
 「かえります いっぱいしごとが まってます」
折り紙で 洗濯バサミを 包んでた
幼稚園児が つられて発言
 「プレゼント よこたせんせいに つくったよ」
 「かずくんの へんてこりんの ぷれぜんと」
 「へんてこりんは やっちゃんのほうだ」
 「ママーわるいおくち きいてるよ−」
最後はいつもけんかでおわり

さあ次は
祖母と孫の
でたらめ演劇
はじまり はじまり

 いっぱい荷物をはこんでたラクダは
 あしを くじいてしまいました
 みなしごの すずめの兄妹は
 旅にでました
 みなみの国でみつばちは
 クモの巣に ひっかっかてしまいました

つじつまの合わない展開だったけど
平気だよ
だって
わかちゃんと やっちゃんと バーバだけの
ひみつの おはなしだものね

常識の わくをはずして のーびのび
                   二〇〇六年十二月

 「若葉と泰葉」の「俳句ではない めちゃくちゃ会話」ですが、良いですね。やはり「五 七 五」は自然に出てくるものなんだなと気付かされます。「最後はいつもけんかでおわり」というのも微笑ましく映ります。最終連の「常識の わくをはずして のーびのび」も「五 七 五」なんですね。この平和がいつまでも続く日本にしたいと思いました。



文芸誌『扣之帳』14号
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2006.12.15 神奈川県小田原市
青木良一氏編集・扣之帳刊行会発行 500円

<目次>
小田原の文学発掘(8) 山を見た人 中河与一のこと…岸 達志 2
近況…東 好一 19
山村の廃仏毀釈と神社合祀…平賀康雄 22
再び・二人の僧の俳句…佐宗欣二 30
足柄を散策する(5) 文学遺跡を尋ねて 我が産土の町・小田原…杉山博久 36
満天姫−広島城から弘前城へ…今川徳子 44
地学から見た足柄 矢倉岳・金時山・足柄峠を中心に…内田智雄 50
カルメン日記…桃山おふく 60
谷崎潤一郎をめぐる女性たち…藤井良晃 66
茂年さんの言葉…岡田花子 76
足柄学講座・民俗編 生と死の民俗(3)第六天のことなど…木村 博 77
安叟宗楞(13) 能登総持寺門前まで…青木良一 85
カット 木下泰徳/F・みやもと



 近況/東 好一

 机の前に一〇分と座っていられない。座ったと思うと腰を浮かし、ふらっと立ち上がって居間を覗く。虚ろな目で部屋を見回す。視線は漂っているだけで何もとらえていない。新聞を前から後ろから、ぱらぱらと捲る。これは日に何度も繰返す動作だ。やがて台所へ足をはこぶ。意味もなく水道の栓をひねる。水が白く光って流れる。水が流れるのか光がながれるのか。軽い眩暈がする。流し口を叩く水の音に気付いて蛇口を閉じる。そしてふらふらと書斎にもどる。椅子には座らず、時計の針に目をやって、今度はよろよろと居間を通り抜けて庭へ出る。植え込みをぼんやり眺め、何と言う事もなく落葉を拾って部屋に帰る。時計の針はわずかに進んでいるだけである。そしてまた椅子から腰を上げる。次の喫煙時間まではまだ三〇分以上もある。
 節煙中なのである。禁煙を目指してはいるが、はなはだ心もとない状況なのだ。二十四時間、頭の中にあるのは煙草のことだけである。
 節煙の目標は一日に十五本なのだが、一七、八本になってしまう。十五本というと、二十四時間のうち、目覚めている時間は十五、六時間だから一時間に一本ということになる。喫煙から喫煙への時間、煙草に手を伸ばそうとする気持ちを宥めすかすために意識のほとんどを費やしている。霞がかかった細切れの時間を毎日過ごしている。ニコチン中毒者の哀れな姿だ。これが一年続いている。

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 紹介したのは東好一さんのエッセイ「近況」の前半部分です。これは私も身につまされます。今のところ一日20本程度なので、節煙も禁煙も考えていませんが、いずれ挑戦するようかもしれません。で、東さんは今まで何本だったかと言うと、70〜80本! 多いときには100本になるというのですから、確かに節煙した方が良いでしょうね。

 煙草を吸わない人には面白くも何とも無いエッセイをなぜ紹介するかと言うと、このエッセイの導入部に惹かれたからです。最初は何のことかと思いました。「次の喫煙時間まではまだ三〇分以上もある」というところでようやく把握しました。この読者を惹きつける文章力は見習いたいと思いました。失礼ながら節煙程度のことでここまで書けるというのは驚きです。勉強させていただきます。



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