きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.10.15 箱根・湿生花園のコウホネ




2007.11.29(木)


 月刊誌の明日締切り原稿の準備をして、いただいた本を拝読して1日が終わりました。返信がなかなか追いつかず、すみません。



松尾静明氏詩集『地球の庭先で』
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2007.11.27 広島市東区 三宝社刊 1500円+税

<目次>
キャベツの癖 5   ガラス 6      靴 8
花火 10       契約 12       母 14
時代 16       子ども 18      言葉 20
芯 22        みらい 24      平和公園 26
コップ 28      少女 30       右へ 32
椅子 34       風景画 36      わたしには 38
めがね 40      罪 42        六か月 44
木村修平 46     吉田民市郎 48    安藤鉄平 49
森田国保 50     平井国愛 52     遠雷 54
道 56        理由 58       十五歳 60
颱風 62       よん 64       空 66
地球の庭先で 68



 地球の庭先で

流れて

幼児の尻の 瑞々
(みずみず)しいものが
円々
(まるまる)しいものが
上流で 水面へ落下したときから

流れて

瑞々しいものが永く水浸しのときがあって
(このふてぶてしさ)

円々しいものが渓流の岩へぶつかったりして
(このとげとげしさ)

流れて

ひたむきであった
というときがあっただろうか

ひとを激しく愛した
ということがあっただろうか

なによりも
どこへ出かけてもかぶさってくる
空の意見を見上げたことはなかった
流れていくことのなかで
わたしがわたしでなくなることを試そうと
見おろしていた空の
やさしい魂胆を見上げたことはなかった

流れて

流れがゆるくなった
約束のように
水棲動物の眠りに似たものが寄りそってくる
水へゆるされる方向へ進んでいるのかもしれない

 タイトルポエムを紹介してみました。最初は「流れて」いるものは水の分子かもしれないと思って読みましたが、素直に「わたし」でよいと思います。半生を振り返って「ひたむきであった/というときがあっただろうか//ひとを激しく愛した/ということがあっただろうか」と読み取りました。そうすると最終連の「水へゆるされる方向へ進んでいるのかもしれない」というフレーズも素直に入ってきます。己を静かに凝視した作品だと思います。2箇所の( )も効果的です。
 本詩集中の
「安藤鉄平」はすでに拙HPで紹介していますが、初出とはタイトルが違っていました。なぜ変えたのかという視点で調べることも松尾静明詩研究には興味深いことでしょう。ハイパーリンクを張っておきましたので、よろしかったらご鑑賞ください。



馬場晴世氏詩集
『いなくなったライオン』
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2007.11.23 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊  2000円+税

<目次>
 T
断崖 8                  夜の闇の中で 10
楠 16                   はだしになって 20
キリコミ カリコミ 22           荒地のラベンダー 26
夏草に埋もれて 30             波の行方 34
台風が生まれる 36
 U
ろうそくを灯す 40             いなくなったライオン 42
由比ケ浜を歩く 46             蕾の手の頃 50
ふくろうの子 54              長い影 56
(くれない)に染まって 60           炎 62
鴨川のほとりで 66             青鷺 70
枯葦の中で 72               視線 74
 V
霧 78                   牛 82
ライオンが吼えた 84            かわせみ 88
夜の空から 92               アイルランドの円塔 94
雨の午後 98                虹 102
ツンドラの風が吹いてくる 106
.       回廊 110
黄砂の中で 114
あとがき 118



 いなくなったライオン

草原の風が頬をかすめた
幼稚園に入った男の子からはがきを貰った
紙面一面になびく草
緑色の色鉛筆で描かれた短いのや長い草
真ん中に鉛筆で描かれた
丸く濃くなっているところ
にいたのはライオン
――ライオンを描いたの
と電話で教えてくれた

まわりの草をどんどん描いていたら
いつのまにかいなくなった
ライオン

男の子のライオンは
草の中にひそんでいる
大きな声で呼べば立ち上がる

広がる私の草原
見渡すかぎりの草茫々
いつのまにかいなくなったと思われる
私のライオンも
どこかにひそんでいる気配
静かにしっかり歩いていくと
寝そべっていたライオンは
私に向ってゆっくり起き上がる

乾いた草原の風が
きらめいて吹いてくる

 7年ぶりの第4詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。「まわりの草をどんどん描いていたら/いつのまにかいなくなった/ライオン」というのが佳いですね。「幼稚園に入った男の子」の自由奔放さに脱帽です。そこから「私のライオン」へ展開させるところに著者のしなやかさも感じます。本当に「乾いた草原の風が/きらめいて吹いてくる」ような爽やかな作品です。
 本詩集中の
「ライオンが吼えた」はすでに拙HPで紹介していました。こちらもライオン絡みでおもしろいのでハイパーリンクを張っておきました。合わせてご鑑賞ください。

 本詩集で一番笑えたのが「ツンドラの風が吹いてくる」です。似た話をすでに紹介していましたから、ここでは転載しませんでしたけど
2005年11月11日の部屋 にあります。こちらもリンクしておきましたのでお楽しみください。



○詩誌『青い階段』85号
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2007.11.25 横浜市西区 浅野章子氏発行 500円

<目次>
金木犀/荒船健次 2            バスが来る/廣野弘子 4
わたしは何をすればいいのですか/浅野章子 6 飽食/鈴木どるかす 8
風は昼さがりに/森口祥子 10        空/坂多瑩子 12
アラン島の一つイニシュモア島へ渡る/福井すみ代 14  電話/小沢千恵 16
ピロティ
浅野章子・森口祥子・坂多瑩子
編集後記
表紙/水橋 晋



 バスが来る/廣野弘子

今朝もぎりぎり 飛び出す
ゆるい坂道をおっとっと つんのめり
枯れ葉が散りはじめた公園を小走り
車の通過もどかしく 道路を横切り
バス停まで サッカーならロスタイム
すでに長い列ができ もうすぐ
登りカーブを曲って バスが来る
もつれる脚 脳裏にはサッカーグランドの広がり
ゴール目指すママさん選手の私が駈けている
過ぎた日のまま駈けているはずなのに
上手く 走れない
追いつかれた 抜かれた
若者が肩のバッグを揺らせて
突風のように追い越してゆく
立ち止まり あきらめかける
乗り継ぎの電車を見送ればいい
あきらめる
あきらめない 短かい反問が
小股になったまま 走り出す
私はすがりつく 全身が鼓動で波打ち
やっと列の最後尾にとどいた
とたんに どこからか聴こえる笛の音
審判の両手が高く 揚がった
バスが発車する
吊り革に手をのばし
動悸を整えながら ひとり 満足している
ロスタイムに突入している 私の時間
今朝の能力
今朝の無謀に

 「サッカーならロスタイム」とは巧く謂ったものだと感心していましたら、全編、サッカーで統一しましたね、見事です。「あきらめる/あきらめない 短かい反問」というのもよく判って共感しますね。もっとも、拙宅のある地域のバスは「乗り継ぎの電車を見送ればいい」どころではなく、次は1時間あとですから、その日の予定はキャンセルです(^^;
 「審判の両手が高く 揚がった」も「ロスタイムに突入している 私の時間」よく効いています。こういう楽しい詩もいいなぁと感じました。



詩とエッセイ『杭』49号
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2007.12.1 さいたま市大宮区
廣瀧光氏代表・杭詩文会発行  500円

<目次>

石倉山/尾崎花苑 2            風の秋/大谷佳子 5
旅びと/山丘桂子 8            風の吹く日/平野成信 11
白昼夢/斎藤充江 14            旧盆/比企 渉 16
雨をもっと/石川和枝 20          癌/長谷川清一郎 22
ガリちゃん「セキセイインコ」/池上眞由美 24  地窮 地泣 地救 地休/白瀬のぶお 26
人生幾何 憂思難忘/三浦由喜 28      ある詩人の追憶と告白/二瓶 徹 30
ポエムの旅/巴 希多 46          彼岸花/廣瀧 光 50
フェードアウト/伊早坂 一 52
エッセイ
ベトナムに寄せる思い/平松伴子 32     想う(晴朗なる日々を)/遠藤富子 43
母(三)/郡司乃梨 44            小説『天の園』の舞台/比企 渉 54
朝鮮農民に学んだ日本人/河田 宏 57
■杭の記■ 奈良の旅/巴 希多 61
題字・槇 晧志



 人生幾何 憂思難忘/三浦由喜

通りすがった街角は
思いがけない 日比谷公園 公会堂
初めてデートした所

このごろは どこもかしこも様がわり
ビルばっかりの世の中に
この場所は 昔の様子がのこってる

音楽会のはねたあと
階段下りる人の群
ついてくるかとふりかえり
怒った顔して先をゆく
負けずぎらいで意地っ張り
軍隊がえりの若者と
世間知らずの小生意気
化粧気もない女の子
若いふたりに逢いました

終戦直後の秋のくれ
あれから延延六十年
あなたが逝ってもうすぐ二年
しみじみ しみじみ懐しい

変らないわね わたしたち

 「日比谷公園 公会堂」の「昔の様子がのこってる」ところから、「六十年」前の「若いふたりに逢」ったという作品ですが、最終連の1行がよく効いていると思います。「あなたが逝ってもうすぐ二年」になっても「軍隊がえりの若者と/世間知らずの小生意気/化粧気もない女の子」はそのままなのでしょう。いかめしいタイトルと、なごやかな内容のギャップにも魅力を感じました。



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