きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2007.12.11 浜離宮・中島の御茶屋




2008.1.2(水)


 ここのところ毎年、暮に年賀状を書く時間が取れなくて、正月休みに書くという習慣になっていますが、今年もご多分に漏れず、今日がその日になってしまいました。元旦に届いた200枚ほどへの返信の形です。皆さまは元旦に届くように準備なさっているのに、まことに申し訳なく思いながら、終日書いていました。今年こそは皆さまと同じレベルに立ちたいものです。



嵯峨恵子氏詩集『悠々といそげ』
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2007.12.28 東京都新宿区 思潮社刊 2500円+税

<目次>
T
遠い親戚 8                せまい土地 10
ぷるぷる 12                男は 女は 13
あなたは理解できない 16          詩の歴史 18
悠々といそげ 21              あたしの恋人 24
初物食い 28                黄金の秋 31
あなたに会えてよかった 33         余白の時 40
あんこう鍋 45               ワタシハ ココニ イマス 48
ホーホケ、チュン 51            通り過ぎてゆく人びと 54
U
十二月の歓喜 58              十一月のタンゴ 61
十月の光 63                そして 九月 66
八月の果て 68               七月の影 71
六月の断章 74               五月の薔薇 77
四月の魚 87                三月の線 90
二月の水 93                一月の娘 96
V
ありふれた旗のもとに 100
.         よりそって ふたり 103
静かなる退場 106
.             気力と体力 109
見知らぬ隣人 112
.             和菓子の友 115
鬼門 118
.                 何らかの役割 121
不法侵入 124
.               一滴の血 127
忘れえぬ人 130
.              橋上の女 133
橋上の女 その後 136
.           恋は嵐の中で 141
あとがき 144
カバー写真=著者



 忘れえぬ人

木村千代さんが亡くなった
理由はわからないけれど
と総務部の同僚が漏らしたのは
千代さんが会社を退職してから二、三年が経った頃だった
高齢者と身体障害者雇用の一環で
茶飲み茶碗を洗う係の数名として
彼女が勤めていた時代
十年以上 私は彼女の顔を毎日見て過ごした
灰皿も洗いテーブルも拭く
ていねいで親切な仕事ぶりだった
都から勤労を表彰された写真が社内報に載ったこともある
最後の数年は食堂のテーブルが同じだったり
駅への帰り道が同じだった
共稼ぎの息子夫婦と三人の孫と都内に同居し
家事や子育てを手伝う日々
という家庭の事情も知っていたけれども
彼女から嫁の悪口は一度も出たことがなかった
七十歳を越えた年齢には見えない身軽さと生真面目な性格
非常階段で必死と抱き合ってる男女を目撃して
あれ あなたじゃないの
と私をからかうくらいの茶目っ気はあった
年齢的な体力を理由に退社するのを知った時
彼女の好きな炊き込みご飯のある店を探して
初めて夕食を誘った
が 互いに住所も電話番号も聞きはしなかった
辞めてから一年しないうちに
千代さんは一度だけ事務手続きで会社に訪れた
手土産のお菓子をさげて
あれが彼女を見た最後
会社を辞めたら近くのプールに通う
家族には家事を押しつけられてしまうわ
と笑っていた
ひとは思うだろうか
夫の死後 女手一人で働きながら二人の子供を育て
老後も働き続け
のんびりした時間を楽しむこともなくひとりの女性がいったと
働くのが苦にならず
何かしていなければ気が済まない性格だったこの人にとって
働いていることは生活
人生は苦労があっても充実していたに違いない
この世はしっかり支えられている
目立たず
たゆみない
多くの地味で真面目な人たちの働きによって
名もなき人びとなどどこにもいない
木村千代さん
私はあなたを忘れない

 7年ぶりの詩集です。嵯峨恵子さんの会社モノ≠フ詩は夙に知られているところですが、もちろんそればかりではありません。Tでは自分の来歴を、Uでは月を12月から始めるという試みをしていて、Vがいわゆる会社モノ≠ナす。今回、私にとってUはショックでした。1月から12月という順序が頭にこびりついていて、逆から読んでいくと、次々と過去に溯るような錯覚に捉われました。新鮮でした。

 しかし、ここではやはり会社モノ≠紹介してみます。「木村千代さん」という人間がよく描けていると思います。「私」の視線も好感を持って読み取ることができました。「目立たず/たゆみない/多くの地味で真面目な人たちの働きによって」「この世はしっかり支えられている」というフレーズも佳いし、「名もなき人びとなどどこにもいない」が強烈な印象を与えてくれました。これこそが作家や詩人の基本的な思想であるのだろうと思います。佳い詩集です。
 なお、本詩集中の
「何らかの役割」は、すでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきました。合わせて嵯峨恵子詩の世界をお楽しみください。これも佳い詩です。



詩誌COAL SACK59号
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2007.12.25 東京都板橋区
コールサック社・鈴木比佐雄氏発行 1000円

<目次>
扉詩/歳月 淺山泰美 3
詩三題(通り・エチュード・つゆ)…崔 龍源 6  再会…伊与部恭子 8
マスター…苗村吉昭 9           おまえさん考…山本十四尾 10
「深く敗れた」…有働 薫 11         未完の『裸婦』…大掛史子 12
鎖国…佐相憲一 13             原爆ドーム…上田由美子 14
M葬送…酒井 力 15            迷子札…山本泰生 16
小さな花…吉田博子 17           証しの声…山本倫子 18
崔さんと・上海から南京への旅/怒る海…水崎野里子 19
「時間」二題/筆順/輪になって/(人間の鎖)/あやまること/おやすみ おとな…河野俊一 22
花筏/碧い海底−沖縄幻想…新井しず江 26  ヤブ蚊…山本 衞 28
壁/混交…平原比呂子 29          白い漂泊−病棟記−…加藤 礁 30
抜け毛…遠藤一夫 31            弾ける…うおずみ千尋 32
利根の川音…結城 文 33          滅びる…金子以左生 34
湖北の水/藍の誕生…下村和子 36      父について 三片…田部武光 38
すべり台…壺阪輝代 39           紙飛行機/歌集/米をつくる人…秋山泰則 40
羊水の記憶…岩崎和子 42          佛舎利について…河村信子 43
プリンセスの影…山本聖子 44        冬の終り…鳥巣郁美 45
立冬の落とし物…西村啓子 46        ジェフリー…白河左江子 47
山葡萄
(やまぶどう)の…高田千尋 48       爪の桜…石下典子 49
アイノカタチ(3・4・5)…岡村直子 50     裁ち目/田の神…森田海径子 52
蚊帳の外/偽り捜し…星野典比古 53     残花…葛原りょう 54
風の囁き…杉本知政 56           金色の風…田中作子 57
蘇民祭に行こう…朝倉宏哉 58        さびしい庭…安永圭子 59
静かな狂気…森 常治 60          曼茶羅…倉田良成 61
衣替えの季節/雪の形象文字…横田英子 62  花のある教室(上)…大山真善美 64
孤独の場所 ロバート・フロスト/大山真善美訳 65
つばら…尾内達也 66            犬と狼の間 ヴァレリー・アフアナシエフ/尾内達也訳 67
ボタンの記憶…李 美子 68         アジア詩行…高桐烈/李美子訳 69
<エッセイ・書評・詩論>
猿のはなし…淺山泰美 73
金光林との出会いから『自由の涙』を出版するまで…飯嶋武太郎 74
山本泰生詩集『声』を味読して −《声》《耳》《魂》に水脈する人生探究の生き方…石村柳三 81
魂は渾沌として −山本泰生詩集『声』に零せて…鈴木 漠 85
酒井力『白い記憶』を俯瞰して −「死」をいかに詩にとどめるか…水崎野里子 88
記憶の遠近法 −酒井力詩集『白い記憶』−…宇佐美孝二 92
バランス感覚の好ましさ −壺阪輝代エッセイ集『詩神
(ミューズ)につつまれる時』…大掛史子 96
内部をみつめる 柔軟な知の人 壺阪輝代エッセイ集『詩神
(ミューズ)につつまれる時』書評…森 徳治 98
石村柳三詩集『晩秋雨』を手にして…末原正彦 102
石村柳三詩集『晩秋雨』に寄せる…牧野立雄 106
五〇年のヒトと農 岡隆夫詩集『二億年のイネ』…星野元一 108
新・叙事詩誕生 −岡隆夫詩集『二億年のイネ』が切り拓く新たな展開…本多照幸 111
時代と「不在」の狭間で 葛原りょう詩集『魂の場所』…三田 洋 116
孤独の焦土を歩く 葛原りょう詩集『魂の場所』…三島久美子 120
俯瞰するかのように 山本衞詩集『讃河』…河野俊一 123
ごりの目線で四万十川を描く 山本衞特集『讃河』を読んで…みもとけいこ 127
弱さの本質を探究するすぐれた詩集 下村和子特集『弱さという特性』…山本十四尾 131
やさしさの《内なる信念》を背負う詩人 現代詩文庫『杉山平一詩集』を味わって…石村柳三 133
歴史に仮定法は存在しない 『原爆詩一八一人集』を私的に読む…吉田義昭 128
現代生活語詩考…有馬 敲 143
『原爆詩一八一人集』出版記念会・全記録 150



      
なむらよしあき
 マスター/苗村吉昭

バーのマスターなど
楽な仕事だろうと思っていた
せいぜい夜の七時頃に出てきて
女の香水に包まれながら
十二時頃まで酔っぱらいの相手をして
ほかの時間は気ままに過ごしていると思っていた
ところが昼のバーを訪れてみると
マスターは四つん這いになって床を拭いていた
「飲みこぼしがあるとお客さんが不快に感じられますので」
床掃除を終えるとマスターはおしぼりを巻く
家で洗ってレモンの香りを付けたおしぼりを一枚づつ巻く
「これも経費削減の一つなんですよ」
それからマスターは氷を買いに出ていった
毎日専門店に板氷を買いにいき
開店までにアイスピックで砕くのだそうだ
「いい氷でないと水割りの味が引き立ちませんので」
僕は昼のバーを後にしながら
世界をよく認識していないことを恥じた

数日が経ち
夜のバーの扉を開けた
マスターが軽く会釈する
磨かれた床を踏みしめ席に着くと
レモンの香りのおしぼりが手渡された
僕は当然のように水割りを注文する
グラスの中の氷がカラン・カランと音をたてると
氷の下に世界が圧縮されていくように思えた
カラン・カラン・カラン
僕は水割りを飲まずに
その氷の響きだけを聞いていた
女もマスターも
不思議そうに僕を見る
やがて賑やかなお客の一団が現れて
氷の響きが聞き取れなくなると
僕はようやくグラスに唇をつけた
凝縮された世界を口に含んだとき
少しだけ
世界を支配している者の味を知った。

 なろうと思ったことはありませんけど、「バーのマスター」には私もよくお世話になっています。生活のパターンは、店を閉めたあと午前3時頃まで店の片付けやら伝票の整理で、午前5時頃から午前中いっぱいは寝ているようです。午後から、ここに書かれているように開店の準備をして、確かに「楽な仕事」ではないようですね。その意味では私も「世界をよく認識していないことを恥じ」ています。この作品は最終の「凝縮された世界を口に含んだとき/少しだけ/世界を支配している者の味を知った。」というフレーズが光っています。そうやって私たちは少しずつ大人になってきたのかもしれません。飾り気のない佳い作品だと思いました。



詩誌『波』18号
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2008.1.15 埼玉県志木市
水島美津江氏発行  非売品

<目次> 題字 水島美津江
巣/秋元 炯 2              手/佐々木洋一 7
ひいらぎの街/神山暁美 10         やめられない/新延 拳 13
進化/山田隆昭 16
 ☆ ☆ ☆ ☆
「それぞれの美学シリーズ」17 無垢な女性への憧れ/細野 豊 18
 ☆ ☆ ☆ ☆
四行連詩〈みずみずしく〉の巻 ほんまちひろ/豊岡史朗 20
振る/中井ひさ子 24            あらう手/岡島弘子 26
暗い手/村山精二 28            触れる/長谷川 忍 30
火傷/中田紀子 32             銀河のゆりかご/星 善博 34
平手打ち/葵生川 玲 37          ゆびやすらぐ/小川英晴 42
手と掌/水島美津江 45
後記 ダーティ・ウーマン −なにかおかしい− 美津江 49



 平手打ち/葵生川 玲

思い違いにうろたえる。

それを知った時、
私には、怒りを帯びた正義感のようなものが
ふっふっと湧いてきて、
何処かで
見たことのある
長髪の 今どきの 高校生の
制服のズボンの裾をだらしなく引き摺った
姿が
脳裏を掠めていたのだ。

「高校生を殴ったK巡査長を現行犯逮捕。
申し訳ないことをした。と容疑を認めている。
同僚と酒を飲んだ後、一人で帰宅する途中でした。」
Y新聞の九月五日付け朝刊は、
警察発表を小さくちいさく伝えていた。

「改札前の路上で、口論の末、顔面を平手で殴るなどし
顔面打撲を負わせました。」
「高校生が、回転式拳銃の形をしたライターを乗客に向
け遊んでいたため、降車後にK容疑者が呼び止めたとこ
ろ口論となったといいます。」

こんな小さな記事の顛末について、
K巡査長を擁護する意見が
県内外から、一、〇〇〇件寄せられているとのことだ。
ここまでは、私の感じた想いに重なるものだった。

だが、私の思い違いが平手打ちを喰らったのはこの後だ。
K川県警本部は
私以上にうろたえてた。
N監察官室長は
異例の追加会見を六日に行い、
高校生の母親から、
「事実関係が間違って伝えられている」
との抗議が寄せられていて、
多くの意見は「高校生が言うことを聞かないから殴った。」
という思い違いに基づいている。
「高校生は駅員らに注意を受け素直に従っていた。」

K川県警の記者クラブ発表に端を発したこの事件は、
その真実よりも、
「男子生徒と口論の末」
「降車後に注意しようと呼び止めたところ口論になった」
短い記事には口論が二箇所も入っているなど、
記者の心象が妙に膨らんでいる。
一人の目撃証言にあたることなく、
私の傍観者の怒りのように他者の想いに乗ったのだろう。

「Y新聞」七日付けは、
「駅員に注意された高校生は、素直に従い、謝りカバン
にしまって、その後友人と談笑しているのを隣の車輌か
ら見ていた巡査長が、勝手に「反省していない」と思い
込み、次の駅で降りた高校生を呼びとめ、髪の毛を掴み
平手打ちを三発、「カバンの中のものを出せ」とそのラ
イターで顔面を殴り、投げ捨てた。この間、高校生は怖
かったので口答えしなかった。」
というものである。

意図的に、身内に甘いK川県警本部の記者発表にも、
恥ずかしい平手打ち一発。

地方発の埋め草記事だとタカを括ったクラブ記者の確認
なしの想いと望外な反響が降って湧いて、
驚きの平手打ち一発。

メールを打ち、電話をし、FAXを送り続けた
一、〇〇〇件の、正義のやにさがった想いの数々にも
目覚めの平手打ち、一、〇〇〇発。

K川県警のN監察官室長にも
往復の勢い良い平手打ち。

かるーく正義感を沸かせた私の頬にも涙の出る平手打ち、
三発は必要だろう。

 テーマ詩「手」の中の1編です。この事件は「K川県」在住の私もよく覚えています。直接的には「意図的に、身内に甘い」「K川県警の記者クラブ発表に端を発した」ものですが、社会問題を扱う作品を書く場合の怖さを教えてくれています。私たちは、「長髪の 今どきの 高校生の/制服のズボンの裾をだらしなく引き摺った/姿」に先入観を持っていて、「K巡査長を擁護」してしまいがちです。そこには「正義のやにさがった想い」があるのも事実です。「正義感を沸かせ」のも大好きですから…。しかし、そこには怖い罠が…。
 この作品では最終連が佳いですね。なかなか自分の頬に「三発」もの「平手打ち」は食わせられないものです。作者の良心を見る思いをしました。
 本誌は水島さんの個人詩誌ですが、毎号私も駄作を書かせてもらっています。今号も何のお咎めもなく(^^; 載せていただいて感謝しています。



個人誌『弦』40号
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2008.1.1 札幌市白石区
渡辺宗子氏発行 非売品

<目次>
論理と情緒6 −日本語は天才である/畑野信太郎
麦笛のかなた/渡辺宗子
鍵老人のマザーグース(十五)/渡辺宗子
童話のほとりW/渡辺宗子



 鍵老人のマザーグース(十五)/渡辺宗子

落葉の吹き溜る側溝の延びた住宅地 ガーデニング
を誇る家々 高級感あふれる外装とベランダの気取
り 物音はしない 積木の城ではない証拠に 集合
体の息 生温かな泡立ちがある藍色の網を掛けられ
た塵芥 集荷のステーションで芥同志のコミュニケ
ーションがあるか 腐敗の混じった廃棄物の雑言
涌き立つ傍らの 鴉の耳を借りたいものだ 鍵老人
の歩調が緩みだす 日常を追放された彼らの異界で
垢と芥にまみれた言葉がどんな変容をするのか精神
の素因 貴重な骨董かもしれないぞ
いつの間にか公園へ向っていた ジョカー少年はベ
ンチで待っている 膝の小箱を弄りながら
拾ったんだけど 毀れかけた木の厘だね 空っぽの
ようなのに何か聞こえてくるみたい
むかしオルゴールだったのだろうか
模様の美しい はこだったと思うよ 蓋があかない
ね 秘密が入っているの 神器かな 老人はふっと
コトバを入れておくという厘のことを考えた 自分
のコトバで神と繋がるために清めた厘に入れておく
祝詞(のりと)であったか神と交信のできる唯一の方法でね
発声と同時に失せないように厘におさめて置いたの
だろう そうだよ昔のオルゴールだよ とっておき
のコトバを歌っていたのだろうね もし開けば聞こ
えるだろうか 何時でもひそかに囁いているよ 中
身はコトバなの音楽なの さてね 厘の内側で長い
時間醸されているうちにコトバの音楽になったのか
な 漏れてくるのは 音楽 聴えるのは さまざま
な想いのコトバなのさ
 通じることの稀な (き)えか
かった熾のような 箱根の寄木細工のおもかげ ど
こか漂う郷愁めいた厘 入物という実用価値の痕跡
すらない 残夢を襤褸のように纏っていた よく見
つけ出したね こんなに汚れて よほど遠くだろう
ね あそこはごみ捨て場だったのかな古い自転車も
あったよ

 連載「鍵老人のマザーグース」も第15話まで来ました。今回の「厘(はこ、と読んでよいでしょう)」は、非常に象徴性の高いものだと思います。それは「コトバを入れておくという厘」という詩語に特徴的に表れていると云えます。音楽を入れておく厘という面では、すぐに「オルゴール」が思い浮かびますけど、オルゴールでは言葉が表現できません。現代ならもちろんCDもMDもあって、何の不思議もありませんが、ここはやはり電子の力ではなくオルゴールの金属の爪のようなものを考えたいものです。金属の爪で弾かれた発する言葉、肉声の言葉、そして「厘の内側で長い/時間醸されているうちにコトバの音楽になった」もの、それらを「入物という実用価値の痕跡/すらない」厘に閉じ込めて、実は詩が成り立っている…。ちょっと強引かもしれませんが、そんなことを感じさせられた作品です。



   
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