きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.1.22 爪木崎・水仙群生 |
2008.2.5(火)
初めて「新橋演舞場」に行きました。出し物は中島淳彦作・ラサール石井演出の「わらしべ夫婦双六旅」。出演は上島竜兵、中村勘三郎、藤山直美、矢口真理、余貴美子など。パンフレットから内容を抜き出してみると…、
<女房を売り飛ばしても出世したい男、亭主を殺してでも独り占めしたい女…。そんな夫婦がサイコロ振って、あっちへこっちへ、二転三転、浮いて沈んでまた浮いて、だましだまされ、出会って別れてまた出会う…。さてさて、アガリはいかように…?>
というところでしょうか。中村勘三郎と藤山直美の夫婦役がハマッていましたね。新人の矢口真理の可愛さ、ベテラン余貴美子の美しさも堪能できました。端役でしたが河合盛恵の妖艶さも見逃せませんでした。2階席から観ていましたから、身近に感じることはありませんでしたけど、TVとは違う息遣いを鑑賞できて、舞台はやはり良いものだと思います。
○詩とエッセイ『イリヤ』2号 |
2008.1.31 大阪府羽曳野市 尾崎まこと氏発行 300円 |
<目次>
年頭所感 3
*
ゲスト 小川和佑 暦日想望 5 評論・高見順の微笑 6
*
左子真由美 11
詩・ひとよ/記憶/待ちくたびれて/花とノートブック/鳥と地図
ショート・ショート 三十年間のトンネル
*
佐古祐二 21
詩・人の世のよろこびの/もうながいことぼくはおまえと/脚/指
エッセイ・かくされた悪を注意深くこばむことについて
*
尾崎まこと 31
童話詩・千年夢見る木
詩・しゃぼん玉/金環食/ソフィー
*
編集後記 42
脚/佐古祐二
トントンと
階段をあがる脚
しなやかに弾力を秘め
のびのびとして
晴れがましく曝されながら
ふと微妙なニュアンスを
浮かべるのだ
靴をはいたヴァギナよ
「トントンと/階段をあがる脚」を見るともなく見ているのは、いいものです。「しなやかに弾力を秘め」ているのが感じられ、思わず見惚れてしまう脚がありますけど、いつまでも見ていると痴漢扱いされますから、フッと視線を外す己の気の弱さ…。
最終連はちょっとナマではないかと思いましたけど、なぜ私が女性の美しい脚に見惚れるかというと、結局そこに行き着くのかもしれません。否定できません。そんな男の心理を抉ったのだと思います。それが「ふと微妙なニュアンスを/浮かべるのだ」というフレーズに出ています。表面的な紳士ヅラを暴く、怖い詩です。
○詩誌『茜』24号 |
2008.1.23 東京都渋谷区 高橋晟子氏方・茜の会発行 非売品 |
<目次>
梅澤 綾子・バラに寄せて/ごめんなさいネ/残念です 2
三枝 規子・一つの思い出/お彼岸/小さな家族 8
柴田 照代・よしなしごと/不整脈/雀 14
高橋 晟子・気をつけて/地の精/藤 20
藤井ヤヱ子・散策/母 十三回忌/夏の終り 犬吠崎灯台 26
古河みのり・広告/春の八甲田/たった一枚の写真 32
課題「食卓」(一行二十字内 十行詩)38
梅澤 綾子・お洒落に /三枝 規子・煮豆
柴田 照代・眺めのよい食卓/高橋 晟子・今もなお
藤井ヤヱ子・食卓 /古河みのり・今を大切に
連詩 ・踊り/ああうっかり
大石 規子・髪を切る 48
編集後記
表紙 柴田照代
不整脈/柴田照代
初夏だというのに 尋常でない咽喉の痛み
それも一週間経っても はかばかしくありません
思いきって病院に足を運び 診察を受けました
「血圧は正常 でも不整脈がありますね」
とうとう心臓もいい加減になってきました
家の中にも正確なものがありません
掛時計は壁の高いところに五十秒遅れのまま
置時計は一分進んでいます
目覚まし時計は三分すすませてあります
ベルに目覚めてわたしが私に還るまでの三分……
「三分すすませてあ」ることの理由が、人によって違うのだと気付かせてくれた作品です。私も腕時計は3分ほど進めておくことが多いです。理由は終電に乗り遅れないため…。時間を忘れて呑んでいると、ついうっかり終電に乗り遅れそうになります。そんなときは腕時計を進めてあることも忘れていますから、無事に乗れるという姑息な魂胆です。
それに対して作者は「わたしが私に還るまでの三分」というのですから、私とはずいぶん姿勢が違いますね。その3分間で自分を取り戻している姿を想像すると、自堕落な私の生活を反省してしまいます。「不整脈」と「家の中にも正確なものがありません」を結びつけたところも好感を持った作品です。
○季刊詩誌『詩と創造』62号 |
2008.2.10 東京都東村山市 書肆青樹社・丸地守氏発行 750円 |
<目次>
巻頭言 詩と情況−シュルレアリストと反戦詩…石原 武 4
詩篇
縄跳び/宿題…嶋岡 晨 6 バナナの甘い香り…原子 修 9
受賞パーティー/旅…山本沖子 12 畸形…柴田三吉 14
地霊頌(ゲニウス・ロキしょう)-epiphany…内海康也 16 分裂…山之内まつ子 18
あとは知らない…こたきこなみ 20 家のうちそと…岡崎庸一 22
意志…野仲美弥子 25 チコリア・ブランカ…橋本征子 28
光気山消滅…黒羽英二 31 樹木人−立ち去りし記憶の人…溝口 章 34
神無月…岡山晴彦 37 地霊の住む土地…岡 耕秋 40
能登厳門…理田昇二 42 ユメヌマ詩篇…菊池柚二 44
里山…丸地 守 47
詩集賞特集 第六回「現代ポイエーシス賞」・第六回「詩と創造賞」特集 48
エッセイ
詩人たちも老いて死ぬ…嶋岡 晨 68 <詩>
の在り処を索めて(八)…清水 茂 73
感想的エセー「海の風景−海やまのあいだ」W…岡本勝人 77
吃立する精神 シェイマス・ヒーニーの詩(13)…水崎野里子 89
この夏、迫りくる炎のなかで…森田 薫 93
プロムナード
新川和江の超若書き…こたきこなみ 98 死人に口なし…黒羽英二 99
美術館の椅子 「フィラデルフィア美術館展」−印象派と二十世紀の美術を見て…牧田久未 100
現代詩時評 現代詩人たちのルーツとして位置づけられる主張…古賀博文 104
海外の詩
詩集『きみはそれを信じないだろう』(二〇〇〇)より ペドロ・シモセ…細野豊訳 110
現代アイルランドの詩 イーヴァン・ボーランド…水崎野里子訳 113
食堂の椅子/最尖/ムカデ ムン・インス(文仁沫)…韓成禮訳 115
ああ、錆びた機械/葦 イ・スンチョル(李承哲)
荒涼とした原野の上の聖堂 他 クァク・ヒョファン(郭孝桓)
木の修辞学/泥道 他 ソン・テクス(孫宅沫)
新鋭推薦作品「詩と創造」2007新鋭推薦作品 オードーある出会いへの/清水弘子 126
研究会作品 128
腑分け 松本定雄/返し文 室井大和/今日 佐藤史子/もず 吉水 正/荷物 万亀住子/秋に… 金屋敷文代/秋彼岸 高橋玖末子/老猫 宮尾壽里子/秋の闇 山田篤朗/夏休みはすぐに終わる 弘津 亨/パーツ 豊福みどり/夜の海 一瀉千里/ブローチ 松本ミチ子/軍艦島 寒川靖子/消えたケイタイ 大山真善美/星伝説誕生 K・汪然/コノシロ 仁田昭子
選・評 丸地 守・山田隆昭
全国同人詩誌評 評 古賀博文
書肆青樹社の本 比留間一成 譚詩集『河童の煙管』/おしだとしこ詩集『流れのきりぎしで』/安久井良雄詩集『いとしい国』/長谷川紘子詩集『さようなら冥王星』
書評 評 こたきこなみ
地霊の住む土地/岡 耕秋
フランスの広やかな野で
舞いあがる雲雀の囀りのように
私は地霊の声をきく
ちいさな田舎の集落に茂る大樹
生垣のなかの古い石造の家屋
空に溶ける教会の尖塔
忘れているなにかを思い出す
失った好きな画集をひろげる
ありふれた農家の小屋
古い木の株
雪の日のくずれた石垣
なにも奇異なものはないのに
こころをゆさぶるものがある
私の国では
ゆるやかな里の小道が消え
何百年もたたずんだ
社の森は切り払われた
孟宗竹の茂みの下の淀み
柳の優しい枝のせせらぎ
水遊びの石の河原も消えた
なにげないものは
父母の祖父母のさらに遠祖の遺産
この國土には
風景すら落ち着いてはいない
地霊ももはや語りかけることはない
「フランスの広やかな野で」「私は地霊の声をきく」ことができ、「なにも奇異なものはないのに/こころをゆさぶるものがあ」ります。しかし「私の国では/ゆるやかな里の小道が消え」「水遊びの石の河原も消え」てしまいました。最終連の「この國土には/風景すら落ち着いてはいない」というフレーズに、作者の深い嘆きを感じることができます。そして、フランスでは聴くことのできた地霊の声が、この国では「地霊ももはや語りかけることは」ありません。「なにげないものは/父母の祖父母のさらに遠祖の遺産」であるのに、それさえも「切り払」った私たちに、もはや未来はないのかもしれません。工業国でありながら農業も大事にしているフランスと、わが国との落差を考えさせられた作品です。
← 前の頁 次の頁 →
(2月の部屋へ戻る)