きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.1.22 爪木崎・水仙群生 |
2008.2.23(土)
午後から市内の文化会館で映画を観てきました。妹が関係する福祉団体の映画です。「終わり良ければすべて良し」というタイトルで、岩波映画で監督をやっていたという、いまはフリーの80過ぎの女性の作品です。終末医療の実態をドキュメントにしたもので、タイトルも面白かったので期待していたのですが、ちょっと残念な面もありました。
映画が始まる前に主催者の報告が30分ほど、続いて1時間半ほどその監督の講演がありました。80過ぎとは思えない矍鑠とした話ぶりで、その映画にまつわる講演の、初の終末医療映画という意義はわかるのですが、ちょっと長すぎましたね。映画そのものも2時間たっぷり。合計4時間余りを拘束されましたから、お年寄りの何人かは映画の途中で帰ってしまう始末。映画もドキュメンタリーとはいいながら国内外の施設の状況を列挙しただけという印象が強く残りました。1000人収容のホールがほぼ満席になるぐらいの盛況でしたから、ちょっともったいなかったなと思います。私もイベントを主催する側になることが多いので、他山の石にしようと思っています。
○詩とエッセイ『千年樹』33号 |
2008.2.22 長崎県諌早市 岡耕秋氏発行 500円 |
<目次>
詩
ゆき/江崎ミツヱ 2
カラスウリ/さき登紀子 4 脚本を書く/わたなべえいこ 6
翻訳劇・火鉢・君へ・地下室/松尾静子 8 ウランバートルの街路で・これもたそがれ/早藤 猛 16
お詣り/和田文雄 20 坐りだこ/竜崎富次郎 22
出水の鶴・川に還ったひとに/松富士将和 26 冬二題/岡 耕秋 32
エッセイほか
自由の鐘(六)/日高誠一 36 古き佳き日々(三〇)/三谷晋一 44
笑う門には/佐藤悦子 48 ぼけとツキ/早藤 猛 50
尊厳死について/満岡 聰 52 菊池川流域の民話(二六)/下田良吉 62
千年樹の窓から 八年輪記念エッセイ 69
有言実行 江崎ミツヱ/新しい未知 早藤 猛/どか雪 日高誠一/少女喜久 松尾静子/悪餓鬼日記 三谷晋一/「くそっ」竜崎富次郎/八年輪と「炭坑節」和田文雄/出会い わたなべえいこ/晴耕雨読 岡 耕秋
八年輪索引 二九〜三二号索引・執筆者紹介 82
樹蔭雑考/岡 耕秋 85
『千年樹』受贈詩集・詩誌等一覧 86
編集後記ほか 岡 耕秋 88 表紙デザイン 土田恵子
火鉢/松尾静子
私たちは
火鉢の周りに膝を立てて座り
父は炭火の上に
ホットケーキを焼く
小さな蓋つきのフライパンを乗せた
卵と砂糖 小麦粉 牛乳をかき混ぜたものを
流し込み蓋をする
全体に火が通った頃器ごと裏返し
狐色になるくらいに焼くと
真ん中に白鳥の絵が浮かび上がった
ホットケーキが出来上がる
母は等分に切り分け
三人の姉妹は一切れずつ手にとって頂いた
父の転勤で引越しをした
何度目かの引越しで
父は捨てるものの中にフライパンを入れた
定年退職すると
パン焼き器で毎朝自家製のパンを作った
母が亡くなり
最近はその習慣も無くなったようだ
中東の政情不安
原油の高騰
フローリングの床に
絨毯を敷き
それでも寒々とした部屋に
今年は火鉢を置こうかしら
成人した息子たちは
火鉢の暖かさを知らない
「フローリングの床に」エアコン。私たちは快適な生活を当然のように享受してきましたけど、一たび「中東の政情不安」が発生すると、たちまち「原油の高騰」を招いて、その快適さが脅かされます。そんななかで作者が思い出したのが「火鉢」だったのでしょう。それも「私たちは/火鉢の周りに膝を立てて座り/父は炭火の上に/ホットケーキを焼く」という懐かしい思い出とともに。そこから「父」「母」「三人の姉妹」へと思い出はつながり、現在の父上へとつながっていきます。最終連では「成人した息子たち」で締めて、私たちが快適さを求める上で失くしたものは何だったのかを教えてくれた作品だと思いました。
○詩誌『木偶』72号 |
2008.2.25
東京都小金井市 増田幸太郎氏編集・木偶の会発行 500円 |
<目次>
公孫樹の実が熟す季節になると/中上哲夫 1 夏/野澤睦子 3
冬の日に/落合成吉 5 火の音 他/広瀬 弓 7
鬼池/土倉ヒロ子 11 痛風の思想/沢本岸雄 13
美人ネコ治療室/天内友加里 15 かもめ/乾 夏生 17
土手/荒船健次 19 徳治さん/藤森重紀 23
釣瓶落としの/田中健太郎 26 お土産にもうひとつ/川端 進 29
ある冬の晴れた空から/増田幸太郎 31
視窓 増田幸太郎『鎮魂 亡き妻に』を読む
記録の力/乾 夏生 33 伴侶の看取りと死の教え/土倉ヒロ子 36
<死>から<生>へのメッセージ/馬渡憲三郎 38
受贈誌一覧 42
夏/野澤睦子
夏になると、六日間だけ外に出されるのです。
一日目。野山の噎せるほどの空気を身体中で吸うのです。大口を開
けて飲み込む。張り出した腹は青い風船。裂け目から青い噴水が飛
び出していくのです。これだけで生きられると思ってしまいます。
二日目は、本当のご馳走を食べます。それまでは、粗末なものを少
し口にすれば、きまった夢を見て、眠りに落ちたものです。今、溢
れる食物の渦が発酵し音をたて、内蔵も溶けて、豊穣な香りがただ
ようのです。もう一皿、浅黄色のスープもたいらげねばなりません。
三日目。入浴。ハーブの匂う大理石の風呂で、きれいになります。
入浴前に胃腸を洗浄しましたから、この上もなく軽くなり、湯気は
皮膚を心地よく打ちます。関節が異様な形に伸びるのは気になりま
すが。
四日目に、快楽という快楽を知らされた気になります。快楽は想像
するうちが果てしなく快楽。見るも聞くも触るも食べるも、苦痛も
嫌悪も好み次第。
五日目は、この先、何を望むかと聞かれ、六日目は、その通りにな
るのです。
夏が待ち遠しいのです。かっと目を見開いた太陽を背にすると、強
火で焼かれる肉の縮んでいく音がきこえるのです。
宮澤賢治の「注文の多い料理店」を彷彿とさせる作品ですが、さて、作中人物(動物?)はいったい何でしょう。よく判りません。が、いろいろなものに喩えることができそうです。鶏でもいいし豚でもいい、鯨でも構わないでしょう。人生そのものかもしれません。「関節が異様な形に伸びるのは気になりま/すが。」というフレーズが解明できれば、きっと正解≠ネのでしょう。
しかし、この作品は正解を求めるようなものではないと思います。大事なのは詩であること。散文では描けない詩の世界を書いているように思います。ときおり思い出してしまいそうな作品で、それできっと良いのでしょう。
○隔月刊詩誌『石の森』143号 |
2008.2.20 大阪府交野市 非売品 交野が原ポエムKの会・金堀則夫氏発行 |
<目次>
時空あわせ/夏山なおみ 1 予感/夏山なおみ 2
細く長く生きる/西岡彩乃 3 愛の叫び/西岡彩乃
怪人が死んだ/佐藤 梓 4 考える/石晴香 5
拝啓 厚生労働大臣様/石晴香 6 麻酔/大薮直美 7
遺された言葉/大薮直美 7 架け橋/金堀則夫 8
北原千代『スピリトゥス』を読んで/美濃千鶴 9
《石の声》佐藤 梓・夏山なおみ・山田春香 11
《交野が原通信》第二五八号 金堀記 13
【あとがき】(ち)
麻酔/大薮直美
遅鈍な言葉
いつも明朗である筈の思考力の低下
緩慢な足取
長い手足も生簀の中にいる様
生き急いでいるといわれるくらい
時間を大切に
無駄のないように
心がけていたつもりなのに
麻酔が自分を変えてしまう
お酒を呑んでも変わらない
風邪薬で眠くなったりも殆どない
病で動かなくなることはあっても
動けなくなる事は無いのに
麻酔だけは
麻酔だけが
麻薬の様で
時間さえも、早さを変えて進ませた
勿体無い
今この時を一秒でも長く
大切に使っていたいのに
この指さえ
この声さえ思い通りにならない
私も麻酔の経験は何度かありますが、この作品の場合は局部麻酔のようです。全身麻酔ですと、2〜3秒で完全に意識を失いますから「この指さえ/この声さえ思い通りにならない」という余裕すら無くなります。その局部麻酔に掛かった様子が巧みに表現されていると思います。まさに「麻酔が自分を変えてしまう」のです。
おそらく麻酔の詩は珍しいのではないでしょうか。少なくとも私は初めて拝読しました。その意味でも貴重な作品だと思いました。
○『かわさき詩人会議通信』46号 |
2008.3.1 非売品 |
<目次>
実際の「事実」と表現された「真実」/河津みのる
故郷に帰ったって本当ですか/さがの真紀 魚の産卵/山口洋子
いとしのマリちゃん/寺尾知沙 君は春風の様だ/斉藤 薫
川岸の別れ(散文詩)/斉藤 薫 偽/枕木一平
ひこうき雲/小杉知也 買いもの/寺尾知沙
ハンドベル演奏/さがの真紀 はつらつ体操/寺尾知沙
故郷へ帰ったって本当ですか/さがの真紀
百歳の人の手を握り
「あなたを信じていいのね」と言われて
恥じらいながらうなづいていた君
オムツを当ててあげている人を支えて
オムツカバーを押さえていた君
優しさあふれ健気に働いていた君が
リーダーとして別の介護施設へ転勤
新しい介護士が入り 又辞めて
又新しい人が採用されまもなく辞めていく
出合いと別れがめま苦(ぐる)しい職場で
老人たちの心に灯を点していた君だったのに
施設を辞めて故郷へ帰ったって本当ですか
結婚をとるか職場をとるか悩んで
故郷へ帰ったって本当ですか
家庭を作るには転職しなければ生活していけ
ない脆弱で劣悪な福祉現場の中で
あえぐ施設を支えている人々−若者たち−
新聞の歌壇にとりあげられていた若者の短歌
−たぶん親の収入超せない僕たちがペットボ
トルを並べゆく−
小樽(たる)の花園公園にある石川啄木の歌碑
−こころよくわれに働く仕事あれ
それを仕遂げて死なんと思ふ −が
浮かんできた
私が就職した40年ほど前には「介護士」という職業はなかったと思います。どんなことをやるかは作品からもだいたい判りますけど、相当「脆弱で劣悪な福祉現場」なのですね。それを認識するとともに「君」や「若者たち」に向ける作者のあたたかい視線を感じます。「老人たちの心に灯を点していた君」たちが「家庭を作る」こともできない事態は、その施設に問題があるのでしょうが、それもまた「あえぐ施設」であることを教えてくれています。眼をその上に向けなければならないようです。
作品としては「新聞の歌壇にとりあげられていた若者の短歌」も「石川啄木の歌碑」も効果的に遣われていて、見事だと思いました。
← 前の頁 次の頁 →
(2月の部屋へ戻る)