きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.1.22 爪木崎・水仙群生 |
2008.2.25(月)
日本ペンクラブの世界P.E.Nフォーラム「災害と文化」の最終日。今日は最初からちゃんと当日券が買えました。
13時からのエッセイ「火山列島に生きる」は、高田宏さんの語りで、火山の映像と生のトランペットがときおり入るという趣向。小説「秋の水」は、中国の作家・莫言さん自身の朗読と講談師・神田松鯉さんの朗読の背後に画が入り、中国琵琶が演奏されるというもので、スパイ物のような面白さがありました。
International Speakout「私は、叫び、生き、生きなおす」は各国の20にんほどのリレートークで、災害は国や人種を越えることを改めて感じました。閉会式のまとめは吉岡忍実行委員長、挨拶は井上ひさし前会長ほか。18時半、閉会の言葉は浅田次郎専務理事でした。井上さんの生まれたことが災害なんだ≠ニいう意表を突く言葉が印象的でした。
写真は玄関ホール特設会場での懇親会です。ペンの会員なら誰でも参加できるというので、積極的に加わらせていただきました(^^; 左でグラスを持って乾杯に入ろうとしているのが浅田次郎さん。半分切れちゃってゴメンナサイ。真ん中で縞シャツを着ているのが立松和平さんです。
日本酒は賛助メーカー差し入れの一升瓶がズラリ。枡まで用意してあり、なんと日本ペンクラブのシンボルマーク入り。この枡はおもしろかったです。みんなでサイン交換に使いました。私の枡には阿刀田高会長、松本侑子・電子文藝館委員会担当理事、浅田次郎さんなどの著名人のサインを書いてもらいました。私のサインが欲しいという奇特な方は2人ほどでしたけどね(^^;
結局、私は初日と最終日しか参加できませんでしたけど、楽しく有意義なフォーラムでした。日本ペンクラブとしても4日連続のイベントというのは初めてではないかと思います。そのぶん実行委員、事務局の皆さんには相当な負担だったでしょう。会員の一人として改めて御礼申し上げます。ありがとうございました!
○小林育子氏詩集『カバになれたら』 |
2006.4.15 奈良県大和郡山市 鳥語社刊 1500円+税 |
<目次>
T
その時 8 あたし 10 どんなひと 12
あたしの正義 14 知らんのやろな 16 元気 18
ピンチの時のお願い20 怒る 22 アンポンタン 24
明日のために 26 いやな日 28 おまじない 30
U
カバになれたら 34 「の」 36 「ね」 38
「ん」 40 笑う 41 へそ 42
芋を食べる前の演説44 犬と 46 後姿 48
ちくわに 50 十歳 52 ゆみこ 54
ほめてよ音頭 58 お経 62
V
神さんのごほうび 66 うそみたい 68 恥じらう人 70
夜空 72 夜に 73 夕方 74
夕日が 76 秋 77 春 78
生きてる 80 ぽっかり 82
あとがき 84
カバになれたら
好きな人には
口をパカッ
心の中まで
ぜーんぶみせる
近づいて
いただきたくない人には
ブォーンと
おならでほえて
まきフンを
命中させる
好きも嫌いも
はっきり
させたって
カドはたたない
なにしろ
あたし
カバだから
おととし刊行されたものですが、第1詩集です。遅ればせながらお祝い申し上げます。
ここではタイトルポエムを紹介してみました。喩として「口をパカッ/心の中まで/ぜーんぶみせ」たり、「ブォーンと/おならでほえて/まきフンを/命中させ」みたりとは、誰もが思うことですが、なかなか出来ませんね。その心境を「カバ」に託したおもしろい作品だと思います。全編やさしい言葉で書かれた詩集で好感を持ちました。
作品「笑う」はすでに拙HPで紹介しています。これも良い詩です。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせてご堪能ください。
○月刊詩誌『歴程』548号 |
2008.2.29 静岡県熱海市 歴程社・新藤涼子氏発行 500円 |
<目次>
詩
悲劇をわたくしは待ち望んでいるのだった/三角みづ紀 2
砂丘 S・N氏を偲んで/粕谷栄市 6
『無題』/支倉隆子
冬茜/黒岩 隆 11
ソウルの居酒屋/野村喜和夫 14
くり返されるオレンジという出来事(水)/芦田みゆき 18
〜第2回 歴程春の朗読フェスティバルのお知らせ〜
版画 岩佐なを
砂丘/粕谷栄市
S・N師を偲んで
静かな朝、紺碧の天の下で、白髪の老人が踊っている
のを見るのは、いいものだ。それも、誰もいない砂丘で、
ひそかに、ただ独り、踊っているのを見るのは。
疎らに、月見草の花の咲くその砂丘で、彼は踊ってい
る。右手で、その花の一本を頭に翳し、左手を、腰の後
ろにおいて、幾度も、ゆっくりと、砂の上をまわる。
それは、彼の故郷の町で祭りの日に、人々が、輪になっ
て踊るものである。踊りには似合わない普段の服のまま、
ただ独り、彼は、その踊りを踊っている。
彼が、故郷を離れてから、長い歳月が流れている。遠
い日、彼は、人々とともに、それを踊ったことがあるの
だろう。
静かな朝、月見草の花の咲く砂丘には、彼のほか、誰
もいない。白髪の彼は、月見草の花の一本を、額の上に
翳し、砂に影を落として、踊りをつづけている。
既に、この世を去って久しいはずの彼が、そこでそう
しているのを見ることのできる者は、限られている。生
涯のどこかで、彼と会い、親しく、ことばを交わしたこ
とのある者である。
その後、歳月を経て、思いがけなく、その彼を見るこ
とがあるのだ。つまり、人々が夢と呼ぶ、日常を超えて
やってくる、特別の時間のなかでのことである。
その機会が、どうして、自分に訪れたのか、それは、
わからない。自分が、どんな心の闇の旅をして、そこに
辿りついたか、それも、わからない。
ただ、永い歳月の後に、自分が、見知らぬ町から、遠
く、砂の渚を歩いてきたことはわかる。今、その砂丘に
立ち、非常に、淋しいものを見ていることはわかる。
紺碧の天の下で、老人は、片手を反らせ、月見草の花
を額に翳して、いつまでも、踊りをつづけている。自分
がそこにいる限り、それが終わることはないのである。
幻視の世界と謂ったらよいのでしょうか、まるで映画の一シーンを観ているようです。登場人物は「白髪の老人」ただ一人。その「踊り」を見ている「自分」が観客と同化していくように思います。「S・N師」はすでに亡く、彼の踊りを見られる者は「生/涯のどこかで、彼と会い、親しく、ことばを交わしたこ/とのある者」のみ。それは「人々が夢と呼ぶ、日常を超えて/やってくる、特別の時間のなかでのことであ」りますが、「自分/がそこにいる限り、それが終わることはないのである」、つまり、記憶され続けるということなのでしょう。「S・N師を偲」ぶ作者の思いが伝わってくる作品だと思いました。
○季刊詩誌『GAIA』23号 |
2008.3.1 大阪府豊中市 上杉輝子氏方・ガイア発行所 500円 |
<目次>
梅見に行く/水谷なりこ 4
惑星にむきあう/上杉輝子 6 羽毛よりも重い/平野裕子 8
ジャスミンの花/小沼さよ子 10 身体に縫いこめられた歴史の破片(敗戦そして冷戦)/猫西一也 12
董橋にて/熊畑 学 14 おにごっこ/熊畑 学 15
だから/立川喜美子 16 握る/国広博子 18
北都/海野清司郎 20 生き方/まえだかつみ 22
掌/竹添敦子 24 作業 1−めくる−/横田英子 26
作業 2−編む−/横田英子 27 山から出て山に帰る/中西 衛 28
頸椎を病む/中西 衛 29
同人住所録 30 後記 中西 衛
掌/竹添敦子
厚紙の等高線に沿って、切る
少し小さくなった等高線を、また切る
それを重ねて貼り付けて
色を塗り地図記号を載せ
最後にニスで固める
夏休みの宿題なのに
誰も彼もが嬉々として
最初に取り組んだ
国立公園、扇状地
富士山や日本海溝もあった
あるときは
白地図に好きな色を入れて
日本の地域や産業
世界の国々や広さを知った
ああ、あの楽しい地理
懸命に年表を作った歴史
あんなふうに世界と出会い
自分の掌で学ぶことを知った
扉をたたいて研究室に入って来るなり
答えを聞きたがる学生たち
私はきっと辞書の代わりなのだろう
志望理由書も履歴書も自分の長所短所すら
頼るだけ頼る便利屋だ
図書館は試験勉強するところで
調べものはすべてインターネット
参考資料はモニターから飛び出してくる
彼らの指が検索する情報には
ときどき私の知らない私がいたりする
ああ、だから、今度扉をたたいたら
彼らの指を開き
掌の上に書物を載せて
ここにこそ世界があると
やさしく、根気強く、教えてやろう
自分の掌で世界をつかめと伝えてやろう
私はやったことはありませんが、「厚紙の等高線に沿って、切」り、「それを重ねて貼り付けて」という地図作りは楽しいものだったんでしょうね。例えば、同じ倍率で日本と米国の地図を作ってみたりすると「世界の国々や広さ」、その違いを実感できるかもしれません。そのように等倍率で「自分の掌で学」び、把握することの重要性を改めて感じます。
それに対して「調べものはすべてインターネット」の現在、実は私もその危険性を機会あるごとに発信しています。私もよく利用しますが、半分は疑ってかかっています。不注意で間違えている情報、悪質な偽情報もあるからです。最終的には「掌の上に書物を載せて」確認することが大事です。その上でネットの即時性、即効性を利用すれば良いでしょう。
作者とはちょっと視点が違いましたが、私の思いと同じでしょう。ネット時代の現在、考えていただきたい内容です。
○隔月刊会誌『Scramble』92号 |
2008.2.24 群馬県高崎市 金井裕美子氏編集・平方秀夫氏発行 500円 |
<おもな記事>
○言葉のチカラ…天田紀子 1
○私の好きな詩 茨木のり子 詩「こどもたち」ほか…武井幸子 2
○書評 福田誠詩集「水たまりを飛ぶ」きびすを渡して存在する…志村喜代子 3
○会員の詩…4
金井治子/横山慎一/芝 基之/武井幸子/遠藤草人/渡辺慧介/金井裕美子
○総会・現代詩ゼミ開催/あすなろ忌案内 8
○編集後記…8
いい夫婦/芝 基之
ずうっと、むかし
「ネクタイをしてから
歯をみがく人とは一緒にはいられない」
といいはられ、
或る日、離婚をしてしまった友人夫婦
歯をみがいてから
ネクタイをしめればよかったのか
細かい事にこだわり続ける
かたくなさを嫌がった為か
別れた二人は
それぞれ伴侶をみつけたが
おかしいことに
新しい伴侶は何となく
別れたそれぞれの伴侶に似ていて
体つきやさりげない所作の中に
ほほえましいお互の過去がみえていた。
別れた後の40年余
全く異なる人生をなぞる様に生きてきた
二組四人の人達、
どちらかが 心静かに
相手をゆるしてしまえば
もう少し違った人生が用意されていたのに、
師走の始め、亭主が逝き
月末に その別れたカミさんが旅立った
鏡の前でネクタイを締めながち
人生のあちこちへの横ぶれは
他愛のない原因から生れると
なんとなく解ってきた、この頃、
ネクタイの柄を横目でみながら
歯みがきをすませていることを確認して
ホッとしている自分が少し情ない。
あの二人は本当にいい夫婦だったのに。
「ネクタイをしてから/歯をみがく人とは一緒にはいられない」というのは一つの喩でも、他人から見れば些細なことで別れてしまう夫婦は多いですね。離婚経験のある私は大きなことが言えませんが(^^; 「ネクタイの柄を横目でみながら/歯みがきをすませているとを確認して/ホッとしている自分が少し情ない。」というフレーズがよく効いていると思います。高みではなく、同じ視線に立とうとする作者の自然な動きが読み取れて、好感を持ちます。「あの二人は本当にいい夫婦だったのに。」という作者の言葉に、天にいるお二人は、今では納得しているのかもしれません。
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