きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.2.26 河津町・河津桜 |
2008.3.21(金)
昔の職場で同僚だった女性の、父上が亡くなったので告別式に行ってきました。享年85歳。まあ、年齢的には相応でしょうから、遺族もそれほど暗くはなっていないようでした。彼女の亭主は、私の高校時代の後輩。彼とも久しぶりに話ができて、ちょっとした同窓会気分でした。そんな気分になれたのも亡くなった父上の年齢と関係があるかなと思っています。人間やはり、天寿近くまで生きたいものです。
○村永美和子氏詩集『半なまの顔』 かごしま詩文庫17 |
2008.3.20 鹿児島県鹿児島市 ジャプラン刊 1300円 |
<目次>
周期−アユ漁 6 周期−ショベル・カーが 9
周期−隣り合わせ 12 ぬれ目玉 15 あれが 流れ 18
無人駅 20 電飾 22 ホタル 26
夏の頁 29 半なまの顔 32 鬼、熱発 35
真帆 38 奴 40 顔 42
脱 44 陽 46 抜 48
戸 50 糊 52 吊 54
組 56 棒 59 起 62
問答 66 文江の両耳 70 実らなかった写真撮影 72
ひとときのお茶 77 ふくらみ 82 犬 84
海とせんたく 87 まど の さん 91 上下 94
辻役者 97 竜宮城へ 100
胴体の風 104
あとがき 108
周期−ショベル・カーが
道は止まっていないが
ヽヽヽヽヽ
いきどまりと口にする男たち
息をつめた面もちで
いま一人 通ったわ
あっちへ抜けられる?
奥へこらす 女の目
風倒木がらみの通りにくさが 道をつぶし
下枝をくぐる猫
尾で尻をふさぐ犬も遠回り
遠い日の子どもたちの笑い声をふくむ苔が
厚くなり
ある日 ショベル・カーが
響きと組んで地団駄 開始
崖も墓も木々も根こそぎ 掘り起こし
だんだらの段差つきで あらわれたのは
身ぐるみ剥がされの
太陽
橋の下で寝る年寄りは 横目をつかう
太陽の煮ころがし――
焼けフライパンのにおい
この刻 おれの腹がすく
7年ぶりの第7詩集だそうです。紹介した詩は「周期」というシリーズ物の1作のようですが、第3連の「身ぐるみ剥がされの/太陽」というフレーズに魅了されました。「ショベル・カー」で「崖も墓も木々も根こそぎ 掘り起こ」され、「だんだらの段差つきで あらわれたの」が太陽だったというわけですけど、その太陽を「身ぐるみ剥がされ」と形容するところに著者の並々ならぬ言語感覚を見た思いです。最終連の「太陽の煮ころがし――」という詩語も佳いですね。
なお、本詩集中の「棒」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきました。合わせて村永美和子詩の世界をお楽しみください。
○葉山修平氏詩集『小吟集』 |
2008.2.10 東京都千代田区 龍書房刊 952円+税 |
<目次>
凧をあげる 6 五月の朝 8 春 10
夏草の道 12 ココアの朝 14 海 16
喫茶室で 18 電車に揺られて 20 一茶庵にて 22
南総馬立地方の元旦24 あしは…… 26 貝 28
仙菓「清浄歓喜団」30 夏の滑走 32 道 34
神話――国産み 36 夜の海 38 窓 40
五月の祭 42 コスモス 44 微笑 46
藤の花 48 閑雅な逢いびき 50 夏の夕ベ 52
かくれんぼ 54 蛍 56 蛍 58
花火 60 百合 62 夕顔 64
月の宴 66
あとがき 70
南総馬立地方の元旦
正月三が日の雑煮の用意は
男たちだけの仕事だ
〈女たちは寝ていろ 手出しはならぬ
〈いいねえ 寝ていられるなんて 法楽だねえ
暁闇の霜が白い
しめ縄の車井戸をきしませて若水をくみ上げる
新しいバケツに新しい柄杓だ
口をすすぎ顔をぶるぶると洗う
台所の釜に豆殻の火を焚きつける
父は沸騰した湯に丸餠を入れる
鍋の汁には里芋と鶏肉を入れるのだ
鰹節をカリカリと山のように削る十歳の息子
青海苔をもんで重箱にあふれさせる七歳の弟
あわただしいひと時が過ぎ やがて父は
神棚にお神酒と雑煮を供えて柏手をうつ
〈さあ できたぞ 女たちはおきろ
〈ほんとに正月っていいねえ 女にはねえ
一家七人が膳をかこめば
大きな塗り椀の餠に熱い汁をそそぐ
さて青海苔と鰹節をたっぷりとかければ
かぐわしい匂いが鼻をつき ああ醍醐味だいごみ
幻に 湯気の向うにゆらゆらと初日が見え
浅間山(せんげんやま)の頂に大きな初日がのぞいて見え
まずはめでたく雑煮の祝い
わが馬立地方のむかしの元旦です
*浅間山(せんげんやま) 南総を流れる養老川を裾にした里山。海抜八十二メートル。
12年ぶりの第2詩集のようです。収録された作品は、10誌ほどの同人誌に扉詩として求められたものばかりを集めたとのことでした。いずれも21行から25行という制約の中で書いたものと「あとがき」にありました。謂わば詩の職人芸の集成と云えましょう。
紹介した詩は2005年1月、『回遊魚』(千葉)の創刊号に載せられたものだそうです。1月という特殊な月を意識して書かれたと思いますが、民俗としてもおもしろい内容だと云えましょう。私は知りませんでしたが「正月三が日の雑煮の用意は/男たちだけの仕事だ」という地域があり、あるいは全国的にもそんな時代があったのかもしれません。おそらくまだ男尊女卑の激しい時代だったのでしょうが、そんな中での男たちの奮闘ぶりが窺えて、歴史的にも貴重な作品だと思いました。
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