きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.8.28 松島




2008.9.4(木)


 久しぶりに庭師が来て、庭木の手入れをやってくれました。本当は1年に一度ぐらい来てもらうのが良いのでしょうが、拙宅のような貧乏な家ではその余裕がありません。数年に一度、庭師の手が空いているときに来てもらって、その分単価を下げてもらうという姑息な手段でお願いしています。3年ぶりぐらいかもしれませんね。
 単価を下げるもう一つの手段は、私も手伝うこと。朝8時から始まって、夕方4時半までみっちりシゴカレました。お陰で足腰が立たないほど痛んでいます。
 庭師は私と年齢も近く、以前は同じ組内同士ということもあって、何度か呑みにも行っている間柄です。昔話に花を咲かせ、馬鹿話で大笑いしながらの作業ですから、楽しいには楽しいのですが、なにせトシですからね、だいぶバテました。でも、夕方に仕上がった庭を見るのは、やはり良いものです。貧弱な植木ながら、少しは見られたものになったかなと思っています。拙宅を訪れてくれている方は、そんな目で庭を見てくれると嬉しいです。
 それにしても、肉体労働はキツイ!



武子和幸氏詩集『アイソポスの蛙』
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2008.9.20 東京都新宿区 思潮社刊 2400円+税

<目次>
穀霊 8        土蜘蛛 12       樹の窓 16
藁人形 20       スサノオ 26      伝承 30
魂呼ばい 32      ロープ抄 36      アカバホスナの海 44
アイソポスの蛙 48   眼科医院にて 52    擬態 56
写真 60        カメレオンの自画像 64 偽伝 68
海鼠の王 72      月の痣 76       黒い棺 80
花の絨緞 84      いま君は…… 88
後書 92
カバー、扉作品 武子泉「銅版画のための素描」



 アイソポスの蛙

埃をまきあげ
四方から吹き寄せてくる風
まるではるかな車輪のようなうなりをたて
頭の中で呪文のように繰り返される
一行の寓話
大地に身を伏せて
あとどれだけ繰り返せば
人間の旅は終わりになるのか

〈かくなるうえはこの暗い井戸のなかへ
 降りて行こうじゃないか〉


巨大な太鼓腹の作者はなんとよく心得ていたことか

降りそそぐ炎と硫黄のした
まるで数千年の歳月が
地を這うもののようにひらたくなって

すでにわたしたちはわたしたち自身の暗い井戸のなかであることを
高く沈黙する空 神々
両手で覆われたたすべての耳

閉ざされたうす暗い風景の涯てには
おびただしいウーラノスの石棺の群れ
まるで極限まで膨らんでいく蛙の白い腹のよう
摂氏数万度 数億度 白熱して

われわれはわれわれの
光の炉のなかでは
わずかに滑り落ちるほどの差異はない
差異はない
きみもわたしも
極限まで自由だ 自由だ
踊れ 踊れ

呪文のように繰り返される
一行の寓話の陽気な風景の彼方を
きらびやかな芝居衣装を纏って
光に青いたものたちが
ぎしぎしと行進する

  *アイソポスの寓話。そのあとに、〈すると別の蛙が答えた。「そこも干上がったら、
   どうして上にあがるのだい」〉と続く。岩波文庫版を詩の文体に合わせて変えた。

 8年ぶりの第6詩集です。表題の〈アイソポス〉はギリシャ語の読み方で、英語ではイソップになります。従って、紹介した「アイソポスの蛙」はイソップ童話の「蛙」と採ってよいでしょう。〈一行の寓話〉によって〈わずかに滑り落ちるほどの差異はない〉〈人間の旅〉を描いた佳品だと思いました。
 なお、本詩集中の
「写真」はすでに拙HPで紹介しています。初出から若干の改訂がありますが詩の本質は変わっていません。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて武子和幸形而上詩をご鑑賞ください。



秋田文子氏詩集『モノレール』
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2008.10.1 佐賀県神埼市 アピアランス工房刊
1429円+税

<目次>
 T
蛇物語 8       はぜ紅葉 12      揺れ 15
高原の宿にて 18    脱皮 21        雪の朝 23
養母の雪兎 26     宿直室 29       陽溜まりの桃 32
二人の道 35
 U
はさみ 40       雷鳴 43        退職後 46
ものおと 49      誕生日 52       ポスト 55
古い手紙 58      終わる 61       重い一日 63
万両 65        さつき 68       チューリップ 71
紫陽花 73       金魚草−初恋− 76
 V
一人住まい 80     残留孤児 83      モノレール 86
伝令 89        なにげなさ 92     高原の駅よさようなら−追憶− 95
一枚の絵 98      初恋 101        百日紅 105
赤ちゃんの泣き声がする 107
*あとがき 110



 モノレール

記憶の街をさまよい
空を仰いだところに
まだ一度も乗ったことがない
モノレールが走っている
女はモノレールに憧れを感じていた
一本の感情線をひた走るその存在感
しかしなぜか乗る勇気がないのだった

憧れながら近づいた
近代的な建物に目を奪われて
視界をなくすこともあるから
行き交う人へ目は泳がせない
目を預ける場所はモノレールの標高だけ
かつて恋人とかよった街を歩いても
いまはビルの窓から明りがのぞくだけ
窓にもう彼の姿はない

国事にしろ 芸術にしろ 恋愛にしろ
一途に一生懸命にならなければ
甲斐がない、と書いた人がいた
モノレールは記憶の時空を走り続ける
流れ去る情景
流されていく情愛
孤独と愛の深さは正比例する
モノレールは日日愛の形をトレースしている

いつかわたしがモノレールに乗る時
微笑みのかけらが舞う早朝
閉じた窓を開け
追憶の信号の点滅を確認して
残り雪の街角を走ろう
ゆっくりカーブを描いて走ろう
迎えてくれる人のいる
天空のホームを目指して

 8年ぶりの第2詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみましたが、時代の違いを感じさせられます。一昔前なら〈日日愛の形をトレース〉するのは2本のレールだったかもしれません。現在では〈モノレール〉によって、〈一本の感情線をひた走る〉という表現も可能になったように思います。作品は〈目を預ける場所はモノレールの標高だけ〉と、〈女〉の位置を地上に置き、〈まだ一度も乗ったことがない/モノレール〉を〈記憶の時空を走り続け〉させ、〈日日愛の形をトレース〉させています。最終連の〈迎えてくれる人のいる/天空のホームを目指して〉というフレーズも情感豊かだと思った作品です。



詩と評論『操車場』16号
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2008.10.1 川崎市川崎区 田川紀久雄氏発行
500円

<目次>
■詩作品
渇きと眠り−5/坂井信夫 1        逸話/長谷川 忍 2
無があるから。他一篇/田川紀久雄 3
■エッセイ
新・裏町文庫閑話/井原 修 6       ゲシタルト心理学との距離−つれづれベルクソン草(6)/高橋 馨 8
削り屋はみた/野間明子 10         生き物の賑わい/坂井のぶこ 12
ナツ ノ ミドリ/坂井のぶこ 13      女性詩人の朗読/田川紀久雄 14
末期癌日記・八月/田川紀久雄 15
■後記・住所録 26



 勇気ある祈り/田川紀久雄

勇気を与えられる人になりたい
そのためには
つねに私に苦難を与えてください
苦難との闘いを生き抜くことで
人に勇気を与えられる人明かりが生まれる
病(末期癌)は私の心を
鍛冶屋が製鉄を叩くように
力強いものにしてくれる

時に悲しく辛いこともある
自分に負けてしまいたくなることもある
でもその心も大切に育ててゆきたい

アウシュビッツの中でも
生きる希望を持ち続けていた人がいる
この世の不幸な人達のために祈りを捧げていた
死は怖いものではなかった
生きること
そして生きる歓びを祈らずにはいられない
その心こそ人のいのちでもある
小さな窓から光は差し込んでくる
小鳥の囀りさえ聴こえてくる

いま私がこうして生きていられるのは
彼等の祈りが私を活かしてくれているから

苦しみや哀しみから
生きる勇気を見出してゆける
聲をたてて笑い会う
友といのちを抱きしめ合い
心の中に温かく明るい光が差し込んでくる

苦しんでいる人の前で
道化のように微笑みを浮かべて
あなたを見つめたい
そして死の苦しみや哀しみが
あなたの生の意味の謎を解き明かしてくれる
熱い涙が
人々の幸せを祈って輝くのを見る
自分のために泣いているのではなかった
病を通じて
大きな豊かな輪が拡がってゆく
その中心に
光り輝く渦を見る

勇気を与えられる人になりたい
私はいまこうして生きている
死の恐怖を越えて
新しい生命
(いのち)
涙を通して生まれてくる
苦しみこそ私の生命
(いのち)
祈ろう
光り輝く太陽を見つめながら
                 二〇〇八年八月二十二日

 今号では〈病(末期癌)〉に犯されながら発行を続ける主宰者の作品を紹介してみました。〈病(末期癌)は私の心を/鍛冶屋が製鉄を叩くように/力強いものにしてくれる〉という作者の姿勢に感動します。〈いま私がこうして生きていられるのは/彼等の祈りが私を活かしてくれているから〉と規定するところに詩人としての勁さを感じます。〈病を通じて/大きな豊かな輪が拡がってゆく〉を感じ、〈その中心に/光り輝く渦を見る〉ことが出来るのは、作者の広く奥深い詩精神に由来するものでしょう。陰ながら応援しています。



   
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