きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
080828.JPG
2008.8.28 松島




2008.9.17(水)


 午前中は父親の通院につき添って、夕方からは京橋の「ギャルリー東京ユマニテ」へ行ってきました。天童大人さんプロデュース「La Voix des poetes(詩人の聲)」の第252回です。日本ペンクラブ電子文藝館委員会でご一緒している福田純子さんの朗読で
「鳩子ひとりがたり」。どんな詩かはハイパーリンクを張っておきましたのでご覧ください。
 福田さんの第1詩集『鳩子ひとりがたり』は2年前に一度読んだだけですが、暗誦を聴いているうちにどんどんと詩集の中身を思い出してきて、我ながら驚きました。たしか帯にはユーモアと悪意に満ちた詩集≠ニあったと思いますが、その底知れない悪意が心地良いのです。人間の正邪を丸ごと呑み込んだ詩に再び圧倒されました。

 聴衆は20人ほどでしたか、電子文藝館委員会からは委員長と副委員長の私が参加。福田さんらしく若い女性が多い会でした。懇親会は近くの「てんぐ」でやりましたけど、こちらにも半数を超える人が参加。遅くまで京橋の夜を堪能しました。お呼びくださりありがとうございました!



隔月刊・詩総合雑誌『銀河詩手帖』230号
ginga shi techo 230.JPG
2008.8.26 大阪市浪速区 銀河書房・近藤摩耶氏発行 800円

<目次>
□詩
地の底から/青柳悠 8           祈り/浅井千代子 10
ハゼのノスタルジア/山崎睦男 12      月光苑/大原鮎美 16
いきる/いとうやすこ 24          オトコの苦楽誌/三方克 26
「きみの心は燃えているか」他/丹下仁 30   キスの死/杏平太 34
不動の星/笹木一重 36           未来と奇跡/黒川明子 38
時の流れ 想い出日記/じくう 40      孫の声/下林昭司 42
農婦のうた/村上智真子 46         遭遇/工藤優子 48
ギタリストの死/宇井一 52         渡る/村野由樹 56
静かな日々/宮田久美子 58         もの思う/多田優子 60
ほほえみ と はじらい/西鴨仁 64     もっともっとわたしを好きになることから始めてみよう/榊原礼子 76
かなぶん/梅澤鳳舞 78           見えない線/安田風人 82
高倉だより うら盆のころ/鈴木たけし 84  道路と銀河/佐々木城 88
黄系統/近藤摩耶 112
□エッセイ
シュリエット/山崎睦男 116        「うる」4号(特集・土着のエネルギー)より その2/近藤摩耶 130
美術詩街界幻視行(4)/佐々木城 142
□編集の音 近藤摩耶
□表紙写真 近藤摩耶



 キスの死/杏平太

スーパーマーケットで買ってきたキスの干物
冷蔵庫にも入れず引き出しの中にしまっておいたら
カビが生えていた
僕は済まない気持で一杯になった
沿岸の浅い海で
水面からほのかに射し入る
にぶい光線をかすかに感じながら
生き生きと泳いでいた
キスの一群が
一網打尽に……
そうして命を失ったキスたちのうち
一〇本ほどが僕に買われ
五本ほどが引き出しに残っていたのだ
あんなに生き生きしていた
キスの死を無駄にしてしまった
僕は悔恨の念で一杯になった
そのとき
ふと「ああ カビがキスの死を無駄にしなかった
それにキスが生き生きと生きていたことは不滅だ
これは絶対的な不変の真理だ」と気づいた
ああ 南無阿弥陀仏! と叫びたくなったから
摩詞不思議!

 上述の福田純子さんの朗読会で拝受しました。杏さんから頂戴したから杏さんの詩を紹介するというのではなくて、今号では一番おもしろいと思いました。〈僕は済まない気持で一杯になった〉は杏さんらしく、私だったら畜生!と毒づいてオシマイですね。さらにすごいのは〈カビがキスの死を無駄にしなかった/それにキスが生き生きと生きていたことは不滅だ〉と〈気づいた〉ことです。そうなんですね。人間は人間の立場でしかモノを見ていないのです。人間にとっての食物でなくなったことに、悔しいと思ったり可哀想だと思ったりしているだけなのです。視点を変えると〈カビがキスの死を無駄にし〉ていませんし、〈キスが生き生きと生きていた〉という事実は消しようもないのです。視点を変えることの大事さを教えていただいた作品です。



詩と批評『呼吸』第U巻24号
breathing 124.JPG
2008.5.1 滋賀県高島市    500円
真田かずこ氏代表・現代京都詩話会発行

<目次>
〈扉詩〉根来眞知子 病室 1
特集〈万華鏡〉
北村こう  万華鏡(三位一体邪説) 6     真田かずこ 万華鏡 8
井上哲士  万華鏡 9            日高 滋  万能万華鏡 10
牧田久未  万華鏡 11
自由テーマ〈詩・エッセイ・他〉
井上哲士  柵 14              赤井良二  こんなことになるなんておもいもよらなかった 15
長岡紀子  ごきぶり 16           北村こう  モノコック 17
牧田久末  プリズム 18           真田かずこ 大禍
(まが)とき 19
安森ソノ子 九十七歳の祖母と/舞獅子の舞台で 20
遠藤カズエ 瀞
(とろ) 22            司 由衣  ねえ神様 24
平木光太朗 街はやがてクリスマスに/意識 不思議/こころ 25
名古屋哲夫 へんねし 28           日高 滋  ともしび 29
田中昌雄  年の始めの… 30

根来眞知子 温暖化という環境問題 32     名古屋哲夫 書評 田中良雄著『漂島』 33
田中茂二郎 エッセイ 男の詩 女の詩 34   有馬 敲  生活語詩の源流 38
井上哲士  エッセイ 『糺の森』の思い出 41
編集後記 42
フットワーク/会員の詩集 43



 ねえ神さま/司 由衣

ねえ神さま
あなたが与えてくださった
わたしの一生の後半が
どうにも気に入らず
自分で何とかしたいのです

そのもくろみは
じだばた じたばた空回りして
未だ果たされず
次から次へと難を窮めて
オムライスを食べても
お寿司を食べても
ゲジゲジ入り炒飯のような舌触りが
相も変わらずで

あなたがこの地上を光と闇とに分け
大きな光は昼を支配し
小さな光は夜を支配し
創られた一日でしょうが
わたしの眠る時間はたった四時間弱
日々心を砕き身を削り稼いだお金
育児に学資に費やしたお金
生かされもせず 殺されもせず
闇に投げ込むみたいなこと
なぜ見過ごしていらっしゃるのか
一度お聞きしたいのです

気高く難解なあなたから見れば
わたしのもくろみは不埒でしょうが
悪事に手を染めたのでも
人を欺いたのでもない
このぶざまな半生が
どうにも理不尽に思えて
もうこのへんで
クレームをつけてお返ししますよ

 この詩はよく分かりますね。本当にその通りだと思います。〈あなたがこの地上を光と闇とに分け〉て、昼と夜を平等にしたはずなのに、〈わたしの眠る時間はたった四時間弱〉。〈日々心を砕き身を削り稼いだお金〉でも〈育児に学資に費や〉すばかり。〈悪事に手を染めたのでも/人を欺いたのでもない〉のに、〈このぶざまな半生〉を〈クレームをつけてお返ししますよ〉という憤りがよく表現されています。まあ、経済学的に考えれば資本主義という欠陥社会のせいなのでしょうが、そんな社会をみすみす許している神には存在理由がありません。私事で恐縮ですが、私は最近神を罷免する≠ニいう詩を書きました。それと通じるものを感じています。



コスモス文芸『秋桜』3号
cosmos 3.JPG
2008.4.30 大阪府交野市 志田静枝氏発行
500円

<目次>
ようこそ        山下 俊子…4    青          江口 レラ…6
海           江口 レラ…7    深い夜        瀬川美智子…8
鉄条網の畠       川内 久栄…9    一里塚        渡邉 芳治…10
交叉路         稲葉 淑子…12    相聞六音       稲葉 淑子…13
サニープ膏の男     司  由衣…14    種の配達人      志田 静枝…15
夜更けて        志田 静枝…16    春なのに       志田 静枝…17
新おおそれながら    堀   諭…18    泡雪         山下 俊子…19
イタリアンスケッチ2抄 堀   諭…20    国際交流       志田 静枝…22
弔辞          下林 昭司…24    追悼 別れの言葉   志田 静枝…25
 *二号 合評会記………………………26
 *読者からの便り………………………27
  編集後記



 サニープ膏の男/司 由衣

青菜を刻んでいたら
誤って指を切ってしまった
男は
百均で買ったサニープ膏をわたしの指に貼り
手際よく傷口の手当をした

女の抱えている現実を切々と訴えたが
男の答えは人生相談の回答に似ていた
何事もひとりで抱え込んできたせいか
いつもの癖が出てきて
歯を噛みしめたり
拳を握りしめたり
明けることのない暗闇から
抜け出られる薬剤があるなら
愛の言葉は特効薬だ
サニープ膏の男に恋をしたとか
紺碧の空のような目に惹かれたとか
大それたことではない
調子のいい愛のささやきに
いっとき救われることもある

男の答が
女をまるごと抱えることができないように
そのことにわたしは覚め
切り傷の痛みほどの未練を残して

 こちらも身に覚えがあって、ちょっと後ろめたいですね。〈男の答えは人生相談の回答に似ていた〉と見破られた思いです。しかし、〈愛の言葉は特効薬だ〉というフレーズには救われるように思います。いまさら遅い気もしますが〈調子のいい愛のささやきに/いっとき救われることもある〉のなら、機会があれば語らなければいけないのかなと反省しています。妹に言わせると、私は団塊の世代の見本のような男だそうで、強情・我儘・へ理屈屋、おまけに愛情を口に出さないんだそうです。〈サニープ膏の男〉がそれに当てはまるかどうか正確なところは分かりませんけど、この作品からは同じように受け取れました。〈切り傷の痛みほどの未練〉でも〈残して〉もらえれば幸いと考えなきゃなあ、と感じた作品です。



   
前の頁  次の頁

   back(9月の部屋へ戻る)

   
home