きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2007.5.20 栃木市 とちぎ蔵の街 |
2007.6.27(水)
暑く湿った1日でした。午前中は所要で市内や隣町をクルマで走ったのですが、開け放した窓から入ってくる風もなんとなく重く感じました。エアコン? もちろん付いてます。でも、あまり使わないようにしているのです。家にはエアコンがありません。車内で快適な思いをすると、帰ってからツライ(^^;
ただいま午後8時。今日は夕方の凪が無くて、一日中弱いながらも風が吹いていて、まあ、なんとかなっています。でも、これから先、本格的な暑さになったられ、持ちこたえられるかどうか…。一昨年までの夏は会社勤めでエアコンの中。昨夏は家で過ごしていたのですが、あまり覚えていません。そんな程度の暑さだったっけ? ボケて暑さも感じないようになっていたのかもしれません(^^;;;
○岡田喜代子氏詩集『午前3時のりんご』 |
2007.6.25 東京都千代田区 花神社刊 2300円+税 |
<目次>
T
四月の校庭 8 六月の街の底から 12
潮は 16 眠れぬ夜は 18
十一月の朝 20 滝 22
ピサの斜塔 24 夏泊 26
窓 28
U
臨海公園駅を過ぎて 32 目の距離 36
時間(九月の終わりの) 38 あなたの 42
マウイ島 46 夏の朝 50
大寒 54 一番遠い指 58
ディズニーランド 62 午前3時のりんご 66
V
古い名前 72 薄い煙 74
秋冷え 76 北関東 80
別れ(その一) 84 別れ(その二) 86
パリにて父を(三月十五日)88 白い朝 96
十六夜 100. 海 102
音の無い花火 106
詩集『午前3時のりんご』を読む 菊地貞三 110
あとがき 118
四月の校庭
午前十一時の
始業のチャイムが鳴り渡る
四月の小学校の校庭には
少し背伸びをした空気が残っている
プールには
きのうの雨で なみなみと張った水
曇り空の下の 曇り空
一年生の中には
「プールには魚が住んでいる」
と 信じている子供もいる
魚にとって空とは
常に揺れ動く水面
動かない あの
ヒマラヤ杉の天辺の
曇り空を かきまぜたい
アネモネの咲く花壇では
四十年前の女教師が
画用紙を鈍く光らせて抱え
モノクロームのまま
今も私を待っている
ああ
クレヨンを忘れてきたのです
ごめんなさい
おかっぱ頭をととのえて
ペんてるのクレヨン箱
やっと差し出すと
再び始業のチャイムが
静かな水のように流れ出している
たまたま昨日の頁で『千葉県詩人クラブ会報』に載っていた岡田さんの詩「午前3時のりんご」を紹介していましたから、今日は同名の詩集をいただいて驚いています。こちらが先だったんでしょうね。
そんなわけで、ここではタイトルポエムは紹介せず巻頭詩を転載してみました。これも佳い詩です。第1連の「四月の小学校の校庭には/少し背伸びをした空気が残っている」というフレーズから魅了されました。4月になって、新入生は新入生なりに、進級した上級生は上級生なりに「少し背伸びをした」姿が映像のように迫ってきます。「曇り空の下の 曇り空」も良い詩語です。もちろん曇り空の下のプールのことを謂っているわけですけど、この思い切った切り口が魅力です。後半の「四十年前の女教師」に「やっと差し出す」「ペんてるのクレヨン箱」も見事。時空を自由に操る天性の詩魂を持っているのかもしれません。
上述のように「午前3時のりんご」と、本詩集中の「ディズニーランド」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて岡田喜代子詩の世界をご堪能ください。
○『齊藤 詩全集』 |
2007.6.21 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 6000円+税 |
<目次>
T 詩篇
詩集『葬列』(一九六九年)
T 高麗野の里
漢江 14. 倒れた石佛 14. 葬列 16
石人 17. 城隍 17. 浚渫船 18
張相 19. 春聯 20. 細い道 21
雛の墓 22. 日の下の記憶 23
U 隠亡の歌
失業 24. 影の人よ 25. 隠亡の歌 25
胸 29. 胎内への憧憬 30. 失意 30
川辺 31. 辯解 32. 帰郷 33
宿命 33. あとがき 35
詩集『後生車』(一九七四年)
化野 36. 後生車 36. 梵鐘 37
客佛 38. 如意輪童女 39. 百萬遍 39
骨佛 40. 越の寺 41. 馬頭観音 41
不生 42. 寂静 43. 絵本 43
賓頭盧 44. 阿修羅 45. 有執 46
願 46. 斑 47. 日のかげ 48
橋 48. 褐色の絵 49. 時の転位(あとがきにかえて) 50
詩集『石墨草筆』(一九七七年)
T
遺作 53. 羅刹 53. 業 54
影ふみ 55. 石墨草筆 55. きざはし 56
塩焼 57
U
人形寺 58. 人形塚 58. わらべ塚 59
胡瓜塚 60. 帯塚 60. 戒名のひと 61
V
くるす 62. 叫び 63. 鞭 64
穴 64. 旅の商人 65. 冬の日 65
古銭 66. あとがき 67
詩集『影ふみ』(一九八一年)
遠い日 69. 着せかえ人形 69. 一本道 70
てるてる坊主 71. 釘さし 71. おはじき 72
影ふみ 72. 人買い 73. ぶらんこ 74
石拾い 74. 鬼 75. 少年 76
めんこ 76. 独楽 77. 落し穴 78
影絵 78. 双六 79. 折紙 80
ちぇぎ 81. のるていぎ 81. ちゃあちぎ 82
あとがき 83
詩集『暗い海』(一九八四年)
T
まり投げ 84. スケート 84. 壺 85
のろ 86. 弥勒 87. 青磁 87
白い道 88. 麻酔 89. 挽歌 90
U
けんか 90. 地図 91. 暗い海 92
関釜連絡船 93. 南北の道 93. 鳩 94
上野公園 95. 怨 95. 街 96
花 97. 夏 97. 陽は落ちて 98
あとがき 99
詩集『遠い旅』(一九九四年)
T いのち
ああ母一〇二歳 101 行き暮れて 101 心の旅 102
父の辞世 103 渤海の鞄 104 遠い旅 104
菊 105 新茶 106
U におい
くさや 106 カレー 107 桜湯 108
もつ焼 108 漢江大橋 109 さんま 110
トマト 111 松茸 111 樽酒 112
金木犀 113 夜香木 113 月下美人 114
たき火 115 いのち 115
V むみょう
あかしやのソウル 116 冬の漢江 117 ソウル駅 118
ソウルの子 118 秋の神代植物園 119 焦熱地款 120
無心の春 120 あとがき 121
詩集『漢江の青い空』(二〇〇〇年)
T 世紀を送る
あどみらる東郷 125 漢江通り 124 漢江遊覧 124
ソウルのクラス会 125 パコダ公園 126 誕生酒 126
碑 127 寮歌 128 魂魄たちに 129
世紀を送る 130
U 旅のつれづれ
湖底の街 130 銀のボトル 131 宗谷岬 132
露天風呂 132 恐山 133 折り紙のひと 134
井の頭公園今昔 135
V 骨の道
達磨の硯 135 名前 136 五月 137
骨の道 137 雨戸 138 生還 139
国立がんセンター 140 意思 140 あとがき 141
詩集『夕映えの定期便』(二〇〇四年)
T 月見酒
月見酒 142 夕映えの定期便 142 公園の老いたD51 143
夏の公園 144 焦熱地款 145 徘徊 145
晩年 146 行き交ういのち 147 時の坂 147
U 夜半に目ざめて
夜半に目ざめて 148 箱 149 古時計 150
絵本の街で 150 切り株 151 新緑に想う 152
仙境の旅 152 桜に想う 153
箱庭 154
V ああ青春 遥かなり
半島の道 155 スキンシップ 155 栄光を焼く 156
霧の清津 157 暗い街の記憶 158 心の友 158
ああ青春 遥かなり 159 あとがき 160
詩集『群像』(合著・一九五六年)から
凌辱 161 電車の中で 162 重たい季節 163
罪悪 163
U 未刊詩篇
独楽 166 夜 166 島の春 167
駒込 168 少年 168 候鳥 169
夏の幻 170 紺碧はるかに 170 雨が来た 171
挽歌 172 金浦空港 173 四行詩 夏 173
爪 174 秋 175 地平線 175
霧の宿 176 折り紙 177 暗い街の記憶 178
箒川 178 脱出 179 星降る露天風呂 180
井の頭公園今昔 180 諏訪湖のトンビ 181 旅 181
馬車 182 箱舟 182 蛍の木 182
病床二題 183 風狂 184 生涯酒 184
繰り位牌 184 いのちを追って 185 まだ子供だった頃 186
破る 187 ポプラ 187 シロガネヨシ 188
O脚 189 ソウル賛歌 189 雨の太平路 190
遺稿詩篇
女の免疫 191 天命 192 春爛漫 193
タンポポ 193 辻占 194 爪 194
素足の少年 194 片倉製糸千人風呂 195
転生 195
行き倒れ 195 犬の鬼 196
V 詩論
詩と時間 198 城左門さんを偲ぶ 206
沈黙の十余年 212
未刊詩論
詩のありか 215. さらば戦後五十年
233
普段着文化と短詩形 238. 詩の原風景−詩における時間の重層− 241
詩の原風景−音と具象の記憶− 245. 歌と詩の出会い 250 西条八十の世界 260
W 未刊エッセイ
収穫祭の夢 278. 植民地での高等教育 279
ある鉄道屋の生涯 282. 私と漢江 285
日韓百年 287. 笠谷陽一さんのこと 288
京城帝国大学予科の寮歌 291. 私と四行詩 293
決戦下の進修寮 296. 投稿詩今昔物語 298
詩人川杉敏夫の原点と軌跡 300. 月も残っている 306
喝咽を知った亜細亜の詩人 312. 日韓文化交流と『現代詩研究』 316
申有人とピジン語 317. 風狂の会縁起 322
X 講演
日韓における詩と詩人の交わり 328. 詩の周辺 335
戦後五十年・私と朝鮮 346. 生活の中からあなたも詩を書きませんか 365
詩と川柳 374. 詩の原風景−詩における時間の重層− 376
童歌から現代詩まで 386
Y 解説
金光林 詩人の良心――齊藤の詩の世界 398
佐久間隆史 戦乱を介しての、詩と生の一ドラマ――遊ぶなら、いのちをかけて遊ベ 411
Z 年譜 422
解題 高村昌憲 436
資料 448
犬の鬼
どんなに 威張ってみても 犬は犬
陽だまりに毯栗頭の中学生が集まって
見るのも嫌な軍国校長の人物批評
あいつは結局 犬鬼神(ケキシン)!
犬だけが怖がる「犬の鬼」
人の面して飯を食う化け物(トツケビ)だ
鬼神(キシン)にすり寄る人間どもの面(つら)の醜さ
野郎! 腐った肉でも食いやがれ!
先輩が植えた記念の桜並木を切り倒し
実習で炭を焼かせての付け届け
親分筋の偉いさんには揉み手をし
欲しければ駄犬の肉までかっぱらう
変わり身の早さには鬼神もびっくり
神国が崩れ 犬鬼神の憑きもとれた
里山に風が吹き抜けて半世紀
あいつはだれだ 犬鬼神に似てないか
またぞろテレビ・新聞に面(つら)を出す
俺に任せろ? 痛み分け? 自己責任?
目障りだ とっとと失せろ! 犬鬼神(ケキシン)!
安年金でも こんな日には飲むしかないか
昨年6月に亡くなった齊藤さんの詩全集です。一周忌に間に合わせたそうです。齊藤さんも天の高みからお喜びのことでしょう。齊藤詩研究には欠かせない1冊となりました。
紹介した詩は、亡くなったあとに書斎から発見された「遺稿詩篇」の中の1編です。感情を抑えて表現していた齊藤さんにしては珍しく強い言葉が表出しています。それだけ「中学生」時代から「半世紀」経った現代への憤りが強かったのだと思います。もちろん2007年の現在も状況に変わりはありません。
本詩全集のうち、巻頭の「漢江」を始め「夕映えの定期便」、「病床二題」のうち「天井の犬」をすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、ご一読の上、齊藤さんを偲んでいただければと思います。
改めてご冥福をお祈りいたします。
○詩誌『濤』15号 |
2007.6.30 千葉県山武市 いちぢ・よしあき氏発行 500円 |
<目次>
広告 川奈静詩集『ひもの屋さんの空』 2
訳詩 手紙/フイリップ・ジャコテ 後藤信幸訳 4
作品 住む/鈴木建子 6
たまご/川奈 静 8
火の玉/伊地知 元 10
リポート
上海された(作品)/石畑由紀子 12
上海する私 村田 譲 14
濤雪 吾が家の事情(4)/いちぢ・よしあき 17
演義 自間津大祭・民俗文化の伝承/川奈 静 18
作品 メロポエム・ルウマ他/いちぢ・よしあき 22
詩誌・詩集等受贈御礼 28
編集後記 29
広告 山口惣司詩集『天の花』 31
表紙 林 一人
火の玉/伊地知 元
俺は夜毎に火の玉の夢をみる
火の玉は夜毎大きくなって
俺におおい被さるように迫って来る
それはおれの記憶をゆさぶり続ける
俺は幼かった 辺りは騒然として
俺は胴まで納まる防空頭巾をつけて
母親の手を握って走っていた
酒屋の川越屋に火が廻ったぞ
あっ火の見櫓が火達磨だあ
照明弾がピカリピカリ
B29がどす黒い鮫のように空を泳ぐ
群集は急流のように
暗い所へ暗い所へと流れてゆく
――あ お母さん 不意に母親が倒れた
――お母さん早く起きて
火がそこまで来てるよ丸焼けになっちゃうよ
――坊主死んでるよ直撃弾を受けている
いら立つ大人の声が上から聞こえ躰が宙に浮いた
誰かが俺を抱え上げたのだ (お母さん……)
あれからずっと俺は母親を探している
死んだかどうかも確かめず去った俺を
母さん恨んでいるだろうなと思いながら
夜毎火の玉の夢にうなされながら
07・4・28
「俺は幼かった」「俺は胴まで納まる防空頭巾をつけて」とありますから、小学校入学以前か低学年の頃と思われます。「死んだかどうかも確かめず去った俺を/母さん恨んでいるだろうなと思いながら」が作者の詩を書く原動力になっているのかもしれません。詩作品ですから、事実かどうかを問題にすることはありませんけど、体験者だけが持つ迫力を感じました。「B29がどす黒い鮫のように空を泳ぐ」というフレーズも体験しなければ書けないものだろうと思います。戦争って何だろうと、改めて考えさせられた作品です。
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