きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.10.9 八方池 |
2008.11.6(木)
新潟の旅2日目。朝からおしゃべりに興ずる女性陣を尻目に、近くの船岡公園という処に行ってみました。そこには昭和51年5月5日に卒業生有志が建立したという大きな石碑がありました。彫られていたのは旧制新潟県立小千谷中学校校歌です。作詞は創立当時の国漢教師の大村完という人。書はなんと「文学博士 西脇順三郎 第五回明治四十四年卒業」とありました。そういえば西脇さんは小千谷の人だったなと思い出しました。
写真はその石碑ですが、大きすぎて左右に分けて撮らざるを得ませんでした。他にも石碑がたくさんある公園ですが、一番の大きさです。私が西脇さんの肉筆に接したのはたった1枚のハガキです。1977年刊行の第1詩集を、いま思うと怖ろしいことに、西脇さんに贈呈したのです。西脇さんからは「御詩集確かに拝受しました。ありがとうございました。西脇順三郎」とだけ書かれたハガキが来たのです。1字1字が震えていました。亡くなる4年ほど前のことです。
それ以来の西脇さんの字との対面です。もちろんしっかりした字体。感激しましたね。この石碑を見ただけでも新潟に来た甲斐があったというものです。
昼食は信濃川の梁場で鮎尽しをご馳走になり、13時半には帰宅の途に。昨日と逆のコースで、拙宅に着いたのは18時でした。休憩を入れても4時間半ですから、昨日より30分早いことになります。新潟は完全に日帰り圏内となりました。日本はますます狭くなるのを実感しましたけど、ETCの請求が来たら、お金も掛かることを実感するでしょうね(^^;
○『福田万里子全詩集』 |
2008.11.17
東京都板橋区 コールサック社刊 5000円+税 |
<目次>
T 詩集 風声
あざみ台 18
一、落陽 18. 二、闇 19. 三、朝 20
荒涼 21. 海 21. 潮のうた 22
みちてくるもの 23. 言葉よ 25. ぶどう酒 26
混沌から 28. ばらのリード 29. 四季に 秋/冬/春/夏 30
四月 31. 五月 32. 森へ 33
秋 34. 旅人 34. 廃園 35
水とバラ 36. 骨のブルース 37. 虜囚序説 38
埴輪 40. フェニックス 40. 波状岩 41
夏の夜の夢 42
U 詩集 夢の内側
舟のある風景 46. 船 47. 岬にて 47
距離 48. ことば 49. 愛 50
ポエム・アイ 51. コンポジション 56. 夜のなかへ 57
Nocturne 58 いつか樹木に 59. 分水嶺にて 60
蹄鉄屋にて 61. 少年・死 62. ライチョウ(または罠) 64
ばら 64. 雨よ 65. 邪宗の門人<島原にて> 65
蓮華王院にて 67. 竹の秋 68. ふきのとう 69
雪の国で 70. 山麓 71. あじさい T 72
あじさい U 72. 九重山(くじゆうさん) 1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12 73
V 詩集 発熱
樹木 82. わたしはおまえを 83. さざんか 84
存在のゆくえ 85. 門 86. 壺 −博物館にて− 86
少年 86. 罠 87. 海辺にて 88
橋の話 89. 鷺草の花 90. 発熱 91
オダマキ草.−亡き父に− 92. サンショウウオ 93
対話 93. 鳥のかたちして 94. 六月の草原で 95
浄瑠璃寺にて 96. 魚もわたしも 97. 黒岳伝説 97
ぜんまい 99. 同じ風景はない 100 冬の林檎 1/2/3/4 100
あの樹の下には 102
子供の領分 1 かくれんぼ/2 鬼ごっこ/3 花いちもんめ/4 たこあげ/5 蝶/6 ウグイス/
7 フラミンゴ(東山動物園にて)/8 さかだち/9 壁/10 少年と/11 あやとり 103
手紙 106 頌歌 1 樹の頌/2 樹の頌/3 夕焼の頌 107
W 詩集 雪底の部屋
東頸城郡松之山にて.114. 冬の花 115 願海 116
新潟県U村 116 文字摺草 118 深海いろ 119
旅 そして北へ 120 ヤドカリ−蒲原祭り-122. トレフルという名のコーヒー屋を出ると 124
花 125 花にあいに行く 126 はるの日 127
モンカゲロウ 128 蟹 129 きゃべつ 129
病室にて 130 死者たち 131 硝子壜 131
波 132 燃焼 132 辻占 133
九官鳥 134 ひかりごけ 135 蔓草 136
かるかやの道すじで 137 祖先 138 旅は他火 139
幻想のつゆくさ 141 わたしはすぐに追いつけるだろう 142
秋の花 143 雪底の部屋 144 河口からのメッセージ 145
V 詩集 柿若葉のころ
<T>
甕 150 妖妖 150 うつろが残すふかい痕跡 151
眼差し 152 マジシャン 153 冬の虹 154
ゴスペル.イン.ザ.ナイト 155 回遊魚 156
貝 177
<U>
柿若葉のころ 158 花の谷間で 160 N兄さん 161
国鉄関門連絡船 162 祖父 164 生命 165
花の話ばかりしか 167
<V>
愁いと恨み 168 危険物埋蔵地 169 デカン高原の小さな村で 170
ヤドカリ 172 蒼 173 雲 174
くわいが座った 175
Y 未収録詩
【一九六〇年代】
骨 178 風景 179 くろい繭 179
見知らぬまち 180 旅人は出でわれに環り(連作のT) 181
旅人はいでわれに環り(連作のU) 183 夜 185
かもめは眠った 186 熔岩地帯 188 降ってくる声 189
石の心臓 190 状況(白山山麓にて) 191 断絶 192
【一九七〇年代】
化野にて 1/2 193 狂人であるか 193 れんぎょうの花のかげで 194
ひばり 194 公園の朝のなかで 195 二十六回目の夏 195
砂をうたう 1/2/3/4/5/6/7/8/9/10 196 濁った河 197
みの虫 197 船 198 北山杉 198
踊るひとに 198 野にて 199 燃えている茨の炎のむこうに 199
時のあとで(または試練) 200 なにもない野 200
樹木 201 あの花を 201 ぐいの実 202
峠 202 鉄の小鳥 204 夜行列車 204
夕暮の台地で 206 雨あがりの道のへりで.206.想妹譜 207
想妹譜 二 208 風景 210 言葉・わが歩行者 210
言葉・わが歩行者 211 言葉・わが歩行者.二 2 かくれんぼのように 212
3 高い梢のなかの 212. 頌歌.三 4 道の頒 213 言葉・わが歩行者.三
4 知らせることが 214. 5 カゲロウのようには 214
頌歌五 ツリフネ草(白骨にて) 215 そのときわたしは 215
三つの小さな歌(夢) 216 頌歌七 兎のようにさきまわりして 217
頌歌八 あなたは 誰?. 218 頌歌九 わずかな空間にも 219
雪 220
【一九八〇年代】
落葉樹林のなかで 221 風景 221 返信−南の友に− 北国の海の色はと 221
返信五−新潟より南の友に−いつか会える日のために 222
返信六−新潟より・南の友に−夕ベの慰安 224 返信七−新潟より南の友に−塩の道で 225
胡桃 225 くるみ 226 距離 226
わたしはおまえ抜きで.227.会話 227 鳥たちのこと 228
シロタマゴテングダケ.228.鳥たちのこと 239 狂い咲き 230
ヤドカリのこと 230 飛び魚 231 静かに雪降る夜のマージョ 232
灰いろの布の朝マージョと.233 北国の遅い春野のマージョ 234
光る月夜のロマンセ.−ロルカ風にロルカに− 235 影はうしろにばかりいはしない 237
今宵ひそかに 238 ユキのはなし 239 越後月潟角兵衛獅子 二 240
百日草 241 ウソ 242 越後月潟角兵衛獅子 三 242
雪起こし 244 帰る旅は行った旅・つがるへ 245
まんさくのムラ 246 花 247 桔梗 248
水仙 248 くるみ 249 いつまでも光っていて 249
何という香り.朴の花.250 廃墟にて−幼年− 251 寒雷 252
白老から室蘭へ 252 神さま-カラスウリ−.253 充実−ミヤマリンドウー 254
ふゆの日 254 ミモザの家 255 ミモザの家の夢 255
縄文土器 256 万華鏡 1/2 256 何の惑乱もなく 257
夏の訣れ 258 草木誌2 ぬすびとはぎ. 259
縄文土器 2 260 菊人形 260 楽園の哀しみ 261
軽やかな質問 261 縄文土器 3 263 草木誌 沈黙の二つの性質 水芭蕉 263
草木誌3 まんさく 264 草木誌6 すすき野 265 草木誌9 存在 265
草木誌10 ざくろ 266 草木誌11 キツネアザミ. 266
磋足它(さだ)のミノ虫.266. 草木誌12 ホウセンカ.267.草木誌14 オジギソウ 268
【一九九〇年代】
地平線の見える村で 269 パールヴァティーと結婚するシヴァ 270
紅梅が満開 271 うた 271 はな 272
そのひと 272 愛別 273 はるのあざみ 274
一輪の朝顔 274 妹−律子に− 275 寒牡丹 276
けし 277 幼年 277 糸杉の燃える林のなかに 278
鳥と少年 279 伝言板 3 花束/4 蛍. 279
真夜中のできごと 280 しだれざくら-須田剋太展-.281
風はごうごうと 282 桃の種を 282 球根 283
春の上衣 283 弥生のコブシ 284 時のなかで 285
雀 286 砂時計 286 小さな氷嚢 286
クローバー探し 287 伝言板5 夜ざくら 288. 鬼実 289
雨話(うわ) 289 ヒオウギ 290 ひまわり 290
球根 291 伝言板6 風 291. 五月の風のなかで−立浪草− 291
さようなら さようなら. 292 伝言板7 七夕 292
夜のカタバミ 293 かいつぶり 293 消えていく犬 294
波 294 笑う 295 旅のはじまり 295
雑木林の贈りもの 295 さくら狩り 296 伝言板8 雨の駅 297
やわらかな風景 297 灰かな望みさへ 298 夕顔 298
伝言板9 場所がわからなければ 299 水の島 300
連作 水の島 301 花鋏 302 蛍 302
連作 水の島 草笛とノウゼンカズラ 303. 連作 水の島6 菜の花の黄色いへりで 304
山鳩 304 連作.水の島7.赤い魚.305 連作 水の島 銀の手まり 305
伝言板10 向こうで待つ(U) 306 連作 水の島 青い魚 306
山鳩U 307 伝言板11 言い訳ばかり. 308
連作 水の島 祈り 308 夕日に向かって 309 三月 309
蛍袋 310 連作 水の島 ジョバンニのリンドウ 311
旅師 312 狐の夜祭り-散文詩- 313 瑳足它の蓑虫 314
霧を吐いて鬼蜘蛛よ 315 黙契 316 連作 水の島 毒草 316
春嵐 317 はつはな 318 連作 水の島 暗黒の岸辺で 318
五月晴れ 319 白昼(まひる) 319 郷土ひらかた 音風景コンサートによせて ひらかた・水の交響 320
水鳥 321 連作 水の島 花たちの遠い時間よ 321
【二〇〇〇年代】
柘榴 323 水芭蕉 323 推移 324
くるみ 324 鴨よ 325 はつなつの花は碧くて 325
かなかな 326 空のあわいで 326 ハーブの話−鳴海さんをしのんで− 326
燃えるカンナの赤への質問.−戦争の記憶− 327 どこへいったのやら 330
寒蕾 330 春の訣れ 331 晩春 331
風の木の下で 332 水辺にて 333 夏の絵本 333
亀 334 夏の絵本2 ちょうちょ. 334
はつ冬 335 深草にて 335 氷見 そして水のキリン 336
光るカラスウリ 337 崩れる土塀 337 りんどう 338
みんな蒼ざめて 338 どうか修復の手を入れないで 338
蝉 二編 1/2 229 黒い蝶 340 水無月 341
百日紅 341 さきの世のことは 341 草 342
断面ほか 断面/旅信/煮凝り 342. わたしのラグタイム(薬師寺花会式) 343
森ほか 森/もず/いつのまにか/さくら 344. 恩寵 345
臘梅 345 ゆうがおの白い花 345 赤い折り鶴 346
柴田基孝さん追悼 坂道をおりながら 346. 花の咲いた日 347
灰色の雲のうえには 348 シジュウカラほか シジュウカラ/セミ 348
深草にて−石峰寺− 349 水線 350 雲雀 350
浮寝鳥 351 雲(外科病棟にて) 351 左佐羅(ささら)の小野(おの) 351
ゆすらうめ 352 いわし雲ほか いわし雲/オジギ草/改良/野火 352
夏の絵本3 ナマズガワラ 353 コジュケイ 354
病院にて・ほか 病院にて/廊下にて 354 同じだと思う 355
Z エッセイ
《春》
モモ(桃) 358 サクラ(桜) 359
《夏》
ホタルブタロ(蛍袋) 361 バショウ(芭蕉) 362
《秋》
キク(菊) 364 クズ(葛) 365
《冬》
チャ(茶) 367 菊 369 牡丹 370
野茨 371 月見草 372 しろばなたんぽぽ 373
からすのえんどう 374 桃 375
[ 解説
福田万里子さんの視詰めたもの 下村和子 378
八月の空に花蔓茶羅を詩作した人 『福田万里子全詩集』によせて 鈴木比佐雄 382
\ 福田万里子年譜 401
編註 430
同じだと思う
術後の疼痛に
耐えている
日々つらく
つらいので向きをかえる
またつらいので
また向きをかえる
つらさのなかの
日々あたらしさよ
少しよい日は
種を播こう
と 思う
花はすぐ咲かないから
いい
土のなかで種子は
ゆっくりとひびわれ
ひよひよの芽で
陽を
探しにいく
わたしのつらい時間
と
種子の明るい時間
は
同じだ
と 思う
2006年8月に73歳で亡くなった福田万里子さんの全詩集です。既刊詩集5冊、未完詩篇の計400篇ほどが収録されています。紹介した詩は「Y 未収録詩」に収められていて、初出は2006年5月刊行の詩誌『交野が原』60号だろうと思います。その号では別の人の作品を紹介しましたが、作品「同じだと思う」はよく覚えています。〈わたしのつらい時間/と/種子の明るい時間/は/同じだ/と 思う〉という向日性に福田さんの詩の特徴があるように思いました。
本全詩集中の「灰かな望みさへ」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて福田万里子詩の世界をご鑑賞いただければと思います。改めて福田さんのご冥福をお祈りいたします。
○中川龍太郎氏詩集『雪に至る都』 |
2007.5.15 東京都新宿区 文芸社刊 952円+税 |
<目次>
巻頭詩 白い雪 10 深雪(みゆき)の果てる国 12
原風景 14 誓われる日々たちへ 16
太陽と月の間に 18 夕暮れ 20
美の原色 21 光る川 22
失うこと 24 廊下 26
沈黙の奔流 28 沈黙する拳 31
硝子(がらす)の太陽 32 掟と郷愁 34
刹那 36 彷徨(さまよ)える者たちへ 38
禁じられた少年 39 永遠の時効 40
寥廓(りょうかく) 42. オーロラの存在理由について 44
八月の囁(ささや)き 47 夕影鳥(あやなしどり)と夏 48
夕影鳥(あやなしどり)と僕 51 夕影鳥(あやなしどり)と芙蓉(ふよう) 52
夕影鳥(あやなしどり)と檻(かご) 54 夕影鳥(あやなしどり)と羽根 56
螢と蛾 58 誰もいない八月 60
朝焼け 62 落ち葉 64
自分 66 素っ裸 67
靴下の穴 68 傷口 69
病める太陽 70 初霜 74
マッチ革命 75 妖精と悪魔 76
不知火(しらぬい) 78. 夜と幻と 79
戒厳令の夜 80 雪の中に多くの死 82
巻末詩 雪に至る都 85
あとがき 89
巻末詩 雪に至る都
僕は十七年前に
夢の中から飛び出してきた。
だから今でも
時々見るのです。
遠い夢の中であなたの姿を。
見たことはない。
でも、間違いなく会ったことがある
あなたと。
そして、僕は何年かして
また夢の中に帰っていくでしょう。
そこであなたは待っていてくれるのですよね。
僕は十七年前に
雪の中から生まれ出てきた。
だから今でも
時々見るのです。
遠い雪の中で幻の都を。
見たことはない。
でも、間違いなく行ったことがある
その都に。
そして、僕は何年かして
また雪の中に帰っていくでしょう。
そこは雪に満たされた幻の都なのですよね。
雪に至る都に
夢の中のあなたは
付いてきてくれるのですよね。
そして、ようやく
僕たちは一つになる。
1990年生まれの高校生という著者の第1詩集です。ご出版おめでとうございます。産経新聞の新川和江さん選「朝の詩(うた)」には何度も採り上げられている実力派です。ここではタイトルポエムでもある「巻末詩 雪に至る都」を紹介してみました。鑑賞の手助けとして、「あとがき」に書かれた文も紹介してみましょう。
〈何かに到達しようとする魂、何かを伝えようとする魂、何かのために闘う魂。燃える魂はいつだって美しい。爆発する魂はいつだって純粋だ。ただ、永遠に燃え続ける焔(ほのお)は存在しない。雨が降って、雪が降る。世界は雪に満たされて、全ては神話に還元される。そこで待っているのが、「雪に至る都」なのだろう。寂しいことだ。切ないことだ。でも、その繰り返しの果てに、凍りついて眠っている真の言葉が隠れているのかもしれない。ならば答えは簡単だ。凍りついた言葉たちを救済すべく、目の前の一刹那に己の爆発を捧げる。それだけだ。〉
〈雪に至る都〉とは、〈凍りついた言葉たち〉の喩と採ってもよさそうです。作品中の〈あなた〉は別の個人とも考えられますが、私は著者の分身と採ってもよいのではないかと思います。言葉に対する感性が独特で、将来が楽しみな詩人が現れましたね。今後のご活躍を祈念しています。
○個人詩誌『魚信旗』53号 |
2008.11.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品 |
<目次>
蝉の悲歌 1 没日(いりひ) 4 消去法(手品) 5
靴 6 魚信記 8 後書きエッセー 10
いりひ
没日
波が人を運んでいく
それが人生だと作家(サルトル)はいう
山が人を呼んでいる
神秘があるからだと詩人(わたしたち)はいう
どこへ行くにも魅力があるからではない
流れたり歩いたり
流されたり歩かされたり
水を飲んだり血を吐いたり
水に呑まれたり血にまみれたり
波も山も人がそこにいるから人をあやめる
静かな波
静かな山
であったところへなぜ人は行くのか
姿が見えない本質のなかへ
人の血は騒ぐ
人ゆえの本質も知らないで
血の豊かさだけで
波も山も染めぬいていこうとしている
無謀なわたしたち
乏しい気質だけで
冷たい世界を渡ろうとしている
没落する絶景のなかにいて
ふるえているのはわたしたち
〈波も山も人がそこにいるから人をあやめる〉というフレーズにドキリとさせられました。〈人〉という存在がなければ、何も問題は起きないのかもしれません。では〈静かな波/静かな山/であったところへなぜ人は行くのか〉という疑問に、この詩は〈人ゆえの本質〉なのだと答えてくれていると思います。最終連の〈乏しい気質だけで/冷たい世界を渡ろうとしている〉というフレーズも重要でしょう。私たちが持っているものは〈乏しい気質だけ〉だと教えてくれています。短い詩ですが、タイトルの「没日」とともに、人間とは何かを考えさせられました。
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