きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.11.21 静岡県裾野市・五竜の滝




2008.12.12(金)


  その3




水野浩子氏詩集『片羽の蝶』
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2008.12.25 東京都千代田区 花神社刊 2000円+税

<目次>
 
T
鳳仙花 8      葦原 10       さびついて 14
浜辺で 16      菊もどき 18     にぎやかな夜 20
鶺鴒 24       藤の樹 26      梅雨の闇 30
 
U
岸辺 34       点滅 36       明けがたの夢 38
雨の針葉樹林で 40  蛇の衣 42      堂々巡り 46
ほたるぶくろ 48   靄 50        片羽の蝶 52
 
V
それだけの 56    雪の朝 58      電話 60
桐の花 64      きぶしの花 66    暮れ落ちて 68
秋祭り 72      朝日にむかって 76  雲雀 78
擬態 80
クールな観察眼とやさしい詩情 菊地貞三 83
あとがき 92




 
片羽の蝶

輪切りにして写した脳の写真
無花果を上からみたような形の真ん中に
閉じ込められて 蝶がいた
右上の羽が椀ぎとられている

医師から写真の入った大判な袋と封書を渡されて
別の病院へ行くように言われた

私の脳には
片羽の蝶が住み着いている
動きの鈍くなったタツノオトシゴと一緒に

おおかたは青みを帯びた白い色をして
静かにまどろんでいるが
時々 色を変えたりする

こめかみに走る痛みには黄色の光に縁取られた片羽を
小刻みにふるわせ
少しばかりのワインに酔った夜は
深紅色に染まって舞い立とうともがき
いつのまにか姿を消してしまう

明け方
かすかに草の匂いがした
蝶はまだ住み着いている
片羽のままに

 15年詩を書き続けてきたという著者の第一詩集です。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムを紹介してみました。「私の脳」を冷静に捉えた視線が印象的です。職業は薬剤師とのことですから、科学的な観察眼が備わった詩人なのかもしれません。それだけではなく、最終連の「明け方/かすかに草の匂いがした」というフレーズからは、この詩人の繊細さをも感じ取ることができましょう。今後のご活躍を祈念しています。




あさい裕子氏詩集『風の族(うから)
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2008.12.22 さいたま市南区 風心社刊 1429+税

<目次>
 T
朝もや 8      秋の手 10      家族 14
ひまわり 16     母の不在 18     黄金色の陽ざし 22
風にのる 26     漁火 30       本棚 32
黒い靴 36      風渡野 38      旅立ち 40
 U
母の独り言 44    六日前 48      魚が溢れた日 52
風の吹く町 56    更地に還る 60
 V
ワラシゴ 66     川っぷち 68     蓮台野 72
囲炉裏 76      霊水 80
 W
護身 84       羽化 86       コルクの栓 90
風の族 94      凛 98        みずのみち 102

詩集「風の族」に寄せて 106
あとがき 108
装幀 あさい裕子




 
風の族(うから)

ざんざ降りの雨の中で
織り上げたばかりの銀糸が
重たげに揺れている

傘の柄でつつかれ
ほうきで払われ
どんなに突風が吹き荒れようとも
小さな蜘蛛は自然に身をまかす

風を味方につけ
しなやかにたなびき
柔らかい腹から銀の糸を紡ぎだす
動作は手早く無駄ひとつない

蜘蛛よ
お前には風の姿が見えるのか
私は
人の狭間に吹きすさぶ
寒風に身を縮め
何もできずに戸惑うばかりだ

季節が巡れば私も
自然に身を委ねるお前と同じ
風の族となれるだろうか

雨後の風が
しがらみにあがく
私に向かって吹いてくる

 こちらも、詩作を始めて8年という著者の第一詩集です。ご出版おめでとうございます。こちらもタイトルポエムを紹介してみました。〈蜘蛛〉には〈風の姿が見えるのか〉もしれませんね。〈傘の柄でつつかれ/ほうきで払われ〉ようが〈自然に身をまかす〉蜘蛛を〈風の族〉と表現したところが見事です。それに〈私〉を重ねたことで作品を奥行きが出たと思いました。
 本詩集中の
「ひまわり」「風渡野」はすでに拙HPで紹介していますので、ハイパーリンクを張っておきました。合わせてあさい裕子(旧筆名・浅井裕子、淺井裕子)詩の世界をご鑑賞ください。
 今後のご活躍に期待しています。



   
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