きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.9.4 筑波山・ガマ石 |
2009.10.8(木)
台風18号来襲。ただいま正午。皆さまのところでは被害がなかったでしょうか。拙宅では倉庫の壁に掛けてあった雑巾が飛んだ程度でした。
足柄山は晴れて強い陽射しがあるのに雨、いわゆる狐の嫁入り状態で、なんとも不思議な光景です。ときおり風も強く吹いています。それにしても台風、来なければ来ないで渇水ですし、来たら来たでなんらかの被害。大自然の前ではいかに人間が無力であるかを知らされる、絶好の機会であるわけですね。大きな被害を出さずに通り過ぎてくれることを祈るばかりです。
○新・日本現代詩文庫69『吉川仁詩集』 |
2009.9.25 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 1400円+税 |
<目次>
詩集『陸(りく)』(一九五一年)全篇
序・草野心平 装釘・丸木位里
泰山・10 渦・10 揚子江・11
長城・12 ネオン塔・12 油・13
魚・14 火・14 象山・15
僧・16 ダイナマイト・17 國・17
國・18 腹・18 渤海・19
月・19 玻璃廠・20 香港・21
原始・22 河岸・22 陸・23
北風・23 部落・23 苦力・24
鴨・25 國外・25 天津・26
景・28 北京・30 江南・32
陸・34 デルタ・37
詩集『雷(らい)』(一九八七年)抄
T
雷・39 磁気・40 神戸・41
祈祷・42 気球・42 歯車・43
未来・44 笛・45 テロル行・46
夜間飛行・47 上昇感覚・48 迷路・49
デフレーション・50 熱い石・51 告発・52
爆弾・53 狙撃兵・54 闘争夜行・54
エアラインの下に・55 ふかく眠れ・57
U
刃・58 占領・59 砲弾・60
機械・61 貿易・61 こころ・62
V
報告――広島にて・63 塘沽・65 行儀・65
自由・67 晩夏・67 首都へ・68
W
報告・69 奈落・70 浪速町風景・70
鉛・71 隠れ家抄・72 終夜祈祷・74
天命・75 油照り・75 階級・76
晩年・77 田園・77 前夜・78
月・79 戦死・79 反乱・80
死後・81 闇黒・82 逃亡・82
二月・83 九十歳・84 非命・84
檻・85 決死・85 夜の木・85
消えぬもの・86 ゾルゲの風景・87
未刊詩集『国(くに)』抄
生きている・88 白骨・89 夜光・90
ホロンバイル・91 ズームイン・ノモンハン・93
おまえはなにをしていたか・94 五十年・96
侵略・97 喀什<カシュガル>・98 もうひとつの神・99
歴史・100. ボヘミア.T・101 ボヘミア.U・102
ボヘミア.V・103 小野十三郎さんのちいさな顔写真・104
匕首−小野十三郎さんのみ霊に・104. ロンドン・105
遺恨・105. ベルリンの満月・106
旅信――照片に添えて 烈風・107. 故墟・108
ゆび・108. 贋唐三彩・109. 土佐中村・110
骨簡・111. 馬嵬<ばかい>・113
寂寞抄 口上・113. 空転・114
冷血・115. 虜囚・115. 残像・116
故山・116. 壊滅・117. トルファン・117
楚歌・118
南京・119. 肖像・120. この世でもっともおろかなこと・122
死の河・124. 不眠・127
エッセイ
『はるかなる詩論』顛末・130. 流浪地より――戦死者Hへの手紙・133
誅(ちゅう)す・140 浜田知章『リアリズム詩論のための覚書』によせて・145
解説
木暮克彦 精神の物質化に関する実験的現代詩・150 長津功三良 吉川仁について・152
長谷川龍生 見えない「物」や「事」を見て、撃つ、吉川仁さんへの書簡・155
吉川仁略年譜・163
決死
苦渋にゆがむ顔は
もとにもどらぬ。
この顔をつけたまま
土中に入る。
あるいは、焔につつまれて
ゆがんだ顔は
まんなかから
みごとに破裂するのだ。
今年88歳という著者の詩集成です。ここでは文庫の表1にも使われている「決死」を紹介してみました。1987年刊『雷』中の作品です。死に臨んで〈土中に入る〉か、〈あるいは、焔につつまれ〉るかは本人のあずかり知らぬところですが、即物的なモノ言いに痛快ささえ覚えます。
なお、本詩集中の「残像」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて吉川仁詩の世界をお楽しみください。
○文藝誌『セコイア』34号 |
2009.9.30 埼玉県狭山市 セコイア社・松本建彦氏発行 1000円 |
<目次>
回国の岸辺の眼(]W)……………吉川 仁…2 大麻のはなし……………………………堀池 郁男…16
蕪村と戦争……………………………森 清…17 曼陀羅随筆(22)………………………松本 建彦…20
夜刀の神の祭り(22)………………友枝 力…28 おおえど・ぶるうす(3)………………高野 保治…78
<森のばぁば>とはずがたり(3)……原田 道子…100. 最後の大空襲(続・影たちの墓碑銘)…長津功三良…36
ある日…………………………………千葉 文…54 余韻ほろにがく…………………………内藤喜美子…58
若き日のメモリー……………………内苑 竹博…70. 『雪一尺』のあとさき…………………高橋 次夫…87
西行……………………………………木暮 克彦…90 童謡「露地の細道」を巡って…………篠崎 道子…110
<魚眼>…………………………………………………136
・同人名簿…表3 ・広告…77・99・109
大麻のはなし/堀池郁男
このところ、年の瀬が近づくと大麻を売ることを頼まれる。頼まれるだけではない。実際に売り歩く。それも正真正銘の大麻だと言えば、まさかと思われるだろうか。
こういうことである。
私の住んでいる辺り、それは私の生れ育った辺りと言っても同じだが、昔はまったくの田舎だったのが今や郊外の住宅地。人家も人口も数倍になり、代々ここに暮す請わば原住民はもはや一握りという恰好で、大多数が新住民。一緒になって地域を運営しているが、古くからの様子も勝手もおおよそ知っているということで、専ら原住民が引き継いできた役がある。鎮守の神様すなわち氏神の世話役で、三年ほど前にお鉢が回ってきた。役を引き受けてみてよく判ったことの一つは、全国のおおかたの神社が祭神の別を問わず伊勢神宮の傘下にピラミッド式に組み込まれていて、これに附随する仕事があることだった。大麻の頒布もまさしくそれ。その大麻とは、平たく言えばお札(ふだ)である。これを、私を代表とする四人の役員が手分けをして売り捌く。今、大麻と聞けば即ち麻薬と思う者が多いだろうが、国語辞典ではどうかと調べてみた。特に「伊勢神宮の――」としている例もあるが先ず「神符」。そうして「幣(ぬさ)」。そんな説明があり、最後の方に「麻薬」が出てくる。辞典の新旧での違いはあまりない。が、マスコミが報じる「大麻」は決って麻薬。別の意味があることなどには無頓着というよりどうやら無知の様子で、いつの間にか世間もそれに感化させられたかと思われる。本家本元と言える伊勢神宮も大勢には抗し難いとみたか、昨年末の頒布の際は、依頼文の「大麻」の文字に「おふだ」という振り仮名があった。
言葉は変る。言葉の指し示すものも変る。こうしたことについて、言葉とはおよそそのようなものと達観した構えで、それに批判を加え抵抗することなどまるで無駄のように言う向きもある。が、そこまで物分りがよくなってしまっていいかどうかといつも思う。時に、物分りのいいことを言う詩人もいたりする。詩人が表現の上で言葉を破壊しようとするのはいいが、それが効果をもつためにも言葉は一定の規範性を保っていなければならない。無駄とも見える抵抗にも意味はある。そうも思うのだが、違うだろうか。
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私も〈それに感化させられた〉部類なのですが、〈「神符」。そうして「幣」〉とはまったく知りませんでした。〈詩人が表現の上で言葉を破壊しようとするのはいいが、それが効果をもつためにも言葉は一定の規範性を保っていなければならない〉とのお説にも共感します。
○詩誌『ONL』104号 |
2009.9.30
高知県四万十市 山本衞氏発行 350円 |
<目次>
詩作品
小松二三子 或る夏の日 2 土志田英介 向かい合う眸 4
徳廣早苗 こんにちは・さようなら 6 西森 茂 繋がるいのちと鳥と 8
浜田 啓 母(4)世の中(4) 10 土居廣之 喧嘩したとき 12
福本明美 行き合いの空 13 藤田恵美 追想 14
文月奈津 道路 15 丸山全友 協力 16
水口里子 小さな手に 17 大森ちさと 夕陽 18
森崎昭生 観業 19 柳原省三 密航少年 20
山本 衞 十一歳の砂山 22 山本清水 夜光虫/他 24
山本歳巳 少年/他 28 ウカイヒロシ蜻蛉の仔役時代/他 30
大山喬二 橡の木の森へ(18) 34 岩合 秋 花火繚乱 37
岡村久泰 ダリの時計 38 河内良澄 おおつきはどこ 40
北代佳子 人が人らしくを思う 42
評論作品 谷口平八郎 平出修という人物 43
エッセイ
埋め草詩片/他 44 芝野晴男 宙(そら) 45
山本 衞 人が人らしく(3) 46
後書き 47
執筆者名簿 表紙絵 田辺陶豊《ヴァイオリン》
密航少年/柳原省三
カリビアンハイウェイという
カリブの島々の各港に
自動車を運ぶ専用船に乗船していたとき
二人の密航少年に出会った
いとこ同士だという二人の少年は
部員食堂の床に縛られ
犬のように繋がれていた
港を出てから二日経ち
空腹から食料を盗みに出て捕まった
軍の下士官だった経歴を持つ
韓国人三等航海士の取り調べに
時々けたたましく悲鳴を上げている
拷問をするのだ
ベトナム戦争の前線では
韓国軍はいつも危険な場所にやられたと
アメリカ軍を恨んでいる男だ
ベトコンとの白兵戦では
沼地で武器を失い
相手の喉に噛み付いて殺したと自慢する
少年の指を締め上げたりするが
彼はとても優しく扱っているつもりなのだ
それを日本人一等航海士が
慌てて制止しながら調べている
しかし日本人船員にとっては
何せ雇用情勢の厳しい折
給料の安い外国人船員に替えるため
少しのミスで首になる
密航者に潜りこまれ責任は重い
職を失って途方に暮れる家族が浮かび
思わず自ら少年の尻に蹴りを入れた
浮き輪として空のドラム缶を一個与え
海に放り込んだ船もあったと聞く
船員も生活が掛かって必死なのだ
人望のない船長だと
それをチクられニュースになった
もしも少女の密航者なら
船員は限りなく優しくなるが
残念ながら密航者は常に男なのであった
柳原省三さんの詩は、平凡な私たちの日常とかけ離れていて勉強になるのですが、この作品も国際色豊かな〈自動車を運ぶ専用船〉の出来事です。〈二人の密航少年〉も哀れですけど、〈給料の安い外国人船員に替えるため/少しのミスで首になる〉〈日本人一等航海士〉も哀れですね。船は人種だけでなく経済の縮図でもあるのだなと思いました。