きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
091103.JPG
2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで




2009.11.9(月)


  その1

 夕方、神奈川新聞社の文化部から電話がありました。お前のところで出版した『見捨てられた人々』を紹介したいんだけど、出版社は「オフ出版」でいいのか、電話番号はこれでいいのか、定価は税込み1800円でいいのか、というものでした。もちろん丁寧にお答えしましたけど、嬉しいですね。著者の本多廣光さんから出版してくれと頼まれたものだったのですが、読んで、これは行ける!と思いました。私の眼に狂いはなかったわけで、見る人はちゃんと見てくれているのだなと、眼の前が明るくなった気分です。

 今度の日曜日の「読書」欄に載るようです。神奈川新聞をお取りになっている方は、ぜひご覧ください。どんな本かは、
こちら をご参照ください。小田原市の 伊勢治書店 でも発売中です。




個人詩誌『魚信旗』65号
gyoshinki 65.JPG
2009.11.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品

<目次>
風の心 1       運命 2        顔 4
影を撮られる 6    癌闘病空間 8     樹の炎 9
後書きエッセー 10




 
風の心

激しく哭
()くときもあれば
もの静かに揺れることもある
その他いろいろに風の心は人の現
(うつ)し身

風鈴が警告する
わたしに向かって
わたしが警戒しなければならないのに
わたしが驚愕している
揺れている現世を見つめる 
・・ ・・
もうすっかり忘れ果てていたうごめきを感ずる
日常に埋没していた惰性という重い荷物に気づく

地震のように感
(かん)が揺れるので
その荷物をほどく
ほどくほどに風鈴が鳴る
激しく鳴って荷物が砕かれる
明るい風が追いかけてきて
眼界の大景が開かれる

人間はいつもエネルギーに満たされていなければ・・・
というような意味の言葉が聞こえてきた
風になぶられて目覚めたわたし
ふと風鈴の短冊をいさめて
「やわらかに 柳青める北上の
 岸辺目に見ゆ 泣けとごとくに(啄木)」と読む

ゆるりと風の大景が開かれてきた

 〈風の心は人の現し身〉という詩語に、本当にその通りだなと思います。〈日常に埋没していた惰性という重い荷物に気づく〉のも、風に依るのだと気づかせてくれます。第3連の〈眼界の大景〉、最終連の〈風の大景〉という詩語も佳いですね。“大景”という言葉は、私の手持ちの辞書にはありません。作者の造語と思われますが、大きな風景、大きな景色と採れ、〈風〉にふさわしい言葉だと思いました。




詩誌『饗宴』56号
symposion 56.JPG
2009.10.1 札幌市中央区 林檎屋発行
500円+税

<目次>
詩論 王様のパイ     山内みゆき…4
作品
花の国2           瀬戸正昭…6   ことぶきや商店      中村えみりぃ…8
灯火             村田 譲…10   秋の一日/近未来の倫理社会 山内みゆき…12
「油田」ノート         尾形俊雄…14   裏庭             木村淳子…18
方舟−そうじ        嘉藤師穂子…20   魚篇 鱈          吉村伊紅美…22
転身譚 12          塩田涼子…26
小特集 藝術随想集・2009
夢はいつもかえっていった−佐伯祐三展に寄せて  工藤知子…28
レクイエムの詩学(3)(シュッツ〜モーツァルト)  瀬戸正昭…31
遠い地球 近くの宇宙              塩田涼子…35
京都暮らし(二)               吉村伊紅美…36
連載エッセイ
林檎屋主人日録(抄)(17)(2009.4.7〜2009.9.30)  瀬戸正昭…38
●受贈詩集・詩誌…19
●秋の詩話会…30                饗宴ギャラリー 地原麻恵「思いがけぬ来客」…2




 
ことぶきや商店/中村えみりい

車の多い通りの角地で、ことぶきや商店は
コンビニにはならず、
それと変わらないような
雑貨屋、酒店を営んでいる。

「あれ自動ドアが開いた」と
客のひとりが呟いた。
「あいつながいんだよねえ」と
おばさんが答えた。
見ると一本足のからすが
店の前でこちらを覗いている。
「とうさんがね、残り物の弁当やってね、
最初は残さず食べてたくせに
今じゃから揚げなんかしか食べないで
残してるんだから、まったくもう。」
たしかにからすは肥え太っていた。
一本足で支えきれないほど丸々として
それでも客がくればちょこちょことよける。

「今日はとうきびがおいしいよ」と
市場で買ってゆでたてのとうきびや、
かまぼこを売っている。

ことぶきや商店の横の通りは
まっすぐ歩いていくと競馬場がある。
今は大きな駐車場があって
もうそんなことはないけれどと
おばさんがおしえてくれた。

この先にまだ路面電車が走っていた頃
皆このことぶきや商店の
横の通りをとおって競馬場まで
歩いていったそうだ。なかには
帰りの電車賃まできれいに使って
ことぶきやさんのビールや一升瓶の
空き瓶を盗んで、よその店に売って
電車で行けるところまで行って
帰っていったそうだ。
「だから競馬の日はみんな瓶を隠したんだよ。
それでも盗まれてさあ」と語る
おばさんも昨日のことを話すようだ。
もしかしてその瓶泥棒のなかには
去年死んでしまった父もいたのだろうか。

 〈ことぶきや商店〉をめぐる〈一本足のからす〉と〈瓶泥棒〉の話ですが、〈おばさん〉の人の好さそうな顔が眼に浮かぶようです。〈コンビニにはならず、/それと変わらないような/雑貨屋、酒店を営んでいる〉らしい店の佇まいも好感を持ちますね。
 詩作品としては最後の2行がよく効いていると思います。詩作品ですから事実かどうかは関係ありませんけど、〈去年死んでしまった父〉という人間の姿も浮かび上がってくるような作品だと思いました。




ポエムマガジンModerato32号
moderato 32.JPG
2009.11.25 和歌山県和歌山市 出発社・岡崎葉氏発行
年間購読料1000円

<目次>
●特集「ハイティーンの詩人たちはいま…」 谷和幸 中堂けいこ 岡崎葉
●詩合わせ 瀬崎祐 岡崎葉
●詩作品 平野裕子 いちかわかずみ 大原勝人 吉川彩子 羽室よし子 岡崎葉
●気になる詩人・気になる仕事 20+8 山口賀代子
●連載エッセイ31 山田博
●カンタータ22 富沢智
●48冊の本自慢




 
風が吹いて/羽室よし子

夕立が過ぎた湖面に浮かぶシルエットは
ウインドサーフィンを楽しむ人たち
連綿と続く向こう岸の山々の前に
細く降りてきた天使の道

他愛ない会話はいつしか
風がうんだ波の音に消されて
日本最古の湖に向かって座る私たちも
その風景の一部となる

あなたに辿りつくまでの
入り組んだ迷路の中で出会ったさびしさは
もう思い出へと姿を変えて
天使の道をのぼってゆく

やがて静かに訪れた夕焼けに包まれて
あなたとつないだ手を強く握り返す
今ひとたび風が吹いて
季節が移ろうとしていた

 〈ウインドサーフィンを楽しむ人たち〉がいて、〈季節が移ろうとしていた〉のですから、夏の終わりでしょうか。〈日本最古の湖〉は琵琶湖でよいと思います。〈天使の道〉は通常は、潮が退いて島と陸地がつながることを謂うようですが、琵琶湖では潮の満ち干きがないでしょうから、光の道のことでしょう。恋人同士が〈風景の一部となる〉様子が見えて、微笑ましい作品です。






   
前の頁  次の頁

   back(11月の部屋へ戻る)

   
home