きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで




2009.11.13(金)


 午後から日本ペンクラブの電子文藝館委員会が開催されました。今日も多くの議題について話し合われましたが、冒頭は掲載作品数でした。本日現在までに835作品が載せられています。待機中の作品も10編を超えていますから、近い将来には900編を超えるでしょうね。
 贋・電子文藝館についても報告がありました。告訴状がまとまって、来週には警視庁の中央署に出向きます。おそらく、事務局と委員長、副委員長の私と弁護士さんの4人になると思いますが、生まれて初めての告訴、どんな風になるのか興味もあります。

 私にとって、今日の大きな収穫は高村光太郎問題の関連事項でした。高村光太郎の戦中・戦後の作品を電子文藝館に載せたことによって、多少の波紋がありましたが、私の行動は今でも間違っていなかったと思っています。電子文藝館委員会としても、理事の多くの人からも支持が寄せられています。しかし、理論的にはもっと裏づけがほしいところです。高村光太郎の戦中・戦後の作品を電子文藝館に載せることはいかがなものか、という声には、私なりの反論の文章を載せていますけど、まだまだ弱いと自分でも思っています。

 現在の評論の中では、吉本隆明の『高村光太郎』が、分析の深さから言っても最高でしょう。その『高村光太郎』を電子文藝館に載せられないものかという意見は以前からありました。今日の委員会の中でもその話が出て、なんと、吉本隆明さんに会えるかもしれない、ということが報告されました。伝手があるようで、来週にも委員長が面会するそうです。吉本さんと1対1で話し合えるというだけでも羨ましい限りですけど、私たちの意見に賛成してもらえるか、その上で『高村光太郎』を載せる許可が得られるか、それはそれで心配です。私は同席できませんけど、委員長にはぜひ頑張ってほしいと思います。そして載せられたら、こんな嬉しいことはありません。




宇宿一成氏詩集『固い薔薇』
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2009.11.20 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊
2000円+税

<目次>
第T章 固い薔薇
固い薔薇 8      天花粉 12       悲しいナメクジ 16
キリンの欲求 18    症例検討会で 26    蜜柑 32
鬼が舐める 38     ホクロ 42
第U章 見えない密林
落日 48        面フクロウ 52     竹霊筒 56
掌 60         見えない密林 64    リンゴに朝霧 70
ロケット 74      妻の誕生日に 76
第V章 サイレン
塵のように 82     埋め立てられたものは90 裁く 94
校門 98        サイレン 102
.     うしろめたさだけを 104
第W章 水狂い
十字架 108
.      羽音 112.       喪服の羽の 114
黒い流線型の 116
.   尖鋭な切り傷の 118.  脱皮した少女の 120
水狂い 122
あとがき 124
.     初出一覧 126




 
固い薔薇

窓の外の空高く渡り鳥の群れが帰ってゆく
病室では心電図の警報が鳴って
か細い子守唄を聞いていたそのひとは
たった今、重い服を脱ぎ終えたというように
ゴウという呼気を最後に死体と化した
虫の音がどこかから聴こえて
娘の
とりすがる手を振りほどいて

癌化したTリンパ球は全身を駆け巡りながら
皮膚を、臓器を、そして骨髄を侵した。
固い薔薇を
浮腫や腹水の著しい水浸しの肌に咲かせて


ちから、及びませんでした
申し訳ありませんと
深々と頭を垂れて
立ち尽くす
苦しみ抜いた人の顔が
幼子の顔になって
その静まりを遺族とともに見つめる

窓の外 雲ひとつない青空に
掻き傷を引くように
渡る鳥たち
(ドコヘ 帰ッテユクノダロウ)

鳥に重なる固い薔薇
裸身の死者
裸身の 魂

     * 成人T細胞白血病の浸潤性紅斑。

 昨年の詩集
『光のしっぽ』に続く第4詩集です。「悲しいナメクジ」「キリンの欲求」「症例検討会で」など、紹介したい作品が多い詩集ですが、ここではタイトルポエムであり、かつ巻頭詩の「固い薔薇」を紹介してみました。著者は現在、皮膚科の開業医ですが、作品は大学病院での研修医の頃のものと思われます。〈固い薔薇〉と名づけられた疾患と〈渡り鳥〉との対比が、生物としての悲しみを表出させていると思いました。
 なお、本詩集中の
「ロケット」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて宇宿一成詩の世界をご鑑賞ください。




小松弘愛氏詩集『のうがええ電車』
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2009.11.10 東京都千代田区 花神社刊 2300円+税

<目次>
ガー・チュウ・キー・ニャー
.6.ひがちになる 12     のみのこしかけ 18
てにあん 24       たぼこ 30        のうがええ 36
わたくしあめ 40     だんだん 46       ようたんぼ 52
…ぞね 56        がいに 62        らりくそにする 68
あこ 72         しらった 76       せんだく 82
ひせくる 88       てんぽうな 94      ほたえる 100
おおきに 106
.      だれる 110.       ここなく 116
ちょびっと 122
.     ぐじをくる 128.     しべきいこと 132
ひがはいる 138
収録語彙のアクセント表 142
後記 144




 
のうがええ

自転車で本屋へ向かっている
電停「はりまや橋」の近くで
ひらがなを覚えたばかりといった感じの
男の子が叫んでいる

「おかあちゃん
こじゃんとのうがええでんしゃがはしりゆう」

なるほど
ボディーに大きなひらがなを並べて
「こじゃんとのうがええ」
土電の電車が走りゆう


「こじゃんとのうがええ」
これは さるメーカーの「携帯」の惹句
「のう」は「脳」ではなく「能」で
十二分に「具合・調子」がよいというわけだ
「携帯」は
「こじゃんとのうがええ」かもしれないけれど
電車そのものは客離れが進み
ボディーに
カラフルな広告をまとうようになり……

それでも
「はりまや橋」を中心に
東西南北
レールを剥ぎ取られることなく
涙ぐましくも健気に走りゆうのである

振り返れば
ボディーに広告などなかった時代
わたしは
この電車で学校や勤め先に通い
ここで 小説を――

『夜明け前』
青山半蔵が幽閉された座敷牢をここで覗き
『細雪』
平安神宮「神苑」の紅技垂れをここで仰ぎ見
『静かなドン』
グレゴリーと氷の砕ける三月のドン河をここで眺め

「おかあちゃん
こじゃんとのうがええでんしゃがはしりゆう」

もう
親子の姿はなく
「アリナミンA」の電車が近づいてくる

   * 「土佐電気鉄道」の路面電車。「走りゆう」の「ゆう」は「動詞の連用形に
     下接して、動作が進行中であることを示す」(『高知県方言辞典』)

 6年ぶりの第12詩集のようですが、副題に“続・土佐方言の語彙をめぐって”とあります。2000年に刊行された『「びっと」は“bit” 土佐方言の語彙をめぐって』の続編という位置づけです。ここではタイトルポエムとなった作品を紹介してみました。土佐方言のおもしろさもさることながら、〈電車そのものは客離れが進み/ボディーに/カラフルな広告をまとうようになり……〉と、地域に対する視線も確かだと思います。最終連の〈「アリナミンA」の電車が近づいてくる〉というフレーズもローカル色豊かで、情景が浮かぶ作品だと思いました。




個人誌『犯』35号
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2009.11 さいたま市浦和区
山岡遊氏発行 非売品

<目次>
1 廃線を歩く(2)
2 ホレイショ(6)
3 ホテルの地下駐車場で直観した(9)
4 落書きメモ 詩が糞ならこれは精神便所の落書き(11)
5 狂気に錬金術(21)




 
廃線を歩く

廃線を歩く
横川から軽井沢へ向かって
日々の
フルネルソンと
ネックハンキングをかろうじてすり抜ける
北原白秋が坂を下りながら詠んだという
石碑に刻まれた
『碓氷の春』を
ぼくは登りながら読む
何の感慨も浮かばない
ただ
−安らかに−
という言葉だけが
渦を巻いて碓氷湖にすべり降りてゆく

不意に飛び出してきた
山神の代理
イタチがふりむき
どこから来たか、と
問う
針が流れる谷から来た
さいたまの
生きながら
針が突き刺さる谷から
炎上する
前庭神経
はっ、と気づいたとき
ぼくは一人で過去の廃線を歩いている
たとえば
幾人もの友が去っていった駅への鉄路

廃線を歩く
明治二十六年から突貫工事でつくられ
たった二年間に五百人以上の人柱が立ったという碓氷線を歩く
ぼくの中にはたくさんの廃線が巡っている
そのひとつに
労働現場への線がある
実は昨日
小さな設備管理会社へはいるため
「登記されていないことの証明申請書」への委任状にサインをした
要するにぼくが
異常者か破産者かを
法務省に問う為だ
馬鹿を言え
ぼくの狂気は
ぼくの破産は
法務省なんぞに登録されえない場所で帆を上げているのだ
木通のかたちをした心臓で
時を計り
血の糸でズボンの裾上げをし
歩いてきた
呪いは若草を巻き
人を幾度も殺し損ね
土にもぐり
生きた幽霊として
ふらっと
お前たちの前に現れるため
ぼくを突き抜け
ぼくを誘うのだ

廃線を歩く
五つのトンネルを抜けてきた
六つ目のトンネルが通行を妨げる
通称めがね橋
二百三万個のレンガで造られた
碓氷第三橋梁に立つ
樹の葉が光を噛み
熱が転がる
この命に
新しい火を起こすには火種がない、なんて言わせない
火打石
(フリント)打撃式発火法
ぼく自身が石英質の火打石になればいい
相手は遭遇の鋼鉄
埋め隠された
長い鉄路
である

 私も一度は行ってみたいと思っている「横川から軽井沢へ向か」う「廃線」の作品です。〈山神の代理/イタチ〉との問答、〈明治二十六年から突貫工事でつくられ/たった二年間に五百人以上の人柱が立ったという碓氷線〉などのフレーズに山岡遊詩らしいものを感じます。〈「登記されていないことの証明申請書」への委任状にサインをした〉エピソードも良いですね。〈ぼくの狂気は/ぼくの破産は/法務省なんぞに登録されえない場所で帆を上げているのだ〉、〈ぼく自身が石英質の火打石になればいい〉などのフレーズにも山岡遊詩の健在を見せてくれます。日常と非日常を見事に両立させた作品だとも思いました。






   
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