きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで




2009.11.23(月)


 午後から近所のおばあさんの告別式に出て、そのあとは無人になった実家の荷物を運び出しました。主に預けておいた本の引越しでしたが、今月末までに完了すればいいかと思うとペースが落ちます。明け渡し期限までにあと1週間ありますけど、実質的に動ける日はあと1日しかありません。それを考えると、今日あたりはガンバラなくちゃいけないんですけどね…。明日できることは今日するな! という悪い癖が出ています(^^;




村野美優氏詩集『草地の時間』
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2009.11.15 神奈川県鎌倉市 港の人刊 1500円+税

<目次>
一個の実 8      手 10         青いドア 14
空のターミナル 18   公園の思い出 22    藍色のうさぎ 26
小さな風 30      寝床のふね 32     草の音 36
日陰のダンディー 40  ハルジオン 42     原っぱ 46
ささやき 52      夏休みラジオこども科学的ではない電話そうだん 「こころってどんなものですか?」 56
ジョロウグモ 60    女神 65        土くれ 68
パン 70        春のスタンド 74    つくしのポーズ 76
草地の時間 80




 
一個の実

その寺は
とても広いので

片隅に坐っていると
どこからか落ちてきた
一個の実の気持ちになる

すこし毀れて
汁が出ているけど

ここもだれかの
てのひらのうえ

大きな目が
のぞいている

 4年ぶりの第3詩集です。ここでは巻頭作品を紹介してみました。〈とても広い〉〈寺〉で、〈すこし毀れて/汁が出ている〉ような〈一個の実の気持ちになる〉という著者に、斬新な視線を感じました。その視線は最終連の〈大きな目〉にも感じます。〈大きな目〉から〈のぞ〉かれている〈一個の実〉である私たち。ここには〈だれかの/てのひらのうえ〉で生かされているに過ぎないという、著者の基本的な姿勢があるように思いました。短い詩ですが、巻頭にふさわしい佳品と云えましょう。
 なお、本詩集中の
「空のターミナル」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて村野美優詩の世界をお楽しみください。




二人誌『すぴんくす』9号
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2009.11.15 東京都世田谷区 海埜今日子氏発行
250円

<目次>
寄稿 擦れ違う才能  眞神 博…2
エッセイ うつし世とよるの夢のあいだで杭を見つける――『一九三四年冬−乱歩』 海埜今日子…6
読経が沈んだり浮いたりしてながれている 佐伯多美子…8
《水の沙漠、月の猫》 海埜今日子…12
Bastet's Room




 読経が沈んだり浮いたりしてながれている/佐伯多美子

今夜は姉・Aの通夜。
祭壇には白や黄の花輪と共に
好物だった芋の天麩羅や
可愛がっていた猫の空色の首輪も供えられ
読経が
沈んだり浮いたりして
ながれている。

沈んだり浮いたりする読経を
解読するのに
ながい時間がながれていった

姉・Aは
死ぬはずがなかった。

姉・Aは冷静であったそれから威圧的であった。
神様なんていなくても生きていける。
バランスよく摂食し、適時に運動し、
毎日雑巾掛けをするということに真理がある。と言っていた。

妹・aは正しさの前に場を失っていく
重くのしかかり小さく狂っていく

妹・aは迷子
バランスをとろうとすればするほど崩れていく
いくら食べても底がない
いくら飲んでも渇きにあがいていた

小さな狂いは
やがて 収拾のつかない狂騒へと誘われていく

正しさは圧倒的になり絶対的になり
逃れる術も知らない
しかし
圧倒的正しさは絶対的否定のみ
思い
狂っていく

祭壇の下 地下室で
妹・aが声を出さず笑いながら
赤飯を食べている。
笑いながら 無心

いkj¥ち
簿6;:z中6お9zzzzdbん、。kちえつjひ^9
                  (猫が記した文字)

読経はつづいている

ふと、
違和を思い出し
妹・aは
棺桶の中の死ぬはずのない姉・Aと
すり替わっていく

妹・aはとっくに死んでいた。

姉・Aは
祭壇の前で
静かに焼香している

 〈神様なんていなくても生きていける〉〈姉・A〉の〈正しさの前に場を失って〉〈小さく狂っていく〉〈妹・a〉。これは姉妹や兄弟に限らず一般の人間社会の中でも起きていることだと思います。いわゆる〈正しさ〉は〈圧倒的になり絶対的にな〉っていくもので、社会の様々な矛盾の根源の一つだろうとも感じています。その解決策が〈妹・a〉が〈棺桶の中の死ぬはずのない姉・Aと/すり替わっていく〉ことなのかもしれません。〈姉・A〉と〈妹・a〉の確執、だけとは考えられない作品だと思いました。




詩と散文『多島海』16号
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2009.11.20 神戸市北区 江口節氏発行 非売品

<目次>
Poem       季節の中で*松本 衆司…2
             夏草抄*森原 直子…6
            夏の眠り*彼末れい子…12
           ハイキング*江口  節…16
          電車に乗って*江口  節…18
Prose    水の音 雨の音*森原 直子…20
        韓流ツボ療法入門*彼来れい子…24
オッチャンとオバチャンが足らんX*松本 衆司…29
           内面の手記*M・ノエル…38
                  江口 節=訳
同人名簿…43  入り江で…44  カット 彼末れい子




 
電車に乗って/江口 節

まひる
電車の乗客は少ない
ためらいもせず乗ってきた
ムギワラトンボ
ひと駅ご一緒して ようやく開いたドアの
となりの窓にぶつかっている
そっと
手のひらに包んでホームに出した

そのまま飛んで行ったけれど

いつもの家並みを見ていたのに
思いがけず
知らない町に降り立って
どこへ歩き出せばよいのだろう
ガタゴト 電車が走っている
線路のはじめも 線路のおわりも
茫茫かすんだまま
夕陽が大きく見える


降ろしたのは、だれ

 第3連の〈思いがけず/知らない町に降り立っ〉たのは〈ムギワラトンボ〉とも採れますし、作中人物とも採れます。その両方と採って読んでみました。時間の観念もおもしろいです。第1連では〈まひる〉だったのに、第3連では〈夕陽が大きく見える〉時間になっています。この間の数時間の白昼夢と捉えました。






   
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