きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近




2009.12.4(金)


  その2




吉川彩子氏詩集
『きみとぼくの星のいかだ』
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2009.12.1 名古屋市昭和区   1000円+税
ブイツーソリューション刊 星雲社発売

<目次>
 T
月の虹 8       月が消えた夜 10    舟 12
予感 14        真昼の月 16      遊園地 18
遥か遠くヘ 21     祈り 23        パンドラの箱 26
月食 28        蜃気楼 31
 U
月の海 36       きみを待つ 39     海月
(くらげ) 42
孤独の名前 44     星のいかだ 47     静寂 50
もうひとつの世界 52  星の柩 54       時間 56
月の儀式 58      この宙
(そら)で 60
装幀・桐




 
予感

月齢18日目
深夜の公園
水も眠りについた噴水の
縁でうずくまった
きみの隣に座る

きみの次の言葉を待つ重い暗がり
アルミ缶のプルトップを引き抜く音が
月の光にハレーションしてゆく
きみの鼓動が
星の瞬きに限りなく近付くとき
月と宙
(そら)の静寂は光速で堕ちてゆく

きみの頬をつたう ひとしずくに
そっと触れるだけで
星食の予感がする

 17年ぶりの第3詩集です。紹介した作品の〈星食〉が判りませんでしたので調べてみましたら、
月が他の天体(星)を隠す現象だそうです。日食や月食と同類の言葉でした。この詩では〈アルミ缶のプルトップを引き抜く音が/月の光にハレーションしてゆくというフレーズに魅了されました。〈ハレーション〉はもともと写真用語で、光に関連する言葉です。それを〈音〉と組み合わせたところに新鮮さを感じます。
 なお、本詩集中の
「月の海」はすでに拙HPで紹介しています。初出からかなり改訂されていますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて吉川彩子詩の世界をご鑑賞ください。




季刊文芸誌『南方手帖』91号
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2009.12.10 高知県吾川郡いの町
南方手帖社・坂本稔氏発行 763円+税

<目次>
南方の窓(42) 読者悠便(1) 明坂守隆
平井広恵・特集 2
短歌 一りんの白 梅原皆子 10
詩  死に至る病 玉井哲夫 12         宛名のない手紙 渚 詩郎 14
ウィーン通信(17) 自慢にもなりませんが。(7)  モリヒロエリ 15
随筆 ウィーン音楽教育・その1 橋章子 16  ウィーン遠からじU(9) 橋悦子 18
   お郭界隈(1) 甲藤卓雄 22        南方荘漫筆(62) 坂本 稔 24
読者投稿作品 凡愚に生きて さかいたもつ 39  御蔭様 浜田一彦 39
   花のホテル 岡上 功 39
季節の肖像(10) 白い道 中村達志        題字・竹内蒼空/表紙装画・土佐義和




 
死に至る病/玉井哲夫

ノブナガも
ヒデヨシも
イエヤスも
ヤクザなので
当然のこととして
謀略と殺生によって
富と権力を私物化したのですよ
天は
人の上に人を造らず
人の下に人を造らず
というけれど
人は造るのですよ
天のことなんか
誰も知ったことではないのですよ
原始
おとなは
嘘をつくな
盗むな
殺すなと
こどもに教えていたのですよ
それが
文明人になるにつれて
舌を何枚も操るようになって
大本営発表も
非核三原則も
信じてはいけないのですよ
生きている人間が
死後のことを語って訝
(たぶら)かすのも
抗争とビジネスを遂行するための
方便なのですよ
ごらんなさい
虚言の上に建てられた
死者を神に仕立てるための選別所を
国家のためという名目だけですよ
大量殺人が実行されるのは
殺せば殺すほど
英雄になり成金になるのも
文明人の特権というものですよ
勝てば官軍
負ければ賊軍
滅ぶことを美化して
一億玉砕と絶叫したあとで
一億総懺悔の丸投げと
民主主義の丸呑みをしてみせて
日なたヤクザは合法的に
日陰ヤクザは非合法的に
相変わらず
嘘も盗みも殺しも見境なしなのですよ
経済ヤクザが
ワクリやアマクダリなどを駆使して
上納金を懐に入れるのも
処世に長けた文明人の証だし
愛国ヤクザが
ダイモンである国旗と国歌を踏絵にして
従わない者を処罰するのも
ヤクザには
掟と見せしめが必要だからですよ
だから
未来永劫
文明人は
こどもに
おとなを疑えとは
決して教えないのですよ

 〈原始/おとなは/嘘をつくな/盗むな/殺すなと/こどもに教えていたの〉に、〈文明人は/こどもに/おとなを疑えとは/決して教えない〉変わりよう…。その大元が〈ノブナガも/ヒデヨシも/イエヤスも〉の戦国時代にあったと言っているようですが、実際にはもっと前の、弥生時代からのように思います。〈富と権力〉が出現した時代から、でしょうか。それはそれとして、書かれていることはもっともだと思います。特に〈従わない者を処罰するのも/ヤクザには/掟と見せしめが必要だからですよ〉というフレーズには納得させられました。




会報『南方手帖通信』62号
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2009.11.10 高知県吾川郡いの町
南方手帖社・坂本稔氏発行 非売品

<目次>
読者消息
同人消息
同人・読者近刊書
詩 みかえり峠/坂本 稔
  Der Mikaeri PaB(独訳・坂本稔)




 
みかえり峠/坂本 稔

青いねとぼくがいうと
青いわと君がこたえた

すると 空と海がいっしょに叫んだ
青いね 青いわ

遠いねとぼくがいうと
遠いわと君がこたえた

すると 雲と風がいっしょに歌った
遠いね 遠いわ

いつまでもねとぼくがいうと
ええいつまでもと君はこたえた

すると ぼくらの眼と眼が
いつまでもね
ええ いつまでもとうなずきあった

いつまでもね
ええ いつまでも
天と地がぼくらを包んで呼びあった

嘘も真実もなかった

忘れちゃあいないね
秋の真昼のみかえり峠

太陽が証人だ

 *一九七〇年作・詩集『天狗高原』に収録 *みかえり峠(高知県高岡郡興津峠)

 かれこれ40年前に創られた詩ですが、古さをまったく感じさせません。〈嘘も真実もなかった〉というフレーズが新鮮で、それがそのまま現在でも通用し、かつ、厳密には解明できないことに由来しているように思います。なお、この詩には作者自身による独訳も付されています。ドイツ語は読めないのですが、日本語にはない感嘆符が多い字面を見ると、ドイツ語でも成功しているように見えました。おそらく朗読しやすい詩なのでしょう。






   
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