きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近 |
2009.12.12(土)
午後から日本詩人クラブの「国際交流のつどい」が竹芝の<シーサイドホテル芝弥生>で開催されました。基調講演はインド文学アカデミー会長のシュニル.ゴンゴパッダエ氏、演題は「タゴール以後のインド詩−多言語国家の詩文学」。他に小講演「日本におけるインド詩の受容」(臼田雅之氏)、「1950年代のインドの詩人たち」(丹羽京子氏)もあって、総合的にインド文学を知る夕べとなったのではないかと思います。
写真はシュニルさんを囲んで。本会議が終わったあとの記念パーティー・忘年会の1駒です。本会議には駐日クロアチア大使を始め、インド大使館員もおいでくださり、160名を超える人々で盛会でした。続く記念パーティー・忘年会にも120名を超える人が参加。竹芝の夜を遅くまで愉しみました。
○石川逸子氏日英対訳詩集 『ロンゲラップの海』 |
2009 東京都葛飾区 私家版 非売品 |
<目次>
The Seas of Rongelap 1 The
Feelings of A Mother(Omoni) 15
Little Tomo 17. Little
Da of Iraq 20
Two Willow Trees 22 The
Flowers of Iraq 24
ロンゲラップの海 27 母(オモニ)の心 40
トモちゃん 42 ダアーちゃん 45
二つの柳の木 47 イラクの花 49
The
Flowers of Iraq
Pink ones, purple ones, lemon-colored ones
The flowers bloom
Surrounded in Iraq by the US army; constantly shot at
Did the flowers see it?
As he told them in English,
“I'm bringing a wounded woman to the hospital”
Wadi, an engineer, shot through the heart by a US soldier
Did the Bowers scream?
When seven-year old Haysan who was on his way to school
Lay dead on the road, shot in the head by a US soldier
For no reason at all
Did the flowers hear it from the wind?
About John, a member of the National Guard
Who had wanted to study electrical engineering,
But then a bomb exploded
And his entire car burst into flames
Did the sands tell the flowers?
About the young Japanese who were killed
They had asked for their country's help, but to no avail
Since ancient times, these flowers have bloomed
Listening to the sound of the waterwheel
On the banks of the big riyer
The flowers today - are they crying? Are they angry?
Their leaves, their buds, exposed to depleted uranium
Are they grieving for the people who have been killed?
Pink ones, purple ones, lemon-colored ones
Reaching for the skies, they bloom
The flowers of Iraq
Re ference
Kasim Turki. Iraku kara no tegami (Letters from Iraq). translated
by Takato, Nahoko
and Akemi Hosoi. Tokyo: Iraq Hope Network.
イラクの花
ピンクの 紫の レモン色の
花々 が 咲いている
米軍にかこまれ 絶えず米軍に狙撃される イラクで
花は 見たろうか
「負傷している女性を病院に運ぶところだ」と英語で告げた
エンディニアのワディが 米兵に心臓を射抜かれてしまったのを
花は 叫んだろうか
通学途上 七歳のハイサンが
わけもなく米兵に頭を撃たれ 路上で死んでいったとき
花は 風から聞いたろうか
電気工学が学びたかった 州兵のジョンが 炸裂した爆弾で
車ごと 燃えてしまったのを
砂は 花々に伝えたろうか
自国に助けをもとめながらかなわず
殺されていった 日本の若者のことを
花々は 咲いてきた 太古から
大河のほとりでまわる 水車の音に 耳をすませながら
いま 花々は 泣いているのか 怒っているのか
葉に つぼみに 劣化ウランを浴びつつ
殺されたヒトを 悼んでいるのか
ピンクの 紫の レモン色の
天に向って 開く
イラクの 花々
参照
カーシム・トゥルキ・高遠菜穂子 細井明美訳「イラクからの手紙」
今年7月に刊行した『ロンゲラップの海』からの抄録と、その他を合わせた日英対訳詩集です。この詩集で最も大きな比重を占める「ロンゲラップの海」は、英訳はありませんがすでに拙HPで全文紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたのでご参照ください。
ここでは詩集の最後に置かれた「イラクの花」を対訳で紹介してみました。今なお続くイラク戦争で犠牲になる人々への思いが、〈イラクの花〉を介して詩的に高められていると思います。〈劣化ウランを浴びつつ/殺されたヒトを 悼んでいる〉イラクの花々に、人間の傲慢さを対比させた佳品です。
○詩誌『石の詩』75号 |
2010.1.20
三重県伊勢市 渡辺正也氏方・石の詩会発行 700円 |
<目次>
温室効果 濱條智里 1
メキシコの空 北川朱実 2 内臓/エクウス 真岡太朗 3
羊 西出新三郎 4 永遠のコドモ会 素描/かげふみ 高澤静香 5
日曜日 青野直枝 6 勾玉 東 俊郎 7
三度のめしより(二十九) 北川朱実 8 ついたうそと、つかれたうそが釣りあって
あんち・アンチエイジング 浜口 拓 12 磨く 谷本州子 13
空と大豆と長さんと 落合花子 14 夏の終わり 澤山すみへ 15
布施 坂本幸子 16 子ダヌキ激白 薮本昌子 17
絵画教室 濱條智里 18 理科の授業 橋本和彦 19
記号譚 [ <洞窟に住む言語> <洞窟で目覚める言語> 米倉雅久 20
海辺の町の七十歳 渡辺正也 22
■石の詩会CORNER 23 題字・渡辺正也
磨く/谷本州子
鰯雲のはぐれた一片のような
下弦の月が西の空で
朝日に今日を明け渡した
気休めにすぎないと思いつつ
手の甲から肘のあたりまで
日焼けどめを塗って
畑に出る
毎日食べ頃になる
オクラ ピーマン トマト ナスの収穫
わたしの手は
はさみになる
サトイモ サツマイモには
シャベルになる
ときには鎌にも鍬にもなる
ざるにもなる
春は春ならではの
夏は夏独特の
太陽をまともに受け
土を生かし作物を育てる
自分自身が農具になって
今はまさに秋
大切な収穫物のために
農具を磨く
第1連の〈朝日に今日を明け渡した〉というフレーズから惹きこまれました。第2連の〈わたしの手は/はさみになる〉というフレーズは、拙宅の裏にも小さな畑がありますからよく分かります。しかし、〈シャベルになる/ときには鎌にも鍬にもなる/ざるにもなる〉とまでは思い至りませんでした。最終連で、その〈農具を磨く〉を読んだとたんに、〈土を生かし作物を育て〉、〈自分自身が農具になって〉いる〈わたし〉の朝から夜までの生活が映画のシーンのように浮かんできました。力勁い佳品だと思います。
○詩と評論『操車場』31号 |
2010.1.1 川崎市川崎区 田川紀久雄氏発行 500円 |
<目次>
■詩作品
イタダの末裔 ――8 坂井信夫 1 風のダンス(8) 鈴木良一 2
持たないひと(光を渡る) 山本 萠 4 コメディアン 長谷川 忍 6
この世の愛が生の証し 田川紀久雄 8 うっすらと 若林妙子 9
■俳句 新春 井原 修 10
■エッセイ
兄の想い出 白石ツキコ 11
フロイトは逆さ円錐を相対化する ――つれづれベルクリン草(18)―― 高橋 馨 12
削り崖は見た ――ドクターのお仕事(下) 野間明子 14
南武線の記 坂井のぶこ 15
末期癌日記・十一月 田川紀久雄 16
■後記・住所録 29
タダイの末裔 ――9/坂井信夫
Qは週にいちど〈行商〉に出かけていた。
そのために用意されるもの――はじめは細な
がい紙を数枚、幅5センチ×長さ30センチに
切りわけておく、それに黒のサインペンで、
「まず王の国と王の義とを求めよ」という、
さいごの一行を書く。それから一メートルあ
まりの竹を左手にもち、裂けた尖端にその紙
を二つに折って挟んだ。もうひとつの棒のさ
きに、うす汚れた袋をぶらさげた。こうして
〈行商〉の準備はととのった。あとは家々を
めぐるだけだ。日曜日の朝、かれは川べりの
青いテントをぬけだすと、しばらく歩いた。
それから住宅がたちならぶ街のいりぐちで、
深く息を吸った。そして意を決したように、
まずは角の家の呼び鈴をおした。なかから声
がして、扉があけられる。Qは、さっと竹の
棒をつきだすと「よろしければ、読んでくだ
さい」という。ほとんどの住民は、黙ったま
ま顔をそむけて扉をしめる。ごく稀に、尖端
の紙きれを抜きとって開く者もいる。かれは、
すばやく木の棒をさしだすと「できましたら
おめぐみを」と告げる。ある者は家のなかに
とって返すと、握られた銅貨をひとつ、袋に
なげいれる。Qはふかく頭をさげると、その
まま退く。かれらは袋の底をのぞきこんだり
はしない。そこには闇が沈んでいるのだが、
だれもが無言のまま扉のなかへと消えるのだ。
Qの眼には、どの家にもおなじような闇がひ
ろがっているようにみえた。そこにむかって
放たれた矢のような、さいごの一行……けれ
どもそれは、そのまま屑かごに捨てられるか
もしれない。日曜日の午後、かれは十数軒を
まわっても、まったく収穫のないことさえあ
る。けれど、かれは乞食ではない。〈一行の
ことば〉を売りあるく行商人である。
今号も坂井さんの連載を紹介してみました。目次では〈――8〉、本文では〈――9〉となっていますが、前号が〈――7〉でしたので、目次の追い番の方が合っていると思います。また、目次の〈イタダ〉は〈タダイ〉の誤植でしょう。
決して「乞食ではな」く、「〈一行の/ことば〉を売りあるく行商人である」Qは、本来の詩人の理想であるかもしれません。しかし、〈まったく収穫のないことさえある〉ことに耐えられるかどうか…。詩人であると同時に、モノを食べなければ生きていけない人間でもあることを考えさせられた作品です。