きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近




2009.12.21(月)


  その2




山川久三氏詩集『灯台』
エリア・ポエジア叢書10
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2009.12.18 東京都新宿区
土曜美術社出版販売刊 1800円+税

<目次>
春 6        灯台 10       待ちながら 14
ジーパン 17     晩夏 20       蒲団 22
ワルツ 25      カプセル 28     おとうと 31
砂 34        壺 37        ハンガー 38
顔の花 41      遠浅 44       初恋 47
電車 50       ゴキブリ 53     悲歌 56
母 59        ガートルード 62   オフィリア遺文 65
ベランダ 68     ブランコ 71     放浪 74
エウリディケ 77   葬送 80       ミルキー 81
サラダ 86      足裏 89
あとがき 92




 
おとうと

おとうと だからといって 裸を見せるのは およしなさい

ヘビは 生ま皮を剥
()ぐ ネズミは こぶしで打ちころす 座敷に
おしっこをまき散らして たたみの目が ふくれあがったときは
あたしも 二階の個室に籠
()もりました
ごはんが食べられなくなったおまえは どこの女たちだか引き込ん
で みだりがわしい サンバだかテンバだか ボリュームいっぱい
 わめきちらし あたしが出てきてやったのは 世間さまに恥ずか
しかっただけの話さ

いけないのは 口をきかないこと よその女には しゃべりすぎる
ほど 口を動かすのに ニートじゃなくて せめてフリーターなの
は ありがたいと思ってますよ
朝 むりやり起こすと 特大のバットみたいな腕で あたしを振り
はらって 飛び出してゆく かと思うと 夕方 黒白のまだら模様
になって 帰ってくるや ざんぶり カラスのなんとかだね ぶる
んぶるん こういう時だ あたしのまえに 裸で立つのは
ふたり 食卓をはさんで 儀式めいて ビールのコップの からか
らの口 コチン合わせると 目 光りだして 胸の毛玉の肉 おど
るようにわめいて もういけない

晴れた窓から ほら 濡れた指の先に弓張りの岬 延びて そこの
根もと バイクで海風わけて たどってゆくと みずうみの枕もと
に 都市
(まち)ひとつ 寝っころがってる あす そこめざして 出てゆ
きな おとこひとり なにをしてでも 食ってゆけよう

あたしが ひとりでいること 気に病むことない
こわいんだよ DNA

 還暦を過ぎてから詩を書き始めたそうですが、詩に関する著作やエッセイ、詩集の監修を手がけている著者ですから、詩集はとうに出しているものと思っていましたけど、これが第1詩集だそうです。ご出版おめでとうございます。
 紹介した詩は
日本神話の素戔男尊(スサノオノミコト)と天照大神(アマテラスオオミカミ)を現代風にアレンジした作品ですが、おもしろいですね。〈二階の個室に籠もりました〉というのは、もちろん天岩戸に隠れたことを謂っています。乱暴者の素戔男尊がよく表現されていると思います。最終連の〈こわいんだよ DNA素戔男尊のDNAのことを言っているのでしょうが、神代の時代から続く日本人のDNAのことも言っているように思いました。
 なおタイトルポエムの
「灯台」はすでに拙HPで紹介しています。初出から一部改訂されていますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて山川久三詩の世界をお楽しみください。




月刊詩誌『柵』277号
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2009.12.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 戦後詩と抒情精神 菊地貞三追悼…中村不二夫 78
戦後史の言語空間14 戦争勃発の原因…森 徳治 82
流動する今日の世界の中で日本の詩とは58 あの頃のこと『現代アメリカアジア系詩集』発刊…水崎野里子 86
風見鶏 宮田小夜子 北岡善寿 杉八千代 溝口章 植村秋江 90
現代情況論ノート46 最後の言葉−テキサスの死刑囚たち…石原 武 92

進  一男 豊饒の祈り 4         黒田 えみ 縄文の人 6
平野 秀哉 青いバラ 8          松田 悦子 交差点 10
中原 道夫 あなたなら 12         肌勢とみ子 印象 14
小城江壮智 虹 16             北村 愛子 にしきぎ 18
山崎  森 天の邪鬼の二行詩 20      小沢 千恵 ビブラート 22
柳原 省三 猪を飼う 24          秋本カズ子 埋火 26
佐藤 勝太 漁師は歌う 28         長谷川昭子 秋に入る 30
小野  肇 重なるもみじ 32        織田美沙子 鉄槌 34
安森ソノ子 童話からオペラへ 37      中林 経城 渚 40
赤嶺 盛勝 西原東浜海岸 42        米元久美子 古代からのメッセージ 44
北野 明治 幸福・エチュウド 3 46    八幡 堅造 気になる年賀状は 48
西森美智子 うずまき 50          門林 岩雄 痛み かげ 52
月谷小夜子 十月の朝顔 54         鈴木 一成 時は過ぎ行く 56
水木 萌子 二十歳のメール 58       三木 英治 なぜなのか 風よ 60
江良亜来子 コスモス 62          若狭 雅裕 新年 64
名古きよえ 裏町の風 66          前田 孝一 和服(セル)を着る 68
野毛比左子 ラプソディ いのちの狂詩曲 70 南  邦和 山法師 72
今泉 協子 蝶 74             徐 柄 鎮 農村風景(長閑) 76

世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想43 子規の俳句短歌をめぐって −In-scape試論…小川聖子 94
現代アメリカ韓国系詩人の詩10 ヤン・ホ・パーク 赤い柿の実…水崎野里子 98
「21世紀のオルフェ ジャン・コクトオ物語」三木英治著…杉山平一 100
「柵」の本棚 三冊の詩集評…中原道夫 104
 たかとう匡子詩集『女生徒』 104  高橋紀子詩集『埋火』 105  山下俊子詩集『黄色い傘の中で』 107
受贈図書 111  受贈詩誌 109  柵通信 110  身辺雑記 112
表紙絵 申錫弼/扉絵 中島由夫/カット 野口晋・申錫弼・中島由夫




 
幸福・エチュウド 3/北野明治

 ぼくは幸福だろうか‥‥。
 60歳で逝った父よりも、すでに13年も長生きしている。
新宿育ちではないが、生れは新宿である。終戦後、3畳
に親子8人の生活から、高島平へ移転し、そしてワンル
ームではあるが、浴室もあり、シャワーもある新宿へぼ
くは〈運〉よく移り住むことができた。
 かつて、ぼくが小学生であった頃、銭湯は5円であっ
た。脱衣籠を裏返しにして、トントントン、と床に叩い
た。虱を落すためであった。
 いまの子供たちは人間の血を吸う蚤や虱の形態を知ら
ないであろう。
 「奥の細道」で芭蕉は尿前の関で《蚤虱馬の尿する枕
もと》と虱や蚤に悩まされていた一句を得ている。
 幸福とは、幸福と思わない時が〈幸福〉なのだ。自由
が自由でなくなった時、あらためて〈自由〉の有難さを
知るように。
 入院生活を経験している人は、多かれ少かれ、人生に
ついて、人間の〈幸福〉について考える時間を与えられ
たのではないか、と思うのだ。

 今では〈3畳に親子8人の生活〉ということなど考えられませんが、〈終戦後〉は当たり前だったのかもしれません。〈いまの子供たちは人間の血を吸う蚤や虱の形態を知らないであろう〉でしょうけど、実は大人も知らないだろうと思います。〈幸福とは、幸福と思わない時が〈幸福〉なのだ。自由が自由でなくなった時、あらためて〈自由〉の有難さを知るように〉というフレーズはその通りでしょう。私たちはあまりにも〈幸福〉や〈幸福〉に慣れすぎてしまったのではないかと考えさせられた作品です。




詩誌『二行詩』30号
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2009.12.13 埼玉県所沢市
伊藤雄一郎氏連絡先 非売品

<目次>
街 布谷 裕                武州光景−光の章 大瀬孝和
渋崎横堀通り 渡辺 洋           ONARAの唄 伊藤雄一郎
喫茶店の午後 安部慶悦           自叙伝 岡田恵美子
祭り 濱條智里               冬景色 小沢千恵
30号特別企画 お題『空』競作特集
 月谷小夜子・岡田恵美子・青柳 悠・根本昌幸・渡辺 洋・小林妙子・濱條智里
 小沢千恵・吉田健治・大瀬孝和・布谷 裕・伊藤雄一郎
先人の二行詩を訪ねて 第十三回 山村暮鳥(2) 伊藤雄一郎
お便りコーナー
あとがき




 
祭り/濱條智里

 たたき売り
離れて見物していたのに
かけ声が頭の中で一日中まわっている

 金魚すくい
すくっているのはわずかな自由
すぐに破れる一枚の紙で

 綿あめ
ぶら下がっているのは誰の夢だろう
狭い袋からわたしを睨んでいる

 太鼓
鍛えられた音が毛細血管にまで響く
決断を迫られているようだ

 時代行列
百年をとび越えた列を
どう撮ってみてもピントがあわない

 「たたき売り」の感覚は分かりますね。非日常の〈かけ声〉に神経が刺激され続けているのでしょうか。「太鼓」は〈決断を迫られているようだ〉がよく効いていると思います。この詩群のなかで最も印象的なのは「時代行列」です。〈どう撮ってみてもピントがあわない〉のは写真撮影の技術ではなく、ピントが合いづらい〈時代〉のせいではないでしょうか。人類はいつの時代に対してもきちんとピントを合わせたことがなかったのかもしれません。そう読んでドキリとさせられた作品です。






   
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