きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.3.18 早稲田大学・演劇博物館




2010.4.3(土)


 久しぶりに奈良に行ってきました。出版記念会です。
 奈良市を拠点とした『樹音』という詩誌の60号記念、主宰の森ちふくさんの詩集『無限旋律』の出版記念、合わせて森さんの80歳も祝っちゃおうという、それに平安遷都1300年も祝うというなんとも賑やかな会でした。どういうわけか私も発起人に名を貸せと言われて、発起人じゃあ欠席もマズイなとノコノコ出かけた次第です。
 奈良は好きな街で、毎年のように訪れていましたが、この桜の季節というのは初めてです。いつもは寒い2月とか、梅雨の真っ最中ばかりですから、新幹線の車窓に流れる桜には見惚れてしまいました。本当に日本は桜が多いんですね。途切れることなくと言っても大袈裟ではないでしょう。桜には嫌なイメージもあるのですけど、この日ばかりはすっかり堪能しました。

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 写真は詩誌『樹音』の皆さま。いつもは作品でお名前を存じ上げているだけですが、実際にお会いすると作品とお人柄が合っているのが分かります。地元の名士も含めて100人以上が集まりましたので、同人の皆さまとお話しできる時間はほとんどなく、それがちょっと残念でしたが、スピーチと歌の楽しい会でした。私は大阪から来た旧知のA氏と同席させてもらって、昔話に花を咲かせました。なにせ20代からの付き合いですから、積もる話は山ほどあったのです。これも今回の大きな収穫でした。

 ホテルは「奈良ロイヤルホテル」という一流どころ。2次会も3次会もホテルで過ごしました。従業員の応対がスマートで、それにも好感を持ちました。お酒もおいしく、奈良の春の夜を愉しませてもらいました。




森ちふく氏詩集『無限旋律』
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2010.3.28 奈良県大和郡山市 鳥語社刊 1700円+税

<目次>
T
ぐらり ぐらりと 8  タンスの底から 10   燈火会の芽 13
夢中と一生懸命 16   風と 道と 18     夢袋 22
熟れた球体 24     心の詩が 26      初詣 28
再生の影 30      オブジェ 32      五感を開いて 34
まほろばの夜明け 36  鬼百合の唄 38     夜明け 40
夢の中から 42     モデルハウス 44    一月のかたち 46
便り 48        神秘 50        やがて 52
瞳 54         生死のはざまで 56
U
老春 60        夏の声 62       まほろばの芥子
(けし)粒 64
誘惑の明かり 66    鹿よ 68        ある飛翔 70
視線 72        睡蓮 74        晩夏 76
時の虚ろい 78     水流 80        一月のかたち 82
梅一輪 84       樹木たち 86      状況 88
炎色の 90       変な地ぞうさん 92   塔 94
ああ うん 96     野の響 98       空と陸の宙返り 100
遮断 102
.       わたる 104.      声 106
泥中魚 108
.      横道にそれて 110.   同窓会 112
真空地帯 114
.     つなぐ 116
あとがき 118




 
鹿よ

すんなりと立っていた
はずの鹿だったが
不意に ふり返る
おお 無残な角の方向の変化
新しい角の芽がのびているのに

燃える初冬の風
赤くそめ上げる草むらの中
獲物を狙う一瞬のあの目の輝きに
耳がふるえる
旋律の音階どこまでとどくか

知っていたのだろうか生命のこと
生きる時間がきらめき
落日が熟し柿の赤さで傾いている
光もまた老いるのだろうか
溢れる時には青春がある

 上述の記念会の主役となった詩集で、6年ぶりの第12詩集です。紹介した作品の〈鹿〉は、著者のご自宅の近くの奈良公園の鹿と思ってよいでしょう。最終連の〈光もまた老いるのだろうか〉というフレーズに魅了されました。
 本詩集中の
「まほろばの夜明け」はすでに拙HPで紹介しています。初出から一部改訂されていますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて森ちふく詩の世界をご堪能ください。




寺西宏之氏詩画集『詩のスケッチ』
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2010.3 奈良県生駒郡斑鳩町 私家版 非売品

<目次>
赤い毛氈……………1  天の恵み……………2  初孫…………………3
奈良の都……………4  虹……………………6  斑鳩の里……………8
追憶…………………10  空虚…………………12  散歩道………………14
黒鍵…………………16  眠っている間に……17  迷子…………………18
青春…………………20  忘れな草……………21  屋根裏の住人………22
因果応報……………24  鎮魂…………………26  宇宙の中で…………28
知床…………………30  遷都…………………32  企業戦士……………34
曾爾の落日…………36  忙中の閑……………38  だけど………………40
老檜…………………41  おもいでは影法師…42  夕陽…………………44
感涙…………………46  とらないよね………48  素知らぬ振りして…49
南の島………………50  起承転結……………52  流星…………………54
掲載詩誌等一覧……57  あとがき……………58  略歴…………………59




 
天の恵み

   何の気なしに飲んでいる水
  何の気なしに吸っている空気
 何の気なしに浴びている太陽
誰のものでもない
     太古からの遺産
私たちを生かせてくれている
だけど誰も気づかず
あたりまえのように生きている
 わたしは思う
  大事にして後世に遺したい
   この偉大なる天の恵みを
    生きている限り

 こちらも上述の記念会で頂戴しました。詩誌『樹音』や『月刊奈良』に発表したもので、第1詩集のようです。ご出版おめでとうございます。便宜上“詩画集”と書かせていただきましたが、野内柏葉氏の書によるもので“詩と書のコラボレーション”という副題が付いていました。紹介した詩も見事な書で描かれていましたけれど、画像でお見せすると著作権侵害の怖れがありますので無粋なHTML文字とさせていただきました。私たちがいかに〈何の気なしに〉〈太古からの遺産〉を消費しているかを改めて気づかさせてくれる作品だと思います。




安森ソノ子氏歌曲集『京都を研ぐ』
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2008.5.1 京都市北区 舞苑企画刊 2000円

<目次>
1.鴨川で………6   2.命……………14   3.花背峠………28
4.狐……………42   5.桂川水源地…60

1.鴨川で………89   2.命……………90   3.花背峠………91
4.狐……………92   5.桂川水源地…93




 
鴨川で

流れの音に遮断され
響きをBGMに
作る空間 この書斎
水の活力は
残る時間と永劫の淵を示し
語り続けて

川幅一杯の白い落下は
水鳥を迎える大スクリーン
泡散る浅瀬に
般若の面も小面も沈ませて
晩秋 一人岸辺の
難路の地図帳
流れの奏でる底力に
亡くした家族の京都を研ぐ

陽光のもと
渡る水の面の表情
生地の川 青の霊
死者ののぞみは
空の書状の帯を
流し続けて

 こちらも上述の記念会で、CD『安森ソノ子 京都を詩
(うた)う』とともに頂戴しました。前半が楽譜、後半が詩という構成の歌曲集で、正確には“安森ソノ子の詩によるソプラノ歌曲集”で、作曲は佐藤勝磨氏です。ここでは冒頭の「鴨川で」の詩のみを紹介してみました。〈水鳥を迎える大スクリーン〉、〈空の書状の帯〉などの詩語に魅了されています。






   
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