きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.13(木)


 裏の畑に胡瓜を植えました。5本だけですが、飼料も施してちゃんと支柱も立てて、それなりの雰囲気になっています。あとはうまく成長してくれるかですね。なるべく農薬を使いたくないので、虫食いだらけになってしまうかもしれません。まあ、1本でも2本でも食用になれば満足しようと思っています。




南川隆雄氏詩集『此岸の男』
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2010.4.20 東京都新宿区 思潮社刊 2200円+税

<目次>
此岸の男 8     町なかの寺 12    朝 16
怠惰な午後 18    煙る黄昏 20     うたげ 22
異境の月 26     大脳皮質の街 30   赤い星の二つの月 34
植物極 38      魚雷 42       理髪店 46
 *
冬の一日 52     飛行船 56      鳩 60
幻影林 62      実えんどう 66    砂の道 水の滴り 68
ガードの向こう 70  暗闇の小銃 74    叔母の行方 78
転校生 82      雪の朝 86      ありふれた景色 88
夜更けの窓 90
あとがき 94     装幀=思潮社装幀室




 
此岸の男

物見舟がゆっくりと流れを遡る
左岸にひとりの男
漏れる木桶で水を汲み 足踏みし 腰を屈める
日干しれんがをつくっているのだ

物見舟が流れのなかに止まったかのよう
岸辺の これ以上ないほどに日焼けした男
泥囲いに水を注ぐ 赤土に枯れ草を混ぜ 足で捏ねる
木枠に泥をたたき込み 木枠を抜く
日に幾度となく繰り返す所作
もはや景色のなかに溶け入った

泥囲いに油のような黒い水を注ぐ 赤土を入れ枯れ草を混ぜる
煙草の吸い殻 着古したぼろ切れ 汗に鼻水 抜けた毛髪はがれた
爪 皮膚のかけら傷口の血と膿 食い散らした巻き貝二枚貝の殻
炒った南瓜やはしばみの殻 ときに漏らす石榴色の尿
足で捏ね 両手で木枠にたたき込む
底なしの木枠は縦一肘横半肘厚さ四半肘

数を増やし地べたに並ぶ日干しれんが
朝から何個つくったのだろう わからない
乾いたれんがを 誰がどこに運ぶのだろう 気にとめない
きょうはあと何個 というよりただ日の暮れるまで

物見舟には気温がなく気象もない 此岸を見透かす淡い光
岸辺では 陽がのぼり気温が急に高まってきた様子
朦朧としてくる日焼け男 陽炎に焦げ縮れ からだを震わす
ふと顔を上げれば 河の中空に揺れ動く見慣れない光景
光放つ逆さまの舟 雪を戴く逆さまの火山 一束の薪になって転が
る高層の建物群 ひとりでに捲れる経本に似た河面の波 なんだあ
れは しかしどこかで見たような眼のなかの情景 身に覚えのない
彷徨の記憶
顔を泥に戻せば もう忘れる いま見たこと いま思ったこと

逆さまの舟がゆっくりと流れを遡る
岸辺で目眩に耐える日焼け男
あれはね おれたちの倅なんだ 思わず漏れ出る言葉
物見舟の眼にもう幾十年も曝されてきた此岸の男
小さな手で泥を木枠に叩きつけていた 肋骨浮き出た十に満たない
父なし子
いまでは白髪まじりの痩せこけた日焼け男 やにで黒く染まった歯
を見せてなにをひとり笑う 河の中空になにを見た
半分はこの地に馴化した細く柔らかな体躯
半分はこの地に見かけない幅広の顔立ち
父なし子なんてこの世にいない
あれはね おれたちみんなの実の倅なんだ

そのうちに十分に老い 耳遠く目はかすむ でも日干しれんがをつ
くり続けているだろう 手足屈めて泥囲いにのめり込むまで

そして泥のなかで 骨片 肉片 皮膚片となって消えるのだ
乾いたれんがを誰がどこに運ぶのか わからない 気にとめない

油のような黒い水で口を濯ぎ 髪を梳かし すべてを措いて
泳いで来い 河の中程まで

物見舟は光を消して ゆっくりと流れを遡る

 2年ぶりの第7詩集になるのではないかと思います。ここでは巻頭のタイトルポエムを紹介してみました。私には三途の河がイメージされます。〈物見舟の眼にもう幾十年も曝されて〉、〈泥のなかで 骨片 肉片 皮膚片となって消える〉のは、〈白髪まじりの痩せこけた日焼け男〉のみならず、私たちそのもののように思われます。
 本詩集中の
「雪の朝」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて南川隆雄ワールドをお愉しみください。




詩誌『解纜』144号
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2010.4.15 鹿児島県日置市
西田義篤氏方・解纜社発行 非売品

<目次>

眼の記憶……………………河上  鴨…1   襖……………………………池田 順子…3
K市へ向かう渋滞の中で…石峰意佐雄…6   素描博物誌…………………石峰意佐雄…11
つぎはぎつぎはぎ…………弓田 弓子…17   コッペパン…………………弓田 弓子…19
シグナル……………………村永美和子…22   隠れる………………………村永美和子…24
鍵燃え………………………村永美和子…26   馬の断章……………………西田 義篤…28
編集後記                  表紙絵…西田義篤




 
つぎはぎつぎはぎ/弓田弓子

らんぼうな風が
いくしゅるいもの
刃物になって
からだを通過していく
つぎはぎつぎはぎ
すぐに
ほころびてしまうので
つぎはぎ
つぎ
つぎはぎつぎはぎ
つぎ
つぎはぎつぎ
とくべつに
腕のつけねが
ほつれやすい
腕をつけなおし
縫い針で
足踏みミシンで
電動ミシンで
電子ミシンで
つけなおしてきた
この腕は
だれのものであったのか
風の日は
つぎはぎつぎはぎ
つなぎ目が
わからなくなり
つぎはぎつぎ
つぎはぎ
つぎ

うたっている

 同人に復帰したという弓田さんの作品を紹介してみました。〈つぎはぎつぎはぎ〉という語呂がおもしろい作品ですが、そればかりではなく、弓田詩特有の怖さも感じます。〈だれのものであったのか〉分らない〈ほつれやすい/腕をつけなおし〉て、私たちは生きているのかもしれません。




個人誌『e-clipse』3号
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2010.5.10 札幌市白石区 吉田和弘氏発行
非売品

<目次>
詩 ダルフール 2
エッセイ この国で詩人とは、セレブな趣味人のことを指すのだろうか? 5




 
ダルフール/吉田和弘

アフリカの草原を
象たちが悠然と群れをなして行進し
地平線に美しい夕陽が沈もうとしている
その向こうにダルフールがある…
あまり聞きなれない地名だが
ダルフールはスーダン国内の西部地域にあり
スーダンはエジプトの南−
エチオピアの西に位置する
アフリカ大陸でも最大の面積を有する国なのだ

そのダルフール地方では いま
史上稀なるジェノサイドが進みつつある
農耕の非アラブ系アフリカ黒人住民を
スーダン中央政府の指示を受けた
遊牧のアラブ系住民が無差別に攻撃して
集落の徹底破壊や住民の大量虐殺を行なっている
そのスーダン政府に武器を供与しているのが中国だ
中国がスーダン政府に武器を供与するのは
石油資源に目をつけているからだという
ここでも石油が人の命よりも大事にされる

二〇〇七年 アメリカでは
非難のホコ先が中国に向けられた
女優ミア・ファローは
「ジェノサイド・オリンピック(大量虐殺五輪)」
という題の論文をウォールストリート・ジャーナルに寄稿した
「ダルフールでは、中国に支援されたスーダン政府によって、すで
に四〇万人以上の人々が殺され、二五〇万人以上が焼かれ、破壊さ
れた村々から追い出された」
 *
として北京オリンピックのボイコットを訴えた
六月 アメリカ下院本会議は
ダルフール大量虐殺での中国非難を全会一致で可決した
石油目当てにイラクで戦争を始めたアメリカが
石油目当ての中国を非難するというのはお笑いだが
ダルフールで殺された四〇万人の命は
永久に帰ってこない

二〇〇八年 夏
平和大国日本からは
オリンピックで一儲けしようとする企業・メディア
スポーツで出世を企てる人たちや
ただメダルが欲しいだけの人たちも
北京に殺到した

  *古森義久「アメリカ議会は北京五輪ボイコットも辞さない」(「諸君」2007年9月号」

 たしかに〈石油目当てにイラクで戦争を始めたアメリカが/石油目当ての中国を非難するというのはお笑い〉ですけど、〈石油が人の命よりも大事にされる〉ことは見過ごせないと思います。しかし、そう思いながらもクルマに乗り続け、〈オリンピック〉で〈北京に殺到〉はしなかったものの、〈平和大国日本〉の一員であることに忸怩たるものがあります。考えさせられる作品です。






   
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