きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.4.9 山梨 中村キース・ヘリング美術館




2010.5.29(土)


 詩友が代表を務めている日本画のグループ展に行ってきました。場所は平塚市美術館。以前から行きたいと思っていた美術館でしたから、一石二鳥というところです。グループ展も美術館もなかなか良かったですよ。日本画とは言っても、絵の具が洋画と違うというだけで、描かれている内容は現代、全体に洋画よりもシャープな印象を受けます。詩友の作品もお世辞ではなく、年々良くなっているように感じました。

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 もともと大作に挑む画家なのですが、今回もかなり大きな連作でした。思わず己の精神の深いところを見つめてしまうような作品です。まあ、そんなものが私にあるとすればの話ですが(^^;
 閉館を待って、当然のように呑みに行きました。平塚駅前は以前より淋しくなったなという印象ですけど、入った居酒屋は準個室になっていて、ここもなかなか良かったです。絵を観て酒を呑んで、至福の時間を過ごさせてもらいました。




江アミツヱ氏詩集『生きる』
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2010.5.22 長崎県諫早市
詩とエッセイ『千年樹』刊 非売品

<目次>
T 生きる
生きる 10       松籟 12        虹 14
六月の雨 16      濃霧の道 18      朝明け 20
十三夜 22       秋の空 24       あき 26
晩秋 28        落日のころ 30     冬の朝 32
師走の並木道 34    河川敷 36       寒冴えの街川 38
ヨット・ハーバー 40
V メタセコイア
メタセコイア 44    早春のメタセコイア 46 首飾り 48
藤の花 50       ホタルブクロ 52    ムクロジの花散る 54
木々に詫びる 56
V 朱いソテツの実
朱いソテツの実 62   還らざる君 64     哀しみ 66
アオギリ 68      ゆき 70        初春月の雪 72
かただより 74     弟へ 76        野菜屋の女主人 78
トマト 81       喜寿の日 83
W 癒されて
全面破壊 88      光明をさがす 90    主治医への手紙 92
病室番号 95      深夜の病室 98     砕けたことば 100
チーム・ワーク 102
.  歩く 104.       蝋梅の香 106
癒されて 108
.     季は静かに 110.    小さなベル 112
感謝 114
.       風 116
エッセイ
七夕によせて 120
.   黄昏れに 121.     古いセーター 122
あきの空の下で 123
.  鶯の笹鳴き 125.    なんじゃもんじゃの花のころに 125
ふゆ 126
.       七夕祭に思う 127.   笑い飛ばせない空白 129
のぞみ 130
.      薔薇 131.       初春月の空の下で 131
有言実行 132

詩集『生きる』によせて 岡 耕秋 134
初出一覧 136




 
生きる

極限の
貧しさの中で
生きる
清貧という
ことばの響きに
魅せられて

それでも
たえず
善意と悪意のはざまで
喜び悩み苦しむ

嫉妬と羨望の
交錯する闇の中で
あがく

そして
けんめいに
夜明けの
ひかりを待つ

暁のきざしに
今日を また
生きてゆく
ゆめとちからが
いじらしく湧いてくる

マユミの
あわいみどりの花が
ほのかに薫っている

 50代後半から詩を書き始めて、今年83歳になる著者の第1詩集です。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムで巻頭作の「生きる」を紹介してみました。〈いじらしく湧いてくる〉というフレーズに人生をいとおしむ気持ちがよく出ていると思います。
 本詩集中の「アオギリ」はすでに拙HPで紹介しています。初出は
「夏の日に」というタイトルで、スタイルも一部改訂されていますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて江アミツヱ詩の世界をご鑑賞ください。




詩とエッセイ『千年樹』42号
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2010.5.22 長崎県諫早市 岡耕秋氏発行 500円

<目次>

「北総台地V」の為の習作・深い霧 早藤 猛 2   無花果・笑えない話 わたなべえいこ 8
途方に暮れて・天山おろし・残照山景 高森 保 12 春、生きている・春、寒のもどり 和田文雄 18
山麓を行く −喜寿追想− 佐々木一麿 20     早春・別れ・さがしもの 松尾静子 24
樹木・ある画家・夜の風 岡 耕秋 32
エッセイほか
ある小さな物語 森田 薫 40           自由の鐘(一三) 日高誠一 46
椎崎城のあと 早藤 猛 52            宇宙船 松尾静子 54
九州の横穴が語るもの(三) 岡 耕秋 56      江崎ミツヱ詩集『生きる』 岡 耕秋 60
樹蔭雑考 岡 耕秋 61
.             『千年樹』受贈詩誌・詩集など一覧 62
編集後記ほか 岡 耕秋 64




 
樹木/岡 耕秋

系統樹という樹がある
宇宙樹という樹がある
樹々はこの星を満たし彩り
地平の姿を変える

生きている樹はその年輪を見せない
厚いごつごつした樹皮をまとい
厳しげな樹影を象り
あるいは優しいすべらかな木肌に
すらりとたちならぶ優しい木陰を与える

生命を絶たれた樹木が見せる年輪は
その秘められた歴史
うすぐらい森のなかで
しっかりと大地をつかんだ根をのこしたまま伐られ
あらわになった年輪

そこに見るのはもはや失われた青空か
暗い大地の底で息絶えて行く細根のあがき

あるいは
そのひと輪ひと輪の美しい造形に秘められた
その年々の季節の息吹の記憶
亭々と天空に聳えた梢や枝をそよがせた風の音
さんさんと降り注ぐ陽光
暖かい春 酷暑の夏 豊饒の秋 氷結の厳冬

考古学者
は古い建造物の
古材の年輪から年代を読む
古い史書に記されたことがら

その時に生きていた人々の姿を
同心円の中にくっきりととらえる

だが
この老いた痩躯に年輪はなく
残る気力も無い
亭々と清らに天空に祈ることもなく
さらに清らに朽ちることも出来ぬ

今日 種子の日から朽ち果てるまでの
全ての日々に美しい
樹々の年輪を羨む

*年輪年代学 日本では現在、暦年標準パターンによってヒノキでBC九一二年まで、スギでBC一三一三年までコウヤマキでAD二二〜七四一年まで年代を特定できる。

 誌名を連想させる作品ですが、〈
年輪年代学〉というものがあることを知りませんでした。〈古い建造物の/古材の年輪〉と〈古い史書に記されたことがら〉を照合させるのでしょうか。第2連の〈生きている樹はその年輪を見せない〉というフレーズは見過ごしていたことを気づかさせてくれます。人間誕生のはるか以前から〈地平の姿を変え〉続けてきた樹木に、改めて畏敬の念を起こさせる作品だと思いました。




詩とエッセイ『杭』53号
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2010.5.20 さいたま市大宮区
廣瀧光氏代表・杭詩文会発行 500円

<目次>
■詩■
人形のまち 槇 晧志 2          雛のうた 尾崎花苑 4
バンベルグの女性マイスター 平野成信 6  おとしもの 斎藤充江 10
桜 比企 渉 13              転寝
(うたたね)の夢 大谷佳子 16
行方不明 山丘桂子 18           ある日のこと 池上眞由美 20
うす紅の雪 石川和枝 22          日々の出来事 長谷川清一郎 24
2010年2月26日の…… 白瀬のぶお 26    うすばかげらふ 伊早坂 一 28
枯渇(二) 廣瀧 光 30           長生き 三浦由喜 32
■エッセイ■
秩父事件余話 河田 宏 35         想う(会員への提言) 遠藤富子 39
桜 満開の頃 笠井光子 40         母(七) 郡司乃梨 44
ベトナムの元副大統領(グエン・テイ・ビン女史) 平松伴子 49
杭の記 廣瀧 光 48
題字・槇 晧志




 
行方不明/山丘桂子

雲の峰の中に続いているリフト
くいっと掬いあげられ
女がひとり 乗っていく

草原に雲の形がうつる
なだらかな斜面が
暗くなったり 明るくなったり
マツムシソウがゆれ
ヤナギランが波立つ

足に届きそうな花の絨毯
女は花の名前を指折り唱えてみる
秋の蝶たちには終りの季節
思い出を集めるように
花から花へ飛びまわって

風が髪を撫でるとき
どこかで会った気がして
息をつめたが
つかまえられずに 消えていった

背中をだれかが
つよく引っ張っているような
でも 途中下車はできない
上が見えない雲の階段
まだぐんぐん昇って行く

下ってくるリフトには
だれも乗っていない

 〈女〉は誰なのかが問題になるように思いますが、作中人物でよいと思います。作中人物から見た第3者ではないでしょう。〈足に届きそうな花の絨毯/女は花の名前を指折り唱えてみる〉というフレーズから、そう判断しました。そうすると〈行方不明〉になったのは作中人物である〈女〉と考えてよさそうです。
 それはそれとして、〈くいっと掬いあげられ〉という表現が良いですね。〈リフト〉の動きを文学的に捉えた言葉だと思いました。






   
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