きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2005.6.29 山形県戸沢村より 月山

2006.4.5(水)

 休暇を取って、午後2時から小田原市のレストラン「ようげつ」で開催された「西さがみ文芸愛好会」運営委員会に出席してきました。新任委員として出席を乞われたものです。昨年12月に亡くなった事務局長の指名だったそうで、私も生前の事務局長から話は聞いていました。現職でいるうちは厳しいので退職したらお手伝いすると応えていましたけど、思いがけず退職が早まったので約束を果たすことにしました。地元も大事にしないとね。詳細はこの後の『文芸西さがみ』34号の紹介で記載します。



会報『文芸西さがみ』34号
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2006.4 神奈川県小田原市
奥津尚男氏方事務局 非売品

<目次>
新しい事務局長に奥津尚男さん 1
2006年度事業計画 2
事務局を引き継いで 奥津尚男 2
西さがみ文芸愛好会2006年度予算 3
岡崎明さんを悼む 播摩晃一 4
第10回西さがみ文芸展覧会(~靜民報から抜粋転載) 菅野正人 5
2005年度事業報告/決算報告 6
お知らせ 7
西さがみ文芸情報 8



 前出の委員会で配布されたもので、委員会決定の前に役員人事が載っていますから、これはフライング(^^; まあ、小さな会ですから、そう目くじらを立てることもなく、委員諸氏も快く了承してくれました。
 代表1名、副代表3名、事務局長1名(新任)、事務局次長2名、会計1名、運営委員7名という陣容で、運営委員の末席に私が新任で就いたという次第です。総勢110名ほど、年間予算規模50万円ほどの会ですから、委員としては妥当な人数でしょうね。

 2006年度の主な事業計画を記載しておきます。
 10月頃に地元の日刊紙・~靜民報社から作品集が出ます。小田原近郊の方はぜひ書店でお求めください。定価はちょっと高いのですが1800円ぐらいでしょう。また、発刊に合せて同社と共催で「文芸のつどい」が予定されています。
 2007年1月24日から29日まで小田原のアオキ画廊で「文芸展覧会」を予定しています。上述「文芸のつどい」ともども近くなったら詳細を拙HPに載せますので、お近くの人はお立ち寄りいただけるとうれしいですね。



詩と散文『飾画』68号
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2006.3.15 青森県弘前市
内海康也氏代表 300円

<目次>

病室にて/高橋憲三 3
はるかなる戦場/高橋憲三 4
抱卵/高橋玖未子 6
人格症候群
(ペルソナ・シンドローム)――紙の碑(いしぶみ) mirage/内海康也 8
津軽 NIGHT――2006雪の舞踏――/船越素子 10
小説
コウノトリの旅/四宮弘子 12
魔女の一撃(へクセンシュウス)巻之四 ナウアデイズ(弘前・二〇〇六)/姥名浩久 14
表紙デザイン 野坂徹夫



 抱卵/高橋玖未子

受精卵が分裂し性が決定されてから
既に卵を抱えている女という雌性
けれど誰もが無自覚で
その意味と効果さえ大人になるまで何も知らない

遠い記憶の中
一人汽車に揺られて母の実家へ向かった日
窓を背に座っていると
見知らぬ男が片足を小さな膝に割り入れてきた
乗客のまばらな車内
誰も見ぬふりをして
事の成り行きを訝る言葉さえかけてこなかった
その恐怖がずっと私の性を苦しめる

私はあのとき
既に女を放っていたのだろうか
十歳 夏の一人旅

幼女が相次いで被害に遭った年の暮れ
その後も後を絶たなかった類似の事件の
各学校へ出された警告のファクス用紙を綴じて
私は職業人の貌をして戸締まりをする

そんな大人になっても
 気に入ったから布団を敷くよと
冗談なのか卑猥な言葉を浴びることもあった
職業に誇りを持ってしても
意図せずして見せつけられる雌性に
一向に慣れることはないのだが
抱いた卵は二つだけ孵した

もうこれで十分
だが まだ抱卵の擬態から抜け出すことができないでいる

 「幼女が相次いで被害に遭った」のは最近の特徴なのか、昔からあったことなのか判りませんが、どうも後者のような気がしています。今はマスコミの発達でいかにも多いように見えますが、以前は広く知られることはなかったけど、事件数としては変化がないのではないか、そんな風に思い込んでいます。つまり「見知らぬ男」も「類似の事件」も、「受精卵が分裂し性が決定され」た瞬間から延々と続いているのではないかと、半ば諦めのように思うのです。人間が存在する限り、ある確率で「見知らぬ男」は出現するのではないか…。

 そう開き直ったように書いてしまうと身も蓋もありませんが、そこから発想していかないと問題の本質を見る眼がズレてしまうように思います。セクハラ問題はまさにそこを問われているのだと私は解釈しています。
 詩の鑑賞から離れてしまいましたが、そう考えさせる作品だと云えましょう。男どもは自分の性を自覚して、その上で行動を考えよと言いたいですね。もちろん男の一員としての私に対しても向けている言葉です。「まだ抱卵の擬態から抜け出すことができないでいる」女性性を自分のことのように感じられるか、それを問われている作品だと思います。



北村愛子氏詩集『ありがとう』
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2006.4.1 東京都中央区 OFFICE KON刊 1500円

<目次>
おかあはん ほんまによかったなあ 4
忘れる 8      大変じゃあ 10
転倒する母 12    手をふる 16
花筏 18       亀背になった母 20
水槽のお魚−老人介護保険施設にて− 22
柿 26        たいへんな一日 28
母とリハビリ 32   褥瘡 36
希望のはじまり 38  頑張って生きている 40
介護保険料払込済 42 順番とはあくのを待つこと 46
むしようかん 50   うれしそうに にっこりした 54
母の答え 56     おまじない 58
母の顔−介護施設にて− 60
助けを呼ぶ声−介護施設にて− 62
私の宝物 64     お茶ゼリー 68
名札を縫いつけて 70 突然にその時は来た 74
九十二歳を迎える日76 爪を切る 78
氷屋さんと母の手 80 父の顔 84
とみ子おばさん 86  じゅもんのように 90
あとがき 92     装幀・近野十志夫



 希望のはじまり

褥瘡で泣き喚いていた
母が退院して
老人保健施設○○園に入所した

エアーマットで床ずれが
少しずつ治ってくる
ベッドの手摺に掴まって
左向き・右向きに体位を変える
自力で起き上がれるように
両手をのばす
お腹に力をいれる

リハビリは毎日続いて
もうできないよおー
と泣きごとをいう日もあったが
理学療法士と介護士の皆さんが
支えてくれた

ついにL字型の介助柵につかまって
自力で車椅子に乗り移ったのだ
右足の踵がつかない障害を
負ってはいるが
利き足の左足に体重をかけて立ち上がり
洋式トイレにも座れるようになった

八十九歳三か月
母の希望のはじまり

 「希望」というのは若者の特権のように錯覚していましたけど、この作品を読んで「八十九歳三か月」でも90歳でも、100歳でも年齢には関係がないのだということを改めて感じました。その希望とは「自力で車椅子に乗り移った」り、「洋式トイレにも座れるようになった」りという、私たちから見れば一見ささいなことのように思えますが、本人やご家族にとっては奇跡にも近いようなことなのでしょうね。その感覚を私も共有できた思いをしています。

 今回の詩集の中の作品のうち、
「亀背になった母」「介護保険料払込済」「私の宝物」「お茶ゼリー」はすでに拙HPで紹介していました。詩誌『梢』や『柵』に初出していたものです。ハイパーリンクを張っておきましたので、合せて鑑賞してみてください。





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