きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2006.11.09 表参道「Gallery Concept21」




2007.1.3(水)


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 今日も一日中家に居て、いただいた本を読んで、年賀状の追加を書いて過ごしました。年賀状は今のところ250枚、最終的には300枚に達しそうです。退職したら普通は減るようですが、逆に昨年より50枚ほど増えそうな勢いです。5月の退職以降、北海道、仙台、山梨、大阪と飛び回って各地の詩人と交流しましたから、その分が増えた感じですね。ありがたいことだと思っています。詩誌や詩集で詩人を知るのも大事ですが、やはり直接お会いすると親しみが違ってきます。皆様のお顔を想いだしながら年賀状を拝見し、本を拝読させてもらっています。



かごしま詩文庫6『宮内洋子詩集』
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2006.12.25 鹿児島県鹿児島市
ジャプラン刊 1238円+税

<目次>
詩集『グッドモーニング』より 7
病い 8       耳飾り 10
カトレア 12     グッドモーニング 14
ワンデイ 17     夕焼け 20
ねじ花 22      弱虫だから 24
詩集『海ほおずき』より 27
くるりと 28     海ほおずき 30
無垢 32       生活(たつき) 34
父 36        或る女 40
おてだま 43     泣こかい跳ぼかい 泣こよっか ひっ跳べえ 45
家族リレー 47    緑池 52
垣根の秋 54
詩集『ツンドラの旅』より 57
紫雲英 58      ツンドラの旅 61
海老根 64      右曲がりの 67
滴 70        町境 72
夢一夜 74
詩集『陸に向かって』より 81
海辺をいそぐ 82   昆虫採集 85
旅に出た夢 88    「木の上のテラス」にて 91
無精卵 94      越えられない線 97
さけび 101
あとがき 104     栞 長谷川龍生    装幀*高岡修



 グッドモーニング

夢の中で
寄り添っていた
女から
「愛して」
というのは
恥ずかしいし
言ってはいけない
と思った
ずい分長い間
会わないような
気がした
でも確かに死んだ夫だ
そばにいるだけで
ぬくもった
ぬくもりを
抱いて
蒲団から抜け出した
晩秋の朝は
肌寒いが
陽はまだやわらかい
夫婦は時々
夢の中で実現する
それでもいい
グッドモーニング

 著者はこれまでに1988年第1詩集『グッドモーニング』(ジャプラン)、1992年第2詩集『海ほおずき』(詩学社)、1997年第3詩集『ツンドラの旅』(思潮社)、2001年第4詩集『陸に向かって』(思潮社)という4冊の詩集を上梓しており、本詩集はそれらから抜粋した文庫となっていました。紹介した作品は第1詩集のタイトルポエムです。「死んだ夫」に「寄り添」う妻の「ぬくもり」に胸を突かれる思いがする作品です。おそらく著者の詩を書く動機のひとつかもしれません。
 拙HPではすでに第3詩集『ツンドラの旅』から
「海老根」、第4詩集『陸に向かって』の「越えられない線」を紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので合わせて宮内洋子詩の世界をご鑑賞いただければと思います。



詩・エッセイ・随想『天秤宮』25号
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2006.12.1 鹿児島県日置市
天秤宮社宮・内洋子氏発行 1000円

<目次>
■詩
十五夜戯詠…八瀬生見 8          蝶/飛ぶ…宇宿一成 10
みずひき/長い旅…中村なづな 14      上澄み連作 沈澱/でキル/デキナイ…池田順子 20
橋/会いたい人…茂山忠茂 29        おもちゃ箱/一輪/ちねつ…宮内洋子 34
秋日和/灯…西園敏治 42          散文詩「砂漠を歩く」…島 洋 48
■風紋 舟
月舟…岡田恵子 51             マルシップのこと…八瀬生見 52
舟の今昔…茂山忠茂 53           濡れる舟…宇宿一成 54
桜島…宮内洋子 55             夢を積む舟…満園文夫 56
漂着…池田順子 57             漂う舟=(死んだ手紙)に耳を澄ます…谷口哲郎 59
動かぬ舟は揺れる舟…木佐敬久 63      夢の中で…養父克彦 65
■エッセイ
「暁の闇の中で」/漁り火…西園敏治 67    鴎外との日々\「森鴎外と美術展」…養父克彦 71
子供の詩がとらえた絆…茂山忠茂 85     詩集評…池田順子 97
■表紙絵随想
近代の憂鬱(ブルー)…木佐敬久 108
*表紙絵 〜歌川国芳「唐土廿四孝 仲由」〜 個人蔵
天秤宮二十五号書と絵画 書…池田光遊 5  絵…有馬広文 6
あとがき…120    ◎執筆者住所…121



 みずひき/中村なづな

繁りすぎた木を払ってもらう
どさり どさりと落ちてくる
切っているのは
人材銀行派遣のお爺さん 八三歳

戦争中は徴用にとられ
輸送船のコックとして働いていた
冬の北海で船が撃沈されたときは
いち早く逃げだして命拾いをした
波のなかから
年端もいかぬ兵士が
ボートの線にしがみついてきたとき
上官の命令で
鉤のようにくらいついていた両指を
一本一本ほどいていった
そのまま沈んでいった若者の顔が
爺さんにあらわれる
口元を歪め
黒目を釣りあげていた
目も赤くなっていた

  辛かったね
  なにかというと その顔が目の前にきてね
爺さんは若者の顔もろとも拭いてから
はおっと大息をついた

国家権力に従事した月日には
年金が支給されるときいて申請したが
当時の会社は潰れ
同僚もあらかた亡くなって
働いていたことを証明するものが
誰もおらんかった
地元の若い人たちの支援で
裁判にもっていったが
何せ 証據物件が無くて敗れてしもうた
                    

「国家とは そのときどきの政府にすぎません」

木は切られすぎて
初秋の日が底まで届いている
おもいがけなく
水引の花が浮かびあがっていた
〈元気〉に金銀の水引を掛けてじいさんに贈りたい

※石川逸子「ヒロシマ・ナガサキを考える」より、
 家永三郎さんの書信のうち

 これもまた貴重な証言だと思います。「上官の命令で/鉤のようにくらいついていた両指を/一本一本ほどいていった」こと、無理な「証據物件」を要求する「国家」、「裁判」所。引用された「国家とは そのときどきの政府にすぎません」という「家永三郎さんの書信」が重みを持って迫ってきます。それはそれとして「〈元気〉に金銀の水引を掛けてじいさんに贈りたい」という作者の気持にはホッとさせられますね。庶民は誰も戦争なんか望んでいないのだと納得した作品です。



一枚誌『てん』28号
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2002.12.8 山形県鶴岡市
万里小路譲氏発行 非売品

<目次>
詩 秋の夕暮れ/万里小路譲
エッセイ 佐藤啓一
辻征夫詩集『いまは吟遊詩人』(1970)より
エッセイ 万里小路譲
詩 路上の華/井上達也



 秋の夕暮れ/万里小路譲

あおい空の
雲の一群から
飛び出ていたから
へんな雲だと思っていたら
月なのでした

西には
恍惚と燃える太陽と
その終焉を見守る
雲の一味たち

東には
その照りかえしを受けた
マンションや家々の屋根や壁面や
その他いろいろ

こんなふうに
ベランダで書いていて
いつのまにか今書いた風景が
変化してしまっているから
自然主義的リアりズムの画家には
たいへんな苦労があったんだね

たたずんでいてわかったのは
動かない月
風のそよぎ
暮れるにつれ
冷たくなるってこと

それでもなお太陽は
反乱を起こしてあたりを焦がして
この人が私の恋人だって夫にも
紹介してもいいような
秋の――

月はでていて
月をみている
いや
月に出見られている
そのどちらでもいいような
秋の夕暮れ

 「自然主義的リアりズムの画家には/たいへんな苦労があったんだね」というフレーズには思わずニヤリ。そうだったのかもしれませんね。「この人が私の恋人だって夫にも/紹介してもいいような/秋の――」ではドキリ。「秋の夕暮れ」とはそういう気分にさせるものかもしれません。



一枚誌『てん』39号
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2005.12.25 山形県鶴岡市
万里小路譲氏発行 非売品

<目次>
詩 秋野で/いとう柚子
伊藤海彦詩集『夢の汀』(1995)より
エッセイ いとう柚子
辻征夫詩集『河口眺望』(1993)より
エッセイ 万里小路譲
木枯らしの記憶――掌編小説 万里小路譲



 秋野で/いとう柚子

芒野原の果てに出会ったのは
数本の杉の大木に守られた
ひとかたまりの墓の群れ
傍らにちいさな石像が一体
わずかに天を仰ぐしぐさで立っている
長い年月 雨風に晒されたひたいに
薄い斜陽をうけて
今はもう
素朴な墓のひとつででもあるかのように
足元は土にめり込んでいる
名もない石工だったか あるいは……
遠い日 この像を穿った人の
鑿をもつ手に思いをはせれば
忘れかけた夏の午後がよみがえる

街の文房具店の七夕飾りは
少年少女の願いごとで重く撓っていた
「マジレンジャーになりたい」
「サッカーが上手くなりますように」
幼い文字をのせてひしめく短冊の隙間から
ふと見えた白い一葉
.――――――――
│ 仏師になる |
.――――――――
‘なりたい’ではなく
‘なれますように’でもない
黒々と力のこもった‘なる’である
裏にははにかむように<十五歳 男>とだけ

どこのどんな仏像に心奪われたのか
古都に鎮座まします優美な仏たち?
異国の命みなぎる像の数々
もしかしたら円空仏の鉈彫り
そうではなく 癒えがたい苦しみの向こうに
やっと出見つけた答だったか
思いがけない願いのひとことをめぐり
不思議を追いかけ想像はとめどなかった

白い風が
古い石像にまといついては
杉の頂に吹き抜けていく
彫った人の手のぬくもりのように
石の肌に残る秋の陽のぬくもり
いつの日か それは
仏師となった少年が
木と石と向き合う手にもあるだろう
芒野原に大きな影を落とした鳥が
頭上で旋回をくりかえしている
<仏師になる>と五文字にのせて
十五歳の胸から放たれた願いのように
その翼の軌跡は黒々と鮮やかだ

 佳い話です。それ以上に佳いのが「黒々と力のこもった‘なる’」を受けた「その翼の軌跡は黒々と鮮やかだ」というフレーズだと思います。最終連で「頭上で旋回をくりかえしている」「鳥」を持ってきたところは見事。それにしても、こういう「十五歳 男」がいるんですね。天晴れ!


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