吊橋・長い道程

2007.12.15(土)

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○詩誌『新自由詩空間−ミューズの広場−』6号

2003.11.30 千葉県柏市 杏平太氏代表･詩を語る会発行 1000円

＜目次＞
巻頭言　詩って何だ？ 杏平太　2
目次 4
新自由詩空間 6
林間日記　駒田樹音《いとしの檸檬》6
黄泉の国から　マサキ《君の美しい横顔をずっと見ていたかった・真実の所在・さぁ、本当のことを話そう・黄泉の国から》10
はるるるる　清藤天《春・まわる　まわる・ぼっきっき・醜塊・葉桜・どどーん　ぼぼーん》16
ラブ・レター　中谷江《ラブ･レター・残り火・見たる夢・マザー･テレサ・スパルタカス伝説》24
愛あるところに神もいる　杏平太《柳・あい・まなざし・写真・体験・連通管・私は見る・もしもお前が一緒に歩いてくれるのでなければ・人に・綾取り歌・男と女・君のほかに　もう一人を・性愛・アイスボックス・どうせ僕らは男と女・花と蝶・ともがら・男なんて・愛あるところに神もいる・捨身飼虎・ナルシストの死》39
ユーラシア�U　杏平太《2001･3･23春分の日が過ぎて・白い恋人たち・位相の転換・玉造・飽食・細胞質・フィリピン･コネクション・コリアン･コネクション》64
新自由連詩　78
淡海を渡る　2001-2002　中谷江・杏平太・清藤天・マサキ・駒田樹音　78
KONVERSATIONEN　大野瑠璃・山中ちひろ・杏平太・飯嶌凡太・もものはは・昇竜　85
転勤地の秋　進行役＝駒田樹音　86
麦の秋　−詩を語る会第六回総会記念連句−　進行役＝杏平太　88
短詩の園＝エコロジーク　90
ｏｍｎｉｂｕｓ　駒田樹音・斎藤孝一・柴田きよし・中谷江・杏平太・ハネオキ・武藤ゆかり・平井秀明・大野瑠璃　90
｢青きイガ｣　杏平太　91
ミューズの広場　俄米画ファン鑑賞記　杏平太　94
詩を語る会の歩み　98
詩を語る会会則　117
編集後記　120

　連通管／杏平太

やっぱりお前に会いたい
お前と僕はつながっている
連通管のように
お前の水位は　僕の水位
お前に立つさざなみは　僕のさざなみ
お前のうねりは　僕のうねり
そして　これらは……
みんな　みんな　お前に帰っていく

　「連通管」をご存知の方も多いと思いますが、おさらいしましょう。例えば透明なビニール管をＵ字型に曲げて水を入れると、水面は左右とも同じになります。これは大気圧が左右同じに加わるからで、これを応用してタンクの液面を外から見られるようにしたりしていますね。
　紹介した作品はそれを「お前の水位は　僕の水位」と見立てているわけで、連通管と男女を関係づけた詩は初めてではないかと思います。最終行も素晴らしいですね。Ｕ字管の片方をどんどん上げていくと、最終的には水はもう片方から溢れ出してしまいます。それを「みんな　みんな　お前に帰っていく」と表現しているわけで、決して「僕」へではありません。作者の「お前」への接し方が判る作品だと思いました。

○尾崎まこと氏詩集 『カメラ･オブスキュラ』

2007.11.13 大阪市北区 竹林館刊 2000円+税

＜目次＞
みなさんへ　１　　　　傘をどうぞ　２
　
廊下　14　　　　　　　改行　16　　　　　　　青麦畑　18
葉緑素　22　　　　　　ツリー　24　　　　　　二丁目の！　28
笑うんか？　32　　　　ブルドッグ　34　　　　亀山博士　36
世界で一番美しい本40　影　44　　　　　　　　神様の電話　46
かくれんぼ　50
　
蝶の飛行　54　　　　　白夜　56　　　　　　　哲学　62
少女　64　　　　　　　浜辺　68　　　　　　　真夏日　70
夏の犬　72　　　　　　星も都会も　76　　　　遠い花火　80
あげは蝶　82　　　　　蛇　86　　　　　　　　人形劇(マリオネット)　88
袋(ふくろ)　94　　　　　抱きしめながら　96
　
向こうがわ　102.　　　受難　104.　　　　　　吊り革　106
再会　110.　　　　　　喪失　112.　　　　　　まんなか　116
と、の場所　118.　　　曇り日　120.　　　　　月の方へ　122
告白　128.　　　　　　弥次郎兵衛(やじろべえ).　130
　
白い布を用いた思考実験　136.　　　　　　　　永遠　138
約束　140.　　　　　　豆の木　144.　　　　　反響　146
ああ､ああ､ああ　150.　アルバム　152.　　　　孤独　154
泥の舟　156.　　　　　塔　158.　　　　　　　Ｘ(エクス)の伝言　162
見えない岸辺　164
　＊
雪の音　170
あとがき　173
初出・受賞歴一覧　176

　改行

トンボの飛行のように
ひゅい、ひゅーいと

遠い雲にまばたく稲光のように
カピ、カピッと

橋に降る広重の雨のように
ザザ、ザーと

原稿用紙の上では
勇敢に改行を続けたが

改行できずに
たたずんでいる
少年の日の
まっ青な　あの一行

　第１詩集のようです。ご出版おめでとうございます。詩集タイトルの「カメラ・オブスキュラ」という作品はありません。写真をやっている方ならご存知でしょうが、カメラの原型のことです。真っ暗な部屋の外壁に小さな穴があると、室内の壁には外の景色が天地逆になって写ります。そこから針穴写真機というカメラの原型が出来たと理解していますが、この詩集はそんな小さな針穴から世界を覗いた、その世界を天地逆に写し撮った、という意味ではないかと思っています。
　紹介した作品は最終連が佳いですね。「改行できずに／たたずんでいる／少年の日」を思い返すと、大人になった今でも「改行」はちゃんと出来ているのかと考えさせられます。
　今後のご活躍を祈念しています。

○詩誌『鰐組』225号

2007.12.1　茨城県龍ヶ崎市 ワニ･プロダクション発行　350円

＜目次＞
連載エッセイ 村嶋正浩…俳人攝津幸彦の生きた時代４　13
書評　水島英己…怒りうどんの「グ｣　10
詩篇
根本　明…幕張　04　　　　　　　　　　　　　坂多瑩子…茂み　14
福原恒雄…蟻道　16　　　　　　　　　　　　　小林尹夫…棲息33　03
佐藤真里子…傾く塔　18　　　　　　　　　　　村嶋正浩…春夏秋秋　02
相生葉留実…沼について　08　　　　　　　　　仲山　清…帰れる夏があれば　21
平田好輝…タクシー乗り場で　06　　　　　　　山佐木進…夏の終り／あおぞら　20
執筆者住所録／原稿募集　22

　蟻道／福原恒雄　Fukuhara Tsuneo

電車の鈍感な席で抱えていたバッグから
四角い鏡その他をつかむと
もう顔ぜんたいを
投げ入れ
順よくととのえる
見ぬふりの目がよび寄せられる
そうだ　バッグにはもっと明るい闇がいるかもしれない
独り合点がうろうろ
いきばのない
鈍感な眠気に

駅をいくつも
過ぎたようだ
納得の少女の顔を置き去りにして
鏡その他はバッグに収まった
そうだ
きょうをひらいて装う鏡を門口で割ったあの男は
このレールトラックに
闇を軋らせた
注がれるどんな化粧からも
離れて

おやこんなところでと交わした
うら道で
まぶしげなほそい目が
きょうは風に舞う明るさに出会いましただなんて
挨拶代わりのまじめに
咳き込んでしまったが
そうだ　あの日
ポケットからもう無辺際の闇だけを散らしていたのか
装いの
闇の脂
目にこびりついて

深閑とするま昼に
いま　蟻ひとつ
耳がなくても聞こえる鈍感な道行き
そうだ　迷っても迷わない生まれついての
ぜんしんびようが
果敢な採食分業のあいまにあまい汁も垂らして
くびれも磨くとか
もそもそと　鈍感な席を立った
きょうの唯一の価値のように
たしかに　光る

　全体としては「電車」の中で「化粧」をする女性を揶揄していると思いますが、それを「蟻」とダブらせたところがユニークでおもしろい作品だと思いました。蟻は「あまい汁も垂らして」「ぜんしんびよう」(全身美容)をするとはどこかで聞いた話で、「鈍感」が二者の共通の言葉だと捉えることができます。それにしても「四角い鏡その他をつかむと／もう顔ぜんたいを／投げ入れ」るというフレーズは言い得て妙、納得しています。

○季刊･詩の雑誌『鮫』112号

2007.12.10 東京都千代田区 鮫の会発行 500円

＜目次＞
鮫の座／原田麗子−表紙裏
[作品]
いつかハトが／岸本マチ子−２　　　　　　　　姿勢について／高橋次夫−６
めんなんしょ／大河原巌−８　　　　　　　　　金魚の笑い泣き／飯島研一−10
楽園の午後／松浦成友−12　　　　　　　　　　初冬／いわたにあきら−14
夏の空は溶けやすく／井崎外枝子−17
[詩書案内]
南川隆雄・詩集『火喰鳥との遭遇』／芳賀章内−20
三井喬子・詩集『紅の小箱』／高橋次夫−20　　溝口章・詩集『流転／独一』／原田道子−20
[作品]
点と線／瓜生幸三郎−22　　　　　　　　　　　遠い振動／原田麗子−24
そえぎ／芳賀稔幸−26　　　　　　　　　　　　身辺整理／仁科龍−30
秋日に／前田美智子−52　　　　　　　　　　　森ガオソウ／原田道子−34
ノイズ（ｎｏｉｓｅ）物語／芳賀章内−36
[謝肉祭]
遊びたい・む／前田美智子−39　　　　　　　　時代と詩／芳賀章内−40
[詩誌探訪]　原田道子−41
編集後記　表紙・馬面俊之

　姿勢について／高橋次夫

右膝を立て
膝頭に　右の手を置く
左手で　床を押さえて
腰を浮かす
そのとき　肝心なことは
右足の底を　床にぴったりと合わせて
一片の疑問を挟むことなく
床に　ひたすらな信頼を注ぐことだ
こうして　わたしは起ちあがる
身体が　少しでも揺らぐことがあったなら
左の足で　揺らぐ姿勢を支えるのだが
そのためには左の足は
もっとも自由に　もっとも自在の
動きを見せなければならない
この　自由自在の位置　これが
ひとの世に生きる　わたしが
わたしであるための　原点となる

65年前
北満の荒地に　右足をぎとられた弟(おまえ)は
還暦過ぎに死ぬるそのときまで
一度として　右の足底を
床に合わせることはできなかった
だから　起ちあがれたとしても
いつも　その姿勢は揺れていて
おまえが　おまえであるための原点は
奪われたままであった

いま　そちらの岸辺には
起ちあがらなければならない床など
初めから有りはしなかっただろう
左の足の　自由自在な想いだけで　おまえは
そのままおまえでいられる
揺れる姿勢は　揺れるままで

　「右足の底を　床にぴったりと合わせて」「左の足で　揺らぐ姿勢を支える」「わたし」と、「一度として　右の足底を／床に合わせることはできなかった」「おまえ」の対比によって弟さんを悼むという異色の鎮魂歌だと思いました。肉親への愛情を表現しながら、かつ、静かに反戦を唱えている作品とも思います。事実を描くだけで声高に叫ばずとも反戦思想は語れるのだという見本のような作品と云えましょう。最終連の「揺れる姿勢は　揺れるままで」というフレーズもピタリと決まった佳品です。



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